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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー大樹の王国『スロートリング』ー
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79.光輝くエルキュール



ーーーアリシアが伸ばした手の先から現れたエルキュールは、三年前の頃の姿でした。



眩い輝きが収まり、仄かな金色の輝きと共にあの緑のドレスを纏うエルキュールの表情は、アリシアへと振り返り、見る者を安心させる様な柔らかな笑顔を向けました。

そして、エルキュールはふわりふわりと宙に浮いたまま、いつの間にかアリシアが手放した左手の青く蒼く、強く輝く勇者の心剣を引き寄せると、声は聞こえないのに大気を、大地を震わせる様な雄叫びを上げて竜の勇者へと斬り掛かりました。


「クックククク…面白い、面白すぎるぞ貴様!!貴様の様な弱者如きが我が竜鱗を貫ぬくとは、………良かろう、来るが良い!!」


竜の帝国の勇者は愉し気に、然し本気で殺し切るつもりで錆びた刀に纏わせた焔をエルキュールへと振り払い掛けました。

ーーーそして。



竜の勇者の持つ錆びた刀は既に錆びた刀と言う形はして居ませんでした。

その持ち手部分はまるで小さな竜が刃に噛み付いている様です。

先程まで錆びていた刀身は、竜の牙を表す様に鋭く、そしてとても雄大な力に満ち溢れていました。


竜の勇者の背中には、もう片翼が生えていました。最も、竜の翼等ではなく、総ての物を焼き尽くす様な熱い厚い炎熱で出来た翼でした。



光で形創られたエルキュールと、怒れる焔に包まれた紅蓮と、両者の剣は激しく打ち合う金属音を周囲に撒き散らしながら宙空で何度も何度も斬り付け合い、打ち合い、鍔迫り合いを繰り返しました。




それをただ茫然と眺めていたアリシアは思いました。




ーーー助かった。死ななくて良さそうだーーー




ーーーー思ってしまいました。

現在、背中から心臓を貫かれ、声も出せずに血液を撒き散らし痙攣し続ける親友の身体を目の前にして。

現在、勇者で在る自分を守る為に魂となって自分の代わりにあの恐ろしい侵略者と戦う親友の姿を眺めながら。


アリシアは自分の思考に絶句しました。

結局自分は三年前と何一つ変わってませんでした。

強くなった気になって。覚悟を身に付けたつもりになって。親友を守り抜くと、彼女の愛する父に誓った勘違いをして。

結局最後は自分の命惜しさに死して尚、自分を救ってくれる目の前の親友に総てを投げ出してしまいました。



ーーー違うーーー



アリシアは自分の厭らしさに心の底から憎悪しました。



ーーー違うーーー



アリシアは自分の勇気の無さに心の底から嫌悪しました。



ーーー違う!!!!ーーー



アリシアはーーーーー



「ごめん、エルキュール…。」



倒れたエルキュールの側へと躙り寄ると、彼女の傷口へと魔方陣を打ち込みました。守護と治癒、二つの加護が練り込まれた魔方陣です。

そして、後の事をトラックに居るアスクレピオス医師へと頼み、今正に上空で剣を交えている竜の勇者『紅蓮』と最愛の親友『エルキュール』へと向き直ります。

ーーーアリシアの右手に持つ剣は紅く熱く、彼女本来の情熱を示す様に、煌びやかな輝きを取り戻して居ました。


「わたしは弱いから………一緒に戦って!!」


アリシアが光輝くエルキュールの側へと飛び出すと、小さなエルキュールはアリシアに向けて柔らかな笑顔を見せてくれました。

アリシアが新たな魔方陣を空中に生み出し、それを足場にエルキュールの隣に並ぶと、動かない左腕はそのままに再度竜の勇者へと剣を向けて笑いました。



「さぁ、竜の勇者!!仕切り直しだ!!」



ーーー紅蓮も笑いました。嗤ったのでは無く、笑いました。

立ち上がった弱者を貶す為では無く、弱者の分際が蛮勇を発揮し自殺を試みたのでは無く。

弱者と認めた上でそれを勇気で持って受け止めて、自分のするべき事を示した遅過ぎた勇者を出迎える為に。

…アリシアの瞳には、既に希望を見据えた強さが戻ってました。



「ふん、…その眼…その決意…偽物で無い事を願おう。」



アリシアが、エルキュールが、紅蓮が一つの戦場で巨大な力をぶつけ合いました。ーーー




ーーー

ーーーーー



その頃、マックスは困っていました。

「くっ、……速過ぎて追えん。……こんな事ならこんなデカいのじゃなくアッチの軽いのを使えば良かったか…」


マックスは巨大なドリルを捨てようにも捨てられずに居ました。

ーーーと言うのもマックスが相手取る竜騎士ドラグナーは、元々攻守に長けた戦士で在り、竜の帝国仕込みの槍術使いでした。それも幼少の頃からの相棒で在る飛竜との連携コンビネーションは、戦う相手にとっては悪夢の様なものでしょう。

対してマックスはと言うと、戦争のプロフェッショナルでは有りません。たかがチンピラが故郷の街で一番強くなった程度の物です。はっきり言って武術の心得は有りませんし、喧嘩のプロでは在っても殺戮者のプロには到底敵いません。

しかしそれでも此処は引けません。

何故なら、此処で引けば敬愛するシャリアや今正に戦って居るで在ろう勇者達に竜騎士の凶刃が降り掛かるからです。

つまり、マックスに出来る事は倒せないまでもギリギリまで死なずに捌き切って、少しでも時間を稼ぐ事でした。


「クソッタレのトカゲ乗りが!!ビビってトカゲから降りれねぇか!?あぁ!?」


マックスは見え透いた挑発を竜騎士へと咬ましました。

それを聞いた竜騎士は、溜め息を吐くと、眼前の愚物へと言い放ちます。


「怯えているのはお前だろう。これが俺達のスタイルだ、自分の戦い方が通らないからと、見苦しい…」


こうも冷静に返されてはさしものマックスでも冷静さを…


「はは、やーっぱこんなんじゃ釣られないっすよね?でもせめて騎士として同じ土俵で戦り合って欲しいのは事実っす。弱者と見做すなら、せめて最期位は譲って貰えないっすかね?」


冷静さを一切失いませんでした。

今度は何時もの調子で語り掛けました。

まるでシャリア仕込みの挑発振りです。

交渉も好きな人に似るんですかね?


しかしこれに竜騎士は攻撃の手を納めました。ーーーそして竜から飛び降り、槍を構えて言います。


「…まぁ良いだろう、我が槍の妙技、篤と御覧に入れよう。」


マックスは拍子抜かれた様に動きが止まりますが、徐にドリルを背中のバックパックから外して背負い物を下ろすと、外したドリルを構えて言いました。


「貴殿の騎士道精神に恩に切るっす。」


「いや、先程の無礼を後悔させるだけだ。………生きて帰れると思わない事だ。」



言葉を皮切りに、巨漢のチンピラと赤い鎧を身に纏った騎士が槍とドリルを打ち合い始めました。



ーーーーー

ーーー



水の庭より遥か高高度、空の上で。

エルキュールが剣を薙ぎ、竜の刀を受け止めると焔が身を梳り、その焔を突っ切ってアリシアが跳ぶと唐竹割りの如く頭上から剣が迫り、しかし意図も容易く角で弾かれ、紅蓮が刀を振るえばまたしても当たらなくても炎熱の斬撃波が飛び交い二人を襲いました。


アリシアは時には魔方陣を防御に使い、時には足場に変えて紅蓮へと攻め立てますが、やはり片手しか使えない威力の乗らない攻撃は通りません。

竜の勇者が発する熱気に、左肩から流れ落ちる血液に、体力は削られ続けています。

ーーーしかしそれでも尚、先程迄とは違って防御一辺倒では無く攻める事が確実に出来て居ました。



「埒が開かない……攻め方を変える?それともシャイニングセイバーを…」


アリシアの言葉にエルキュールが片手を添えてそれを制止すると、何かを目で伝えていました。

何と無くの感覚で察したアリシアは、全力の魔力と気力を込めた一撃を放つ事を止めて、光輝く親友の意思を汲み取りました。


「行くぞ、竜の勇者!!」


アリシアが雄叫びを上げると共に紅蓮へと飛び掛かります。

それに追従して剣を突き立てるのはエルキュール。

ーーーが、紅蓮はまたもこれらを刀の一薙ぎにて振り払いました。


「緩い、緩過ぎるぞ、獣神の勇者!!弱く強き者よ!!」


紅蓮の放つ咆哮は、高熱を帯び熱線を伴ってアリシア達へと襲い掛かりました。

肌が焼け付く様な熱気は確実にアリシアの体力を削ります。しかし霊体のエルキュールは物ともせずに果敢に立ち向かいますが、竜の勇者はやはり攻撃を確実に捌き切り、打ち払ったと思えば逆に荒々しく切り返す始末。

アリシアを守る為に竜の刀を受ける度に、エルキュールの身体が段々と削れて行くのが側から見ても歴然としていました。

然し、それでも尚エルキュールの一進一退の攻防は収まりません。


アリシアが何やら詠唱を始めた時、それを察知した紅蓮は口内に高密度の炎熱を溜め込み…放射状に吐き出しました。竜が得意とする長時間炎を吐き続けるファイヤーブレスです。

それも見計らった様にエルキュールが飛び出し、高密度の焔のブレスを叩き斬ると、吐き出した紅蓮は何かに気付きました。


「何ッ!?……貴様、まさか…!?」


そうして焔を叩き斬った事で力を使い果たしたらしいエルキュールは、霞の如く消えて行きました。エルキュールが消えて行く際、何やらしてやったと言ったしたり顔を紅蓮に向けながら。蒼き輝きの剣は地表へと吸い込まれて行きました。

消えて行く少女の陰から飛び込んで来る小さな虹色の輝きが在りました。


それは流星を描いて一筋の光の線と化したアリシア=バーネットの姿でした。



「むっ…くっ、…やるではないか。」


紅蓮の炎の翼を穿ったその一撃は虹色の光を爆ぜさせながら竜の勇者を地表へと引き摺り下ろしました。

ーーーが、これでもまだ決定打には足りません。


「エルキュール!!」


アリシアの呼び掛けと共に地面で先に待っていた蒼き剣は再び輝きを放ちます。

最愛の親友の呼び掛けに呼応した様に、剣だけとなったそれは落ちて来る竜の勇者へと向かって弓に射られた矢の様に、ただただ真っ直ぐに、ひたすら直線的に、紅蓮を撃ち抜きました。



ーーー

ーーーーー




地表へと辿り着いたアリシアは、既に意識が有りませんでした。

そして…胸に穴を空けた竜の勇者に襟首を掴まれた状態で到着しました。



「………ここまでやるとは敬服に値する…が。」



周囲で闘って居たシャリアやマックス達、ついでにライネルもまた既に倒されこの闘いの結末を眺めさせられて居ました。

胸を穿たれたエルキュールの治療を行って居たアスクレピオスもまた、生唾を飲み込み最後の瞬間を待つ事しか出来ませんでした。


「吾の勝ちだ、獣神の勇者よ。」


地面に落とされたアリシアに向け、最期の手向けとして竜の刀を振り上げた紅蓮でしたが、またも再三の邪魔が入りました。





「………よく頑張った、アリシア嬢。…皆」




黒き二刀の剣士が銀色に輝く右手で半人半竜の凶刃を受け止めて居ました。

いい加減服飾士しろよと思った方は正しい。

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