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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー首都を目指してー
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55.二対の星蝕者



「ーーーはっ!?ギャフっ!!」

「ちょっーーまっガ!!」

「かっーーーー神よっ!!」



深い闇に包まれた森林の広場で、周囲に木霊するのは野太い男性達の声でした。どれもこれも現実に対する悲鳴や何かに縋る様な嘆きの声ばかりでした。

私、エルキュール=グラムバルクは現在、かつてジーリと名乗りドワーフの職人の元へ潜入し、認識阻害の魔法を使って過去から現在までドワーフの職人さんや私達一行を騙して来た男性に寄って囚われ身となってます。具体的に言うと彼が操る糸で編み出した投網に囚われ、更には細かな糸を全身疎らに縛られてます。

この男性が操る糸は、分厚い岩盤すら容易く切り裂く程の綱糸ですので、下手に動けば簡単にバラバラにされてしまうでしょう。

はっきり言って窮地ピンチです。なんとか仮面様が現れてくれないかと切に願います。

私の大切な三人と仲間達はと言いますと、私があっさり囚われの身となってしまった所為で、彼が結託してたらしい中年男性、名の知れない商会の主人と一行に寄って拘束されてます。

ーーーー全て私の所為でした。

私がこうも役立たずな所為で皆さんを危険な目に遭わせてしまったのです。

私は矢張り世間知らずで、英雄の娘が無防備に旅に出るだなんて事をすれば、こう言う事態になる事を認識してませんでした。

心の底から後悔した時の事でした。………今現在起こってる悲鳴の元凶が現れたのは。



私達の中央に突如出現し、猛威と暴力を周囲に振り撒く存在。牛頭人体の化物。ミノタウルスは、出現と同時に認識した生命総てを屠る事こそが自分の存在意義だと言わんばかりに斧と剣が一体になった様な武器、斧剣を振るいます。

………いえ、普通のミノタウルスと違う点が幾つか存在しました。それはまず、身体全体が真っ白で、所々が機械や鎧と一体化していて、そのまま産み出されて来たかの様に自然に融合して居るかの様な歪さ。更には全身を走る真っ黒い線が目を引きます。

両足は恐ろしい事に、生物的な脚では無く、四脚のロボットのような、アメンボ型です。先程説明した斧剣は右腕と融合していました。

顔にはバイザーの様な、電子ゴーグルの様な物が着いており、真ん中に黒い線と、モノアイカメラの様な真っ赤な光体が煌々と輝いてました。

その真っ赤な光体を左右へとギョロギョロ動かすだけで、舐めます様に見られている様に感じて気味が悪いです。

そんな怪物ですが、最初に命を奪った後、次へ次へと躊躇いも無く襲い掛かる姿は、怒りも憎しみも、殺意と言った感情さえも感じさせない為、より一層不気味さを引き立たせます。まるでそうする事が決められた作業の様に殺戮して周ってました。


この化物の出現で拘束が解かれた漆黒の剣士、セシルさんが言いました。


時壊片じかいへん………いや、ここでは星蝕者せいしょくしゃだったか…。差し詰めコード・ミノタウロスと言った所か」


ーーーじかいへん??次回編?意味が分かりませんが、星蝕者でしたか。

取り敢えず私達がより一層の窮地に立たされた事だけは伝わりました。…何故なら、この後に及んで尚、私の拘束が解けないからです。

元ジーリが言いました。

「クソっ!!なんでこうも邪魔ばかり入りやがるんだよ!!これも全部守護竜共の所為だ!!クソクソクソクソ!!!」

意味の分からない事を叫びながら地団駄を踏んでます。ーーーーしかし冷静さを取り戻そうとしてるのか、剥き出しの汚い物をしまいながら言いました。

「アナタ達、せめてウチの為に時間を稼ぎなさい?良いわね…?」

そう言って私を伴いこの場を去ろうとしましたが、それは叶いませんでした。何故なら…

「舞台を観て支払い無しとは無粋な奴だ。遠慮せず静聴するがいい…」

セシルさんが私の拘束をいつの間にか解いてくれてました。…本当にどうやったのでしょうか?

「はっ!?なんで!?どうしてウチの綱糸が!?ふざけんなよクソガキがァァァッ!!」

汚く吠える元ジーリへとセシルさんが一言で返しました。

「同じ糸同士で千切れるのならば、それ以上の繊維ならどうなる?」

その言葉に、この惨状の最中、拘束から解かれた赤い少女、アリシア=バーネットが言いました。

「まさか………鎖だけじゃなくて糸も操れるの!?」

彼女の質問に、セシルさんが答えました。

「寧ろ此方の方が扱い慣れてる。………俺は暗器使いだ。」

セシルさんの頼もしい言葉に安堵する私達とは裏腹に、元ジーリと中年男性は苛立ちを隠し切れませんでした。


「おい!あのガキがあんな使い手だなんて聞いて無いぞ!?」

「うるせぇな!ウチだってここまでとは思って無かったのよ!!………クソッ、やけに従順だと思ったら、こう言う事かよ!!」

「ふざけるな!!アンタが確実だと言うから作戦に乗ってやればこのザマじゃないか!!」


情け無い様子で罵り合い罵倒し合う二人は無視して、後はシャルロットちゃんの安否だけが気になります。

何故なら、ミノタウロスの殺戮は未だ終わりを見せないからです。

「……エルおねえちゃん…アリシアちゃん…」

シャルロットちゃんの声が聞こえてきました。

「シャ…」

私が叫ぼうとすると、口を手の平で抑えられました。………その正体は赤く無くなったアリシアでした。

「静かに、…シャルちゃんは大丈夫。セシルが向かったから。」

アリシアの言葉に安堵しましたが、半裸状態の彼女を見ると、怒りと絶望と、自分自身の様々な弱さに対する憎しみが湧いて来ました。

私の所為でこんな目に遭わせてしまったのです。…遣る瀬無さが込み上げて来ますが、アリシアは言いました。

「大丈夫、まだ手は出されて無いから。綺麗なままだから。」

ーーー心を読まれたみたいで恥ずかしくなりました。


………程無くして、セシルさんにより救出されたシャルロットちゃんが私達の元へ無事な姿で届くと、セシルさんが指示を出しました。

「アリシア嬢は全力で防御魔法を張れ。全面に張ると防御が薄くなり突破され易くなる。必ず一方集中だ。下からの襲撃を忘れるな。」

「シャルロット、いざとなったら…分かるな?惜しまず使え、二人の生命はお前に掛かってる。」

「エルキュール、お前は………二人を信じろ。………そして」




「今から俺の総てを見てろ。俺がお前のしるべだ…」




そう指示すると、彼の足元から赤と黒の奔流が激しく湧き上がりました。黒く黒く、漆黒の闇すらも真っ黒に塗り潰し、赤く赤く赤黒く、血糊の赤黒さを連想させるその赤は、怖気すら催す様な不安感を解き放つ波動を噴出させました。

その漆黒の赤黒い波動に包み込まれた彼の姿は、次第に闇が全身に纏わりつき、全身を刺々しく、他人を拒絶する様に、手足の先から首元や頰と耳迄を漆黒と赤の鎧姿へと変化していました。

違う所が有るとするなら、大きく開かれた胸元、そこから上に伸びる首筋から顔全体が陶器のように真っ白で、色素が抜けてます。

横に流した黒い髪も、今では真ん中分けに変化した前髪から後ろ迄の半分が真っ白に変化してます。

そして、彼の両眼は普段より鋭く、この世の総てを憎悪している様で、そうでは無いかの様に感情が固定されていて、怒りの表情を貼り付けられていて………彼の黒目は赤黒く輝いていました。


…そんなセシルさんの姿を見て、アリシアは青い顔で呟きました。三年前のあの日の様に。



「あっ……そんな……セシル…セシルが………」




星蝕者せいしょくしゃだなんて…」



ーーーーー

ーーーーーーー



セシルさんの両手には、一振りの巨大な片刃の剣が握られていました。勿論、その武器すら総ての色を拒絶する様に漆黒でした。

刃の部分が赤黒く輝いているのはまるで今の彼の瞳の様で、おぞましさを感じさせます。

そんな彼の一挙手一投足に、私はまるで心臓を鷲掴みにされてるかの様に感じて吐き気すら催しました。

視界の外で暴れ周っているミノタウロスの星蝕者なんか比べ物にならない程の圧力です。いつ此方に襲い掛かって来るかと嫌な想像しか頭に浮かびません。

其れ程迄に、この感情を感じさせない何かが放つ存在感は忌避したくなる物なのでした。


私が耐え切れずに胃から込み上げて来た物を漏らしそうになると、彼は言いました。


「おなご達よ、心配するな。俺は俺だ。今から貴公等の為に剣を執ろう。」


何時もの調子で語るセシルさんの両眼には、今度は彼自身の意志を感じさせ、その言葉からは安心感を与えてくれました。

そして彼は姿勢を低く保ちしゃがみ込むと、ロケットの噴射の様に豪快に、疾く鋭く彼のミノタウロスへと飛び掛かりました。

私は安心感と不安感が等倍になった頃、アリシアとシャルロットちゃんの様子を見てみると、二人もまた恐ろしさで震え固まってた様子でした。

しかし、二人もまた私や互いの姿を確認すると、すぐに私の側へとやって来ましたが、少し遅かったです。





ーーーーそう、少しだけ遅かったのでした。





ーーーー二人が私の側へと寄ると同時に、私の右脚の膝から下がザクリと嫌な音を立てて切断されました。

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