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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー勇者と一般人ー
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5.エルキュールの誕生日・後編



 屋上にたどり着いた私は金属製の手すりに背を保たれて星空を眺める親友の側へと歩み寄りました。


「流れ星はもう見えた…?」


 息を整えた私はその親友の側へと歩み寄り、隣に寄り添い同じく空を見上げるのです。

 満天の星空でした。

 ……ですが流れ星はまだ見えない様です。


「う〜〜〜ん…師匠は今日が星が降る日だって言ってたんだけどなぁ」


 師匠とはアリシア=バーネットのお婆様、ジーナ=バーネットさんの事です。

 彼女のお婆様は錬金術師ですが、占星術の勉強もしてたそうで星読みを利用した占いも出来るそうです。

 実際お婆様の占いはよく当たり、町の方々からも頼られてるとお聞きします。

 アリシアはお婆様の事を普段は「おばーちゃん」と、師匠として教えを受けている時は「師匠」と使い分けます。

 それは何故かと聞けば彼女曰く


「仕事の時はメリハリが大事なんだよ!」


 ────だそうです。


「お婆様がおっしゃってたのなら間違いないわね」

「だよねー」

「あなたも錬金術師として頼られる様にならないとね…?」

「まったまた〜!…………え?頼りない?」


 少なくとも私は頼ってますが、それを言うと調子に乗ってしまうので言いません。

 …………何よりこんな郊外の人気の無い場所でまた落とされたら堪ったものではありません。


「あっ…!アリシア、流れ星よ!」


 空を眺めていた私は此方を見て不安そうにする親友に一筋流れた星の雫を伝えました。アリシアは話を変えられた事に不満そうにしてましたが、すぐにどれどれ?っと空に視線を戻した様です。

 私達が求めていた景色が満天の星空に浮かんでいました。



 一つ二つと流れて行く星の雫は───



 数が増えるとまるで星のシャワーの様に───



 雨あられと降り注ぐ光の粒は───



 ファルネリアの人々を祝福するようです───



 大切な人と眺めたこの空は───



 きっとずっといつまでも───



 心の中に深く刻まれる事でしょう───




 この幸せが、いつまでも続きます様に……。



━━━━━━━

━━━━━



 ───星が降り注いだ夜の事でした。



 私は親友と見たあの星空を



 絶対に忘れる事はありません…



 いつか私が私でなくなったとしても



 たとえこの身が






 星 を 喰 ら う 獣 に堕ちたとしても…



 最愛の人と過ごしたあの夜の事は



 私が人だった頃の最も幸せな瞬間だったのだから───




━━━━━

━━━━━━━



 私ことエルキュール=グラムバルクは、親友のアリシア=バーネットと星を眺めてました。


 ───気付いてはいました。


 流れる星の一つが、私達の側へと向かって来る事を…。

 私は思考が止まってしまい、動けませんでした。

 親友が私を跳ね除けました。


 運良く私もアリシアも、流れ星に当たる事はありませんでした。

 いえ、そもそも目の前で停止したのです。

 私は思わずまさか私達も星の導きで、伝説の戦士になるの?…等と呑気に考えてしまいましたが、その考えはすぐに打ち消されました。


 私達の目の前に居たのは可愛らしいマスコットなどではありませんでした。

 それどころか全く歪な、禍々しい、凶悪と言った外見と言っていいでしょう。

 まるで人間一人が真っ黒なヘドロか重油で出来たかの様で、その身は溶けた様にスカスカのガリガリです。

 右腕が有るべき部分には、重油の様に滑った槍の様で、左手は巨大な鉤爪です。

 純白のフードの様な物を被っており、裾はボロボロで足元に届く程です。

 背中にはまた純白の翼が二組生えてて天使様を連想させますが、全身を見るとその考えはすぐに打ち消されます。


 ───何より、顔が…頭が在るべき部分にはなにも存在しないのです。


 左目が有るべき部分は紅く輝き炎をゆらめかします。


 私は敵意を感じましたが、アリシアはと言うと


「違う…なんで…おかしいよ」


 …と、うわ言の様に青ざめ震えてました。

 まさかこれが本物のモンスター?

 私はこの世界において世間知らずでした。


「アリシア!立って!あのモンスターから逃げるわよ!」


 叫びましたが彼女は此方を一度だけ目で見てすぐに視線をあの化け物に戻しました。


「違う…違うよ…!あれは違う…!」


 アリシアは、酷く怯え、震え上がった声で言葉を漏らします。


「あれは…」






星蝕者せいしょくしゃだよ」







━━━━━━━

━━━━━



    『星蝕者』


 星を蝕む者、星々の記憶や記録を喰らい、生き物も無生物も総てを喰らい尽くすまで侵攻を辞めない魔物以上の化物。怪物。邪悪。

 人類や亜人、動植物に限らず魔獣や魔物、魔人に魔王にとっても共通の敵とされる者。

 そこに感情らしい感情は全く存在せず、星すら削り喰らい消滅させて行くと言われる化物の中の化物。

 その上、此方から認識する事は非常に難しく、認識したとしても存在しているのにそこに存在していない様な、奇妙な感覚に陥るそうです。

 当然の如く、互いに話し合い、分かり合うと言った選択肢は一切あり得ないと言われています。

 この時点での私にその知識はありませんが。



 結論から言って私達子供に為す術はありません。

 ゆっくりじっくりと消されて行く最期の時を待つしか有りませんでした。

 簡単な冒険をこなして来たアリシアが絶望し、喉からは渇いた様にヒューヒューと息が漏れるだけでした。

 そして私はと言うと、冒険に慣れたアリシアの様子と、眼前の化物の悍ましい迄の殺意に完全に呑まれてしまいました。

 折角『友人』から戴いたこの命を諦めてしまいました。

 絶望し、石の屋上に膝をついた時ーーー


「諦めないで!!」


 先程まで青ざめ震えていたアリシアの声でした。

 私が顔を上げると目の前に立ち塞がりどこからか取り出した錬金術師の杖に魔力を籠めてました。

 身体はやはり震え、顔も引き攣ってましたが、彼女は既に覚悟を決めてました。


「エルは絶対に守るから…絶対に全力で逃げて!!」


 後ろへと突き放すアリシアは、振り向かないまま私に言いました。


「絶対に振り向かないで!!」


 アリシアの言葉に私は、一瞬目の前が真っ暗になりました。


「なにを……言ってるの………?」


 震える声で聞きました。今の私には現実を直視出来ません。


「やだ……一緒に逃げよう…?」

「それは…!くっ!!…無理だよ!!」


 迫り翼から打ち出された羽根の弾丸を防御用の魔法陣で凌ぎながらアリシアは───。


「エルは…!助けを…!!呼んで来て!…私が…っ…時間を稼ぐから…!!」


 魔法陣での守備も長くは保ちそうにありません。

 星蝕者の右腕が大振りに構えられました。刹那の事でした。

 気付けばアリシアの体制は巨大な何かを支える様に地面に膝を突いて、それでも必死に。

 ここから先だけは許さない…と言った気迫のみで支え続けていました。


「やだっ…!やだ!…ゲホッけほっ!…アリシア!!やだぁ!!」



 子供の様に我儘を叫ぶ事しか出来ませんでした。



 腰が抜けたのも有りますが、身体が現状を受け付けず、発作を起こしてしまいました。


「………そっか。……何がなんでも………護るから!!」


 気合いのみで槍の右腕を弾き返した様に見えたのですが、………違いました。

 化物の、左右から伸びた翼がぐるりとアリシアの後ろへと回り込み───。









 ────私の景色が逆さまになりました。











「エル!!??」


 星蝕者の動きに思わずアリシアは後ろを振り返りましたが、アリシアの後ろに居た筈のエルキュールの姿が何処にも見当たりません。

 ちゃんと逃げてくれたのかと少し混乱気味に考えが脳を過ぎりましたが、すぐにその期待は打ち砕かれました。

 視線を前方へ戻すと、アリシアの目の前には絶望的な光景が浮かんで居たのです。


「あっ……あぁ…あ」


 アリシアの見開かれた瞳に映ったのは




 逆さ吊りにされ───



 腰から伸びた尾の様な器官の───



 先端が骨の様に尖った先が────



 エルキュールの胸を貫いていました────









「あがあがあああああ!!!あああうあああああ!!!はなせはなせはなせよはなせはなせ!!!!」










 アリシアは怒りました。怒り狂いました。憎しみを込めて杖の先から濃密な魔法弾を放ちました。

 ───ごぽん…と間抜けな音が鳴り、尾が引き抜かれると、エルキュールの胸からボタボタとおびただしい量の血液が漏れ出て来ました。

 魔法弾は残念ながらエルキュールを掴む羽根を少しだけ欠けさせた程度でした。


 ボトリ────と、まるで壊れた人形の様に棄てられたエルキュールは、恐らく肺か胃に達したのでしょうか?大量に瀉血してました。

 量を見れば本人で無くても分かります、子供の身体から抜けて良い量の血液ではありません。段々と身体が冷たくなって来ました。


 あっ私…また死ぬんだ……

 ごめんなさい…お母様……

 会いたかったわ……お父様…

 折角の命を……むだにして…ごめんなさい

 ごめんね…きちんと護られなくて…

 だいすきよ……あり…しあ」


 途中からは懺悔の様に声に出てました。

 アリシアはエルキュールの身体が星蝕者に食べられない様に自分自身とエルキュールの身体を、魔法陣で包んでました。

 泣き噦るってこういう事なのでしょうか?

 アリシアは両目の光が失せ、冷たくなって行くエルキュールの身体を必死に必死に、叫びながら、喚きながら─。

 ただただ抱きしめていました。





 星蝕者の次の標的が決まりました。

 ただ淡々と魔法陣が壊れるまで攻撃を続けるだけでした。

 とても簡単な作業でした。


 ただ一つ誤算が有ったとするなら…




「私 の 娘 に 何 を し た ?」




 隻眼の陸軍将校の登場でした。




━━━━━

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