63.洞窟内で爆発物を使用する際は計画的に
医師の捜索を試みた後、当ては無くとも自分自身を囮に使い、見事に山賊達のアジトである洞窟へとやって来たアリシア=バーネットは、アジト内を荒らし回り、遂には最奥部の山賊達の親玉が鎮座するであろう部屋の扉の前へと辿り着きました。
道中の山賊達の会話を聞くに、自分が探しているアスクレピオス先生は、この薄暗い洞窟内に居るだろうと当たりを付けたものの、部屋へと押し入る前に巨大な剣の先で少し豪華な扉が破壊されてしまいました。
勿論アリシアは無事ですが、狭い洞窟内で豪快に大剣を振るう愚か者を想像しては今回の戦闘の容易さを感じて気が大きくなってしまったのでしょう。
アリシアは高らかに宣言してしまいました。
「お前がお医者様を攫ったのは分かってる!!抵抗しないでサッサと引き渡しなさい!!」
それを聞いた山賊の頭領はニヤリと嫌味ったらしく口角を歪めると、アリシアに向かって言いました。
「へぇ、お嬢さん。俺様がお医者様を攫った証拠でもあんのかい?無けりゃ、根も葉も無い嘘で暴れ回られたこっちとしても落とし前ってもんを考えて貰わねぇとなぁ?」
頭領のその言葉に、アリシアは怯まず言いました。
「知るか!少なくとも誘拐に手を出してる時点で成敗対象だから!」
「くかかっ!違ぇねぇ。…仕方無ぇ、俺様の負けだ。好きに探して連れて行くと良いさ。」
ーーーと、頭領が言うと、武器を置いて道を譲ります。そんなやけにアッサリとした頭領の引き際に、アリシアは、
「えっ?本当?実はおじさん良い人なの?仲間の人達怪我させちゃってごめんね?」
こちらもアッサリ謝罪しちゃいました。両目を丸くして、頭からは花なんかを咲かせながら、アホの子全開の顔で言っちゃいました。
頭領の人もビックリです。アホの子全開過ぎて、自分が一度誘拐された事をすっかり忘れてる様な立ち振る舞いに若干引き気味です。
ーーー本音を言うなら、その姿が余りにも異質で、異様で、得体が知れなさ過ぎて、自分の策略を思わず忘れてしまいそうでしたが、気を引き締め直してアリシアを奥の部屋へと招きました。
部屋の中へと入ると、アリシアはその部屋の広さと、何本も立ち並ぶ石の柱に目が奪われました。
縦に十メートル、横に二十メートルは開かれてるかと思う程の室内には石柱で天井と床を崩落から守るために支えている様です。
所々に松明が備えられた燭台が並んでます。とても頼りないけど、薄暗いこの洞窟内ではそれなりに頼れる照明です。無いと真っ暗闇で何も見えませんから。
この室内が、何のために開かれてるかの答えはすぐ後ろからやって来ました。
先程の巨大な剣の分厚い板の刃がアリシアへと迫って居たからです。
しかしこれもアリシアには想定済みだった様で、いとも容易く避けて離れました。
「まぁそんな簡単には斬らせてくれねぇわな?」
山賊の頭領が武器を改めて構えると、元より高い二メートル近い身長と剣の長さ凡そ二メートル半。自分の身長より長く分厚い得物を軽々と振り回すその力量は、間違いなく強者の物でしょう。
対してアリシアは、鞄は奪われ杖も恐らく取り上げられてます。戦う術が無い様に見えます。
杖を持つと言う事は魔法職なのでしょう。魔法職であれば近接戦闘は苦手な筈ですが、曲がりなりにも自分の部下達を蹴散らしてここまでやって来たと言う事は、それなりに格闘技の鍛錬を積んでるのでしょう。ーとはいえ、女性で、子供で、しかも魔法職の癖に少し闘える程度の少女相手に叩きのめされた部下達のなんと不甲斐ない事。
頭領はこれが終わったら、不甲斐ない部下供を鍛え直す事を真剣に考えました。
「ッくぞオラァァァアアアアア!!!!」
気合いと共に大振りの横薙ぎをアリシアはしゃがんで避けました。しかしそこを無音の蹴足が飛来し、アリシアは顔面を蹴り転がされました。
「ムギュっ!」
ころころと後ろへ転がり逃れた自身の股先には追撃の縦振りの剣先が地面を穿ってました。自分から転がって無かったら今頃は真っ二つでした。
「ひえっ!」
「おいおい嬢ちゃん、まだまだここからだぜ?」
頭領が言うと同時に天井がアリシアへと降り注ぎました。先程の横薙ぎで切り裂いた柱が崩れ、一部が崩壊した様です。岩や瓦礫、土砂にアリシアは埋もれて行きます。
「むぎっいい…!!」
「はっ?終わりかよ?簡単に死んでくれてんじゃねーぞ!?」
頭領は瓦礫へと大剣を突き立てました。ーーーが、人を刺した感触も無ければ防がれてる感覚も有りませんでした。
背後から敵意を感じた頭領は、背面へと回し蹴りを放ちました。ーーーしかし、その場に居た白い長髪の少女のハイキックによって防がれてしまいました。
「………は?誰だテメェ…」
「分からない?今まで戦ってたのに…」
煌煌と輝く真紅の瞳に吸い寄せられる様な感覚に陥った頭領は理解しました。
「テメェ、さっきの嬢ちゃんか。…そりゃ一体どんな手品だ?」
「教えるか………っての!!」
アリシアが地面を蹴り、後方へと跳ぶと、幾つか拾っておいた瓦礫を蹴って頭領へと飛ばしました。そしてそのまま跳躍して飛び掛かります。
アリシアが蹴った瓦礫を大剣の腹で嫌な金属音を立てて払い落とすと、瓦礫を蹴り飛ばした少女に視線を戻しますが、既に居ません。この場合、この隙を逃さず攻撃をするなら、天井が高い事を利用して上から攻めるでしょう。
「見え見えなんだよ!!」
例に漏れず、常套手段として頭上からの攻撃を放ってしまったアリシアは、今度こそ大剣の突きを受けました。
受けたかに見えたのですが、アリシアは発動のタイミングを読んだ防御魔法でその攻撃を防ぎ、交差気味に頭領の肩に踵落としを放ちました。
石材の床すら砕くアリシアの勇者モードの蹴りを受けて尚、頭領はピンピンとして武器を振り上げました。
「もういい、死ね」
一気に武器を振り落とす頭領に、アリシアはここまでかと諦めました。
諦めて紅く輝く剣を抜刀し、そして大剣を受け止めました。細身の剣で、いとも容易くです。
「ただの人間には使いたく無かったんだけど、そうも言ってられないよね。」
アリシアがその剣に魔力を込めると、剣は紅く強く輝きます。
「わたしは勇者、勇者アリシアだ!」
ー
ーーー
ーーーーー
大剣と紅い剣の打ち合いは長く長く続きました。
紅い剣が大剣と打ち合う度に、大剣は徐々にひしゃげ、曲がり、刀身が放つ熱量で段々と溶けて砕かれて行きます。
「おいおいおいおい化物かよテメェ!!なんでそんな細いのに負けてんだ?あぁ!?」
段々と武器が武器と言う役割を為さなくなっていく姿に、頭領は焦り始めます。
逆にアリシアは余裕を持って戦ってますが、実は内心かなり焦ってます。ーーーと言うのも。
「このまま続けるとヤバい!!本気でヤバい!!魔力と気力が切れると絶対気絶しちゃう!!早く!!早く決めないと!!」
そう心の中で思いながらも、絶対に表情には出さずに的確に、冷静に攻撃を繰り返し続けます。
そして遂に大剣を半分未満のサイズに削り切った頃、頭領は武器を捨てて言いました。
「分かった嬢ちゃん、これ以上はこっちがヤベェ。…ここは取引と行こうぜ?」
先程自分を騙した事を棚に上げて、頭領は交渉に入りました。………それを聞いたアリシアはチャンスとばかりに変身を解いて、話を聞きました。
「とりあえず聞く!それから考えるから言ってみてよ。」
山賊の頭領は少女の判断が甘さ故か、それとも策略か一瞬迷いましたが、一つの結論に至りました。
「さっきの変身は時間制限が在る」
………と。
そして頭領は再びニヤリと下卑た笑みを浮かべて背中に手を回しました。
「いやなぁお嬢ちゃん。俺様もこの道長くてなぁ?嬢ちゃんみたいな奴を見てりゃ分かる事も在るのよ。」
「なに?取引なんでしょう?早く条件を言ってよ。」
そうして頭領が背中から取り出したのは、H型の鉄の枠に短剣が取り付けられたナックルガードの様な武器。ジャマダハルでした。
「クソ甘ぇ理想に生きてる奴ぁ、クソ汚ねぇ死に方しか出来ねぇって事さ!!」
その特殊な剣先でアリシアを突き殺そうとしましたが、アリシアは冷たく見据えると、防御魔法で生まれた魔法陣で受け止め、更には頭領の全身を囲みました。
「ごめんね?ちょっと火遊びをして貰うね?」
アリシアが言うと、例の花火から抽出した火薬を四方に浮かばせ、魔法陣の中に押し込めました。
「………あっ!?テメェ!?何してやがっ」
「おやすみ!」
火種として、室内の松明をポイっと火薬に浴びせてあげると、室内を軽く揺るがす程度の爆発が起こりました。
当然音は反響し、逃げ場の少ない衝撃波と熱量の行方は、魔法陣内部でグルグルと渦巻き、隙間から出て行った分を除くと、殆どを頭領が受け止めた事を意味します。
そうしてボロボロになった頭領を見て、アリシアは…
「うわっ、ごめん。やり過ぎた!」
そう言うと同時に、天井の一角が再び崩れ落ちたのでした。




