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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー首都を目指してー
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56.覚醒のシャルロット

ーーーー私の右脚の膝から下が切り落とされた時、二人の顔がゆっくりと見えました。

アリシアの表情は恐怖から解き放たれ、使命感に満ちた物から驚愕へと変わり、脳が理解出来て無いのか理解したく無いのか少し間を置いて、その後悲しい表情に変わったかと思うと、私の苦痛に満ちた表情を見たせいか、怒りや憎しみに満ちた表情へと変わってギッと後ろへと…元凶へと視線を動かしました。


比較的近くに居たシャルロットちゃんは、やはり恐怖したまま私へと飛び掛かりましたが、一瞬躊躇ったお陰で私に触れる前に私の脚だけが切り落とされました。そして何が起きたか分からないまま私に飛び付くと、バランスを崩して二人で倒れ込みました。少し間を置いて私の苦悶に満ちた表情に気付いたシャルロットちゃんは、私の脚を見て叫び声を上げてしまいました。何をして良いか分からずパニックに陥ったシャルロットちゃんは、私の脚に両手を当てて血を止めようとしましたが、私がこれに苦痛で声にならない叫び声を上げると、シャルロットちゃんは更にパニックに陥りよく分からない事を叫び始めました。


私は………頭が真っ白になってしまいました。





痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて




報復………という言葉が頭に浮かびました。

セシルさんは元ジーリの腕を奪ってます。

…名も知らない商会の中年男性もまた、アリシアかセシルさんに腕を奪われたのでしょう。

故に、二人の代わりに私がその罰を受けました。

ですからきっとこれは二人による報復なのです。


意識が戻った私の視界に映ったのは、必死に回復魔法をかけ続けるシャルロットちゃんの姿と、殺気を全身に纏わせながらも必死に防御魔法に徹するアリシア。そして、何やら頭のおかしい表情?で左手を振り続ける元ジーリの様子でした。

切り落とされた私の脚は、いつの間にか元ジーリの手元にありました。

切り口を愛おし気に舐めるその姿には吐き気すらします。

しかしながら、あわよくばと攻撃を辞めないのは、彼が糸使いだからでしょうか?見えない糸による攻撃を続けますが、そこはアリシアも勇者です。感覚を鋭く研ぎ澄まし、前から上から後ろから、そして不意を突いた下からの攻撃を捌き続けます。


私は痛みを堪え切れず、のたうち回る様に暴れて暴れて暴れて吐瀉して怒鳴って喚いて、涙や血や汚物に塗れて、それでもシャルロットちゃんに抱き締められて、治療を受ける事すら苦痛で、苦痛で痛い痛い痛い痛い!!

恨むべきか、泣くべきか、怒るべきか、………いっそ楽になるべきか。


とにかく色んな感情がグルグルと頭の中を駆け回りました。


そんな私を見て居られなかった二人は、いっそ気絶させるべきだと判断して、止血だけを済ませてアリシアの鞄から取り出した昏睡薬を私に飲ませました。

そうして私の意識は途絶えました。



ーーー

ーーーーー



アリシアの攻防は、未だに収まりません。唯一の救いと言えば、何故かこれ程までに騒ぎを起こしているにも関わらず、星蝕者は一切こちらに見向きもしない事でした。

セシルが全力で抑え込んでくれてるお陰でしょうか?

しかしそちらを気にしてる余裕はどうやら無い様です。ジーリと呼ばれたあの外道が、わたしの大切なエルキュールの脚を切り落とし、あまつさえ変態的に切り口を舐めたり、ふくらはぎを撫で回したり、穢らわしい程に汚い愛部を続けていました。

あからさまな挑発でした。わたしの怒りを引き立てるには十分過ぎる程で、今すぐにでも飛び付いて、その汚い首を切り落としたい衝動に駆られました。

しかし、それをすると今度は後ろからエルキュールとシャルちゃんに糸による攻撃が降り掛かります。

ですので極めて冷静に…冷静に…。怒りを心の底に落とし込みながら、器用に攻撃を続けるあの外道から防御魔法で捌き続けるしか有りませんでした。

勇者モードを早めに解いたお陰で魔力に余裕は有ります。しばらくは捌き続けられますが、それでもいつまでも…と言う訳にも行きません。


エルキュールが昏睡した所で、シャルちゃんが何やら詠唱を始めました。

わたしはそれを気にする余裕も無く、ただただ守りに徹し続けます。


ーーーーーシャルちゃんの詠唱が終わったかと思うと、彼女の身体から急激な冷気が立ち込め始めました。



「アリシアちゃん…エルおねえちゃん…ごめんなさい………シャル、もうがまんできない…」


シャルちゃんの瞳は恐怖と悲しみと、怒りに彩られてました。



シャルちゃんがエルキュールの脚に吐息を吐き掛けると、傷口が一瞬で凍り付き、血液の流出が止まりました。

わたしはその様子に驚きましたが、外道の攻撃を捌く事で精一杯で、何も言えません。


「ゲヒャヒャヒャヒャ!!細胞が死んだらもうくっ付かねぇわよ?テメェ等面白ぇ事しやがんなぁ!?」

外道が聞き苦しい声で喚きます。まるで蟲のうごめきを感じさせる様な不快な声です。

「いたくてつらいおもいは…シャルだけでいいの。……ぜったいゆるさない」

「ゆるさないィィィ???許されないのはアナタ達の命よ?とっとと往ねよゴミ豚共がぁぁぁ!!!」

実に楽しそうに喚く蟲です。耳障りで不快です。

「しししししシャルちゃん、ななな何を…」

急激な冷気の所為で、歯の根が合いません。そんなわたしにシャルちゃんは「ごめんね…」とだけ囁くと、一言呟きました。

『こーるどぶれす』


《コールドブレス》

口から吐き出す冷気と波動を織り交ぜた吐息で、前方へと局所冷却の様な凍結を巻き起こす魔法…または生体器官による能力なのですが、シャルちゃんが使うこれは口からでは無く、わたしの防御魔法の外から放ってました。

本来、小型の魔物が使えば一〜二メートル程、山の様に大きな竜が使えば二十メートル程も凍り付かせる様な力ですが、シャルちゃんの場合、小さな身体で二十メートル程も凍結させる威力を放ちました。

これは基本的には魔物が得意とする技能なのですが、シャルちゃんは魔法として、無詠唱で行なってます。

cold breath 凍りの息なのですが、シャルちゃんの場合、 called bless 神聖な呼び掛けなのかも知れません。

何故なら、彼女の身体から氷を司る守護竜様の気配を感じさせるからです。

真っ白な雪の様なシャルちゃんを、より一層引き立たせるような彼女らしい能力です。


そんなシャルちゃんの底力をマジマジと見せ付けられたわたしは、思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまいました。

「シャル………ちゃん?これ…どういう…」

わたしは驚愕を隠し切れずに問い掛けましたが、寒さで思考が纏まりません。

「………きらいにならないで。……たすけたいだけだから…」

シャルちゃんの言葉に、様々な嫌な思いをして来た事だけを察したわたしは、ただただ静かに頷いて、改めて外道に視線を戻すと………

「クソっクソっ!こんな所にも標が有ったのかよ!!クソっ!!……あー、今回は無理だわ、ウチだけじゃあな…。………テメェ等、次は絶対エルキュールさんも、そのガキも貰って行くからよぉ…。其れまで精々殺されない様に気を付けなさい?……じゃあまたねー!ゲハハはははははははハハハ」


一方的で、自分勝手で、傲岸不遜で、最低な外道らしい引き際でした。

何より最悪なのは、エルキュールの脚を持って帰った事でした。


「あの……外道………!!」

わたしは怒りで視界が真っ赤です。許せません。わたしの大切なエルキュールの脚を!脚を!脚を!

………わたしの怒りを冷ましてくれたのはシャルちゃんの抱擁でした。

「アリシアちゃん…だめ、…エルおねえちゃんがしんじゃう…」

いつの間に解いたのか、冷気は巻き起こってませんでしたが、ひんやりとしたその身体は、その言葉はわたしをこの場に繫ぎ止めるのに十分でした。


…わたしは、わたしは…


またエルキュールを守れませんでした。



ーーー

ーーーーー




正気に戻ったわたしが周囲の状況を確認すると、周囲に人の気配は有りませんでした。

わたし達を囲んでいた男達も、気絶させた暗殺者達も、あの中年男性さえも、全てが元から居なかったかの様に死体すら有りません。不気味な程に静かなのです。

………いえ、闇の中で光も闇も拒絶する様な黒い線だけが静かに生まれては消えて、生まれては消えてを繰り返していました。

おそらくその正体はセシルとあの星蝕者のものでしょう。

わたしは彼の正体が分からなくなりました。一体今まで何を考えて、何を感じて、何の目的で、わたし達と共に過ごしていたのかさえ、全く理解出来なくなってしまいました。

それ程迄に、あの姿は異形で、異常で、禍々しくて、………三年前のあの時からずっと、憎しみを募らせて来た物そのものなのでした。


「無理だよ…セシル…。受け入れられないよ…」

わたしの力無い言葉は、闇に溶ける様に吸い込まれて行きました。



しかし、わたしの意識は嫌でも現実に縛り付けられました。

シャルちゃんの鋭い叫び声が、わたしの耳に響いたからです。

「アリシアちゃん!!みて!!…エルおねえちゃんが…!!おねえちゃんが!!」


シャルちゃんの声に振り返れば、わたしは驚愕してしまいました。今回だけでどれ程心臓に負担を掛けた事でしょうか?

とにかくわたしには受け入れ難い事が起きてました。




切り落とされた筈のエルキュールの脚が、膝から先が…

徐々に生えて来ていました。





わたしの意識は耐え切れず、そこで途絶えてしまいました。

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