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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー大樹の王国『スロートリング』ー
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78.殺戮者の傲慢

ーーーーー

ーーー


走る剣閃とはよく言った物で、紅蓮の焔を纏う半人半竜のその人が放つ斬撃は留まる事を知らず攻め立て、焔を纏うが故に炎熱を放ち続け一太刀振るう度に周囲を焦がしました。

錆びた刀身に絡み付く焔は不思議な事に、その脆い刃を砕く事は有りませんでした。とてもとても不思議です。

これと対峙するアリシアは、全ての攻撃を両手の剣で捌き続けますが、全く反撃する様子が見られませんでした。

寧ろ、アリシアが反撃する隙が無いのです。

迫る炎熱は身を焦がし、身体を焼き続け、この男が斬り付けたかと思うと次の瞬間には首狙いの斬撃。避けたかと思えば胴を断つ斬撃が襲い掛かり、それを打ち返すとまた上段からの頭を両断する斬撃。留まる事が無い剣撃は防戦一方に選択肢を迫られ、攻撃の隙すら与えてくれません。

圧倒、と言う言葉がよく似合うその殺意は、アリシアを更に恐怖させました。

しかし震えて剣を落とせば次の瞬間には手首から先が無くなってそうなイメージが頭を過ぎります。

アリシアは恐怖しました。

恐怖するが故に、炎熱に体力が奪われて居るが故に、攻めの一手が選べません。


それを遠くから見て居たエルキュールは、とても歯痒い思いでした。

そもそも錆びて刃毀れした刀で人が斬れる物なのでしょうか?

炎熱に体力が奪われているなら、攻めないと殺されてしまうとでは無いか?

何より…。



父より圧倒的に遅い剣閃と、余りにも大雑把な、型の無い程度の攻撃をアリシアが反撃出来ない訳が無いのです。

あからさまに怖気付いてしまって見えるアリシアの様子に、エルキュールはただただ歯痒く思い、何も言えませんでした。


「アリシアの馬鹿…!………明らかに手加減して貰ってるのに、どうして…」

エルキュールは悪態を付きました。

しかし、アリシアにとっては仕方ない事なのです。

何故なら…本気で同格の相手との殺し合いをするのはこれが初めてだからです。


今までは明らかに自分より格上の相手ヴォルフガングに稽古を着けて貰うか、自分より遥かに格下の相手を拘束目的で倒すかの二択でした。

オカマはともかく。


そして何より、現在の相手は勇者。それも侵略国家の勇者です。

ここで倒せ無かったら間違いなく殺されます。……侵略以外に勇者の使命の為にその命を奪われてしまうのでしょう。


今世の勇者の使命、それは各神竜に選ばれた勇者同士で殺し合い、力を奪い合って、真竜へと至る事。

そしてその力を持って現在世界を掻き乱す存在で在る『星蝕者』の核となる物体を文字通り打ち砕く事でした。

アリシアもまた、その使命をスロートリングの王より賜り、理解して居たつもりでした。


つまりーーーー




アリシアはこの竜の帝国からやって来た殺戮者を殺さなければいけません。




ーーーーアリシアは怯えていました。

人の命を奪った事が無い事に、世界を救う為に奪わなければならない事実に。

自分の命が奪われるで在ろう事実に。


その所為か、アリシアは積極的に攻撃する事が出来ずに防戦一方を強いられて居ました。

しかし、竜の勇者はまた、この状況に苛立っていました。


彼にとって、本気で振るえば一瞬で決着が着くのは理解しています。

しかし勇者を名乗る者が弱者の分際で、何も出来ずに怯えて命を散らして終わるとは何事なのでしょう?

彼が望むのは本気の殺し合いの末の勝利です。

強者を屠り、生き残る事でのみ自分を確立出来るのです。

それなのに、たかが弱い者虐めで勝利を掴み、勇者を名乗る雑魚を殺した?

弱者に強く生きる資格はないが、それでも自分の中の矜持を穢される事が兎角我慢出来ませんでした。

いい加減この状況に痺れを切らした紅蓮は、目の前の勇者を蹴り飛ばし、大型トラックへと叩き付けてやりました。


「貴様…吾を謀ったか?」

その声は怒りに満ちて居ました。

「ゲホッ!かはっ……んで…」

アリシアは苦しそうに呼吸を乱し乍、口から血液を撒き散らして居ました。

しかし、竜の殺戮者は続けます。

「その剣は確かに勇者の波動を感じる………が、貴様のその弱さはなんだ?…貴様のその様はなんだ?巫山戯るのも大概にしろ!!」

竜の勇者の怒号は周囲をビリビリと響かせました。

アリシアはその声に完全に竦んでしまいました。

「そうか、怒りが足りぬなら先ずはその腕を戴こう。次は彼方で我が眷属共と戯れる雑魚を殺そう。」

そう言ってアリシアの左肩に錆びた刀を突き刺しました。

ズブリヌチャッと、とても気持ち悪い音が聞こえると、アリシアは絶叫を…………挙げませんでした。

いえ、完全に恐怖に呑まれて、喉がヒクヒクと震えるだけでした。

顔をブンブンと左右に振り、痛みを訴えて泣きますが、直ぐに水分は蒸発して目脂に変わってしまいました。

竜の勇者は呆れ返り、そして苛立ち、この無様な子羊に戦意が無いと受け取ると、錆びた刀を引き抜き上段に構えました。


その様子にエルキュールは………持っていた弓を手放しました。



ーーー

ーーーーー



アッサリと置いて行かれたシャリアは、竜の勇者に向けて再装填リロードを済ませた散弾短銃を向けましたが、それはいとも容易く阻止されました。

シャリアの首が有った場所を後ろから薙刀が横切ったからでした。これを脅威の反応速度で上体を前方へと逸らして避けた後、そのまま前へと転がり対峙したシャリアは屈んだ体勢のまま舌打ちしました。

「若は勇者同士のケジメを着けるお心算つもりだ。これ以上の介在は拙者が許さぬ。」

ピシッと薙刀を構えた鎧武者の赤竜は、シャリアに向けて再び薙刀を振るいました。

しかしシャリアはソードオフ・ショットガンを捨てて腰から取り出したとある武器を用いて薙刀を受け止めます。

その武器は何と言いますか、異質でした。見た目は長剣に見えますが、とても機械的な見た目でした。

持ち手部分は普通の剣に見えますが引き金の様な物が付いてます。、剣の中心には円筒状の筒が付いていて、その左右から刃がギザギザに生えて居ました。

一見、ノコギリにも見えなくは無いのですが、何とも言えません。兎に角不思議なその形状に赤竜は一瞬攻撃が弛みましたが、構わずそのまま薙刀を振るいました。

「はいドーン!」

シャリアが筒の先を向けてストラップを引くと、シュルルと何か糸が擦れる音が聞こえました。

すると剣の刃が部分が外れて行きます。いえ、正確には外れた刃を糸の様な物が繋げていました。

そしてシャリアが悪魔の形相でその武器を振るうと、空を舞う刃が右から左から、縦横無尽に赤竜を襲い掛かりました。

「ヌゥッ!!何と卑劣な!!」

「あっはぁぁ!!戦場いくさばで清廉潔白を語っちゃう系!?ねぇねぇトカゲさん?アナタ戦場で奇襲とか、焼き討ちとか絶対しないのかしらん?」

「………むぅ、然り。戦場に卑劣は愚問で在った、許せ。」

赤竜はその言葉を皮切りに、炎を吐き、薙刀を振るい、総てを持って対峙しました。

逆にシャリアはと言うと…

「ちょっとちょっと!こっちは片目よ!?レディには気を遣いなさいよね!」

「ふん、戦場いくさばに男女差など非ず。推して参る!!」

「その通りねチクショウ!!」

言いながらもアレやコレやと武器を切り替え、銃を、剣を、時には砂を掛けたり相手の攻撃で出来た穴を利用して戦闘を継続させました。

こうして二人の殺し合いは勇者達の物と違い、苛烈さを増して行きました。



ーーー

ーーーーー



勇者達の間には、青いドレス姿の少女が立ちはだかって居ました。

青い少女の手に握られた小さなナイフは、何時だったかシャリアに持たされたナイフは、赤い竜の勇者の胸へと深く突き刺さって居ました。

カタカタと震えるその手を離して、青いドレスの少女は両手を広げて赤く青褪めた少女を守る様に震えて言いました。

「アリシアは…やめてよ……殺させない……殺すなら私にして…」


エルキュール=グラムバルクは恐怖も何もかも飲み込みました。

例え自分がどんなに気怠くても怖くても押し潰されそうでも、愛しくて愛しくて仕方ない少女を守るために、その身を捧げる覚悟で怒れる竜の前に身を投げ出しました。


アリシアは両眼をガタガタと震わせてその様子を眺めていました。




「くっ……」


竜の勇者が呻き声を挙げました。


「クックック……クハァーーーーッハッハッハッハ!!!」


いえ、嗤って居ました。



「ハッハッハ………あぁ、勇者よ………貴様より余程勇気を持った者が居る様だ。……いやぁ、これは蛮勇か?………どちらにせよ面白い。」


紅蓮は胸に突き刺さったナイフを引き抜くと、意図も容易く握り潰して砕きました。胸から血が流れてますが、何事も無いかの様に佇んで居ます。


「クックック……痛い、痛いなぁ……。まさかこの程度の雑魚が吾に傷を付ける等とは……面白い女だ。」

竜の勇者は本当に楽しそうに笑って居ました。

そして、ギラ付いた瞳でエルキュールの首筋を掴み持ち上げると…

「これを壊せば本気になるか?名ばかりの勇者よ。」


アリシアは両眼を見開き思わず右手を伸ばしました。

しかし地面に叩きつけられたエルキュールは、そのまま錆びた刀を背中から心臓が在る部分へと突き立てられました。




ーーーーアリシアは絶望しました。

両膝を地面に付いた体勢のまま、伸ばした手をそのままに、声も出せずに涙も湧かずに、現状を理解出来ないで居ました。



「ーーーこれでも動かぬか、………ならば引導を渡してくれる。」


紅蓮が振り上げたその刀がゆっくり、ゆっくりとアリシアへと降り掛かりました。

アリシアは、ただただその刃が自分の頭を砕くのを待ち侘びました。




ーーーしかし、実際には砕けませんでした。



アリシアが伸ばしたままの右手の先から分厚い魔方陣の層が迸りました。

そして、その魔方陣が紅蓮の一振りを弾き返すと、魔方陣は形を変え、光輝くエルキュールへと変化しました。

令和記念に初投稿、ども。


ー中略ー


ー以下も略ー

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