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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー首都を目指してー
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65.シャリアの動向


「やぁ、私の名前を騙る偽医師くん。…君を裁きに来たよ。」


砕けた入り口に佇む眠たげな眼の女性は、巨大な十字架を右手に持ってそう言いました。アリシアの前に立つ魔族と語る者へと

そして、その後ろからヒョコッと顔を出したのはアリシアがよく知る人物でした。


「あらぁ?なぁーんでアリシアちゃんが此処に居る訳ぇ?」


ツンツンとした黒髪の短髪に浅黒くしなやかな筋肉の付いた体躯の女性。首から二の腕と太腿までを覆う全身タイツ状の服の上からプロテクターや黒いコートを羽織ってる様です。笑顔ですが、とても怖い笑顔でした。

どうして商隊の主人であるシャリアさんが此処に居るのでしょうか?常に傍に携える様なマックスさんの姿が見えませんでした。

気になるのは此方の方です。



「いや、シャリアさんこそどうして…」

「あら?聞きたい聞きたいわよね?」


どうやら話したそうなシャリアさんでしたーーー



ーーー

ーーーーー



山賊の根城となっている洞窟を訪れる前日、シャリアはアリシアを睨め付けた後、その足で商業組合の窓口へと訪れて居ました。

勿論、自分達が囲うエルキュール=グラムバルクを治療出来る知識を得る為、或いはその技術を持つ医師を紹介して貰う為なのですが、他にも用事が有りました。

護衛のマックスさんに何やら荷物を持たせてやって来たシャリアは、開口一番に


「薬物治療と脳科学に特化した医師を紹介して頂戴。」



ーーー


シャリアが紹介されたのはアリシアと同じくアスクレピオス医師なのでしたが、その医師には最近様々な噂が飛び交って居ました。

なんでも、町外れにある崖付近に居住を構え、通りすがりの冒険者に声を掛けては数日間姿を眩まし、いざ戻って来たら衰弱した状態だったり、亡くなって居たり。はたまたそのまま行方知らずとなる事も在ったそうです。

ただ、富裕層の患者が訪れると、以前よりも更に若々しく活発になると言う怪しげな治療を行っているとの事です。


そしてもう一つの噂が、各町や村々を巡っては病人や怪我人に的確な治療を施して行く女神様の様な女性の話でした。

その女性は名乗りはしないものの巨大な十字架を背負って、確かな腕前で人々を治療して周り、時には病気や怪我の原因を根絶して周ってた様です。


どちらの噂も眉唾物の話で、前者は貧困な人々の嫉妬から歪められている可能性も有りますし、後者はそもそもその様な聖人みたいな人間が居る等とはシャリアには到底思えません。いえ、普通にそんな人間が居る訳が無いので、悪い噂が浮かび上がらないと言う事は何か汚い手段を用いて口封じを行なって居るのかも知れません。

しかしシャリアは取り敢えずの候補としてその情報を有り難く戴く事にしました。

その報酬として、シャリアはマックスに持たせて居た物を商業組合へと差し出しました。

中身はシャリアやエルキュールの胴程の大きさの魔石でした。

そして、シャリアはこう付け足しました。



「明後日までに船の手配を宜しくねん?シャリア商会で貸し切りで。一〜二週間くらい内には出るから。」



ーーー

ーーーーー


次にシャリアは、冒険者ギルドへと訪れて居ました。

暫くの間クエストボードを眺めて居ましたが、少し経って胸の冒険者プレートを見せ付けてギルド職員へと声を掛けました。


「ねぇねぇ美人なお姉さん?」

「はい?………あ、はい…どの様な御用でしょうか?」

美人に美人と言われて思わず戸惑う職員でしたが、気を取直して仕事モードへと切り替えます。

「いま、依頼書を纏めてたわよねん?どれか紹介して欲しいんだけど、例えば近隣の行方不明者関係で依頼とか無いかしら?」

シャリアの質問に、ギルド職員はペラペラと依頼書をめくると、幾つか有りました。

どれも依頼者は街中の物ばかりでした。ーーーが、そのいずれも山賊が絡む依頼ばかりで、医者の話は存在しませんでした。


「なるほどねん?ーーーこれは外れかしら?」


シャリアが訝しげに依頼書の内容を聞いていると、背後から近付く存在が声を掛けて来ました。


「すまないが、依頼はこちらで良いのかな?」

「あら?ごめんなさいねん?依頼をしたいならこっちで合ってるわよ。」

シャリアの言葉に軽く会釈をする女性は泥々の白衣を見に纏った十字架を背負う女性でした。


「んんん??もしかしてアナタ、アスクレピオスさん?」


シャリアの言葉に首を傾げる女性は、何とも思わぬ調子で

「そうだが、私は貴方と面識は無いはずだが。何故分かったのかね?」

そんな当然の質問に、シャリアはと言うと…

「え?マジ?まさか本当に十字架を背負ってるのね?いや、本物なら治療をお願いしたいんだけど。」

「見た所、君に治療は必要無さそうだ。此方も急ぎの「いやそんなお約束いらないわよぉ?」

アスクレピオスは言葉を遮られるも気にする様子でも無く続く言葉を待ちます。

「ちょーーーっと厄介な事に、やっばい薬を投与されちゃって昏睡状態って言うか、頭がやられちゃった身内が居るんだけど、アナタが本物のアスクレピオスさんなら力を貸して欲しいのよねん。」

「なるほど、取り敢えずその本人に会わせて貰えないだろうか?」

シャリアの言葉に即答で決めたアスクレピオス医師でした。





ーーー

ーーーーー



現在の仮宿へと戻ったシャリアとマックス、そして連れ立ったアスクレピオス医師でしたが、その場に居た医師の姿をした女性を見て、アスクレピオスは言います。


「なんだ、君が来ていたのか。患者さんの容体は?」

女性医師、ディアナは驚きを隠せません。

何故なら自分に依頼をし、そして自分の依頼を受けてくれた勇者が入れ違いの様な状態で求める医師を連れて来たからでした。ーーーしかし、当の勇者の姿が見えない事を不審に思ったディアナは答えます。

「はい、中和剤で体内の薬物を洗浄した所です。血中の薬物は安全域まで安定しましたが、脳の麻痺状態は未だ回復を見せません。」

アスクレピオスは何やらカリカリと紙に書きながら、その後も医師同士の専門用語を交えて会話を続けますが、シャリアには理解出来ません。

取り敢えず傍に居て、エルキュールの手を握りながら眠る真っ白な少女であり、妹であるシャルロットの頭を撫でながらも、赤くて茶色い何かが足りない事に疑問を抱きました。

因みにマックスは気付いてる様ですが、何も語らずに顔を逸らしてます。

アレは試したか?とかソレはどうだった?とか、そんな会話をしてる様子ですが、アスクレピオスは一通り会話を終えると、一呼吸置いて言いました。


「うん、必要な処置はほぼ済んでる様だ。しかし私の処置は容態を見て、体力が付いてる状態でないと危険だろう。………少し様子を見てから行わせて貰うよ。」


アスクレピオスの言葉にホッと一息吐いたディアナは、すぐに質問しました。

「あの、アスクレピオス先生。此方にいらっしゃるのはどなた様でしょうか?………アリシアさんは…いらっしゃらないのでしょうか?」

その質問に、アスクレピオスは首を傾げます。………対して、シャリアはワナワナと震えて居ました。


「………あーんの馬鹿娘はまた…!!」


その表情を悪鬼の如く歪ませるシャリアを他所にディアナは続けました。

「勇者様にアスクレピオス先生を探す様に依頼をしたのですが…そうですか、入れ違いでしたか…。」


「詳しく「詳しく聞かせて頂戴?」


シャリアがまた被せて来ました。アスクレピオスはそれでも素知らぬ表情で気にする様子を見せません。



ーーー

ーーーーー




ーーーアスクレピオスとシャリア、そしてマックスは一日の残りを情報収集に費やし、集めた情報から山賊が根城とする洞窟を絞り込んで、そして翌日にやって来ました。


三人が洞窟を監視するも、見張りの者も居なければ、対して警戒してる様子も見られないのがとても奇妙に感じました。

しかし、入り口には誰かが焚き火をしていた後の煙やら、イノシシか何かの獣の肉が干されていたり、生活感を感じるので、今もこの洞窟に居るのは間違いないと三人は判断します。



「しかし、本当に君達が私の依頼を引き受けてくれるとはね。感謝するよ。」

アスクレピオスの恭しい言葉に首を横に振りにまーんと笑うシャリアは、装備を整えた様子で答えました。

「良いのよん、あたしもセンセにはお世話になるワケだし、エルキュールちゃんの医療費が安く済むならWIN-WINってやつ?」

「私の偽物を裁かなくては、被害者は増え続けるだけだからね。それにこれ以上悪評が立つと迷惑だ。」

「ふーん?やっぱ慈善的な心境?人に優しく自分に厳しくって奴ぅ?」

後頭部で腕を組むシャリアの質問にアスクレピオスは

「いや?患者が居なければ私の腕が振るえないし、資金も入らない、そして何より技術も身に付かないだろう?とても迷惑だよ。」

「あっは!!ちょっとアナタの事気に入っちゃったわ!個人的にオトモダチになりたいわ、なりましょう?」

シャリアがとても大はしゃぎで喜ぶ横で、とても複雑そうに顔を顰めるマックスさんが居ました。



ーーーと、そうこうして居ると縦揺れの地響きと、内部が崩れる音が響いて、そして入り口からは粉塵が舞い、三人は唖然としてしまいました。



最初に口を開いたのはシャリアでした。



「え?これ、依頼達成でよくない?流石に死んだでしょ?中の人達。」

「いやいやいやいや姉御、流石にそりゃねぇっすよ。いや、土に埋もれて死なない人間は人間じゃないっすけど。」

ここに来て今回初台詞のマックスさんの華麗なツッコミを余所に、アスクレピオスは言いました。


「つまり、今は窮地でもあり、好機でもある訳だ。私は行くが、貴方がたはどうする?」

その言葉にシャリアは即答しました。

「行くに決まってるでしょう?マックス、アンタは入り口を固めてなさい。」

その言葉にマックスは一言、

「うっす。」



こうして、シャリアとアスクレピオスは落盤した箇所や危険な区域に気をつけて最奥まで到達しました。

そして、今に至ります。

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