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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー屍界狂想 ネクロノワールー
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94.屍界狂想 ネクロノワール 8



共和国内に潜り込み、数日間を機体の修理と改修に費やした。

本体で在る戦闘機部分は共和国内の工房に預けた。


…と言うのも先日のジークフリードによる奇襲で、シグルドの身体…本体が収められた戦闘機部分が限界だったからだ。

元々、動くのも難しい程に本機へのダメージは深刻で、内部部品や屍喰機動核ネクロリアクター自体も機動し続けているのが不思議な程だった。

そこに今のシグルドにとって強大な敵であるジークフリードの襲撃と在れば互いに出し惜しみをしていては敗北は必須。

敗北とは、つまり二度目の死。今度こそ完全な死を遂げるのだろう。余程奇跡と悪魔の気紛れでも起こらない限りは。


結局、出会ってしまった時点でこうなる事は宿命付けられて居たのだ。

更に最悪の事態は重なるもので…、シグルドの右腕は完全な形に修理された。

銀色の機械で出来た人型の腕だ。

勿論右腕内部に火炎放射器のみならず、様々な武器を装着し、変換させる機構も元通りに修復出来た。


…のだが。




朽ち果て打ち捨てられた廃工場の一角で、シグルドと、キャリアカートに一時収められたリンムレはシグルドの右腕の試験運転を行っていた。

シグルドが右腕を的に定めた缶詰の空き缶に向かって構えると、手の平が丸く開き大量の炎を吹き出した。

放射状に燃え上がるそれは、誰が見ても良く解る程に火炎放射器だった。



「………火炎放射器………ですね。」

「……クソッ!!」


シグルドは鋼で仕上がったその腕で、机を殴り付けると、問題無く粉々に砕け散った。

シグルドの憤りは先日、ジークフリードに寄って右腕を喰われた事に在った。

前回、ジークフリードの腹部を右腕で貫いた迄は良かったのだが、コクピットから放り出され掛けたリンムレに気を取られたお陰で竜の顎と化したジークフリードの腹部にまんまと腕を喰わせてしまったのだ。

その際、痛みを感じない筈の死体の身体に痛みが走り、同時に自分の中の大切な何かが抜け落ちた感覚に陥った。

シグルドには当初、それが何なのか分からなかったのだが、今は理不尽な形でそれが何だったのかを理解させられたのだ。



「喰われたのは…腕の記録と『炎操者パイロマスター』…と言った所か。」

青年は右手を握り込むが成る程、自分の腕な気がしない。

自分の物では無くなった右腕を握り込み、その拳を鋼板で出来た柱へと打ち付けると、柱の一本を歪ませてしまった。

しかし今のシグルドには何かに気を配れるような精神は持ち合わせて居なかった。

そんな荒れ果てたシグルドの様子に、リンムレは酷く怯えるのだった。

それも仕方ない事で在る。

もしも自分が落ちる恐怖に負けず。寧ろ自ら落ちてでもシグルドの邪魔をしなかったのなら、あの闘いに於いてシグルドの敗北は無かったのかもしれない。

もしも自分では無く、もっと優秀なサポーターが彼に着いて居たのなら…と、後ろ向きな想いが心の底から溢れ出し続けるのだった。


しかし、リンムレは聞けずに居た。

「何故、自分なんかに構ってしまったのか?」

それを問い、答えを聞くと、現在の自分達の関係が崩れてしまいそうだったからだ。

勿論、自分と彼は互いに利用し利用され合う関係だ。深い感情など無い。

それでもここまで共に手を取り合い生きてきた仲だ。

互いに役割を覚え始めて、漸く協力関係になれた気がしたのだ。


それを自分が役立たずだったからと、ここでゴミの様に打ち捨てられる恐怖がリンムレの心を満たすのだった。

家族も死に、きっと両親も今頃は…

今のリンムレにとっての身内はシグルドしか居ないのだ。

歪な協力関係。

それでも………だからこそ、守ると誓ってくれた彼の側から離れる事が怖くて怖くて仕方なかったのだ。


そんなリンムレの気持ちを知ってか知らずか、シグルドは彼女の頭に右手を乗せて尋ねた。


「ふむ、これがお前の気持ちか。」

シグルドの言葉にキョトンとするリンムレだったのだが、シグルドは構わずに続けた。

「右腕が不自由に感じるだけで俺はここまで心がざわつくのだが…リンムレ、お前は俺よりもっと不自由だったな。すまなかった。」

シグルドの謝罪に困り果てるリンムレだったが…

「………とは言え、身体を売ってまで右腕を得ようとするのはどうだかな?ククク」

「ーーーなぁっ!!シグくんの意地悪!!だって本当に不自由なのは辛いんですよ!?」

嫌味に笑うシグルドにプクッと頰を膨らませるリンムレは、機械の右腕でシグルドをボコボコと殴るのだが、先程迄の不安感は吹き飛んだ様だ。



一通りじゃれ合い、一息付いた頃、シグルドはある提案をした。

「リンムレ、ここでならお前の新しい身体も作れるだろう。元通りとは行かないだろうが…お前が良ければ頼むつもりだが、どうだ?」

………と、問い掛けるシグルドに対し、リンムレは溜め息を一つ吐くと、もう一度だけシグルドの脳天にゴツンと拳を振り落として言い切った。

「馬鹿ですかあなたは…私が居なくなったら一体誰がシグくんの面倒を見るんですか?…私は…リンムレはシグくんと一心同体、運命共同体です。ですからシグくんこそ私が役立たずだったらここに棄てて行って下さい。………悲しいですけど、シグくんの選んだ事なら受け入れます!」


その言葉に、リンムレが流した涙に、シグルドの心は何か痛みの様な、それと共に暖かい何かを感じたのだった。


「すまなかったな。棄てて行くつもりは毛頭無いのだが、そう受け取られても仕方無かった。…俺と共に来い、リンムレ。…お前は…俺の物…だったな?」

青年のその言葉に、少女は涙を零して笑った。

俺の物…と言う言葉とは裏腹に、部品扱いなど微塵も感じ無かった。

漸く、少女は彼の相棒パートナーとなれた気がしたのだった。



「あ、私はシグくんの物ですから、シグくんも私の物ですよ?」

少女が納められたカートを寄せて右腕だけで抱き着くリンムレは、シグルドの耳元で囁くのだが。

「む?そうなるのか?…ふむ、だが同時に俺は姉さんの物でも在る訳だな。」

リンムレは再びプクーッと頰を膨らませるのだった。



ーーー

ーーーーー



ーーー武器の話ーーー



「それでリンムレ、流石に現在の兵装だけではアレと戦い抜けないぞ?」

シグルドの言葉に考え込む相棒なのだが、意見を黙って待つ青年は自分なりにでも案を捻り出してみた。

やはり遠距離戦が必須な事と、近接になった際にどう対処するのか。

そして何より、リンムレに寄る支援攻撃が有ったならばもっと戦い方に幅や選択肢が有った筈である。

つまり、本体その物に兵器を取り付けてみるのはどうだろうかと意見を出した所、幾つか案が出された。


・遠距離戦については工房で何かヒントを得てはどうか?

・近接戦闘になった際に、あの竜の頭を出されたらどうしようも無いので、此方も狼の頭を使い熟せ無いか努力してみる事。

・近接戦闘のサポートとして、サブウェポンを持つのはどうか?

・本体に武器を取り付け、文字通りの戦闘機に変えるのは良いが、速度低下や旋回、上昇下降能力に負荷を掛け、スペックを下げる結果になるかも知れない。ーーーそれならばいっその事、新たな革新を行うべきでは無いか?


ーーーと、具体案が出ないまま纏まってしまった。

要するに死に瀕した世界に学力の向上等無いのだ。

屍喰機動核より齎される知識のお陰で多少は文明的な会話が出来て居るのかも知れない。

結局この日は討論のみで終わってしまった。


しかし、何故かどこか互いに有意義な時間に感じたのだが、これはお互い口にしなかった。





ーーー

ーーーーー






ーーーそして翌朝。

荒れ果てた工房内で、青年は眼を覚ました。

朧げに見える霞んだ視界には…優しそうな女性の姿が在った。


「おはよう…××××。今日は少しだけスモッグが晴れてて過ごし易くなりそう……。」


………微睡む意識の中、懐かしい声が聞こえてきた。


俺はその声の主を抱き締めて、愛しい人の名前を呼んだ。



「……おはよう、セシル…姉さん。」





………その声の主は、少しむくれて、しかし優しく諭す様に俺に囁き掛ける。




「駄目ですよ?シグくん。女の子を抱き締める時に他の女の子の名前を呼んじゃ。」



優しい声の主は、目元までを覆うサラサラの青髪を揺らして、俺に微笑み掛けた。



ーーー

ーーーーー

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