60.ファルネリアの冒険者ギルド
ーーーーー
ーーー
アリシアとシャルロットは首都の冒険者ギルドへとやって来ました。
木製の扉を開くと、中の様子はと言いますと、今現在が朝と言う事もあり、数多くの冒険者達で賑わってました。筋骨隆々な戦士にヒョロッとした細身な盗賊風な男、女騎士風な女性も居れば男女の魔法使い、ガチガチに武具で身を固めた商人風な男。アリシア達と歳の近く見える神官風な女性も居れば、まるで魔人の様な禍々しい鎧に身を包んだ者も居ました。
ある人は冒険者用に依頼書が張り出されてる板、通称クエストボードと睨めっこをし、ある人達は今まさに徒党を組んで冒険に出ようと話し合い、ある人は朝からお酒を飲んでたり、またある人は受付のお姉さんと話をしてたり、その後ろで長話に苛立つ他の冒険者が居たり。
受付の窓口にはギルド職員と見られる歳の若いお姉さんが居ました。綺麗系の人とかわいい系の二人組ですが、奥にも沢山の職員がいらっしゃるので、多人数による経営なのでしょう。
アリシアは勇者で、こう言った場には慣れてる筈なのですが、実は余り慣れて無かったりします。
………と言うのも、基本的にアリシアにはエルキュールやシャルロット以外の友人が居ません。ぼっちです。
故郷では基本的にギルドに寄るより修行三昧、依頼を受けるよりも野山での野営生活重視で、錬金術で十分生活出来てました。
たまに冒険者ギルドに顔を出しても、特に誰とも組む事も無く、周囲からはソロ専の勇猛かつクールで小さな勇者様とか呼ばれてたりしましたが、本当の所は自分から仲間に誘う勇気がないだけです。勇者の称号台無しです。
それこそ、以前 植物人族の集落に行く際に、例の二人組に話し掛ける事が出来た事ですら彼女にとっては勇気が必要な行為でした。…まぁ、あの時はセシルへの怒りで色々と吹っ切れてただけなのですが。
シャリア商会の事はそもそもアレです。師匠の紹介だったので、後は流れで何とかなりました。シャリアには見抜かれてた気がしますが。
そんな自分の実情をよりにもよって自分を勇気付けて、頼りにしてくれてるシャルロットには見せられません。
ーーーと、言う訳で今回も虚勢を張ります。
「シャルちゃん、いい?こう言う所では弱気になっちゃダメだよ?弱気になってると、舐められて足元を見られたりするから。」
ーーーと、アリシアは言いますが、シャルロットは
「あしもと?」
首を傾げたままアリシアの手を握り続けます。そしてアリシアは色々と教えてました。
そんなほのぼのとした光景を見た冒険者達は
「なんだなんだ?依頼者の子供か?」
「あらあら、かわいいわねぇ」
「余り似てないけど、姉妹かなんかか?」
「村でも魔物に追われたのかな?可哀相に…」
「よし決めた、俺があの子達の依頼を受けてやる!!」
「俺も乗ったぜ!あんな小さな子達にヒデェ事しやがる魔物共なんか俺等がぶっ倒してやる!」
「私で宜しければ、あの子達の力になりたいです…」
「ゴブリンか?」
「いや、ゴブリンは友好的だろ!」
…等と、色々と言ってますが、もしかして自分は勇者として名前が知られてないのでしょうか?冒険者を示す表彰も着けてますのに。
物凄く気落ちしながらも、本来の目的を思い出したアリシアは、空いてる受付へと向かいました。
「すみません、お聞きしたい事があります。」
丁寧なアリシアの言葉に、受付のお姉さんは冒険者の表彰を付けた冒険者にも関わらず、クエストボードも見ずに自分の元へとやって来た少女達に依頼かと思いましたが、
「はい、………ええっと、あら?貴女は確か………勇者様?」
その言葉に周囲は響めきました。
無理も有りません。何故ならアリシアは見た目だけならシャルロットと年頃も一つ二つしか違わなく見える程小さいのです。実際は三つしか違わないのですが。もしもこの場にエルキュールが居れば、十八位の姉が、十二歳程のアリシアと、十歳程のシャルロットを引き連れてる様に見えたでしょう。
そんな自分の幼児体型を呪いながらもアリシアは受付のお姉さんに話を続けました。
「はい、勇者として情報を得たいのですが…個室を用意して頂けますか?」
ーーーと、アリシアが言うと個室へと案内されました。
シャルロットは冒険者でも、ましてや勇者でも無いので入れません。お留守番です。………が、ここは同年代位の神官の女性に頼んで預けました。
神官の女性も快く受け入れてくれて有難い話です。
シャルロットには不安気な視線を向けられましたのですが。
ーーー普通に依頼をするので在れば、冒険者で在ろうと一般人で在ろうと、普通に受付で依頼を済まし、依頼金や報酬を先払いし、直接なり依頼書なりで仕事として受けて貰う流れになるのですが。
個室で特別な措置を得られるのは正に勇者の特権です。
個室は完全防音で、魔法による処置で更に厳重に防音措置、探知、人払いの魔術まで施されてます。基本的にアリシアとギルド職員以外の立ち入りは出来ません。
流石に王室等の重要な機密情報は得られたりしませんが、外国のゴシップだったり、王室や政府自体が発行しようとしてる情報を先駆けて得られたり、一般的な冒険者には与えられない依頼や情報等を回して貰えたりと、高待遇をして貰えたりします。
最も、それらを解決するのは勇者自身の力量次第なので、あくまでも情報だけなのですが。
しかしそれでも今のアリシアには十二分に有難い権利なのでした。
「実は、医者を探してて…この街の住人情報と、医者を教えて下さい。」
アリシアの言葉を聞いた女性のギルド職員は、直ちに資料が詰まったオーブを取り出しました。オーブと言うのは水晶玉の様な物で、起動用の言語を用いる事で、光のキーボードの様な物と薄透明な光のモニターが宙に浮きます。あからさまにオーバーテクノロジーです。アリシアも不思議な光景を眺める様にアホの子面を晒してます。
実はこれもまた星蝕者から得られた技術の一部なのですが、そこは追々語る事としまして。
ギルド職員はアリシアへと質問しました。
「どの様なお医者様を探してますか?患者様の症状をお教え下さい。」
そう聞かれて、アリシアは一瞬言い澱みますが、気持ちをグッと抑えて答えます。
「親友が、昏睡薬を小瓶一杯飲んで…昏睡状態になってしまいました。…薬の除去が出来るお医者さんを教えて下さい…!」
小さく震えて、今にも泣きそうな勇者様の姿に思わず胸が締め付けられる気がしたこの女性職員は、疾く情報を纏め上げ、いくつかの候補を絞り、更にはアリシアが言う情報から必要な技能を持つで在ろう人物を探し当てました。
「除去…では無いのですが、対処方法を知る人物でしたら検索出来ました。…此方をどうぞ。」
一枚の羊皮紙に情報を纏め上げ、紹介状まで付けてくれた職員さんに、アリシアは明るい顔で言います。
「有難うございます!!…あの、お代は幾らでしょうか?」
「はい、銀貨百枚です。」
職員さんの貴重な時間を戴いた上に紹介状まで認めて貰って銀貨百枚は安すぎます。相場なら金貨一枚程。銀貨にして千枚程はするだろうと予想してましたからアリシアは困惑してしまいました。
「ふふふ、私は勇者様のファンですから。かわいい勇者様のお力になれるなら本望です。」
「えっ…でも、お仕事の差し支えになるんじゃ…」
アリシアは思わず恐る恐る聞いてしまいましたが、
「では、依頼を沢山受けて下さい。人々の生活を守る事が我々冒険者ギルドへの…人々への貢献と言う事で。」
言ってる事に合理性は有りませんが、後押ししてくれてる気持ちは伝わりました。…そして暖かく柔らかなこの女性の微笑みはまるでエルキュールの様でした。
アリシアは思わず職員さんを抱き締めてお礼を言いました。
「ありがとう!ありがとう!お姉さん……、わたし…絶対に救うから…!」
女性職員はアリシアの剣呑な決意に少し戸惑いましたが、柔らかく受け止め、アリシアの背中を撫でて言いました。
「はい、勇者様の成功をお祈りしてます。」
グスグス泣くアリシアは、グッと涙を拭うと、決意を新たにして立ち上がりました。
ー
ーーー
ーーーーー
「アリシアちゃん!」
とたた…と、嬉しそうに駆け寄るシャルロットをアリシアは抱き留めると、女性神官に向けてお礼を言いました。
「あの、仲間を見ててくれて有難うございます。」
「いえ、私も勇者様にお仕えする事を夢見る身ですから。…とは言え、私にも大切な仲間が居ますし、勇者様の仲間にはなれずとも、せめてものお力になれたなら本望です。」
そんな会話を交わすと、後ろに控える屈強な鎧姿の男性を見て、「この二人もお互いに信頼し合う仲間なんだなぁ」…と、
「そのお気持ちだけでとても嬉しいです!よい旅を!」
「ありがとうございます、勇者様方の旅に神のご加護を。」
そんな会話をして、アリシアはシャルロットと手を繋いでギルドを後にしました。
目的地への道中、シャルロットはアリシアに問い掛けます。
「アリシアちゃん…なんだかげんきになった?」
シャルロットの問い掛けに、アリシアは笑顔で小さく返しました。
「うん、…世界には優しい人だって沢山居るんだ。…どんな悪意にも負けるもんか。」
その言葉は、ウィスタリアの青空に溶ける様でした。




