50.四人旅
色々とグロテスクな表現が有ります。
閲覧注意です。
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こんにちは、エルキュール=グラムバルクです。
私達が鉱山の町『スルース』を旅立ってから、早くも十日ほどが経ちました。
道中、山間で野犬やら、渓谷で野盗…山賊?やら、沢で人間サイズの巨大なミミズやらが襲い掛かって来ましたが、私達は問題無く首都を目指してます。
セシルさん曰く、三分の二程やって来たそうです。
現在私達は森林地帯を旅してます。
………しかしまぁ旅慣れてるらしいセシルさんとアリシアはともかく、徒歩での旅は初めての私とシャルロットちゃんは、かなり疲れが見えてしまいます。
二人は私達に気を遣ってか、割とスローペースでの進行です。
そしてこれはとある昼食での出来事でした。
「ふっ………完成したぞ。我が魔力の源泉たる至高の霊薬…。貴公等よ、心して取り込むがいい!!」
「あ、出来た?どれどれ?」
セシルさんの言語を理解してるのか、アリシアが普通に対応してます。相変わらずメンドくさいです。
鍋を覗き込むと、何か白くてフカヒレの姿煮みたいな物が煮えてました。山椒などの香りでとても香ばしいです。
「セシルさん、いつもありがとうございます。………所でこれは一体…?」
「地を這う魔性の白堕を削ぎ、秘術を込めし魔草にて人界へと降臨せし天魔の至宝だ。」
「セシルはもっと人に話が通じる努力をしようか?」
「んんー…ごはん…?」
どうやら寝起きらしく目をこしこし擦りながらシャルロットちゃんが寄って来ました。
「よく眠れた?シャルロットちゃん、お姉ちゃんと一緒に食べましょう?」
「うん…エルおねえちゃん…」
そう言ってシャルロットちゃんは私の膝の上に腰掛けました。
………しかし、壷から離れて久しいのに、意外にも平気な様子です。かなり頑張ってます。
シャルロットちゃんの成長が見て取れる様でとても嬉しいです。
………なによりかわいいです。
「おなご達よ、我が至宝に舌鼓を打つがいい!!」
セシルさんがお皿に取り分けてくれました。
私達は早速この料理を頬張りますが………
「辛っ!!?」
アリシアが絶叫しました。辛いのダメですからね、アリシアは…。
シャルロットちゃんも我慢しながら頑張って食べてます。
私は………うーん、辛いのは大丈夫なのですが、何でしょう?このコリコリとした食感…どこかで……
程良い塩加減なのがまた食感と合ってて、物凄く不気味です。
セシルさんもモリモリと食べてますが、色々と気にしてる私が異常なのでしょうか?
「ねぇセシルぅ?これ何?」
アリシアが辛さに耐え切れずに問い掛けました。
「…?言っただろう?魔性の「良いから普通に言ってよ。」
「………ジャイアントスラッグだが?」
「ふーん?いや、そっちじゃなくて…」
すらっぐ?……すらっ………
意味を理解してしまった私は顔面を真っ青にして卒倒してしまいました。
膝上のシャルロットちゃんとアリシアが慌てて私に駆け寄りましたが、私の意識は途切れました。
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ーーーーー私が目を覚ました時には夕方でした。
流石にこれ以上の進行が不可能だったので、今日はここで野宿をするそうです。
………皆さんに迷惑を掛けてしまいました。
「エルおねえちゃん…だいじょうぶ?」
「エルキュールは虫ダメだったもんね…?…大丈夫?気持ち悪くない?」
「うぷっ…思い出させないでくれる?」
私はアリシアに抗議をしましたが、アリシアは顔を逸らして口笛を吹いてます。
まぁそもそもナメクジは虫では無く、軟体動物で、貝の仲間だった筈ですが。
「エルキュール…すまなかった。」
黒い人が話し掛けて来ましたが、私は首を横に振り気にしないでと伝えました。
別に彼が悪い訳では有りませんし、私が旅を続ける中で必ず起こりうる事への覚悟が足りなかった証拠ですから。…気を遣わせてしまい、悪い事をしました。
「私こそ、ごめんなさい…。折角用意して下さった料理をダメにしてしまいましたし…皆さんの進行を止めてしまいました。」
「エルキュールはお嬢様だもんねー?」
私はアリシアの何気ない言葉にズキッと心が痛みました。
その通り過ぎて何も言えず、私はただ笑顔を作る事しか出来ませんでした。
「えぇ、…慣れないと…ね?」
「エルおねえちゃん…?」
シャルロットちゃんが私の頰を撫でてくれました。………因みに私が目を覚ました時には私の太腿の上に収まってます。
………私はシャルロットちゃんをただただ愛おしく抱き締めました。
「所で俺はもう一度狩りに出て来る。おなご達よ、此処は任せた先に行く!!」
セシルさんがそう言うと、麻布を背負って森の中へと入って行きました。何か死亡フラグっぽい事を叫びながら。
そして、私も何かしなくては…と、思いました。
「あの…私も…」
「エルキュールはシャルロットちゃんの相手をしててよ」
「ええっ…」
「………んー…じゃあ火の番しとく?わたしが簡単な調理をしとくからさ。」
アリシアの言葉に、私は足手纏いなんだとヒシヒシと感じましたが、アリシアの料理は間違いなく美味しいので断れませんでした。
「……分かったわ。…よろしくね?アリシア…。」
少し気落ちしてしまいましたが、シャルロットちゃんの側に寄ると、二人で火を絶やさない様に努めました。
「………エルキュール…元気無かったなぁ…」
アリシアがそう言うも、この旅の中で誰もが神経をすり減らして居るのは間違いないのです。
それだけ今までマックスさんやシャリアさん。シェリーさんの存在が大きかった事に気付かされました。
「わたしが意地を張ったせいで遅れた旅なんだ…わたしがしっかりしなきゃ!!」
アリシアは気合を入れて宣言しましたが、その声を聞く者は居ませんでした。
「………アリシアにこんなに苛々しちゃうなんて………私はどうしちゃったのよ…」
アリシアが気合を入れ直してる頃、火の番をしてた私は独り言のように呟きました。
それを聞いてたシャルロットちゃんが首を傾げて聞きます。
「エルおねえちゃん…アリシアちゃんとけんかしたの…?」
………またやってしまいました。
私は作り笑顔でシャルロットちゃんに答えます。
「ううん?ちょっとね…ちょっとだけ疲れちゃって、弱音を吐いちゃっただけよ?…気にしてくれてありがとう、シャルロットちゃんは優しいわね。」
私はシャルロットちゃんの頭を撫でて言いました。
…しかしシャルロットちゃんは困った様に返します。
「エルおねえちゃん…もやもやしてる…シャルわかるよ?…おかあさんもいやなことがあると、いつもシャルのことたたいたから。」
私は心臓が冷えた様でした。
いえ、勿論私がシャルロットちゃんを叩くなんて事は絶対に有りえないのですが、どうしてそう繋がるのか…そもそもシャルロットちゃんのお母様の人物像に、とても怖気がして、怒りが込み上げて来る様です。
「おかあさんもエルおねえちゃんみたいな顔してたから…。ぜんぶぜんぶイヤになったみたいな…」
「シャルロットちゃん…。あのね…」
私はシャルロットちゃんの身体を優しく包み込むと、耳元で囁く様に言いました。
「私はアリシアやセシルさんみたいに勇敢に戦え無いし、シャルロットちゃんみたいに皆を癒せない…。それなのに足を引っ張ってばかりでね?…自分が嫌になってただけなの。」
「エルおねえちゃん…。」
シャルロットちゃんは私の背中に小さな両手を回してゆっくりと撫でてくれました。
「エルおねえちゃんはすごいよ?アリシアちゃんががんばれるのはエルおねえちゃんのためだし…シャルもがんばれるのはエルおねえちゃんがギューーーってしてくれるから。セシルおにいちゃんも、おなじきもちだとおもう。」
「シャルロットちゃん…」
「だから、おねえちゃんはみんなのためにわらっておせわをしてくれるだけでみんなのためになってるよ?」
ーーーーー私はポロポロと涙が溢れました。
「おねえちゃん…どこかいたいの?」
「ううん、…ありがとう…シャルロットちゃん…」
シャルロットちゃんの言葉に、心が救われた気がしました。
………なんだか元気が湧いて来た気がしました。
………ですので、私は徐に、皆さんの服を修繕する事にしました。
きっと、それが今の私が自主的に出来る事だと思ったので。
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「………何があった?」
何やら鳥を数羽仕留めて来たらしいセシルさんが帰宅したかと思うと、第一声がそれでした。
火の番をしながらせっせと縫製作業に勤しむ私を見ての台詞でしたが、私はキョトンと見上げてました。
「………?…ここ数日の戦いで破れてしまった服を直そうかと…」
「否、そう言う事では無いのだが…。……ふっ、良い傾向があったらしいな?」
セシルさんが今日の成果を下ろすと何やら嬉しそうにそう言いました。
「シャルもひのばんしてたの」
「そうか…流石だ、シャルロット。貴公には後程甘味を讃えよう。」
「やったー!」
嬉しそうなシャルロットちゃんとセシルさんのやりとりを眺めてるとほっこりして来ます。
そこへアリシアがやって来ました。
「おかえり、セシル。成果凄いね?…エルキュール…あのさぁ…」
「アリシア…今日は一緒に寝ましょう…?」
アリシアの表情はパァっと明るくなりました。
私の心の中のもやもやは、いつの間にか晴れてた気がしましたーーーーー
ふぁいぼを打たせたいのに打たないシャルロットに苦悩する人生だった…
後、寄生虫が怖いので、良い子の皆さんはナメクジを食べない様に。
熱湯で茹でても怖いので。