71.シャリアの詰問
「あたしは許さないけどねん?…勝手に情報を流されてたみたいだし、人を焼き殺しておいてなあなあで済む筈無いわよね?
………話さなかったら、………分かるわよね?
シ・グ・坊?」
シャリアは右手に握られている謎の円筒型の棒を軽く捻ると、煌々と赤黒く輝く光の刃が生えて来ました。長さは三十センチ程の脇差し程度ですが、見るからに異質な其れは見る者を驚愕させました。
アリシアは、何処と無く自分が普段使う勇者モード時の赤い剣を彷彿させ、思わず聞いてしまいました。
「シャリアさん、それ………まさか勇者の心剣?」
どうやらアリシアの赤く輝く剣は心剣と言う様です。使用者の心の強さを現す心剣。心の在り方次第で長さも、大きさも、硬度も、斬れ味や柔軟ささえ変えるその剣は、正に勇者の切り札と言っても過言では有りません。
シャリアが持つ其れは、アリシアの物とは厳密に言えば全くの別物なのですが、恐らく一般人でも精神感応デバイスに拠って武器に心の強さを反映させ、勇者の力を扱える様に調整された物なのでしょう。
心の強さ以外にも、内部コンピュータによる補助や外部バッテリーに拠って、威力の底上げをして、漸く勇者の力に届きつつある様です。………但し。
「光剣ね?あくまでも試作品らしいわよん?………まぁ、セシルくんと殺し合う事になるならこの位は無いと………ね?」
シャリアは既に服に内蔵された精神感応デバイスを起動させていました。その証拠に全身に青色の光の線が走ってました。
………しかし、セシルの反応はとてもビクビクと怯えて、今にも泣き出しそうな子供の様です。…アリシアは思わずその姿に自分を重ねてしまいました。
「そんなつもりは………無い。……が、話せない。…話したら、いや…理解したら死ぬ。」
セシルの言葉に苛立つシャリアと、周囲には背中に背負った巨大な何かを手に持つマックス、両手にジャマダハルを構えたライネル。十字架の前に立ち塞がるアスクレピオス。………シェリーはシャルロットの前に立ち、守る様に両手で防ぐ格好です。
ハッキリ言って今の彼には味方が居ません。………セシルが犯した罪は、それ程迄に深く重い物なのです。
「話したら死ぬから話せない?話さなかったらアンタが死ぬのよん?………あまりあたし達を舐めるんじゃ「シャリアさん待って!!」
アリシアは思わずセシルの前に立ち塞がりました。自分でも自分の行動の意味が理解できません。自分達を殺したらしいこの男を守る価値が一体何処に有るのでしょうか?
しかもこの男は、三年前に愛する親友のエルキュールを一度殺した、あの化け物と同じ存在です。
自分自身の本能からこの男を拒絶してると言うのに…アリシア=バーネットは、自分自身の行動の矛盾さに苦しみながらも、守る様に立ち塞がりました。
「ねぇアリシアちゃん?退きなさい。」
「いやだ」
アリシアは優しい笑顔で諭すシャリアの言葉をキッパリと否定しました。
「今なら怒らないから…ね?」
「いやだってば」
言葉とは裏腹にアリシアに向かって何処からか取り出した拳銃を額に突き付け、シャリアは脅しますが、アリシアは一切怯まずに立ち塞がるままです。
「ごめん、シャリアさん。………わたしは勇者なんだ。…だから、わたしは弱い人を守る為に、ここは退けない。退いちゃいけないんだ。」
アリシアの固い決意にシャリアは冷たい視線を向けて引き金に指を掛けますが、セシルが顔を上げると、同時にその銃から放たれた弾丸は、アリシアから離れた地面に食い込みました。
「リンム………レ」
セシルは思わず口遊みました。
シャリアの持つ拳銃は、アスクレピオスの手に拠って逸らされて居ました。
「あ〜らセンセ?まさか貴方までこのチビ共の肩を持つつもり?」
シャリアの怒りに満ちた言葉を尻目に、アスクレピオスは退屈だとでも言わんばかりに言葉を紡ぎました。
「君程の知性を持つ者が解らないのかい?…私は勇者くんの言葉で合点がいったよ。」
シャリアは冷たい目のままでアスクレピオスの言葉に耳を傾けました。………その程度には理性が戻って来た様子です。
「勇者くんは弱き者の味方なのだよ。…だから守ってるんだ。………彼なら一瞬で滅ぼせる私達の事を彼から…ね。」
アスクレピオスの言葉を聞き、シャリアは苛立つ感情を隠さないまま舌打ちし、備え付けのベンチを蹴り壊し、頭をガシガシ掻きながらそして………。
「だーーーーから、最初から大っっっっっ嫌いなのよ!アリシアちゃん!」
銃と光剣を仕舞い込み、シャリアはやはり悪態を吐きながらも怒りの感情を嚥下してくれました。
「………で、それはそれよ?セシルくん?…死ぬって言うのはなんで?どうして?誰が?ホワイ?」
シャリアの苛立ち混じりの質問も、今や大分マシになった空気にセシルは少しずつ…少しずつ、話してくれました。
「………俺が話した内容を理解した者が………ゼリー状になって死ぬのを何度も何度も何度も何度も見て来た。」
ゼリー状!?
「生きたままゼリー状になって、生きているのに身体がズルズルに落ちて飛び散って、…発狂して、痛みはそのままらしい…ショック死する者達を、何度もだ。この目で見て来た。」
セシルはただただ、自分が見て来た事をそのまま語ります。
「中には死なない者も居たが、俺の話を聞いた者の中には…自害した者も居た。……お前達が死なない保証は何処にも無い。………だから、俺や師匠、俺の過去については聞かないで欲しい。………しかし俺はアリシアやエルキュールと共に在らねばならない。………それは俺が所属する組織の都合だ。使命だ。だが、シャリア達の邪魔をするつもりは全く無いし、敵対する事も無い。………信じて欲しい…」
黒い剣士の弱々しい言葉は、アリシアの心に突き刺さりましたが、シャリアは…
「なるほど、うんうん。それなら仕方ないわねぇ。アンタも苦労してんのねぇ?分かった分かった、シャリア姐さんに黙って着いて来なさい?」
アリシアはもうその言葉が気持ち悪くて仕方ありません。セシルも絶望し、項垂れた様に見えます。
「ーーーーなんっっって、言う訳無いわよね?………あたし達に一切関わりを持たない事を約束出来るなら、不問にするわ?………嫌なら、もう殺し合うしか無いわよね?………十中八九あたし達が鏖にされるだろうけど。」
アリシアは再び立ち塞がりますが、セシルはその肩を引き寄せ離しました。
「あら?殺る気?…良いわよん?殺しに来なさい?タダでは死んでやらないわよぉ?シグ坊ちゃん?」
シャリアの挑発しか無いその言葉に、セシルは最早諦めの心境で、右手を漆黒に染め上げ指先を赤く輝かせました。赤く赤く、黒く輝く、拒絶の光です。
「いや、もう良い…お前にだけ、俺の全てを見せよう。………俺を信じられないなら避ければ良い。………全てを知りたいなら、受け入れろ。」
セシルのその言葉に、警戒を一切合切解いたシャリアは、狐の様な笑みを浮かべて、獰猛な笑みに歪ませて、セシルのその輝きを直接胸に受け止めました。
「姉御!!!」
赤黒い閃光に胸を貫かれたシャリアを間近で見ていただけのマックスの視界は、まるでスーパースローカメラの如くスローモーションで流れて行きました。
胸を貫かれ、ゆっくり、ゆっくりと地面へと崩れ落ちて行くシャリアの姿を。
「シャっ………シャリアちゃん…」
シェリーは思わず膝から崩れ落ちてしまいました。………そのせいでシャルロットにも見えてしまいました。
最愛の姉が黒い悪意に心臓を穿ち貫かれる姿を………。
「あっ………あぁあああ………っ」
身体中に桃色の線が浮かび上がって居ました。
ガタガタと震えるシャルロットの姿を見たアリシアはセシルに、シャリアに、激昂するマックスに、………そして何も出来ずに空へと視線を移し立ち尽くしてしまいました。
…………そのお陰で、見逃して居ました。
十字架がガポッと音を立てて開いたのを。
中から出て来た裸体の少女が金糸の髪を…所々に青紫色に変色してしまったその髪を振り乱しながら地面に降り立った瞬間を。
「………これ、なんの騒ぎ?」
いつも優しい言葉を紡ぐその声は、やる気の無さを感じさせ。
開かれたその瞳には優しさは見受けられず、ただただ気怠さと、憂いを帯びた怠惰な視線が周囲を見回していました。
エルキュールさん復活




