46.宿泊所の温泉
ーーー私、エルキュール=グラムバルクは、アリシア=バーネットと、シャルロットちゃんを引き連れて泊まっている宿泊所の温泉へとやって来ました。
アリシアは未だ歩き難いのか、私の身体にしがみ付いて歩いてます。
腐蝕竜の息と言う物は少量吸い込んだだけでも身体を内部から溶かす程に恐ろしいのでしょう。
因みにシャルロットちゃんはと言うと………
「うにゃあー…ごしごしするのー…」
寝ぼけて私の手をにぎにぎしてます。なんだか見ててかわいいのでそのままにしてます。
…特に何事も無く温泉に辿り着きました。
私はここの温泉がお気に入りです。
普通の岩風呂とサウナが有る位なのですが、なんと言いますか、冒険をしているとお風呂に入れる機会が少ないので、こう言った機会はとても有り難いのです。
ですので入れる間は出来るだけ入って行きたいと思います。
ーーー私が服を脱いでいると、視線が二つ突き刺さりました。
アリシアとシャルロットちゃんが此方をじーーーーっと見詰めてました。
「えーっと、どうしたの?」
「いや、なんか…」
「ねっ?」
………物凄い敵意を感じるのは気のせいですか?
「もう!ほらあなた達も早く行くわよ!」
私は紐で髪を留めながらぷりぷり言いました。
そうしてようやく服を脱ぎ始めた二人に私は仕返しにジーーーッと見つめて………見つめて………
「……なんかその、ごめんなさい…」
目を逸らした私にふぁいぼが飛んで来たのは言うまでも有りませんでした。
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私が一人、身体を洗っていると、二人は互いに洗いっこしてました。
一生懸命タオルでアリシアの身体を洗うシャルロットちゃんも、洗われながらぷるぷる震えるアリシアも、二人が揃うと小動物感が凄いです。
二人を眺めて微笑ましく思っていると…
「ねえねえアリシアちゃん…ね?」
「むふふふ、シャルちゃんも?」
なにやら相談してますね?………すっっっっっごく嫌な予感しかしないんですが?
とりあえず私は二人から離れようと…
「逃がさん!!」
「まてまてー!」
ひぎぃ!?急に飛び付かれました!!?
アリシアが物凄い力で私を背中側から押さえ込んで、シャルロットちゃんが私の上に馬乗りになりました。
あれ?アリシアお姉さん、地味に勇者モードになってますよ?紅いオーラが私ごと包み込んでますよ?
ーーーそして私は………シャルロットちゃんに身体の隅々まで洗い尽くされました。
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「ーーーふにゃぁぁ………」
気の抜け切ったシャルロットちゃんの声にいつもなら癒されるのですが、今の私はシャルロットちゃんに恐怖心を抱いてる気がして止みません。
「エルキュール…ごめんってば。……プッ」
半笑い気味なアリシアにギリィッと歯噛みをするも、まぁアリシアが大分動ける様になって来た証拠だと思う事にしましょう。
一時期は本当に死んじゃうのかと恐れてしまいましたから。本当に良かったです。
気を取り直して私は二人の側に着水しました。
ふひぃぃ…天然の温泉は臭いが凄いですけど、なんて言うかこう…身体の色んな所に染みて行く感じがして、とても良いです。主に肩とか肩とか…。
………と、シャルロットちゃんが私の膝の上に座って来ました。
こう言う所はシャリアさんと似てる気がします。
しかしまぁシャリアさんと違い、おかしな事をして来ないので、ずっとまとも………ずっとかわいいので全然構わないのですが。
アリシアがむーっとしながら私の隣に腰掛けて私の腕を触って来ます。
…???
何がしたいのか分からないので、アリシアの言葉を待ちます。
「エルキュールってさぁ…」
「凄くプニプニしてるよね。」
ゴハァっ!!
アリシアの攻撃、とんでもない暴言はエルキュールの心を抉り削った。9999のダメージ。エルキュールを倒した。アリシアは1の経験値を得た。
エルキュールはアリシアへの信頼を落としていった。
「それは私が太ってる…と言うことかしら?」
私はぷるぷると震えながら聞きました。
「ううん………凄く女の子っぽい感じ?」
「ほら、わたしと違って筋肉も少ないし、胸も………ぐぎぃ…。」
「言い辛いならわざわざ言わなくても」
「うるさい駄肉!駄肉駄肉ーっ!!」
「外で駄肉はやめなさいと何度言ったら…」
私は諦めて膝上のシャルロットちゃんを抱きしめました。シャルロットちゃんは何やらウトウトしてて寝ちゃいそうです。
「………このエロ肉ぅ…」
「どんだけ肉にこだわるのよ。」
…全くこの子は…
「そう言うアリシアは小さいのに身体はしっかりしてるけど、…でも筋肉質じゃ無いわよね?」
「小さい?胸が?」
「身長よ?そこ反応しないでちょうだい。」
「身長もコンプレックスなんだよ!いつの間にかエルキュールには身長も抜かれてるし。」
あぁ、お姉さんとしてはそう言う事もあるのかも知れませんね。妹分に身長で越されるのが悔しいのでしょう。
ですが、私はそのままのアリシア自身が好きなのです。慈しいんです。愛してるんです。
ですのでアリシアにこの気持ちを届ける為に…アリシアの手を取り、静かに口付けしました。
「エル…キュール…?」
手の平に口付けを受けたアリシアは、恥ずかしそうに顔を赤らめてます。
「どんなあなたでも、私は初めて会った時から頼りにしてるし、私にとって大切な人よ?小さいのもかわいいじゃない。」
私の言葉に、とてもとても複雑そうな表情をしてますが、しかし割り切ったのか、顔を軽く振って思いを振り切り私を見詰め直しました。
「ねぇエル…わたしはお姉ちゃんだけど…お姉ちゃんだけど…甘えても良いのかな?」
その言葉に私はにんまり笑顔で言いました。
「良いに決まってるわ。素直に甘えてくれる子は大好きよ?」
そう言って私はアリシアの唇にキスしました。
アリシアは恥ずかしがって猫の様に顔を両手で洗ってます。熱の入った顔を冷ましたいのか、誤魔化そうとしてるのか。
「うにゃあ…シャルも…シャルもちゅー…」
シャルロットちゃんが何やら寝ぼけた様子で、膝上でうねうね動いて私にキスを求めて来ました。
私はアリシアと目を見合わせると、思わずおかしくなってクスクス笑いました。
「アリシア、…してあげよっか?家族としてのキス」
「むぐぐっ…エルキュールが良いなら…。家族…なら」
アリシアは不服そうですが、私の言葉に何やら割り切ってます。
……まずはアリシアが軽くちゅっと。…次に私がシャルロットちゃんにちゅっと軽く触れ合う様にしました。
シャルロットちゃんは幸せそうにふんにゃり微笑むと、そのまま私の腕の中で眠っちゃいました。
「……でも、アリシアへのキスは…恋人みたいに愛しい特別だから…ね?」
「ん、恋人……なりたいなぁ。」
ええ、私もよ…と、言いたい所ですが、…私の命は短いので、どうしても一歩踏み出せません。
アリシアは…どう思ってくれてるのか分かりませんが、お互いに苦痛にならない距離感を保ってくれてます。
私はそれがとても心地良くて…ですがアリシアと結婚したいと思う気持ちも本物なので。
………三年前のままの私なら、きっと今すぐにでもアリシアと付き合って、恋人同士になって………、お互いに良い人が見つかるまでは一緒に居続けたのかも知れません。
それが添い遂げる程の関係なら尚良いのですが。
………今はただ、この残り少ない命をしっかりと楽しもうと思います。
出来ればアリシアにはこの旅で死んで欲しく無いのですが、きっと彼女もまた死を覚悟してるので、こう言った距離感が心地良く思ってくれてるのかも知れません。
………それでもアリシアが望んでくれるのなら、きっと私は彼女の恋人として、妻として添い遂げる事を選ぶのでしょう。
「ね、エル…そろそろ上がろっか…?」
変にしんみりとしてしまった空気を打ち破る様に、アリシアの声が私達の時間を動かしました。
私は頷き同意すると、シャルロットちゃんを起こして温泉から上がりました。
私達は持って来てた着替えに袖を通していた所、アリシアから声を掛けられました。
「………わたしはいつだって本気だからさ。エルの事は死んでも………ううん、絶対に死なないで守るから。だからエルも…」
「えぇ、死ぬ時の事なんて考えないわ。私の愛情は…アリシアだけの物。だから、アリシアも絶対に生きる事を諦めちゃダメよ?………その時が来ても…ね?」
「…頑張るよ」
思わず真面目な話をしていると、眠そうな顔のシャルロットちゃんでしたが、とても不安そうに私達を見詰めます。
「エルおねえちゃん…アリシアちゃん…しんじゃうの…?」
やはりこんな場所で話す内容では無いですね。無碍に不安にさせちゃいました。
「……大丈夫、大丈夫よ?シャルロットちゃん…私もアリシアも、ずっとずっとシャルロットちゃんと一緒に居るから…。だから、もっと沢山シャルロットちゃんの事を教えて?」
「うん、わたしもシャルちゃんの事、もっと知りたいな?辛い事だけじゃなくて、シャルちゃんの好きな事とか、好きな食べ物とかさ。」
私達が明るく笑い掛けると、シャルロットちゃんはふんにゃり笑い、「シャルもアリシアちゃんとエルおねえちゃんのこと、しりたい」…とだけ言い、眠ってしまいました。
……そうして私とアリシアは、思わずクスクス笑ってしまいました。
絶対にこの子を守り切って、シャリアさんに送り届け無くては…と、新たな決意が芽生えました。
そうして、私がシャルロットちゃんを背負い、アリシアが灯りを持って道を先導し、宿泊所の自室へと向かいました。
………アリシアが歩ける様になってくれて、とてもとても嬉しいです。
ーーーーー漆黒の剣士が闇の中から此方を見詰めて居ました。
「覗きはNGだが、会話が聞こえてしまうのはギリセーフだ!!」
闇の中に潜む獣は、今日も月光を浴びて遠吠えをするのでしたーーーーー
セシルくんは覗いてません。
覗いてません。 (誡め)




