77.勇るる勇者と怯む勇者
ーーーー突如飛来した焔は言いました。
自分達は侵略国家からの使者で在り、侵略を受け入れるか、はたまた抗うか。
突飛なこの提案は普通なら笑って素通りするか、可笑しな物には関わらない様に避けるかの二択でした。しかしこの異常な侵略者達は、それらの選択肢を許さないであろう殺意を今まさにまじまじと見せ付けています。
彼等が飛来した際に焼き払った筈の草花は、未だ燃え広がる炎に苛まれる細木達は、彼等竜人達が放つ殺意の焔に寄って留まる事を知りませんでした。
常軌を逸した状況に、動けずに居たのは門の前で屯している冒険者達や衛兵のみだけでは在りませんでした。
我等がシャリア率いる商会の面々すら呆気に取られていました。
「もう一度言う、吾は竜の帝国の勇者。侵略を受け入れるか否か。行動に伴い示すがいい。」
半人半竜の一声に、冒険者達は口々に言いました。
「急に現れてふざけんな!!」
「そうよ!侵略とか受け入れるとか、意味が分からないわ!!」
「こんな小さな町でイキってんじゃねーよ!!」
「そうだそうだー!!知ったこっちゃねぇ!!俺達は街を出るぞー!!」
「きえろ。ぶっとばされんうちにな」
そんなこんなで彼等の横を通り過ぎた一部の冒険者達は何事も無くこの場から去って行きました。
「若、愚かな雑魚どもが行ってしまいましたが?」
そう言う鎧武者の赤龍に青年は興味も無さげに返しました。
「構わん、所詮は烏合。吾が手を下さずとも直に終わる。」
ーーー半人半竜の青年がそう言った直後に、背後から悲鳴や惨殺の音が鳴り響きました。
そして一人の若者が哀れな姿で蹌踉めきこの場に戻って来ました。彼は片腕が無く、腹部には巨大な穴が開いてました。
「たっ……たすけ…っ」
…と言う彼の頭は、背後から飛んで来た太く荒い槍によって真っ二つに裂かれてしまいました。
彼の無残な死体と、そのまま地面に突き刺さった槍を見て、動けなかった冒険者達は阿鼻叫喚に陥りました。街の衛兵達はこの場を収めようと冒険者達を街中へと避難させようとしますが、このまま戻っても籠の中の鳥となるばかりです。
そしてシャリアはまた、一人で考え込みました。
「不っっっ味いわねぇ………まさか馬鹿勇者がこんなに早く侵略して来るなんて思わなかったわ。」
本気で焦った素振りのシャリアに、一行は顔を見合わせます。エルキュールもまた、アリシアの身体を震える手で抱き締めますが、アリシアは顔を青ざめ自分以上にガタガタと震えて居ました。
エルキュールはアリシアに触れてしまい、その事に気付いた途端に彼女の心境を察しました。
「ねぇシャリアさん…あの人、受け入れた場合の条件を言って無いよね?………どうなるんだろう?」
エルキュールの問いにシャリアは瞳を閉じて答えます。恐怖が綯交ぜで言葉使いがアリシアっぽくなってしまいました。
「…さあてね。殺されるか、慰み者にされるか、はたまた国を従わせる為の道具にされるか、経済的に隷属にされるか。何にしても無暗に従うって選択肢は無いわねぇ。」
そう言うシャリアの顔は笑ってました。
こんな状況で笑っていました。何か考えがあるのでしょうか?それとも考えは無いけど、何時もの様に遊び感覚で殺し合いたいのでしょうか?シャリアの考えは読めません。
何も持たないエルキュールには、戦う術は………無くは無いのですが、実力が不足し過ぎていてどうしようも無いのが現状です。
「じゃあちょ〜〜〜っとお話してみるから、隙を見て逃げるなり戦うなり、好きになさい?商会の主人最期の指令よん。」
そう言ってトラックから飛び降りたシャリアはニコニコと何時もの様なキツネの顔で青年達へと歩み寄りましたが、その隣には山賊のライネルと、護衛のマックスが居ました。
「はぁ?ちょっとちょっとマックスぅ〜?あんたが降りたら誰が運転するのよぉ?」
シャリアがコキコキと首や肩を鳴らしながら言うとマックスはニッコリ笑顔で背後を振り返らず親指で指しました。
「シェリーさんが居るっすし、最悪はアスクレピオス先生にお任せするっす。………俺の役目は姉御とシャルロットさんを護る事っすから。」
そう言って背中から巨大な獲物を取り出しました。最初からクライマックスの様です。
大型の電気式ドリルに見えます。背中の盾にケーブルが繋がってるので、中には内蔵バッテリーが積まれてるのかも知れません。恐らくドワーフ謹製でしょう。この人は工具ばかり武器にしてますね?
「よし!マックス、あたしの背中は任せたわ「ちょちょちょ待てぇーーーい!!!」
何やら騒ぎ出すライネルを、シャリアは鬱陶しそうに見詰めます。
「オイオイ、頼れる兄貴分で在る俺様を忘れちゃ困るぜ?」
「いやー、誰よアナタ?他の冒険者さん?よく知らないけど死にたいならあたし等と関係ない所で勝手にお逝きなさい?」
ドヤ顔のライネルをニッコリ笑顔で辛辣な返しをするシャリアさん。この状況で漫才ですか、そうですか。所でこの山賊さん、見た感じ何処かの旅団のウヴォーさんに似てる気が………おっと失礼。
エルキュールは思わず溜息を吐き掛けますが、ふと青年の方を見ると殺気が収まらない様子で、
………嗤ってました。
「貴殿等は戦を選ぶか?ーーーで在れば我が太刀にて斬り伏せてくれよう。」
煌々と輝く焔を纏い、半人半竜の赤竜は錆びた刀をシャリアへと突き付けました。ーーーが、シャリアは何ともなしに質問しました。
「ストップストーップ!…ハァイ!あたしシャリア!商会の主人ね?この度は竜の帝国の勇者様が、わざわざ遠い国からこんな田舎国までようこそ御出で下さいました。でも哀しい事に、私共は未だに状況が飲み込めてないワケよ。」
何時もの調子で話し始めるシャリアにも、一切顔色を変える事無く眉一つ動かさずに聞いてました。
「此方が武装した事は許して頂戴?これでも死ぬのは怖いのよね?だから最低限の防御行為は取らせて貰うわん。………で、単刀直入に聞くけど、隷属後の条件を教えてくれないかしら?」
青年より三メートル圏内に少し離れた状態でシャリアは止まりますが、トラックから眺めていたエルキュールは、アスクレピオスは、理解しました。
また不意打ちで拳銃を撃ち放つつもりですよ、この人は。
汚いです、汚過ぎますが、この勇者がもし綱体を持ってたらどうするつもりなのでしょうか?
「我が国に招待しよう。………その後は保証せんがな。」
「ありがとう、死ね!!」
シャリアは予想通りも予想通りと言わんばかりに腰元から取り出した二挺の銃を青年に向かって放ちました。………と、言いますか
シャリアが取り出したのは拳銃では有りませんでした。
ショットガンと呼ばれる弾が炸裂して散弾が放射状に襲い掛かる類の銃です。それも銃身や銃床を切り落としたソードオフと呼ばれる短いタイプの物でした。
しかも今回は背後から見て居た為、エルキュールにも理解出来ました。シャリアの服の腰には小さな機械がアタッチメントされていてそれが光った瞬間に二挺のソードオフ・ショットガンが出現したのでした。まるでゲームみたいな光景でした。
まさかこれも遺物の一つなのでしょうか?
所で近距離でソードオフの短い射程とは言え十分過ぎる威力の散弾を全身に浴びた青年は………。
ーーーー何事も無く佇んで居ました。
「チッ、綱体………持ってやがるわねぇ?………マックス!!」
「うっす!!」
シャリアの号令に答えて飛び掛ったマックスは、電気式巨大ドリルで襲い掛かりますが…
「失せろ。」
飛竜に跨った赤い鎧の青年に寄って、槍の穂先で回転ごと止められてしまいました。
「はぁっ!?マジかよ、ありえねぇ!!」
ライネルの腰の引けた叫びの正体は、両手に持ったジャマダハルをただの徒手空拳で受け止める鬼人族の青年と対峙して居たからでした。
既に三人の攻撃が呆気なく阻まれ、意図も容易く追い詰められてしまいました。
これはどうしようも無いと、エルキュールは意を決してドワーフ金属の弓と矢を取りますが…。
「エルキュールはここで待ってて…」
………と、死地へ赴く覚悟が出来たアリシアがトラックから飛び降りてました。
「アリシア…!?駄目だよ!!」
エルキュールの叫びも虚しくアリシアが泣きそうな笑顔で返すと、意を決して竜の侵略者へと向き直りました。
「わたしは大樹の王国の勇者、アリシア!!アリシア=バーネット!!………竜の帝国の侵略者よ、勇者の名を恐れぬならわたしが立ち会おう!!」
ーーーアリシアの髪は銀色に美しく腰まで伸び、両目は真紅に、全身を纏うオーラは彼女の情熱を表す様に………様に………。
………アリシアの全身は青紫色でした。
アリシアは勇気を振り絞れてませんでした。
その証拠に、彼女が両手に持つ心の色を示した剣の輝きは弱々しく、まるで怯えて居るかの様に真っ青でした。
辛うじて左手に持つ剣が強く強く輝くだけでした。
ーーーーしかし現実は無情です。
アリシアの名乗りに、半人半竜の赤竜は高らかに応えました。
「よくぞ参られた、大樹の王国の勇者よ。吾は竜の帝国の勇者。『紅蓮』ッ!!
吾に字名は要らぬ。……さぁ、合い見えようぞ」
紅蓮が名乗りを上げた瞬間、眼前のシャリアを無視してアリシアへと飛び掛かり、超高温の炎熱を纏った錆びた刀で、怯えた光の剣へと叩きつけました。
以前、号外新聞で聖王国家へと侵略してた竜の国の殺戮勇者さんらしいです。




