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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー大樹の王国『スロートリング』ー
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82.思惑はいつの間にか絡み合う



「ゲホッ!こほっ!……無茶苦茶ですか!?」


爆氷の中、炎を駆使して逃れ出た藤色の髪の少女、天沙霧あめのさぎりは噎せながら現在氷に包まれた全身が雪の様に真っ白な少女へと文句を垂れ流しますが、当の本人には聴こえていない様で…


「………しかし、若君に良いお話が出来そうですね。」


氷の中に座す少女を氷越しにぺしぺしと叩くと、沙霧はニヤリとほくそ笑むのでしたが、丁度霧が晴れて来た頃、大きな雨粒を顔に浴びて空を見上げるとーーー



ーーーーズズ………ンン……ッーーーー



何か隕石の様な物が地表に降り注いだ様な重厚な音が鳴り響きました。

沙霧は一先ず氷の中の少女、シャルロットをその場に残して音のした方へと駆けて行きます、

下駄やサンダルでは無く草履を履いているので足取りは軽快なのですが、何故か心がざわつく少女は他の団員達に手出しはしない様にと指令を飛ばして現場へと向かいました。



ーーー

ーーーーー



沙霧がたどり着いた頃、半径五十メートルは有りそうな巨大なクレーターの様な物が出来ていた場所の中心に、件の若君と敵対して居た氷機の勇者。そしてーーー


ーーー濃紺のスラックスに黒のワイシャツに赤いネクタイ、灰色のトレンチコート姿、白髪混じりの黒髪に隻眼の眼帯…と言った容姿の中年男性が煙草を咥えて佇んでいました。

ただし沙霧の予想とは違い、若君こと紅蓮は全身血塗れで何かに引き裂かれた様な傷痕が生々しく、それでも戦意を失わずに立ったまま気絶して居ました。

次に、敵対して居た氷機の勇者なのですが…。


いつの間にか紛れ込んでいた中年男性に頭部を地中にめり込む程に踏み付けられ、あれ程迄に渦巻いて居た悍ましさは一切合切形を潜め、見た目通り死んだ様にピクリとも動きません。


中年男性はーーー雨のせいで煙草に火が点かない事に諦めを示し、氷機の勇者へと煙草を吐き捨てていました。



まさかーーーまさかまさかーーーまさか!?ーーー



我等が御大将である竜の勇者はーーーー

数多の戦場を荒らして周った我等が君主はーーーー

この突如現れた中年男性に意図も容易く倒されてしまったのでしょうか!?


少女は身震いをしました。

ーーーー次は自分がやられる!?

そう考えが過った沙霧は、この距離ならばまだ気付かれないだろう…と、その場を離れようとしますが。


「おーい、そこの嬢ちゃん!」


…一瞬出遅れてしまいました。

それでも尚、沙霧が恐る恐る後退りをしようとすると…



「ガムかなんか持ってない?煙草に火ィ点かなくて口許寂しいんだわ。」


クレーターの中心から縁の上までの距離を一瞬で詰められてしまいました。あの氷機の勇者の頭を掴んで身体ごと引き摺って。

余りの恐ろしさに、自分の生命等一瞬で掻き消せるのでは…と、後ろ暗い思考で脳内を満たされます。


「あぁ?……何勘違いしてんのか知らねぇが、俺ァ馬鹿弟子の始末に来ただけだ。」


少女の頭に手を乗せる男性からは敵意を感じませんでしたが、言い知れぬ狂気に囚われた沙霧はガクガクと膝を震わせ地面に座り込んでしまいました。


「じゃ、俺行くわ。嬢ちゃん…風邪引くなよ?」



後に残された巫女の少女は震えたまま小さな身体を両手で抱き締めて居ました。



ーーーーー

ーーー



ーーーそれから少しして、水の庭正門前へとやって来た師匠と不出来な弟子は、何時まで経っても帰ってこない御大将とその補佐官に痺れを切らし、人質を始末しようとする竜の軍勢の近くに歩み寄り語り掛けます。


「お前らの大将なら向こうで伸びてやがる。……まぁなんだ、お前らの負けってヤツだ。戦士の誇りが無いってならそいつらを殺せば良い、有るなら大将の帰還を待ってやりゃ良いんじゃねぇか?」


そんな敵の言葉に信用等出来ないものの、これ程までに戦士の、軍人の誇りを侮辱されては彼等も立つ瀬が無いのでしょう。

替わりに師匠へ対して宣戦布告。あくまで一対一での決闘を申し込んだのは良かったのですが、三者全員面倒臭そうに対処する師匠に昏倒させられたのはまた別の話。


結果的にシャリア一行は彼の化物地味た男の存在で生き長らえました。



そんな結果に、シャリアその人は全くもって納得して無いのですが…



ーーー

ーーーーー




ーーー雨が上がり、目を覚ました竜の勇者が従者を伴いやって来ました。

何やら話し合いを行って居る様ですが、どうやら竜の勇者が軍勢を引き払い、この地を去る事に決めた様です。

竜の勇者の従者は、氷漬けのシャルロットを優しい炎でゆっくり…ゆっくりと溶かして行きました。



そして、エルキュールもゆっくりと目を覚ましました。


「アリシア!!」


「安心したまえ、彼女なら何とか一命を取り留めたよ。」


エルキュールの第一声………第二声に対してアスクレピオス医師は既に治療済みで寝息を立てる赤い少女の容体を告げると、エルキュールは少しフラつく足取りでアリシアの側に歩み寄ります。

そんな彼女の様子に驚きを隠せないのはアスクレピオス医師なのでしたが。


「ーーーしかし不思議な事だ。」


「ーーー?」


「君は本来ならこんなに早く意識を取り戻す筈が無いし、そもそも傷一つ無いとは…。幾ら星蝕者の因子を穿たれて居るとはいえ、この回復力は本来有り得ないんだ。」


アスクレピオスの診断を受けたエルキュールは、頭を捻ります。捻りますが、何と無く出した答えはーーー



「きっとアリシアの愛情とか、そう言うもののお陰なんだと思います。」


何やら顔を赤く染めて言うエルキュールは、アリシアの身体を必要以上に触れて居ました。

アスクレピオスは彼女がそれで良いのなら深く追求するまい………と、敢えて何も言いませんでしたが。




ーーーエルキュールの髪の一部が、青紫色から濃い桃色へと変色していた事は今は伏せて置きました。






ーーー

ーーーーー



「シャリア商会集合!!」



全員がどうにか無事に日を跨げた翌朝、シャリアの号令で一行は一部を除いて集まりました。

シャリアは当然の事、マックス、シェリー、アスクレピオス医師、アリシア、何か山賊っぽいの、巫女。


「うんうん、一部居ないみたいだけど、今日も元気に張り切って行っちゃいましょう!」

「うっす。」

「うむ。」

「ガッハッハ!」

「ふふふ、朝は一杯のお茶からと決まってますので、戴ければ幸いです。」

「待って待ってーーー」


ーーー何やら不穏な人物が紛れ込んで居ました。


「ーーーで、なんでこの子が居るの?」


「はい?」


ボロボロの状態では在るものの、この場に集ったアリシアが目の前にチョコンと座っている巫女姿の少女に向けて怪訝な視線を向けました。

当人はキョロキョロと辺りを見回してますが、アリシアの視線は間違いなく巫女服の少女へと突き刺さってます。


「いや!敵じゃん!?なんで何も無かった風にウチの一行に加わってるのさ!?」


「あら、申し遅れました。私は竜の帝国国軍将校。参謀本部所属の和泉守いずみのかみ天沙霧あめのさぎりと言います。以後、お見知り置きを。」


「えぁっ!?……あっ…アリシア・バーネットでしゅ…あの、大樹の王国で勇者をやってます…」


噛み噛みですが丁寧に挨拶を返すアリシアでしたが、ハッと気付きシャリアへと抗議を再開しました。


「いや!!わたしが気絶してた時の説明を!!………何があったの?」


「あー…うん、あの場を引いて貰う代わりにあたし等全員竜の帝国に監視を付けられた感?行動に制限は無いけど、この子からの定時連絡が無かったらあたし等全員あの竜の御大将に殺されるみたいなのよねー。」


「ーーーっ!!」


シャリアの言葉に思わず絶句しました。

いえ、確かに負けたのは事実ですが、こんな小さな女の子が一人付けられたとか、そもそも監視を付けられた割に自由に行動出来て、しかも当人は自ら参謀本部を名乗るとか怪し過ぎて全く理解も納得も出来ないとか

そんなアリシアを宥める様にシャリアが言いました。


「それもこれもみーんなシグ坊が暴れ回ったのと、師匠サンがやって来て勝手に話を付けちゃったのが原因なんだから、当人が起きたら文句を言ってやりなさい」

「シグ…って、………セシル…来たの?」


アリシアはキョトンとしたまま聞き返しました。それに対してシャリアは、やはり片目のままニッコリと狐の様な笑顔で返しました。

アリシアは複雑な気持ちでシャリアを見詰めましたが、次の一言に凍り付きました。




「あぁ、シグ坊の奴機械の国の勇者らしいわよん?生意気よねー。」




ぐらりと揺れて地面に膝を突くアリシアを、シャリアは悪意に満ちた笑顔でニンマリと見下ろしていました。

タイトル詐欺?褒め言葉です。

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