75.『水の庭』での一日で
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シャリアからエルキュールへと説明を受けましたが、エルキュールは酷く詰まらなそうに、そしてどうでも良さ気に受け流してました。エルキュールが聞きたいのは二週間前に酷い事件が起こって、お涙頂戴の涙ぐましいストーリーでは無いのです…
セシルをどうしたのか、そしてこれからどうするつもりなのかです。
そんな彼女の様子のおかしさに眉を顰めるシャリアでしたが、兎に角話終わると今後の方針を話そうとしましたが…
「それで彼は?死んだんですか?」
髪の毛先を指先で弄るエルキュールにシャリアはあからさまに嫌悪感を覚えました。
「そんな事よりエルキュールちゃん?お姉さんが話してる時にその態度はどうなのかしら?」
声に怒気を込めて質問するシャリアに、エルキュールは髪から手を離し、お辞儀をしながら、
「あら、ごめんなさい。別に彼が誰を裏切ったとかどうでも良いんです。あの人は私に道を示してくれるらしかったので、ちょっと気になっただけなんです。」
あからさまに他人に対する期待も興味も失せて見えるこの少女の変わり様と異質さに、シャリアは死に掛けたせいで価値観が変わったのだと納得する事にしました。………しかし、自分の中の優しかった彼女が他人をどうでも良いと思う様な価値観を持つ事に心底怖気が沸き立ちました。
「あたし今のエルちゃん嫌いだわ。…でも前の様に優しくて可愛らしい貴女が居なくなって無い事を期待してるわん。」
そっと離れてそう言い捨てるシャリアに興味の無さげな視線を向けて、エルキュールは答えました。
「前のって、私は元々こんなですよ?別に優しくないし、可愛くないし、ただ可愛い格好や洋服が好きなだけですから。それと、私は今の眼帯のシャリアさんも嫌いじゃないですよ?」
そう語ってその場でクルリと回って見せるエルキュールは少しだけ妖艶さを感じさせる笑顔で言って、隣のアリシアを抱き締めてました。シャリアはアッサリそう言い切られて意表を突かれたのかいつもの様に主導権を握れてません。逆にアリシアはただただ嬉しそうにデレデレしてます。この辺りは単純に愛の差なのかも知れませんが。
しかし空気を読まないシャルロットはシャリアとエルキュールの手を取って
「シャルはおねえちゃんもアリシアちゃんもエルおねえちゃんも大好きだよ?」
えへへーと笑うシャルロットに、シャリアはバツが悪そうに頰を掻いてます。エルキュールは少しだけ優しい笑顔をシャルロットに向けました。
そんな妹とエルキュールのやり取りを羨む様に見ていたシャリアは、諦めたのか毒気が抜けたのか、頭をガシガシ掻きながら気を取り直しました。
そんな様子を眺めていた他の面々は、微笑ましく笑っていたり、ハラハラする護衛が居たり、ただただ少女と美しい女性のグラマラスな肢体を淫猥な目線で眺めてた山賊とかが居たりしました。
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ーーー次の街を目指す方向に話が決まった日、その日はエルキュールやその他準備が出来てないメンバーの買い出し等に一日を費やしました。
エルキュールにとってこの街を見て回れるのは実質この日だけでした。
自分達が止まって居た宿場街は崖の下側に在る壁面に位置します。泊まれる店は二、三件見られますがガイドブックによれば反対側や崖の上にも在るそうです。
エルキュールはこの街のナビをアリシアに頼みました。シャルロットはどうやら今回は姉と離れたくない様子でした。アリシア自身も殆どエルキュールの側に居た事で余りこの街に詳しくは無いのですが、久し振りのエルキュールとのデートと言う事で妙に張り切ってます。
行き交う人達もまた普通に見かける様な一般人の中には海の上で仕事をしてそうな人も居れば街を拠点に冒険をしてそうな人も居ました。冒険………冒険ですか。
「………冒険者になれば少しはお金を稼ぎやすくなるかな?」
ふと漏れた言葉でしたが、アリシアは首を傾げて尋ねます。
「冒険者になりたいの?」
そんな質問にエルキュールは少しだけ考えて、首を横に振って答えました。
「ううん、私はそんな強く無いし登録にも色々とお金も掛かるでしょう?または試験を受けるんだっけ?私はいいや。」
そんなエルキュールの言葉にとても残念そうにしてますが、アリシアは自分が冒険者になった時の事を話しました。
「わたしが冒険者になった時はさ、師匠…おじさんに修行して貰う為に頼み込んでた頃かな?元々わたしは外から素材集めとか色々やってたからさ、戦闘能力は無かったんだけど、逃げ回るのには自信が有ったから体力もそれなりだったし、下地があるって事で冒険者になって来いって。冒険者になれたら師匠になってくれるって約束してくれて、結果はこの通りだよ。」
そう言いながら胸元の冒険者の照明で在る表彰を見せてくれました。小さなプレートには錬金術師を示すフラスコの絵が彫られています。周囲に紋様でデータが彫られている様に見えますが、エルキュールにはそれが読めません。文字ではない様です。
「なるほど、パパがアリシアに…」
ふむんと何やら考えて居ると、アリシアはクスクス笑いました。それを怪訝な表情で見ていると…
「パパって、エルキュールもなんか色々変わったね?」
首を捻ってどう言う事かと聞くと
「前は話し方からお嬢様〜って感じだったけどさ、今はちょっとやんちゃな感じ?でもそんなエルキュールも可愛いよ。わたしのお姫様だし。」
それを聞いてジーーーーーッと見つめた後、何と無く徐ろにアリシアの小さな身体を思いっ切り抱き締めてやりました。そして仕返しとばかりに耳許で囁いてやりました。
「あんたと三年振りに会った時程じゃないよ、私の可愛いお嫁さん?」
アリシアは顔を真っ赤にして湯気を立ててしまいました。反撃は成功のようです。
それから雑貨店等を巡って日用品等を買い漁り、旅支度を整えながらもこっそりと生地を漁ったり、服を見てみたりと、冒険に適した物を見て周りました。
これから向かう所は森の中との事なので、準備は出来るだけ万全以上にしておくべきでしょう。
あぁそれにしても………日差しが強いのが辛い。
「アリシア…おぶってよ」
………と、無茶振りをしてみると
「よし、任せて!!」
………と、あっさり引き受けちゃうのは何故なのでしょうか?頼られて嬉しいとかですかね?
「まぁもう帰るだけだし、頑張る…。アリシア、行こう?」
殆どの荷物をアリシアに搭載して言うと、アリシアはコクコク頷いて先導してくれました。
こうしてエルキュールの一日は、アリシアの補助を受けて旅支度で終わりました。
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そして翌日、シャリアの号令でシャリア商会一行の面々は街の入り口。商会から見れば出口で在る正門前に集いました。
昨日居たメンバーは大体揃ってますが、若干一名に関しては存在が疑われました。
「アスクレピオス医師は本当にあたし達と一緒に来るって事で良いのねん?」
シャリアの愉快そうな声は目的は果たしたのに、今も共に在る人へと向けられた言葉でした。
「治療費は確かに受け取った。………が、個人的な理由で着いて行けるならご一緒させて貰うよ。道中の安全が確保出来るのは願ったりだからね。」
十字架を背負った女性医師がそう告げると、シャリアはとても嬉しそうに頷きます。
きっとこのままこの一行を抜けて他の護衛を雇うより、一緒に居た方が気心も知れてたり色々と都合が良いのでしょう。エルキュールはそう納得しました。
しかして、次は何故か山賊が共に居る事がとても気掛かりでした。
「ま、なんかあったら俺様を頼りな!!ガッハッハ!!」
何故か馴れ馴れしくエルキュールの肩に手を組みます。これには流石のアリシアもシャリアも殺意を向けました。アリシアは手軽に取り回せる様に買ったショートソードで、シャリアは鉈で。
相変わらず随分と物騒です。
「で、シャル子は?姿が見えないけど。」
シャリアはエルキュールの質問に答えてくれました。
「やっぱ慣れないわねぇ、このエルちゃん。…シャルロットなら先に乗ってるわよーぉ。」
何に?………と思ったら馬車ですよね?そう言えば二台の馬車を扱ってた様な…。
エルキュールがそう思って居ると、案内された場所には馬車は有りませんでした。
ーーー代わりに大きめのトラックの様な車両が有りました。




