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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー屍界狂想 ネクロノワールー
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90.屍界狂想 ネクロノワール 4

今回はいつも以上にグロテスクな表現が有ります。

苦手な方は今の内にお引き取り下さい。



















オーケーな方はどうぞよろしくお願いします。


ガシュッ……がシュッ………がシュッ………



只々ひたすらに咀嚼し続ける音が鳴り響く。

金属が、こびり付く様に引っ付いた肉が、中身を失った内臓が、…まるで野菜に包まれた肉を貪る様に丸められて胃袋の中へと吸い込まれて行く。

否、それは胃袋に収まっているのでは無いのかも知れない。

それを行う男には、理性や情緒等と言った物が有るのだろうか?

只々自分を作り上げる為に、咀嚼を続けるのだった。



「………そうやってる姿は、正に悪魔ですよね。」



それを無感情に眺め続ける声の主は、少女の物だった。

青髪に碧眼の少女は、目の前でただひたすらに金属も肉も何もかも問わず食べ続ける青年を、巨大な機械の上から汚物を見る目で見下しているだけだった。

少女には腕が無かった。

下半身は巨大な機械に埋没し、腹部から上だけが生えてる様な状態だ。

一切の自由が利かない状態だからこそ、現在自分の足下で地獄絵図の様な光景を繰り広げている青年、シグルドから手で両目を覆う事も出来ず、只々目を逸らせずに居たのだった。

一頻り咀嚼を終えた青年は、砕けた顔面をたった今補給した部品で補っていたのだ。

脳が砕かれたのなら脳を、頭蓋骨が割られたのなら頭蓋骨を、皮膚を、顔を守る金属を削がれたのならそれらを全て。

他人から奪い、他人で補給し、修復する。

ゾンビの様な身体になった物の、自分がここまで人間離れをしていると認識すればするほど、正気からは遠去かるのを感じるのだが、それでもこの身体は、屍喰機動核ネクロリアクターは、青年を青年足らしめる事から逃がしてはくれないのだろう。

何故なら肉体も、記憶も、魂すらも、この万能とも思える不自由な機械は情報データと言う形でこの世から逃がしてくれないのだから。

ほとほとに嫌気が差すのだが、それでもシグルドは復讐の為、目的を果たす為に、必要な事から逃げるつもり等毛頭無かった。

ーーーさて、嫌気は差すが上で膨れてるあの女にも返事をしておくか。


「そもそもお前が砕いたからこうするしか無かったのだろう?」

シグルドが本機へと登り、青髪の少女へと向いたまま悪態を付くと、青髪の少女は不機嫌そうに溜め息を吐く。

「だからって…」



皇国おなかまの追撃部隊を全滅させて死体を食べるだなんて、流石にどうかしてますよ。」



ーーーー彼等の足元に転がってるのは、先程シグルドが咀嚼していた物は、皇国による追撃部隊の一部だった。

経緯はこうだ。

瓦礫の山から身を隠そうにも既に戦車小隊の接近を許してしまった彼等は、兎に角武器を探した。

機体内部に備え付けられていたライターが一つ、何の意味が有って取り付けられて居たのかさえ分からないそれを、燐夢りんむ令式れいしきと名乗った少女は、「それを右腕に着けて見れば一度位は火球が撃てるんじゃないですか?」…と、半ば馬鹿にした目で見下しながら提案したのだった。

この馬鹿な提案に乗るのは癪なのだが、どうせ武器は無い状況だ、試してみるのも悪く無い。

ーーーと、右腕に着けた所、火炎系武器として分類されたのか、右腕が小さなタンクが付いた火炎弾発射装置に切り替わったのだった。

意味が分からないのは此方も同じだ。

だが、使える物は使わねばなるまい。

………後はお察しの通り、巨大な火球を頭上から落とされた彼等の戦車5両は、為す術も無く焼き尽くされ、残った部分をシグルドが美味しく戴いた訳だ。

そもそも何故ライター程度で巨大な火球を作れるのかは甚だ疑問では有るのだが、青髪の少女に寄ると…


「ブラックボックスな部分が多いですが、どうやら貴方の基本データには炎を強化し、圧縮し、操る為のデータベースが存在する様です。………下手をすると自分ごと周囲5千キロ四方を一瞬で熱融解させる事も出来るかも知れませんよ?」


…との事だ。

いざとなったらそれもまた選択肢に入れても良いかも知れんな、と思ってしまった。


「………所で支援機、お前は軍服を着てるんだな?」

「………は?何を突然…」

シグルドは今の今まで特に取り留めて無かった事を追及した。………多少は少女に興味が湧いたのだろうか?

「いや、よくよく見てみれば腕も無ければ足も無い状態で、胸を覆う服だけはよく無事だった物だな………とな?」

「………なんだこいつ」

少女の俺を見る目が汚物を見る目に見えるのだが、まぁ気にする程の事でも無いだろう。

「折角くれてやろうと思ったのだがな。」

そう言ってシグルドは機械で出来た煤けた腕を少女の目の前にぶら下げた。ーーー最も、右腕だけだが。

これには流石の少女も一瞬目を輝かせたが、すぐに怪訝な表情に戻りシグルドを軽蔑な眼差しで睨むのだった。………流石に苛つくな。

「………何が目的ですか?………それを戴けば、貴方を殺せる可能性が高くなるんですよ?………まさかその腕を着ける替わりに何かイヤらしい事を…」

「……食うか」

少女の方を向いていたシグルドは前を向き、腕を食べようと大きく口を開けた所で少女は本気で焦り、全力で止めようとして来た。

「はっ!?ちょっと!!いらないなんて言って無いじゃないですか!!待って!!ストップストーーーップ!!」

最初から素直に欲しいと言えば良いだろうに…

呆れた眼差しで少女に向き直るのだが、何やらおかしな事を口走った。

「わかりました!………じゃあちょっとだけエッチな事も許可してあげますから、我慢しますから。ーーーですから、その腕を寄越してください!」

青髪の支援機如きが何か勘違いしていた。

シグルドは溜め息を吐き、腕を少女へと接続しながら告げるのだった。

「悪いが俺は姉さん一筋だ。…お前みたいな無能な能無しに興味は無い。」

「ーーーっ!」


ーーーよし、どうやら無事に着いた様だな?



接続アクセス…プライオリティコード変換…」

「おいやめろ」

本気でこの女、捨てて行こうか?



ーーー

ーーーーー



「ついでだ、サブアームの操作権をお前に委ねる。」

「ーーーは?」

シグルドの突拍子な提案に、少女は理解出来ずに首を捻っていた。

当たり前だろう、自分を殺そうとした相手に自分を殺せそうだった部品の操作を委ねる等と、常人で在れば絶対に有り得ない申し出なのだから。

「聞こえなかったのか?支援機。お前にも戦闘のサポートをして貰うと言ったんだ。」

「………貴方は馬鹿なんですか?それとも何も考えて無いんですか!?………私は今だって貴方を殺そうと…」

少女の怒りは、呆れは尤もだ。自分の命を狙う相手にこんな提案は常軌を逸してるとしか思えないだろう。

ーーーしかし。

「お前は俺の支援機だ。お前が俺をどう思おうと構わんが、お前は既に俺の核が死んだ時点で道連れになる運命なんだよ。そうとは知らずに俺を無闇に殺そうとするとは頭が足りない様だがな。」

「なっ……このっ!!」

「やめておけ…幾ら主導権を握ろうが、この身体を壊し尽くそうが、本体の核が生きてる以上、すぐに俺に主導権が戻り復活するだけだ。」

結局の所、屍喰機動核ネクロリアクターに詰められた物が、記憶が、心臓が、そう言った命の核が誰の物なのかが重要なのだ。

中身を確認した訳では無いが、この少女はただ命を繋ぐ為にシグルドの命に連結してるだけなのだ。

間借りしてるだけなのだから…




「俺の核を壊せば連鎖的に永らえさせてるお前の核も止まる。…いい加減理解しろ。納得しろとは言わんが理解しろ。お前と俺は一連托生なんだよ。」




それは傲慢で、卑劣で外道で、卑怯な脅しだった。

自分の都合を押し付けて、他人の命を食い物にする。正に悪魔の所業。

しかしそれでも、復讐に全てを費やすこの男には他に気を遣う余裕が無いのだった。

ーーー否、彼自身が狂わない為に、「復讐」と言う二文字に囚われてるだけなのかもしれないのだが。


しかし少女にはただ一つだけ、どうしても納得が行かない事があった。


「ーーーそれなら支援機支援機と呼ばないで、ちゃんと名前で呼んでください。」

何度も支援機と呼ぶ様な相手に、自身の命を委ねる…等と出来よう筈がない。

それは少女の心に根付く宿業故かは定かではないのだが。


「あの六式なんとか…だったか?長い、却下だ。」

「………っ!!ーーーこの悪魔っ!!悪魔悪魔悪魔!!!」

なんだコイツ、なんなんだ?

今度は子供の様に怒り出して、本当にこの支援機は喧しい。



ーーーーそんな痴話喧嘩を挟む彼等の前に、超高速で何かが飛来した。


「ーーーっ!!未確認機接近!前方30キロより、高速で接近する機影を確認!!」

シグルドは空気を凍らせる様に鋭く言葉を紡ぐ少女に耳を傾けた。

そして、補充したばかりの部品で組み上げた簡易型火炎放射器を右腕へとセットした。

「速度は…マッハ1.3!?追衝突に備える事を進言します!!」

青髪の少女をコクピットの様な風防へと押し込み、自分も対衝撃に備えようとしたのだが…

しかし彼等が身構えるより、遥かに早く、その時が訪れたのだった。


此方は身構える前に追突され、彼方はガチガチに固めた衝突用装備での突貫。

真横に凹部を作られたシグルドはその犯人を睨み、それでも尚空を浮かび続けた。


「発見、特殊飛行トマホーク型戦機『シグルド』と認定。直ちにこれを破壊し、データマップの回収に移る。」


シグルドは頑丈にも程がある自身の本体に一瞥くれてやり、機械的に語る異常な来訪者に対して向き直り右手を構えた。

「全く、人気者は休む暇すら………」

シグルドは見てしまった。

異常な来訪者の姿を。


形は自分に似た戦闘機と人間が一体化となったデザインなのだが、そうではない。

今のシグルドにとってそこは重要ではないのだ。


「あっ……あぁ……お前…は!?」

「…?どうしました?いつもみたく、やってしまって下さい。」

しかし少女の言葉も虚しくシグルドは炎を吐き出さなかった。否、吐き出せなかった。

少女が怪訝に思っていると、シグルドは冷たい汗を流しながら両眼を見開いていた。

「……ちょっと!?尋常じゃないですよ!?大丈夫ですか!?」

シグルドの脳裏に浮かぶのは今はもう名前も思い出せない親友の笑い顔、怒り顔、………そして死に顔だった。




「お前は…アイツなのか…?」




特殊飛行スカッド型戦機『ジークフリード』、これより目標を撃滅する。」




ーーーー戦場に雷の線が迸った。

今週始めから入院してました。

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