第七話 とある火の日
サスケの一日は小隊の誰かによる武術の指導から始まる。
今日、火の日はセラによる剣術指導が行われる。
サスケは夜明けから三十分程で起床し、服を訓練用へと変え地下の修練場へと向かう。その後、剣術と体術、魔術の指導を一緒に受けているこの国の王子ウィリアムがやってくる。
サスケとウィルは武術の指導の前にやるよう言われている準備体操をし、ランニングをしてセラが来るのを待つ。
「さて、今日も始めるわよ。」
修練場に来たセラの第一声はいつもこれである。
「まず、いつも通り右手での素振り百本から。」
「「はい。」」
セラは本来大剣使いなのだが十七小隊には盾役が出来る者が他に居ないため、普段は片手剣と丸盾を使っている。
ウィルとサスケには片手剣を教えている。理由は片手剣の汎用性の高さである。
「次、左手で百本。」
サスケとウィルはどちらも右利きなのだがセラの方針で左右両方の手で素振りを行っている。
利き手を使えない状態になっても最低限逃げる程度できるようにするためである。
「素振りはそこまで。今日から一旦、模擬戦を止めて武技の修練へも切り替えるわ。ウィル、あなたは武技について知っているわよね。サスケへの説明とあなたの復習を兼ねて、武技の説明をしなさい。」
「『武技とは魔力を用いて収斂して放つ技である。』というのが俺の習った武技の定義だ。魔術が『魔力を用いて世界を改変するもの』であるのに対して、収斂し魔力に直接形を与え放つという魔力の使用用途の差で区別されているはずだ。」
「概ね正解ね。高位の武技になれば、魔術とほぼ差異のないものとなるわ。
それで今日はサスケには基本武技を練習してもらうわ。ウィルは何か武技を使えるかしら。」
「俺は片手剣の基本武技は使える。」
「そう。なら、今から武技を一つ教えるから魔力切れになるまで練習しなさい。」
セラはそう言い、サスケとウィルから少し離れて剣を構える。
すると、セラの剣が赤く光りセラは武技を放つ。
剣が横に振られ、斬撃が飛ぶ。
「今のが武技[飛斬]よ。ウィル、あなたはこれを練習しなさい。剣に魔力をこめてそれを飛ばすイメージよ。サスケ、あなたには基本武技を教えるわ。」
ウィルは[飛斬]の練習をするためにその場を離れる。
「まずは基本武技をおしえるわ。基本武技というのはあまり実戦ではつかえないわ。その理由は…見てもらったほうが早いわね。」
セラは剣を構えるとまたセラの剣が赤く光る。
そして、地球ならば高段者等限られた者しか出せないだろう速さで剣が縦に振られる。
「今のが基本剣技[垂直斬]よ。実戦であまり使えない理由が分かったでしょ。あなたにはまず、これを練習して貰うわ。」
剣の振る速さは身体能力を強化することで得る事ができるため、この世界において基本武技を使用するメリットがないのである。
「魔力の放出はできるわね。」
「はい。」
「なら魔力で全身と武器を覆いなさい。その状態で武技のイメージをした時、無理な状況でなければ武技は発動するわ。無理な状況っていうのは魔力量や体勢のことね。それじゃあやってみましょうか。」
サスケは魔力を放出し、剣と全身を魔力で覆う。そして、剣がうっすらと虹色に輝きサスケが本来出せないような速さで剣が振られる。
「できたわね。後は練習すれば振る速さや発動速度も上がっていくわ。今日はその練習をしなさい。」
その後、サスケとウィルは武技の練習を続け魔力切れとなった.
「魔力切れね。この状態じゃ何もできないから今日は終わりね。朝食を食べに行くわよ。」
─ソーレルの魔術講座─
「ということで今日も魔術の講義を始める。今日から魔術の修練へと入る。その前にサスケ、魔術とはなんじゃ。」
「はい。魔術とは魔力をもって世界を改変し、事象を起こすものです。」
「その通りじゃ。今日は基本的な魔術である[火球]を習得してもらう。ウィル坊もまだ、魔術は習っておらんのじゃろ。」
「はい。」
「とりあえず、この魔術式を読み取り展開してみるのじゃ。」
サスケとウィルに渡されたのは魔術文字が書かれた紙である。
「[火球]の魔術式は着火→成長→形状指定:球状→座標指定→発射の六つじゃ。特に座標指定を忘れると暴発するから気をつけるのじゃ。」
サスケとウィルは魔術式を読み取り、魔法陣を展開する。
「それでは座標をあの用意した的に指定し、撃つのじゃ。」
サスケとウィルの前に火の玉が現れ、ソーレルの指定した的へと向かう。その速度はウィルの方が速いものの、どちらもしっかりと飛んでいく。そして、的へと当たり弾ける。
「速度こそウィルの方が速いが、それは炎属性への適正の差じゃろうな。初めての魔術にしては構成がしっかりしておる。」
ウィルの適正は炎、雷、風、溶が高く、他の属性も平均並みにはある。これは王族の基本的な属性適正である。
「それでは練習を続けるのじゃ。しばらくは各属性の基本的な魔術を一単元に一属性やっていく予定じゃ。この修練場に的を設置しておくから、練習は好きにやってよい。要は練習あるのみじゃ。」
ウィルとサスケは練習を続けるも魔力切れとなる。
「お主らは元の魔力量が多いから練習量も増やすことができるのじゃが、普通の者達はこの魔力回復ポーションを使い魔力を回復させ練習量を確保するのじゃ。しかし、お主らはできる限り使うのではないぞ。これには一定以上の量を短期間で体に入れてしまうと中毒症状が出るからのう。それに魔力量は自然回復の方が増加しやすいしの。」
魔力回復ポーションは過剰摂取してしまうと体に害をなすがきちんと量を守れば有用である。地球の現代社会で言うところのカフェインや睡眠薬等と同じような扱いである。
「やはり、魔力量が足りんのう。セラの授業も魔力切れで早く終わったのじゃろ。昼食
を食べに行くぞい。」
─エマの教養講座─
「それじゃあ、今日は今までの復習を中心にやっていくことにしましょう。」
エマの教養の授業はこの国の法や文化、マナー等を中心とする予定だが、異世界人のサスケにはこの世界の常識から指導する必要があり、今日はその復習の授業である。
「それではまず、魔物とは何かからですね。」
「魔物とは体が魔力で構成されている生物のことです。」
半人族と呼ばれる種族がおり、その種族は体の半分が獣や虫の姿をしており地球の神話等では怪物として扱われることが多いが人であると認められている。理由としては魔力との親和性が人よりは高いものの、魔力で体が構成されている訳ではないから。例としてケンタウロスやアラクネ、人魚などが挙げられる。
「はい、正解です。魔物の皮や爪を素材として使うときは専用の処理をする必要があります。それでは次はお金についてですね。貨幣の種類を答えて下さい」
「価値の低いものから順に小銅貨、銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨、金貨、小魔銀貨、魔銀貨の八つです。」
「その通り、銀貨十枚で小金貨になるなど十枚で次の大きさの貨幣となります。これは世界で基本的には統一されています。」
貨幣の価値は小銅貨が日本円で十円と同じ価値がある。物価は少しこちらの方が今は高くなっている。
「それでは最後の問題です。龍王国の主要七家を答えて下さい。」
「ドラグーン王家、マストレート大公家、レシーネ大公家、ルレット大公家、テラリオ公家、ケイハート公家、セレオト公家の七つの家です。」
「いまサスケが言った七家は龍王国で主要都市に住んでいる者ならば、ほぼ全員が知っているでしょう。七家の種族について説明しておきましょう。王家とレシーネ大公家は竜人族の系統です。マストレート大公家とテラリオ大公家、ケイハート公家は人族の系統になります。ルレット大公家、セレオト公家は獣人族の系統ですね。これも人によっては知っていますね。知らなければ、失礼にあたることもあるので知っておいたほうが良いでしょう。」
その後は今後の授業はマナーについてになるという話をして終わった。
サスケはその日の授業が終わると夕食の時間になるまで自由な時間を与えられている。この日は地下の修練場に行くと椿がいたので刀の素振りを見てもらえることとなった。
「素振りはこの刀を使いなさい。」
そう言って渡されたのは真剣の刀だった。
「これ使っていいんですか。」
「ええ、それは予備だから最悪はゆがんだりしても問題ないから。」
「わかりました。」
それから素振りを見てもらい指導をうけるのであった。