3.エルキュールの誕生日・前編
読んで下さった方、ありがとうございます。
前話までを大幅に編集、加筆してみましたので興味があれば良ければ
そちらもどうぞよろしくお願いします
私ことエルキュール=グラムバルクは朝からソワソワして居ました。
今日はエルキュールにとって特別な日だからです。
「…アリシアはまだかしら…?」
会いたくて堪らない親友の到着を今か今かと待ちわびるのには理由があります。
今日はエルキュールの誕生日だからです。
「エルキュール?大丈夫だから落ち着いて待ちましょう…?」
優しく声を掛けたこの女性はエルキュールを大きくした様な、とてもよく似た綺麗なお母さんです。
名前はミューリッツァ=ノルディア=グラムバルクです。
「はい、お母様」
返す言の葉に期待感からかつい弾むのを隠さず楽しげにはにかめば、ケホッケホッ…と一つ二つ咳を零してしまいました。
「ほらほら、大丈夫?…あの子が来たらお母さんが呼んであげるから、お部屋でお布団に入りましょう…?」
もう十三歳だと言うのに子供扱いです。思わず頰がプクーっと膨れました。
少しだけ不満を感じるも心配をさせてしまった後ろめたさから素直に言う事を聞き、私は二階にある自分のお部屋の布団に入りました。
お母様はと言うと、側から離れず暖かい笑顔で私の側に居てくれます。アリシアが来たら教えてくれると言ったのに側に居ます。
それ程までに心配をさせてしまったのでしょうか…?…と思ったらお母様の口が開きました。
「あのね?エルキュール…、今日はね?」
何やらやけに本題を溜めます。こう言うのは少し不安になります。
「お父様が帰って来るの。エルキュールに会いに来てくれるのよ?」
その表情は明るく、両手をポムッなんて音を立てて喜んでいます。
「お父様が!?本当ですか?」
「えぇ、本当よ?エルキュールの誕生日に間に合うようにって、今頃はきっと機関車の中でプレゼントを渡す準備をしてるのね。」
以前にも言いましたが、お父様は軍人さんです。昔、戦争で片目を無くしたそうです。
首都勤めをしてますが、岩門から首都までは機関車で5日程の距離だそうです。飛竜乗りや飛行騎士様ならもっと早いのでしょうけど、私の父は残念ながら陸軍将校?だそうです。
そんな単身赴任気味なお父様が何故この様な遠い地に家を持つかと言うと、私の身体が弱いからなのですがそれは今は追求しませんし、させません。何故なら今日だけは私の特別な日だからなのです。
久しぶりにお父様に会える喜びで思わず顔が緩み、甘えるようにお母様に抱きついてしまいました。
「あらあら、さっきまでは子供扱いに膨れてたのに…」
「えっ…えへへ、お父様はいつ帰って来るのでしょうか…?」
「エルキュールがいい子にしてたらきっとすぐに駆け付けてくれるわよ?だってお父様は私達家族の勇者様だから。」
それはサンタクロースなのでは…?…と言う思いを言葉にする事はありませんでした。何故ならお母様の言葉に完全に同意だからです。
そう言えば…この世界は不思議です。地球に存在する文化や風習と言った物も、そのままか少し歪んだ形で存在するのです。サンタクロースも居ればクリスマスも存在します。
最も、クリスマスが行われる意味は地球の理由と異なりますが。
成り立ちはこの世界に神の啓示が行われ、初めて誕生した『勇者』様が宣誓を受け、前日から当日の夜まで教会で禊を受けた事から始まったとか。
それから百年間世界に侵攻し、人類や亜人、動植物達を苦しめ続けた『魔王』を討ち果たした英雄がこの勇者様だとか…。その英雄であり世界の救世主の誕生を祝福して宣誓の日をクリスマスとしました。
…とお聞きしますが、地球の理由と似てる様な全く異なる様な…?
まぁとにかく似た文化が数多く存在します。
さて、話が逸れたので戻します。
お父様が帰って来る喜びではしゃいでいると、階下からお手伝いさんの声が聞こえて来ました。
窓の外を見ると夕方に差し掛かってました。
「奥様、準備が整いました。そろそろ御暇させていただきます。」
少し野太くも気っ風のいい声を掛けて来たのは私が産まれた日に取り上げてくれたおば様でした。
「はい、少々お待ちください。……それじゃあエルキュール、お母さんは行ってくるからいい子にしてるのよ?」
…と、額にキスをしてくれました。優しい感触に思わず顔が蕩けます。
そのままお部屋から出るのを見送ると静かな部屋にひとりぼっちになりました。お部屋は誕生日仕様ですが。
ひとりぼっちには慣れたもので、私は暇潰しに枕の下から取り出した本を読みます。
結局買ってしまった動物の写し絵集です。
お陰で帰りは更に地獄でしたが、結果的に買って正解だった気がします。…します。断言です。
しかしながら前世ならこんな時はどうしてたのでしょう?
…………記憶はまだ曖昧ですが、確かすまほ?と言うので遊んでた気がします。私が転生した時に一緒に来れば良かったのに…と思いますが、それは言っても仕方ない事なので意識から廃棄しましょう。
しばらく写し絵を楽しんで居ると、部屋の扉が開き、人の陰が差しました。
憐れな事に私は気付いてません。多分「アリシア遅いなー」とか「この本アリシアと買いに行ったなー」とか考えてるに違いありません。友人は一人だけですが、デレッデレです。私はきっとチョロインなのでしょう。
そんな隙だらけな私に近付く陰が………振り返るとそこには………
血に塗れた歩く死体が居ました。
………違いました、赤い服に身を包んだアリシアでした。
ですが何故顔が赤い液体で真っ赤なのでしょうか?驚きから戸惑いで両目を白黒させ口をパクパクさせ、オロオロとうろたえる私に彼女はゆっくりと手を伸ばしました。
「ぴぃっ?!!?」
変な声が出ました。何度も言いますが私は虚弱です。襲われたら花を手折る様に簡単に死にます。
まさかこのアリシアは本当にゾンビになっていて、ここに居ると言う事は下に居るお母様はまさか………。
…と完全に混乱して居たら肩に手を乗せ言いました。
「はい大成功!」
────殴りました。
思い切り持っていた動物の写し絵集(ATK1 スキル1:アリシア限定で与ダメージ+5000 スキル2:ゾンビアリシア限定で属性ダメージ聖+5000)の角で脳天に振り下ろしました。何度も何度も振り下ろしました。
「ごめん!いたいいたいそれで殴るのやめて!!」
ゾンビアリシアを倒しました。
レベルアップ、体力が気持ち増えた気がしました。魔力が変わりませんでした。攻撃力がアリシア限定で50増えました。優しさが500減りました。やるせなさが1000増えました。チョロインから暴力ヒロインにクラスチェンジしました。
映えある私の初戦闘の相手は親友のゾンビでした。めでたしめでたし。
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「ごめんねエルぅ〜…出来心だったのぉー…。お願い許してぇ?」
ぷんすかぷんです。顔を逸らしたまま不機嫌アピールです。別にそんなに怒ってませんが。
扉の外でクスクス笑いながら和やかにこちらを見てるお母様もアリシアの悪戯に一枚噛んでたんです。ぷんすかぷんぷんです。
「お願いエルちゃん!許してくれたらなんでもするから!」
涙目で抱き着いて来ました。一息置いて、状況を理解した私は思わず顔が真っ赤に沸騰しちゃいました。
うぇっ!?この子いま、なんでもするって言いましたよ?!
やっぱり私は暴力ヒロインからチョロインにクラスが戻ったみたいです。
「……別に怒ってないわよ。…それより今日は来てくれて本当にありがとう…!」
振り返り平静を装いふんわり笑顔を心掛けながら怒ってないアピールをも携行した私にようやく安心したらしい彼女は、嬉しさからか更に力強く私を抱きしめま…ぐぎゅえっちょっ…と、…死んじゃう死んじゃう!!
「えへへぇありがとぉエルぅ〜…大好きだよーっ!」
いやあのお願い離して死んじゃうなんでもしますから!
私の心虚しく、地獄の抱擁は私が泡を吹くまで続きました。
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私が目覚めたのは、夜になってからでした。筋肉娘の赤い汁でベトベトです。一体何の液体なのでしょうか?
それから筋肉娘には必死に謝罪を受けましたが、悪い予感がしたので即許した上で近付くのを阻止しました。「なんでも使用権」を行使しました。筋肉娘自身がくれた特権なので反故にはさせません。
…私のは言ってないので無効です。
「あ、そうだ!遅くなったけど誕生日おめでとう!」
今更ですか…。まぁ思っても口にしませんが。
「ありがとう、筋肉むす…おっと、アリシア」
思ったので口にしちゃいました。
「むぐぐぐぅ………あ、そうだ!プレゼントがあるよ!受け取ってくれるかな?」
デートの時のアレですね?これで嬉しくなってしまう私はやっぱりチョロインなんだと思います。
「はい、わたしからのプレゼント!それと、…ちゅっ」
リボンでラッピングされた箱を受け取ったかと思うと額に口付けされました。
え?なんですかこれ?誕生日プレゼントを二つも貰って良いんですか?って言うかえへへと照れてるアリシアお姉さんが可愛らしいのですが。顔は液体で赤いのですが
気付いた時にはアリシアの赤い汁と私自身の鼻血で真っ赤になってました。
追伸、赤い液体の正体は赤いスラたん(筋肉娘談)の液体だそうです。