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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー大樹の王国『スロートリング』ー
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85.置き手紙



「あーりーしーあー?」


アリシア用にサンドイッチとスープを携え木陰のベンチにやって来た私は、そのベンチの主人と化した赤毛の少女へと声を掛けました。

アリシアは両足を抱えて座る、三角座りとも体育座りとも呼ばれる座位でした。

しかし困った事に返事が有りません。

「アリシアってばもー!私がアリシアの知ってる私じゃないっぽい事はピオスせんせーとシャリアおねー様に聞いたけど、ここまで露骨に無視するのは酷くない?」

そんな言葉にアリシアは少しだけピクッと反応しますが、冷たい視線だけを此方へ向けました。

ーーーうーわっ、アリシアの家で三年振りに会った時の目だよ。

何とも懐かしい気がする冷えた目線を受けながらも私は果敢にアリシアに挑みます。

「ほーら!お腹空いてるでしょー?何か食べないと飢え死にしちゃうよー?」

私がほれほれとアリシアの鼻先にスープを近付けると、アリシアは無視しようとしました…が


きゅるる〜。


そんな可愛らしい音がお腹から聞こえて来た私はニンマリと嫌味な笑みを浮かべてアリシアの隣に腰掛けました。

「全くもー!我慢なんかしないで食べた食べた!はい!あーん?」

アリシアの口元にサンドイッチを近付けると、奪う用にそれを毟り取り勢いよくパクつくアリシアの姿を見て、私はたったそれだけで満足しちゃいました。

うへへ、もうチョロイン言われても良いですよーだっ!


その後、スープまで飲み干したアリシアは、私に向き直って改めてしっかりと自分の気持ちを吐き出してくれました。



「エルキュール……エルキュールはさ、本当にエルキュール?………わたしを騙して、バカにして、………ううん、本当は三年前のあの日に本当のエルキュールは死んじゃってて…今目の前に居るのは本当のエルキュールじゃなくって、………あぁもう!!とにかくエルキュールはあの星蝕者共が操ってて、わたし達をいつ喰い殺すか伺ってたりとかしないよね?」

「え?なにそれ、マジで引くんだけど、…それがアリシアの不安?」

「ーーーっ!」

あー、答えを間違えた感。

ーーーアリシアが立ち上がり、そしてあの紅い剣を抜刀しました。

「…最近のエルキュールは目に余るんだ。…あの憎たらしい星蝕者共の力を平気で使ってるし、性格も記憶もコロコロ変わるし…。何より…」

アリシアはその剣を私に向けて水平に構え、そして…

「普通なら死んじゃう様な事をされて、どうしてそんなに平気で居られるの?何事も無く自分や仲間や………私を殺し掛けた敵の仲間と普通に接して居られるの!?」

ーーーアリシアの言葉は尤もでした。

「おかしいよ…昔のエルキュールなら、仲間を殺そうとした相手になんか………ううん、私を誰よりも一番大切に思ってくれてたエルキュールなら、私が…私が…」

続く言葉の所為で、色々と考えさせられました。

確かに以前の私なら、他の誰よりもアリシアを一番に考えて行動してたかも知れません。それは私自身の記憶がそう告げてます。ーーーですが

「アリシア…」

「ーーーっ!やだ…そんな目で見ないで…」

それでも私は表情を引き締めてアリシアの構えたその剣を………気にせず自分からアリシアを抱き締めました。

胸へと突き刺さる真紅の輝きを放つ剣からは…痛み等欠片も在りませんでした。

「ねえアリシア?どうして私がちっとも痛くないか分かる?」

「あっ………ぁあ…っ」

「ーーー私に敵意を持たない勇者様の剣が、私を貫く訳が無いもんね?」

既に光に溶けて消えたその剣は、アリシアからの信頼…と、受け止めて良いんでしょうか?良いですよね?

…アリシアは、私を抱き締め返すと、両目から涙をボロボロと零して嗚咽を漏らしました。

「ごめ……なさい……こべんだざい…」

「いいからいいから、私の胸で思いっきり泣いてスッキリしちゃいなよ?よーしよーし」

私がアリシアの背中をぽんぽんと撫でてやると、アリシアは本当に胸に顔を埋めて泣き腫らしました。

………役得とか思っちゃう辺り、私ってヒッドイ女だなーっておもいますまる



ーーー

ーーーーー



ふへへぇ、アリシアの可愛い所を思いっ切り堪能………じゃなかった!

収まり切れなかった涙を全身で解き放って大分スッキリしたらしいアリシアは、私から身体をゆっくりと離すと、自分の気持ちを…改めて私へと伝えるのでした。

「あのね、エルキュール…。わたしは多分、きっと弱くなったと思う。…ううん、弱くなったんだ。」

「アリ…シア?」

「きっと、エルキュールの側に居たから…死ぬのが怖くて怖くて仕方がなくなったと思う。」

アリシアの言葉に不穏な何かを感じた私はつい、爪を立てて抱き締めてしまいました。

「ーっ、…分かってるよ?わたしが急に居なくなっちゃうと、エルキュールはきっと荒れるよね?…守ると誓った筈なのに、全然違う事をしてたら、わたしはきっと師匠に…ヴォルフガングさんに殺されると思う。」

アリシアの表情はとても深刻な物です。…私は、魂が抜けた様にこの話を聞くしかありませんでした。

「でも聞いて?エルキュール…わたしは………この隊を一度抜けようと思うんだ。」



ーーー私の耳には入って来ませんでした。

まるで水中の深い所に居るみたいにキーンとした耳鳴りが聞こえて、アリシアの紡ぐ言葉は重くゴポゴポと聞き取れ無い位に遠く感じて…


「………ぇ!……てる?……!!……ねぇっ!!」


ハッと気が付くと、私はアリシアに真剣な表情を向けられて居ました。

「また人の話を聞いて無かっ「やだっ」


私はボロボロと涙を流して居ました。


「やだよ…アリシア…やだぁ…」

「エルキュール…」


アリシアは困った様に先程と立場が逆転してしまった自分達の姿に困惑して居ます。

それでも私は…私は…!

「アリシアが居なくなったら私…シャリアおねー様の子供…産むかもなんだよ?便利なんだよ?この世界は!女の子同士でも子供が出来ちゃう技術とか、色々有るんだから!!」

かなり卑怯な手ですが、シャリアおねー様を出汁に使っちゃいました。

アリシアは本気で愕然として居ましたが、それでも意思は固い様で…

「それは…凄く嫌だけどさ、それでもやっぱりわたしは………強さを取り戻さなきゃいけないんだ。……それは何よりもエルキュールを守る為に…」

アリシアはやはりブレません。こんな時ばっかりブレないのは狡いです。

「………アリシアが居ない間に死んじゃうかもだよ?」

「それは………そうかもしれない…けど」

「殺されるだけじゃなくって、私の中の星蝕者が覚醒とかしちゃったら………身体の中から食い破って出て来たら…もう二度とアリシアとは会えないんだよ?」

「…。」

遂には黙ってしまいました。



「アリシア……私はアリシアが好き、愛してる。………だからお願い、側に居て?」


私がボロボロと涙を零して懇願すると、アリシアは少しだけ間を置き、………溜め息を吐いたかと思えば私の涙を袖で拭って、笑顔で言ってくれました。


「うん、わたしもエルキュールが好き、愛してる。…結婚したい位に大好き。………ちゃんと、側に居るよ?」


その言葉を聞くと、まるで弾丸の様にアリシアの唇を奪う私でしたが、今回はちょっと勢いが付き過ぎて歯と歯が当たってしまい、互いに痛い思いをしてしまいました。


「あつっ!もう…エルってば、今ので唇切っちゃった…」

「んんっ、ごめんね?アリシア…。……あの、私と恋人になってくれる?」

「………ん、勿論。…わたしなんかで良ければよろしくね?」

「ふふふ、アリシアありがとう。不束者ですが、よろしくお願いします!」



ーーーこうして、私とアリシアは晴れて恋人同士となりました。



随分と長い道程だった気がしますが、きっと私とアリシアはこんなスローペースで良いんだと思います。

その日は仕事も何もかも忘れてアリシアと二人っきりで過ごしちゃいました。



朝から晩まで見せ付ける様にベタベタもふもふとアリシアと戯れ合う様子に周囲は冷やかしやら何やら、色々と言って来ましたが私達には何のダメージも有りません。

だって、二人の幸せな日々はこれから始まるんですから!



ーーーその日の晩、私達は一緒に寝ました。

私の腕の中でふにゃふにゃと猫の様に、はたまた子犬の様に眠る彼女はとても可愛らしく、とても愛しく思いました。




ーーーー




一夜明け、冬季の冷気に身震いをし、取り付けられた小窓から朝陽が溢れて降り注ぐ頃。

ソファーをベッド代わりとして使用して居たエルキュール=グラムバルクは自分のお腹の上で眠っていた筈の少女、アリシア=バーネットがいつの間にか居ない事に気が付きました。

珍しく早起きだなぁーとか、思わず思ってしまった私は周囲を見回しても居ないので、朝食に行ったのかな?ーーーと、外に出て見ると、何やら紙を読んでるシャリアおねー様を見つけました。

どうやら新聞では無い様ですが。


「あら、エルキュールちゃんおはよう?」

「おっはよーございまーす、シャリアのアネゴ!……って、何を読んでるんですかー?それとアリシア見かけませんでした?」

私が聞くと、シャリアおねー様はとても複雑そうな表情で、手に持つ紙…手紙を渡してくれました。



「あのバカ、やってくれたわね…」



手紙に目を通した私が一瞬理解出来ないで居ると、シャリアおねー様がもう一言だけ



「アリシアちゃんなら…そこに書いてる通りよ?」



私がもう一度手紙を読んで見るとそこにはこう書かれていました。



『シャリアさん、勝手に旅立つ無礼をお許しください。いつか戻って来た日にはまた迎えてくれると嬉しいです。エルキュールの事をよろしくお願いします。ーアリシア=バーネットー』





ーーーーそれはアリシアからの置き手紙でした。

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