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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー屍界狂想 ネクロノワールー
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88.屍界狂想 ネクロノワール 2



「ーーーはぁっ、はぁ…っ」



短く青い髪を揺らす少女が枯れた森を走って居た。

いや、少女と言うには余りにも無骨で、余りにも人間から離れた容姿だった。


「くっ……私には、ステルス迷彩機能は無いのに…っ!!」


その少女は、身体の半分以上が機械に支配されており、身体の半分は人間の物だった。



「他の子達は………逃げられたかな?」


少女は振り返る暇も無く、自分を追う何かから身を翻して逃げ続けた。

そうして逃げ惑う先で、少女は何かに躓き受け身も取れずに地面へとその身を投げ出してしまったのだった。


「きゃふっ!!………ったたた……」


少女が擦り剥いた鼻先を撫でながら振り返ると、そこには……


「ーーーーッ!?」



少女と似た容姿の戦闘機械達が幾つも幾つもバラバラにされて核を抜かれていたのだった。


「あっ……あね…さま……いもうとたち………嘘っ、…嘘だ…!!皆ッ!皆、最新式の最高個体だったのに…ッ!!」


思わず自分が追われて居た事すら忘れて、少女が姉妹だった者達の身体を抱き締め、涙を流していると、背後から追って来た者の陰が差した。



「………っ!!あっ……あぁっあ…」


そうして、少女は生きる事を諦めてしまったのだった。



ーーー

ーーーーー




シグルドは空を飛んでいた。

自分が空を飛ぶのに使用して居るのは戦闘機部分に装着されている心臓部、屍喰機動核ネクロリアクターと連結し、10層のカバーに寄って守られている特殊飛行制御装置エクスフローターと呼ばれる重力制御を行う機械が主幹となって居た。

それをサポートする為に高熱や風力を発して機動をサポートするスラスターやブースター等が取り付けられて居るのだが、如何せんシグルドはこれの扱いに慣れて居なかった。

………と言うのも、兵器として数年間闘い続けていたらしい自分は自由に…いや、不自由に空を飛んで居たらしいのだが、自我を取り戻してしまった自分はそもそもこの機械の身体自体に慣れて居ないのだった。

背中に装着された姉で在るセシルは、あれ以来一言も喋らないままで、本当に自分の知る姉だったのかさえ確認出来ず終いだったのだ。


それでも何とかこうして空に浮けては居るのだが、この調子では自分の目的を達成する事すらままならない。

やはり意思疎通の出来る誰かをサポート役として欲しい所だが、そもそも世界その物が敵となった今、自分に協力してくれる者はいるのだろうか?

そしてそれ以上にーーーー



ーーーー俺に搭乗すると言う事は、死者で無ければならない。



ネクロリアクターは生きた生命を喰らう機械なのだった。

それを避ける為には、元から死んでいて、その上で自我を保てる程に強い意思の持ち主で無ければならないのだった。



「理想的なのは姉さんが起きてくれれば良いんだが…」


セシルは空で腕を組んで叶いそうも無い願いに耽っていた。



ーーーーと、その時、フローターに異常が発生した。

身体のあちらこちらから黒い煙を吹き上げて、徐々に高度を下げて行く自身に思わず慌てたシグルドは


「ちょっ!?待てっ!!うおおおおおおおッッッ!!!??」


悲鳴を上げながら枯れた森へと吸い込まれて行くのだった。




ーーー

ーーーーー



「ぎゃっ!!……ひぃっ……いやぁ……死にたく…っ……死にたく…ないぃ…」


両手両足を捥がれ、バチバチと火花を散らして泣き叫ぶ少女は、生命だけはと懇願していた。自分に伸し掛かる巨大な悪意へと


「いいやダメだね、貴様等帝国の戦機共には死んで貰う。………ん?いや、とっくに死んでるんだっけか?」


巨大なロードローラーと人間が混ざった様な男は冷徹な視線を少女へと向けてその巨大な身体を大きく振り上げ、跳び上がった。

そして、着地の瞬間の圧倒的な質量で少女の身体を捻り潰したその威力は間違いなく必殺の威力と成り果てたのだった。


「あがっ!!うっ……ぐぅぅ…っ」


「なんだ?まだ動いてるのか?…無駄に苦しませて悪かったな、とっとと往ね!!」


ロードローラー男がもう一度身体を揺り起した瞬間…


「うおおおおおおおおっっっ!!!!クッッッッ!!!炎で!!!」


空から飛来した巨大な鉄塊が吐き出した灼熱の業火は、ロードローラー男の上半身を溶かし尽くし、そして地面へと激突したのだった。



「ガハッ!!………なっ、……地上………か?」



酷く地面に激突したのだが、シグルドは殆ど傷らしい傷が無かった。自分は存外頑丈に作られて居るらしい。

ガシャッ…と、妙な音が聞こえると、戦闘機部分から切り離されたシグルドは、地面に人の形で落ちたのだった。


「……くはっ!…なんなんだ一体…。俺の身体は自由なのか不自由なのか…」


人の形に戻ったシグルドは、地面に降り立ち周囲を見回した。するとどうやら現在地は国境付近の枯れた森の側らしい。

そして、何やら後方半分程が地面から生えた巨大な機械の塊が一つ。

目の前には今にも死にそうな少女が一人。

しかしよくよく見てみれば、少女の方は身体の半分以上が機械に成り代わり、両腕は削がれ、下腹部より下は潰れていた。

どうやら見た所、少女の核となる部分からはヒビが生えて、中身の機材についても恐らく手遅れなのだろう…。人間部分と機械部分から血液と機械油の混じり合った悍ましい液体が漏れ拡がっていた。

流石にこれはもう無理だと判断したシグルドは再び戦闘機部位へと戻ろうとしたその時



「死に……たく…ない……」



シグルドの耳には確かに声が聞こえたのだった。

弱々しく、今にも搔き消えそうな小さな声。

その声に振り返るシグルドには、血液と機械油の中で踠き、運命に抗おうとする一人の少女の姿が見えた。

その姿に何を感じたのか、シグルドは少女へと歩み寄ると、問い掛けた。



「……生きたいか?」


少女はその声に、段々と失いそうになる意識を繋ぎ止めて答えた。


「いき…たい…」


シグルドはもう一度、力強く少女へと問い掛けた。



「俺はお前を生かす事は出来るが、自由は与えられない。…生涯を俺の為に捧げて貰う事になるが…それでも生きたいか?」



少女は最早声も出せなかった。…薄れ行く意識の中で小さく頷くと、自分に声を掛けた者の暖かな抱擁を受けた様に感じたのだった。



ーーーーー

ーーー



「ーーー。ーーーーろ。」


少女の耳には確かに声が聞こえた。少し乱暴で、でも何処か優しさを感じさせる様な、不思議で素朴な声がーーー。


「いい加減起きろ。接続は完了した筈だ。」


「ーーーっ!!きゃああああっ!!」


今にも唇が触れそうな程に顔を近づける目の前の青年に、少女は思わずビンタを繰り出そうとしてしまう………が、それを行う為の腕がそもそも無かった。


「えっ、あっ…私…」

「どうやら意思疎通は出来る様だな?…お前、名前は?」

「えっ?あっ、あの…私は六式歩行戦機、……あっ!」


両手両足を失った事に酷く落ち込もうとするも、それを阻んで質問をする眼前の青年に気圧され、思わず答えそうになった時、顔を逸らして拒絶しようとするが…


「………そこまで言ったのなら、もう良いだろう?スッキリしない奴だ。」

「ふえ?いだっ!!いたたたたっ痛い痛い!!痛いです?!やめてください!!」


両手の有る彼には勝てず、頭をグリグリされてしまう少女だった。

メソメソ泣いてしまう少女に溜め息を吐いて、シグルドは改めて名乗った。


「俺は元皇国軍戦機、特殊飛行トマホーク型戦機『シグルド』、世界を滅ぼす者だ。」


「えっ………皇国……軍の、シグルド!?」


少女は名前を聞いて驚き、慌て、そして………怒りと憎しみを込めて目の前の青年へと睨み付けた。



「シグルド…!!シグルド……!!お前が私達の国を焼き払ったから!!私のあね様や妹達が!!………返せ!妹達を…!!皆を!!」


短い青髪を揺らして頭突きをしようとする少女に、シグルドは両眼を閉じて受け入れた。

例え自分にその時の記憶が無いとしても。あやふやなままにこの手を血に染めて居たのだとしても、自分が狂い切った国によって兵器としてこの少女の家族を散らせる原因となったのは事実なのだろうから。


「ーーー好きに恨めばいい、幾らでも憎め。だがお前は既に俺の物だ。…俺の復讐の為の道具に過ぎない。…どう足掻こうと、俺に協力しなくては生きて行けない事を自覚するんだな。」


「このっ……悪魔!!……私の……姉妹を返してよぉ……」



シグルドは、再び心に憎しみと復讐の炎を燃やしたのだった。

いつか故国を、世界の腐敗を全て焼き尽くすその日の為にーーーー

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