92.屍界狂想 ネクロノワール 6
ーーーー皇国領内研究所ーーーー
室内には数十名の男性研究者が集い、何やら会話を繰り広げているのだが…
彼等の誰を挙げても人間と機械が無理矢理融合させられた容姿をしていなかった。
一人は老人の様な男性。恐らくこの研究所の所長だろう。
三人程が中年で、40〜50代と見ている取れる。
他に数十名の研究員が居るのだが、その誰もが年若く、そしてーーー
ーーーー四人と同じ顔をしていた。
「トマホーク型に続き、スカッド型も離脱した……だとぉ?」
老人が嫌に甲高い声で、聴く者を不快にさせる下卑た声を研究所内に響かせた。
これに答えるのは年若く10代後半と言った容姿の青年だった。
「はい、どうやら報告によればここ、皇国より1万キロ離れた岩場付近にて例のトマホーク型と上空にて交戦、撃破ならず相討ち、以後は我々の精神操作を打ち破り、自由意思によって活動を続けているとの事です。」
「ぬぬぅぅっ!」
頭を真っ赤に染めて憤りを露わにする老人だったが、中年の内の一人、細身の研究員がそれを諌めた。
「まぁまぁ所長殿、要するにアレ等は所詮思想も理想も持たないドブネズミ共。そこ等で拾って来た部品に欠陥が有るのは当然ではありませぬか。」
そしてもう一人、恰幅の良い男性が説得する。
「そうですぞ!!あのゴミ共のお陰でここ6年、ワシ等の偉大なる研究の成果とデータはキッチリ取れてるのです。ゴミをゴミ山に捨てたとお考えになってはいかがですかな?」
そして最後に身長の低い男性が進言した。
「クヒヒッ、ではそろそろ段階を次に移しても良いのではないかね?所長、是非とも我等の頭脳をインストールした屍喰機動核の使用許可をなにとぞ!!」
彼等の言葉に両眼を閉じる所長と呼ばれた老人だったが、カッと見開くとすぐさま全体へと指令を出した。
「三賢人の言い分は最もだ!!奴等は所詮野良犬!!最後の最後まで己の存在も力もまともに使いこなせないゴミ屑!!これ以降は廃棄処分した事とする!!そして、これより三賢人と我輩の脳内マップを写した屍喰機動核を用いた新兵器の製作に取り掛かる!!……その旨を王に伝えよ!!」
三賢人と呼ばれた頭の悪そうな中年三人組と、あからさまに自己主義過ぎて周りが見えていない所長は今日も元気に人体実験に勤しむのだった。
皇国領内に不穏な爪痕を刻み付けてーーーー。
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ーーーー帝国領内のとある鉱山にて。
シグルドとリンムレは潜伏していた。
そこは既に廃棄されて十数年と経った坑道だった。
先の激戦にて、本機体の被害が思った以上に深刻だった事と、今後の方針、補給、そして全体改造の為に廃棄された坑道と言うのは二人にとってとても有利だったからだ。
まず、シグルドはこの坑道に人の気配が無いかを探った。………探ったのだが、こう言った事は寧ろリンムレの方が得意だった。
支援機と呼ばれるだけの事はあって、索敵や隠蔽工作は得意なのだった。
燐夢シリーズは、そもそもステルス機能を用いての隠匿任務に当たるのが得意な機体なのだ。
リンムレは試作機だったが故にステルス機能は無いのだが、代わりに隊長機としてのレーダー機能拡大、赤外線に寄る察知、超聴覚機能、その他諸々と探索技能に置いては他の姉妹機より遥かに高かった。
最も、代わりに身体機能が大きく削がれているのだが。
それでも指示を出したり、知覚能力広域拡大に寄って戦場を大きく細かく把握した上での通信機能拡張に寄る全体号令等、リーダー機としての能力が高かったりする。
つまり、皮肉な事に敵国の戦機であるリンムレは戦闘特化型のシグルドにとってはとても相性が良かったのだ。
リンムレの指示の元、ゆっくりと坑道内へと本体を降ろすシグルドは、後の事をリンムレへと任せリペアビットと呼ばれる修理用のマシンの操作権を彼女に委ね、機体から降りるのだった。
「あの、シグくん?私に任せちゃって良いんですか?」
そう尋ねる少女に、青年は片手で応えて坑道奥へと人型の姿で向かって行くのだった。
「……信頼してくれてるのか、自分に正直なのか。……まぁ、期待には応えて見せますよ。」
リンムレはボロボロのサブアームを駆使してリペアビットの補佐を行うのだった。
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シグルドが奥へと向かうと、埃や瓦礫で粉塵塗れの坑道内は真っ暗闇なのだが…そもそも暗闇で視界が効く様に設計されてるシグルドには関係無かったのだ。
死に絶えた鉱山に人も動植物と言った命も無い。そもそも手入れのされてない鉱山等、近い内に瓦礫に押し潰されるのが目に見えている。
それでも根城にする物好きは居るのだが、ここはその心配が無い様だ。
だからこそシグルドは考える事が出来る。
悩む事が出来るのだった。
「リンムレの奴が言ってたな。…『セシル』…」
シグルドが呟いた名前、それは死に別れた姉。血の繋がらない愛しい姉の名前だったのだ。
「………何故、アイツが姉さんを知ってる?…まさか俺に知覚出来ない何かが知覚出来るのか?」
シグルドは苛立っていた。
支援機如きが大切な姉を勝手に………等とは今更思うまい。
それよりも、自分はあの研究所から抜け出す際に一度だけ聞けた声が、アイツにも聞こえた?
それはつまり、俺に見えない姉さんがアイツには常に見えていると言う事か?
それとも、自分が意識を手放してる間だけ、姉さんは起き上がるのか?
つまり、自分は姉には会えない…と言う事になる。
「ーーーどうして起きてくれないんだ…姉さん。」
シグルドはただ一人、暗闇の中で蹲っていた。
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リンムレが制御板を操り、全体の煤取りやらフローターの整備、補充した部品から装甲板を新たに作成………等を行っていた時、普段シグルドが繋がれている前面接続部から一人の女性の上半身が生えて来たのを確認した。
「こんにちは、リンムレちゃん。…こんばんはかしら?」
「こんばんは、セシルさん。」
金糸の髪に美しいマカライトブルーの瞳の女性は、シグルドにとって血の繋がらない姉である『セシル』だった。
「お取り込み中?」
「いえ、オートで出来ない部分をサポートしていただけなので。取り敢えず改修プログラムは設定しましたのでもう大丈夫ですよ」
そう尋ねる女性に、少女は笑顔で答えたのだった。
「リンムレちゃん凄いわね?私はその…機械とか苦手なのよ。」
リンムレの操作を見届けると、セシルはキョトンとした目で言うのだが…そもそも身体が機械に繋がった時点である程度は意志の力で機械操作が出来る筈だった。
「結構念じるだけでも操作は出来る筈なのですが、お姉さんは………って、そう言えば自然に名前呼ばれてますけど、いつの間に知ったんですか?」
「あ、ごめんなさいね?…一応、全部見てたから知ってるんだけど、何故かあの子が居ると出て来れないから大事な時に何時も止められなくて…歯痒い気持ちだったのよ。」
ーーーあぁ、全部見られてたんですね?
つまり私が口走った変な事も全部ですか。あははははどうにでもなーぁれ
「……リンムレちゃん。」
凄く真面目なトーンでお姉さんが私を見詰めてますよ?どうしましょう、リンムレはとても怖いです。
「はっ……はい…」
それからお姉さんは一度深呼吸をして言いました。
「リンムレちゃんはあの子を…シグの事をどう思ってるの?」
「はっ……?」
あ、また「はっ……?」って言っちゃいました。
「あ、ごめんなさいね?リンムレちゃんから見たら私も敵国の機械よね?…でも、今はそれだけじゃないと少しでも思ってくれてるのなら…私もあの子も、リンムレちゃんに頼って欲しいと思ってるし、頼らせて欲しいと思ってるのよ。………それで、リンムレちゃんの気持ちを聞かせてくれる?」
お姉さんの問いはとても難しいです。
リンムレにとってのシグくんは、大切な姉妹達を死地に追い遣った原因ですし。
ーーーでも本人が殺した訳では無いですし、そもそも殺した皇国の憎いロードローラー男から私を救ってくれたのも彼な訳で。
私の暴走で一度は殺し合いましたけど、それでも彼は私を必要だと言ってくれて……うーん。
「………そうですね、リンムレは彼のおかげで全てを失いましたけど、彼が拾ってくれた一連托生。運命共同体です。…だから、今すぐに頼りたい…とは思えませんけど、………私の能力を必要としてくれてるのなら、リンムレは彼に力を貸しますよ。」
私の答えに、ニッコリと優しい笑顔を向けてくれた彼女は、私をギューっと抱き締めると耳元で「ありがとう」…と言いスゥーっと消えて行きました。
そして、代わりにやって来た足音に目を向けると、両眼を見開いたシグルドがワナワナと震えながら此方へと駆け寄って来ました。
「えっえっ?えっ??ひぃっ!!」
「おい!!今のは…!?今のはなんだ!?」
捲し立てる様なシグルドの責め立てに困惑するリンムレ。ーーーしかし
「姉さん…!?姉さん!!聞こえるんだろう!?姉さん!!」
シグルドの声に、彼女が答える事は無かったーーーー。




