87.屍界狂想 ネクロノワール 1
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暗雲が立ち込める空の下、何時も世界は暗かった。
化学薬品が溶け込んだ厚い雲からは時折酸性の雨が降り、噎せ返る様な大地は血と硝煙と、戦争と死が支配していた。
灰褐色に死に絶えた木々は身を隠すにも生命を守る事も認められず、動物達が住む場所等、何処にも存在しない様に思えた。
代わりに存在するのは死体…死体…死体…朽ちた機械…銃器、殺戮に用いられる物。
生きて動いて居るのはただ殺し合いをする為だけに存在する様な機械兵や、この土地に不幸にも適応してしまった様な突然変異体位に思えた。
この世界に残された、生きた人間はこの死に絶え凍り付いた世界をこう呼んだ。
ーーーーネクロノワールーーーー
ーーーー少年達はその日、皇国が行う人間狩りを目撃した。
この世界では珍しくも無い行事ではあるが、その日行われた地区は不幸にも少年が隠れ住む集落の近くで行われたのだ。
最も、集落と言っても瓦礫を積み上げ穴倉に住み着いてるだけなのだが。
少年は飢えていた。
植物は枯れたか腐ってるかの二択で、動物が見付からないせいで食べられる物も碌に見付からない。そんな日はザラに有った。
皇国は人間狩りを行う代わりに、周囲の村や瓦礫に少しばかりの食糧を棄てて行く事が決まりとなっていたのだ。
最も食糧は食糧と呼べる様な綺麗な物ではなく、食べ残しや残飯と言った様なゴミの廃棄が目的なのだが、それでもこの地に住まう者にとっては貴重な食糧であった。
少年には血の繋がらない姉が居た。
まるで本当の姉弟の様に可愛がってくれて、少年自身もまた、その姉にとても懐いていた。
しかし姉は身体が弱かった。
時には家から出て来れない程に弱かったのだ。
その日、少年は親友で有る別の少年と空を眺めていたら、空を飛ぶ何かが地表へと大きな四角い何かを投下したのを見た。
機械に身体の殆どを置き換えた様な皇国の兵士達が飛行機の様な物から近隣の広場に件の食糧を廃棄して行ったのを確認したのだった。
少年は姉に少しでも良い物を食べさせようと、親友は生き長らえる為に、必死になって我先にとその場を目指したのだが、到着した時には既に人の山が出来ていた。
少年達は紛れ込もうとするものの、先客達に殴られ蹴られ、その集いから蹴り出されてしまったのだった。
ーーーどうにかして食糧を手に入れようと試みる少年達だったが、一度態勢を整え直そうと瓦礫に潜り込んだ瞬間、その時が起こった。
食糧に群がる近隣の住民達を、皇国の機械兵団が連れ去ろうと軍隊で襲い掛かったのだった。
抵抗する者は虚しく惨殺され、死体のままトラックへと詰め込まれ、抵抗しない者は生きたまま鉄の檻の中へと押し込まれ、そして養豚場へ連れて行かれる家畜の様に何も出来ずに無抵抗を強いられた。
少年は息を殺してその瞬間が終わる事を、自分達が標的にされない事を祈り続けた。
しかし親友はそうは行かなかった。
親友の視界には血の繋がった姉が彼の機械兵士達に連れ去られるのを目撃したからだった。
親友は獣の様に吼えながら姉を助けようと飛び出して行った。
親友の姉は泣き叫びながらそれを止める様に叫んでいた。
………しかし無情にも、親友は機械兵によって心臓を貫かれ、そのままトラックへと詰め込まれたのだった。
少年は、ただただ声を殺してその瞬間を眺め続けたのだった…。
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ーーー家として利用している廃墟に戻った少年は、戦利品も得ずに帰宅したが、集落に暮らす住民に結果を聞かれた時………不幸にも、素直に答えてしまった。
そのせいで罵声を浴びせられ、殴られ蹴られ、しまいには勇気が無いだの悪魔だのと、好き勝手に罵られてしまった。
それを助けようと、姉が彼の前に弱い身体を押して盾になってくれた時、少年の目には涙が浮かんで居た。
………あぁ、僕はこの人を護りたい。
それは少年の心に小さく芽生えた勇気だったのかも知れない。
ーーーー翌日、朝方に姉が家へと戻って来た頃、ボロ布の様に地面に打ち捨てられていた少年は、姉の優しい抱擁で目が覚めたのだった。
少年が姉に謝罪を告げると…
何台もの大型の車両が集落へと乗り込む音が響いて来たのだった。
皇国による人間狩りだった。
どうやら不幸にも少年は彼等をこの村へと招き入れてしまったのだった。
阿鼻叫喚の声と、少年を怨む声。憎しみに満ちた汚物の様な憎悪の声に、少年は、姉はどうしようも無くなってしまい、何も考えられずに立ち尽くして居たのだった。
とうとう機械兵が少年達を見付けてしまうと、姉は少年を逃して囮になろうとした。
少年は突き飛ばされ、姉がいとも容易く機械兵共に連れ去られるのを見て、思わず駆け出してしまった。
姉を助けようと果敢に兵士へと挑んだのだが、奮闘虚しく、親友と同じ様に心臓を貫かれてしまったのだった。
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ーーーー少年は夢を見ていた。
自分が空を自由に舞い、様々な土地を巡って、時には落ちて、翌る日も翌る日も空を飛び続け。
優しい姉の笑顔を見て、心を弾ませて、沢山の女性達に囲まれて、そんな中、姉だけが寂しそうな顔をして。
少年が女性達を振り払うと、姉は驚いた様な顔をしていた。
少年は、姉を連れて空へ飛ぼうと思った。
そんな少年に姉はとても優しい笑顔を…………
とても冷たい表情を少年に向けたのだった。
少年は思わず驚いてしまった。
ーーーーと、思うと姉の顔は一瞬で血に塗れて、そしてーーーー
ーーーー少年が気付いた時にはそこは何かの実験施設の様だった。
少年の身体は、少年とは呼べない程に大きく、そして機械と一体化して居た。
身体は銀色の機械に半分埋もれ、コードやチューブが全身から機械へと繋がれて居た。
………そして、右腕は機械の様な音を立てて蠢いて居たのに、…何故か何かに触れる感触が心をザワ付かせた。
『おぉ!おぉ!やはりそれを選んだか!特殊飛行型戦機『シグルド』!!それは中でも性能は低いが、貴様との親和性は最高だ!!やはり生きてた頃の性質は免れんらしい!!』
覗き窓の奥で喜ぶ下卑た男の声に顔を顰めながら、シグルドと呼ばれた俺は右手に伝う異質な感触を確かめた。
右手の先には………
血に塗れた愛しい姉が無表情で下半身を失い、機械に埋もれた身体で俺を殺そうと武器を携えたままグッタリと動かなくなっていた。
それと同時に、理解してしまった。俺が既に死んでいる事を…
『陸戦小型戦機『セシル』、彼女は君の愛しい愛しい姉だったなぁ!?君へのプレゼントだ!それの名前は生前の物にしておいたぞぉぉ!!!』
「ーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!」
俺は声にならない声を上げて咆哮していた。
しかし、男は何やら突如として現れた乱入者との争いで此方には一切気が付かない様子だった。
俺は………俺は………
俺の中の電脳器官が告げる通りに従い、背中に設計された副座席を開いた。
ーーー俺が殺してしまった姉の死骸を、俺自身の生命の核でも在る、屍喰機動核へと接続した。
「………ごめんね」
声が聞こえた。
「守れなくて…ごめんね」
あの優しかった姉の声だ。
「姉さん…。」
生きていた頃の名前はもう思い出せないが、この忌々しい名前を……この国を、世界を滅ぼすその日まで、俺は名乗る事を誓った。
「俺は…シグルド。特殊飛行型戦機『シグルド』。………必ずだ、必ずこの腐り切った世界に、報復してやる!!」
俺は、右腕の掌のカバーを開くと、備え付けられた火炎放射器の炎を噴射した。
ーーーしかし、その炎は丸く巨大に膨れ上がり、巨大な火球に変わって行くのだった。
「ーーーなんだ!?これは………グオオオオッッッ!!!」
5m強も有る俺の身体程の火球は、研究施設の壁を焼け焦がし、赤い閃光となって地上への道を作ったのだった。
『何!?バカなっ!!何故奴には制御装置が効かん!?………まさか貴様ァッッッ!!!』
何やら覗き窓の奥で聴こえて来る咆哮は、最早シグルドの耳には届かなかった。
「さあ行こう、姉さん…」
そうして、自由に向けて、復讐に向けて飛び立った彼の道には、果てしない曇天のみが待ち受けて居たのだった。
ちょっとセシル君の過去をやりたくなった回




