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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー首都を目指してー
68/138

66.偽医師を降して。


ーーーーー



話したそうで話さないシャリアの様子に、アリシアはイラッとしました。


「え?なに?シャリアさん?どうしてここに来たの?」


そんなアリシアを無視して、シャリアは腕が四本生えた医者の様な化け物に語り掛けます。

「やっほー偽物さん?アナタ、結構噂になってるわよん?なんでもぉ…捕まえた冒険者を勝手に『治療』して、ボロ雑巾みたいに捨ててるんだって?」

「ほうほう、ワタシことアスクレピオスも随分と有名になったものだ。僥倖僥倖。」

掠れ声で囁く蟲の様なそれは、随分と耳障りで、しかしやたらと喜びに満ちた声はアリシアの心に怒りを込み上げさせます。

「お前………罪も無い人達に何をしたんだ!!」

アリシアが吠えると、偽医師は

「簡単な事、部品を戴いたんだよ。…ククク、金持ち共も素性の知れない部品を喜んで大金を払って買い取ってくださる。おかげでワタシも沢山の改造方法を編み出せたし、実験も出来た。アスクレピオス先生様々だねぇ。」

偽医師のその言葉に、アリシアは顔を真っ赤に染めて怒りました。

「この………外道!!魔族め!!絶対に許さない!!」


しかしシャリアはその言葉に人間臭さを感じて、何と無く質問しました。

「ねぇオッサン、切り刻んだ人間は部品にして売ってたらしいけど、どうして一部は逃したの?」

「オッサンでは無いよ、そちらのお嬢さんが言う通りワタシは魔族さ。………そうだね、アスクレピオス先生には居てくれては困るのだよ。何故ならワタシの方が能力も実力も有るのに、ワタシより優れている等と、妄言を騙るのは許せなくてね?だから彼………いや、彼女か。彼女にはまず社会的に消えて「あ、もう良いわよ?」


途中で遮ったシャリアに偽医師は怒り狂います。

「お前もか、お前もワタシの様な偉大な医者をコケに「だーかーらーぁ、もう良いってば」


「アナタ、魔族じゃなくて人間ね?小物さん?」


シャリアの言葉に遂に我慢し切れず、偽医師は腕に持った巨大なギロチンをシャリアに振るいました。

ーしかし、シャリアから「フオオんっ」と、何かの起動音の様な音が聞こえると、コートやプロテクターの下から青白い光の線が迸ります。…そしてシャリアが背中から取り出した巨大な鉄板がその一撃を受け止めました。


「………は?シャリア…さん?………それ、どこから…?」

あからさまにシャリアの身体程も有るその分厚い鉄板は、先程までどこにも存在しませんでした。しかし今まさにシャリアの手の中に収まるその鋼の板は、十分な質量を持ってギロチンによる一撃を受け止めました。


「ねぇアリシアちゃん」


シャリアの言葉を待つアリシアは、呼び掛けられ思わず身体が強張ります。


「女にはヒミツが付き物なの。知りたかったら自分で解き明かしなさい?」


その言葉と同時にギロチンを軽々と弾き返すシャリアの姿にアリシアは唖然としてしまいました。

そして蚊帳の外状態の本物のアスクレピオス先生に視線を移すと、先日女性医師のディアナから戴いた顔写真と一致する事に気付きました。

「あっ、あの…アスクレピオス先生…ですか!?」

アリシアの問い掛けに、やる事が無いアスクレピオスは答えます。

「うん、私がアスクレピオスだ。君は………ディアナと言う女性を知ってるね?」

「はい!あっああ…あの………エルキュールが…わたしの親友が大変なんです…助けてください。」

後ろでガンガンギロチンと打ち合っているシャリアを他所に、アリシアはアスクレピオスに懇願します。

しかし、アスクレピオスはまずはアリシアを落ち着かせようと肩に触れ、しっかりと目線を合わせて聞きました。

「落ち着いて?ディアナから私に何か言伝ことづては頼まれて無いかな?」

その言葉にアリシアは、思い出した様に言います。

「あっあの…ディアナさんから、トリアージ?………えっと、カテゴリーI………だとか。…お願いします。助けてください…!」

アスクレピオスにしがみ付く様な小さな少女の頭を撫でると、女性医師は言いました。


「あぁ、彼女は私が責任を持って治療する。だから安心しなさい?」


その言葉にアリシアは、緊張の糸が切れて気絶してしまいました。



ーーー



「アリシアちゃんったら、全く………ま、こっちはこっちで楽しい楽しい八つ当たりよん?」

シャリアが鉄板を振るうと、部屋の横幅を余裕で一凪ぎしてしまいます。一つ前の部屋と違い、この隠し部屋はそれ程広い訳では有りません。

「ヒィッヒィィィっ!!なんなんだ!?なんなんだこの化物ぉぉ!?」

聞き苦しい喚き声を挙げるのは、今まさに相対する偽医師の物ですが、此方はいとも簡単にシャリアに押され、今にも武器を手放してしまいそうでした。

ガツガツと鉄板で、刃物ですら無い、正に鉄の板でギロチンを叩き返される偽医師には恐怖しか有りませんでした。

自分は医術と魔術を駆使して異形の身体を手に入れ、そしてたゆまぬ努力の結果、強靭な技術と膂力を手に入れたと言うのに、眼前の小娘は、小娘達は自分より遥かな医療技術、知識。そして自分より遥かな怪力と戦闘技術を振るい、憐れな自分を責め立てます。攻め立てます。

全く持ってる不公平です。自分は何も持ってないのに、全てを持ってるこの女性達が憎い。少し位は自分にも分けても良いのに、何もしないこの女性達が、裕福な者達が憎くて憎くて仕方ない。

だから奪ってただけなのに、自分は何も悪く無いのに攻め立てる世界が憎くて仕方ない。


そう思って居ると、遂にギロチンが手から離れて後方の石壁に突き刺さりました。


「くぞっくぞっくぞおおおおおおっ!!!プジャけんな!!なぜ奪う!?ワタシの物だ!!全部全部全部全部、全部!!!」


最早武器も何も持たず、涙と鼻水をぼたぼたと垂らして破れかぶれに飛び掛かる偽医師を憐れに思ったのか、シャリアは鉄板を捨て、呟きました。


「アンタが奪った人達にアンタの物なんて無いの。自分可愛さで好き勝手したいなら………」


武器を手放したシャリアを見て、偽医師はニチャァっと嗤い、白衣から取り出したメスを四本全ての手に持ち切り掛かります。ーーーが、背中から何やら榴弾銃の様な物を取り出したシャリアは…


「地獄で勝手にやってなさい!!」


特殊なゴムの様な弾丸を放つと、それは十字に開き、当たった瞬間バチンと音を立てて四本の腕を包む様に拘束してしまいました。偽医師は余りの衝撃に泡を吹いて気絶してしまいました。



ーーー

ーーーーー



暫くして、アリシアが目を醒ますと、拘束された医師と事後処理中のシャリアさん。そして自分の額に手を当てて看護をするアスクレピオス先生。周囲やこの集団を見張るマックスさんも居ますが、どうやら傍にあの山賊の頭領も居るみたいでした。気絶している様ですが。

そして何時の間にか洞窟から出ていて、森林の中の広場。恐らくアリシアがキャンプしていた場所に居ました。

わたし達の真ん中で焚き火の火がゆらゆらと揺らぎます。

すぐ側には馬車と馬達が居たので、恐らくシャリアさん達はこれであの洞窟を探し回ったのでしょう。


「ーーーあれ?シャリアさん?………わたしは…」


「あらアリシアちゃんお目覚め?でも悪いけど、すぐに寝て貰うわよん?」


シャリアさんの言葉にアリシアは震え上がりました。


「そっ…それは言う事を聞かなかったわたしを埋めるって事?」

「うんうん、アリシアちゃんがあたしをどう思ってるのかはよぉ〜〜〜く理解したわん?やって欲しいならしてあげても良いけど、そんな事したらシャルロットに嫌われちゃうわねぇ?」

ニタニタと狐の様な笑みを浮かべるシャリアさんには思わず懐かしさすら感じるのですが、身の危険を感じる方が上でした。


「姉御、アリシアさんは魔力を使い果たして弱ってるんすから、程々に。」

マックスさんのツッコミにゲシゲシと蹴って返すシャリアさんの姿は以前と同じく感じますが、それはきっとシャリアさんが大人だからなのだと思います。

きっと、未だに心の中でわだかまりを感じて不機嫌な態度になってしまう自分が子供なのだと思いました。


「アリシアちゃん、ご飯は食べられるかしらん?今なら優しいシャリアお姉さんが食べさせてあげるわよん?」

シャリアさんが優しい???何の冗談?????って言うかそれより気になる事が有ります。


「ううん、遠慮しとく。…それよりセシルは?…セシルはどうしたの…?」

わたし達ともシャリアさんとも行動を共にして居ない様に思えるあの漆黒の星蝕者の姿が見えない事に不安を抱くわたしですが、シャリアさんが沈黙した後、マックスさんが答えてくれました。


「彼は、………知人に会うと言って出て行ったっす。………何でもエルキュールさんの治療について心当たりがあるとかで、責任を感じてるんすかね?今はちょっと俺等にも動向は分からないんすよ。」


「でも、シャリアさんが責任を取らせたんじゃ…」

その言葉にシャリアさんはピクッと反応すると、顔を逸らします。


「………責任を取る事は大事よ?依頼者クライアントとの信頼関係を築く上で、責任とりました。はいおしまいって訳には行かないの。…だから、あの子にはあの子のやるべき事をさせてる訳よ。決してクビにした訳じゃ無いからね!勘違いし「なんでツンデレ?」


シャリアさんの捲し立てにツッコミを入れるわたしを見て、クスクスと笑うアスクレピオス先生は言いました。


「ははは、君達は実に愉快な一段だな。…うん、エルキュールさんの事は私がしっかりと責任を持とう。」




パチパチと爆ぜる火の粉の音を聞きながら、その日の夜は更けて行きました。

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