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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー大樹の王国『スロートリング』ー
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80.新たな争い

ーーーー竜の勇者は激怒した。



…と、言うのも当然の事で、竜の帝国の勇者で在る自分と大樹の国の勇者で在るアリシアの決闘に水を差されたからでした。


現在、竜の勇者で在る紅蓮の目の前で金属の塊と化した右手によって竜刀を受け止め続ける漆黒の装束の男。突然戦場に現れて神聖な殺し合いを汚したこの男の出現に、紅蓮は酷く腹立たしく感じて居ました。

一体この男は何なのでしょうか?

折角着いた闘いの結末に水を差し、あまつさえ勇者の暴力を現実化させた、怒れる獄焔に包まれた超高高度の炎熱に見舞われた竜の刀を意図も容易く掴み止めるこの黒き部外者は一体何者なのでしょうか?

竜の勇者は怒りを、苛立ちを、不快感を、心の底から膨れ上がらせた激情を言葉にしました。


「下等種が、吾等が戦に横槍を要れた報いを受けさせてくれる………が」

一呼吸置き、改めて眼前の男を見据えた竜の勇者はそのまま紡ぎます。


「貴様は一体何者だ?」


熱き灼熱の勇者の問いに、漆黒の剣士セシルは答えます。


「我が名は…俺はセシル。…氷の大陸、機械帝国『メインズゲート』より選定されし氷機の勇者、セシルだ。」


言うと同時にセシルの右腕が弾け飛び、巨大なマシンアームになったかと思うと、右手の平には大きく穴が空いていました。

「……悪いが師匠、全力を…俺自身を使い切らねばならなそうだ。」


セシルが竜の勇者に掴み掛かり、現在地で在る正門前駐車場から遠く離れた平原まで背中から生やしたバーニアを全開にして押し遣ると、右手の平にエネルギーを溜め始め、竜の勇者は後方へ飛び距離を離し、そして口内に再びエネルギーを溜め始めました。

どうやら竜の勇者の胸の穴は徐々にですが塞がってる様子です。


「ファースト、セカンドリアクター、フルチャージ。…炎熱。…フレイムキャノン…ファイア!!」


セシルが巨大な火球を紅蓮へと放つと同時に紅蓮もまた溜め込んだ地獄の業火を放ちます。

互いに打ち合ったそれは、周囲を熱波に包みながら爆ぜて消えました。



「勇者…勇者だと…?貴様が?……氷機?炎を操る貴様が?…勇者の波導、波形を持たぬ貴様が勇者だと?……巫山戯ているのか?」



紅蓮の怒りの、苛立ちの、戸惑いの言葉にセシルは右腕を紅蓮へと構えたまま答えます。


「俺は……この世界で産まれた際、魔力は宿らなかった。然し、氷神竜の試練に打ち克ち加護は無くとも勇者の資格を得たのは事実だ。……其方こそ俺を舐めると掻き消すぞ?」


そう言ってセシルは左手に漆黒の剣を、右手に巨大なマシンアームを武器としたまま紅蓮に飛び掛かりました。

「ふん…それは悪かった。……勇者ならば須らく吾の標的だ。消え失せよ!!」


紅蓮の怒りが、闘志が、喜びが全身へと駆け巡り、燃え上がる焔と化してセシルへと竜刀で襲い掛かりました。

竜の殺戮者と機械の殲滅者、赤と黒の激突は周囲を焼き尽くさん勢いです。



紅蓮が焔の剣で斬り掛かるならそれを左手の剣で打ち払い、セシルが右手のマシンアームで殴り掛かればそれを紅蓮が掴んで炎を吐き出され、しかし炎は殆ど効かず、通常の殴り合い打ち合いをしては距離を置き、セシルが剣を投げ付け隙を窺うも紅蓮が容易く弾いて隙間無く焔を口から撒き散らし。

一進一退を繰り広げていた所でセシルは身体を半星骸殻化して右腕機械、身体は漆黒の死神となりました。


「貴様、その姿は…!」


「『コード・ネクロノワール』ッッッ!!!」


セシルの異形化に思わず気を取られた紅蓮は身体の左肩から右脇腹へと一薙ぎ受けてしまいました。

先程投げた剣の柄底にはワイヤーが付けられていました。それを引いて手元に戻した様です。


「がっ……ふ…っ!!」


口からボタボタと血液を撒き散らす紅蓮は竜の刀を握ったまま胸元へと左手を添えました。

しかしセシルは一切油断せずに更なる追撃に向けてマシンアームのエネルギーを一気に高めました。


「爆ぜろ、ブラスト!ーーーーファイア!!」


セシルの右腕から襲い来る疎らな炎の弾丸は、紅蓮の全身を穿つに十分過ぎる量でした。


「コォォォッッ!!はッッッ!!!」


しかし紅蓮が小さく鋭く息を吸い込んだかと思った刹那、一気に吐き出された声と吐息の波動に寄る超波動は、弾丸の幾つかを消し飛ばし勢いを削ぎ、数発分だけ紅蓮へと命中しました。

致命傷には至らずそのまま切り返しとばかりに竜の刀を振るうと、セシルの右腕を覆っていたマシンアームを切り飛ばしました。


「クッ、補助装置がやられたか…!……しかし!!」


外装を飛ばされはした物の、使用に問題無しと判断したセシルは、そのまま右腕を紅蓮へと叩き付けフルチャージ済みの爆炎を直接放ちます。

「グオッッガァァッッッ!!!」

左腕を盾にして避けた末に、紅蓮の左腕は炎竜の系譜にも限らず焼け焦げ使い物にならなくなりました。

しかしタダでは済まさず、紅蓮は竜刀をセシルの金属の右腕へと刺し貫き、逆に使い物にならなくしてやりました。


「チッ、……リペア不可能、右腕の換装は……暫くは無理か。」

セシルはこの時、以前ずっと支え続けてくれた元相棒の姿を思い出してしまいました。


「リンムレ………お前が居てくれたなら………いや、……パージ。」


セシルは竜の刀が突き刺さった銀色の腕を肩から捨て、漆黒に染まった星骸殻の腕を生やして再び応戦に向かいます。


「泣き言を言っても仕方ない、………敵性勢力を殲滅する!!」


そして黒き剣を黒き大剣へ変えたセシルは、無事な右手から焔の剣を生やした紅蓮との再度の交戦に臨み、二人が打ち合う度に幾度となく熱波を周囲へと撒き散らし、暴力的な迄に破壊を産み出し続けました。


ーーー

ーーーーー



ーー水の庭・正門前駐車場ーー



「相手が誰であろうと、若君が敗北する事など有り得ません…」


白い和装に青い装飾が入った様な巫女衣装に身を包んだ少女が呟いた言葉は、周囲に凛と響き渡りました。紅蓮と共に居た少女です。

今まさに竜の軍勢に寄り囚われの身となったシャリア一行へと語り掛ける少女は突然の助勢にも関わらず戦闘を継続する君主に対する信頼と敬服の言葉でした。


「それにしても若君には困ったものです。…折角陛下より賜った名誉ある名をぞんざいに扱うなどと…」


まるで戦場で舞うかの如くひらりひらりと袖や帯を翻すその姿はとても可憐に見えますが、紡ぐ言葉は文句ばかりでした。舞い踊る様な動きは、どうやら敗北したアリシアに何かを施してる様子でした。

ーーーそこに赤い何かを顔面に投げつけられました。


「くろいひとはまけないもん!!」


いつの間にかトラックを降りていたシャルロットが叫びました。

フーッフーッと息を荒げる彼女の全身は薄桃色に傷痕が浮かび上がってました。極度の興奮状態に在る様です。

巫女服の少女は赤い物を剥ぎ取ると、それは赤いスラたん(その辺を闊歩していたのをシャリアが捕まえてたスライム君)でした。

ブチッと血管が切れた様な音が響いた気がしました。


「この惨状で何をのたまうかと思えば…。良いですか?我が君主は数々の戦場を渡り歩き、勇者として数多の苦難や危機的状況を我々と共に乗り越えて来た強者つわものです。それをあの様な野良侍風情に負ける事など到底有り得ません!恥を知りなさい恥を!」


「うるさい!!おねえちゃんをはなせ!!バカ!!」


シャルロットが石を拾うと少女へと投げ付けましたが、配下の兵で在る青い飛竜に防がれました。


「なんと下賎な…!…いいでしょう、貴女の相手は私が務めます。」


少女が飛竜を押し下げると、袖から扇子を取り出しました。


「私は和泉守いずみのかみ天沙霧あめのさぎり、陛下より賜ったこの名に恥じぬいくさを御覧にいれてみせましょう。」


「シャルはシャルロット!おねえちゃんのいもうとだよ!おねえちゃんも、アリシアちゃんも…みんなみんなきずつけて…ぜったいゆるさないから!!」


二人の少女の闘いが今、始まりました。



ーーー

ーーーーー




「カハッ!…んっ………おぇっ……」


胃まで登って来た血液を吐き出したエルキュールは、一命を取り留めて居ました。

危うく死に掛けた実情を飲み込めぬまま、周囲を見回すと眼前にはアスクレピオス医師がしゃがみ込み、今正に自分を治療している所でした。


「あぁ良かった…意識が戻ったか。」


アスクレピオス医師は心配そうに自分の顔を覗き込みます。

何が起こったのかを頭の中で整理しようとすると、悍ましい程の恐怖が頭痛の形で痛め付けて来ます。

「暫く無理に身体を動かさない方が良い…君は肩甲骨を突き破り、心臓を穿たれた。そして大量に出血をした為、血液量も、酸素供給面でもかなり危険な状態なんだ。勇者君の魔法のお陰で大事には至って無いのが幸いだったが…。」

随分と懇切丁寧な説明でした。


「アリシア…は?」


開口一番に出たのはアリシアの心配でした。周囲を見ても彼女の姿が見えません。


「勇者君は…負けたよ。」


その言葉を聞いたエルキュールは、思わず立ち上がり掛けましたが、直ぐ様体勢を崩してアスクレピオス医師に支えられました。


「そ…んな…アリシア…アリシアぁ…」


両眼を覆って泣き出すエルキュールにアスクレピオス医師は…


「いや、まだ殺されては…いない筈だよ。…セシル君だったか、彼が救助に駆け付けてくれたんだが…その後、今まで前に出て来なかったあの白い巫女の子が勇者君に何かをして居た様だ。」

それを聞き、尚居ても立っても居られなくなったエルキュールは、アスクレピオスの腕から逃げ出すと地面を這う様に敵陣営へと向かい始めますが、それを阻む様にアスクレピオスがエルキュールの腕を引き寄せました。


「落ち着きなさい、勇者君の下にはシャルロット嬢が向かった。…子供に委ねるのは酷だが、今の君を行かせると確実に死んでしまう。…だから、勇者君と彼女を信じてあげなさい。」


それを聞いたエルキュールは、精神が限界を迎えたのかそのまま糸が切れた人形の様に動かなくなりました。


「………私は最良を目指せない。………何が医者だよ、全く…。」



ーーーー戦場にはいつしか、真っ黒な雲が覆い、ポツポツと雨が降り始めました。

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