95.屍界狂想 ネクロノワール 9
ーーー共和国。
数々の民族、宗教、国、数多な思想が集まり成り立つ、王の存在しない国家。
この共和国内には機械だけで出来た人類の他に人間と機械の入り混じった戦機、生身の身体が主幹の人間等が多数存在する。
特に、この国内に於いては生身の人間が多い様に感じた。
そんな中、シグルド達は共和国内に存在する工房を訪れていた。
「よぉニイちゃん、彼女連れで登場たぁ随分な身分だなぁ?」
「彼女?何の事だ?」
豪快に悪態を付く主人、レオンヴォルトと名乗る中年男性は戦機では無く人間だった。
とは言え、失った右腕を機械の腕で補っている様だが。
そのレオンの言葉に首を傾げていると、後ろから青髪の少女に小突かれたのは言うまでも無い。
「まぁいい、そんな事よりお前さんの本体だが…ありゃあなんだ?太古の昔に失われた飛行技術が搭載されてやがるじゃねぇか?」
そう、工房の主人が言う通り、この廃れた世界に於いては飛行技術は既に失われて久しい物なのだ。
「ーーーって、まぁ詮索はやめとくが…しかし技術提供はして貰いたい所だが………あんな巨大な爆弾、俺様の一存じゃ決めらんねぇや。」
「そうか…」
レオンが腕を組み燻ってる様子にシグルドは、どうにかして改修を行えない物かと焦って居た。
ーーーと言うのも、シグルドが奪われた右腕に付いてだが、これは取り返すのが遅れれば遅れる程に状況が悪くなるからだ。
良くてジークフリードが扱う事。最悪の場合には本国か他国に右腕を売られる事だ。
皇国や帝国はいざ知れず、他に点在するだろう見知らぬ国に逃げ込まれたのなら取り返す方法など存在しない。
しかし、今すぐ取り返すにしても今までのままでは速度も性能も、ましてや武器を奪われた現状では戦う手段すら無い。
一応右腕の現在位置に関してはどうやってか、リンムレが把握してくれてるらしいのだが…。
「おう、取り敢えず首長会に相談して来いや。……上の連中が決めた事なら俺様も従うっきゃねぇからな。」
「………だそうですよ?シグくん。………予約無しで会えるんでしょうか?」
「会えないのか?」
「普通は無理ですね。只でさえ治安を守るのも難しいですから、おいそれと余所者を懐に招き入れる様な国の中心部は在りませんよ。」
「それもそうか…。せめて武器の確保だけでも出来れば良いのだが…」
「それこそ難しいのでは…?」
相談をしているシグルドとリンムレを余所に、何やら紙の様な物に何かを書いている主人の姿が目に映った。
「ほらよ、ニイちゃん。そいつは紹介状だ。俺様から首長会宛に会える様にしたためてやったから、そいつを持って行ってみな?」
ーーーと、紹介状を渡されたのだが…
「いいか?そいつを生かすも殺すもニイちゃん達次第だ。………まぁなんだ、紙も貴重品だからよぉ、出来れば無駄にしないでくれや。」
シグルドは有り難くレオンの気持ちにあやかる事にした。
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首長会との対談は簡単な物だった。
紹介状を見た首長会の面々は、シグルドと言う兵器にとても興味深い様子だった。
右腕の構造から、物を入れるとそれに適した兵器へと変わる機構はとても珍しい物で、首長会としては是非とも取り入れたい技術だったのだろう。
次に、飛行技術の提供についてだったのだが…
これには非常に難色を示した。
飛行型の戦機を作ろうにも適正を持つ人材の確保は難しい。
どうやら共和国内での掟として、人間狩りについては御法度だった。
ーーーと言うのも、ここに住む人々の大半が人間狩りから逃れて来たか、兵器にされた物のシグルド達の様に何らかの影響で洗脳から逃れた者。そして、この国で人々を守る為に自ら兵器になる事を志願した者達が集まって出来た国だからだ。
それはつまり、人体実験を行うのにも数々の手順や承認が必要になる訳だ。
そして、現行の戦機を改造して飛行型にしたとしても、空を音速で飛べる適正が無ければやはり改造自体が無駄になる。
只でさえ部品や機材機器の調達は難しいのだ。
此方の飛行技術に関しては、提供は受ける物の扱いに関しては慎重にならざる得ないと言った印象だった。
何より、飛行技術を入手した故の皇国による報復等が恐ろしい。帝国による侵略行為も考え得る。
制空権を得る事が更なる争いを巻き起こすのは目に見えて解る。
現状、仮想敵としか言いようが無いのだが、それでも考え得る争いの芽を摘むのは、虐げられて来た国としては当然の事だ。
しかし、飛行技術提供とシグルド本体に関しては喉から手が出る程欲しい物だった。
故に受け入れられるのは至極当然と言えよう。
よって、シグルドに言い渡されたのは、共和国所属の戦機として配備。
本体の改造、改修に当たって技術提供を行う事。
首長会の意向には添う事。
他にも色々と理由や目的、根拠は在るのだが、ジークフリードを討伐する為にもより強く在るにはシグルドも黙って頷くしか無かったのだ。
ーーーシグルドは、共和国所属の戦機となった。
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シグルドとリンムレが工房へと戻った頃、本体から戦闘機部品が剥がされ丸肌状態となっていた。
核とそこにくっ付いているリンムレの核しか無かったのだ。
「ーーーおい!何をしている!?」
シグルドが勇んでレオンへと組み掛かるが、横から現れた第三者によっていとも容易く投げ飛ばされてしまった。
どうやら中年の男性の様だが、鉄塊で出来たシグルドを容易く投げ飛ばす程の筋肉量とは如何程のものなのだろうか?
意味が解らずに居るシグルドに対して、その第三者は見下ろしながら言葉を投げ掛けた。
「お前さんがシグルドって坊主か?」
「クッ…!だったらなんだ!?」
シグルドが熱り立って再び男へと向き直るとどうだろう?
シグルドには男がとても異様な物に見えたのだ。
「おいおいニイちゃん、落ち着きな?このオッサンは俺様の友人だ。………まずは落ち着いて話を聞けや。」
シグルドにとっては現状、レオンが一番信用出来ないのだが、とにかく話を聞く事にしたが…リンムレがシグルドの感じた違和感を言葉にしてくれた。
「この人…服も身体も凄く綺麗です。…まるで貴族様みたいに…」
男の身形はまるでこの世界で苦労等した事が無いかの様に清潔な物だった。
首長会でさえ、綺麗な服でも何処かくたびれて見える程によれよれで所々ボロボロにほつれて居るのに、目の前の男にはそんな様子など微塵も感じなかった。
濃紺のスラックスに黒のワイシャツに赤いネクタイ。
灰色のトレンチコートに、隻眼の眼帯………そして、嗜好品のタバコ等、この草臥れた世界には存在すら疑わしい物だった。
「貴族か、貴族ねぇ………まぁその貴族様でいい。……お前さん、強くなりたいのか?」
目の前に居る中年男性に、シグルドは苛立ち始めるのだが…自分が弱いと言う事実を理解していた青年は、溜め息を吐いた。
「強くなりたい…が、それはアンタに頼んで強くなれるとは全く思えない。敵を滅ぼす為には近接戦より遠距離戦を強化するべきだ。違うか?」
シグルドが問い掛けると、中年の男はタバコを吐き捨てやけに長い溜め息を吐いた。
「オイオイ、俺の仕事はガキのお守りかよ。……まぁいい、そいつを証明したきゃ、俺に一発で良い、当ててみろ。」
そう言って投げ渡されたのは、黒塗りの鉄の塊。50口径で、レイルドバレルジャケットと呼ばれる中二病御用達のカバーが取り付けられた物。
デザートイーグルと呼ばれる拳銃だった。
見た瞬間、シグルドの中で何かが弾けた様な感覚を覚えたのだが…
「シグくん…まさか本当にやるんですか?」
「……証明の為だ。……行くぞ!!」
即座に構えたシグルドは中年男性を撃とうとするも、目の前に現れた影に顔を掴まれた。
右手だった。
「おいおい、こんな場所で撃ったら危ねぇだろうが。場所を変えるぞ?」
そのまま窓の外に投げ飛ばされたシグルドは宙空を舞い、いつもとは違う感覚で空を飛んでいた。
「でっ…出鱈目だ!?……なんだ!?なんなんだ!?」
10キロ程は飛んだだろうか?周囲は瓦礫だらけだ、人の気配は無い。
シグルドが頭から地面に着地した時、自分を投げ飛ばした男は数秒後に目の前に現れた。
「ま、ここなら大丈夫だろ。さぁ撃って来い。」
滅茶苦茶を言う男に呆れながらも、シグルドは起き上がり、揺れる視界の中男を探して銃を向けるが、その瞬間に蹴り飛ばされ瓦礫に叩き付けられる。
起き上がり立ち上がろうとすると、強制的に立たされ空に投げ捨てられ距離を離される。
なんとか立ち上がり、今度こそ狙いを定めて引き金を引くが、グラつく視界と震える腕では照準等まともにつけようも無い。
男は心底ガッカリした様子で此方を見ていたが、やがて諦めたのかシグルドに歩み寄り言うのだった。
「お前さん、口だけ野郎も大概にしろよ?…まずは何の為に強くなりたいかをしっかり考えな。」
それだけを言うと、男はシグルドを放置して去ってしまったのだった。
何を目的として強くなりたいか。
シグルドにとってそれは世界を滅ぼす為、世界に報復する為。それだけで十分だった。十分だったのだ。
「………姉さん。……俺は、俺は……弱いよ。…姉さんの、俺達の仇も満足に討てない。…姉さん…」
投げ出された拳銃と、ズタズタのシグルドは、その日に降り始めた酸性の雨に打たれていたのだった。
いい加減エル子さんの話にモドリタイモドリタイなのだった。




