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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー首都を目指してー
47/138

45.それぞれの行路


ーーーー



ーーー船が海の上を滑る様に進んでました。

その船は鉄で出来てました。

馬車の一つ二つは簡単に納めてしまえる程度には大きな船でした。

目的の進路は首都『ファルネリア』

その船はファルネリアと言う島国の外周を周って直接首都へと向かう航路を進んでいます。


ーーー船室の一部屋で、男性と女性が肌を重ね合わせていました。

一人はとても筋肉質で大柄、その身体中に付いた傷が歴戦を潜り抜けて来た事を物語ってます。髪は金髪ですが小ざっぱりとした短髪、横長ながらもキレのある黒目の男性です。名前はマックス、家名はありません。


もう一人の髪は黒く、ツンツンとしたショートカット、身体は浅黒く細身ですが、程良く筋肉は付いた長身で、とてもスタイルが良い体躯、そして狐の様に細い目は開くとツンと吊った蠱惑的な黒目の女性です。名前はシャリア、やはり家名はありませんでした。


二人が甘い情事に身を任せる中、女性が男性に語りかけます。


「ーーーシャルロットがあたしにあそこまで言うだなんて、ついに独り立ちの日が来たって事かしらね?」

シャルロットと呼ばれたのは彼女の妹でした。今はシャリア達と同行してませんが。

…それに対して男性が答えます。

「姉御はともかく、あの子にはまだ早いっすよ。まだまだ姉御が必要なんす。」

下っ端の様な面白い口調ですが、語気は力強く男らしい太い声で彼女に囁きます。

「あたしはあの子の年頃には、とっくにこっちに片足突っ込んでたわよー?………ま、あの子が独り立ちするまではあたしもやりたい事が出来ないのだけれどぉ。」

姉御と呼ばれた女性、シャリアが答えました。

「出来れば一生出来ない方が良いっす。………そうすりゃずっと俺に愛させてくれるっすから。」

「何よぉもうマックスったらぁ、意地悪?意地悪なの?」

甘える様に擦り付いて言うシャリアに、マックスはただただ彼女の身体を包み込んで言います。

「俺、本気っすから…」

「あら、あたしだって本気………いいえ、これは最早あたしの心を埋めたいだけなのよ。願望なの。」





「母の様に包み込んで欲しいだけなのよ。ーーーねぇ?エルキュールちゃん?」


熱を帯びた瞳には情事故か、はたまた想いを馳せる相手への期待故にか。今一番自分自身が望む相手に向けて遠くを見つめていました。

ーーーそして、その瞳を眺める事しか出来ないマックスには、恐れとも嫉妬とも、嘆きとも哀しみとも、…様々な感情をない交ぜにして、飲み込む事しか出来ないのでした…。





ーーーー





ーーー私達はアリシア=バーネットの回復を待つ事、三日。未だに鉱山の町『スルース』の宿泊所に居ました。

私、エルキュール=グラムバルクはアリシアの世話を自分なりに…お仕事をしながらも甲斐甲斐しく焼いてるつもりですが、アリシアはと言うと…

「エルキュールはいいからわたしの側に居てよ?またあのドワーフの人達に身体中触られるの?やだよそんなの!」

誰がいつ教えたのか、例の件を聞いてから私を中々離そうとしません。

「旅費と滞在費ならわたしが出すから!エルキュールぅぅ…行っちゃやだよぉ…」

ぐりんぐりんとお腹に頭を擦り付けて来ます。涙もぽろぽろ零しています。かわいいです、可愛すぎて鼻血が漏れそうです。


かわいいのはかわいいのですが、それでも滞在費も旅費も、無限では無いので仕事は行かなければいけません。

因みに日雇いですが、酒場で給仕ウェイトレスのお仕事をさせて戴いてます。酔ったお客様や若い方にお尻を撫でられたり絡まれたりはしますが、流石に酷い事はされませんし、裏方さんが何とか対処をしてくださるので安全な方なのですが、それでもアリシアは気に食わない様です。

ぐぎぎぃ……嫉妬アリシアかわいいです。


ーーー行動を共にするアルビノの少女、シャルロットちゃんはと言うと、人前に出るのは中々難しいので、私が居ない間はアリシアの世話をして貰ってます。

容姿は白くて大福みたいでかわいいです。シャリアさんに似て吊り目気味で、シャリアさんと違って真紅の瞳ですが、いつも困り眉で弱々しい印象を受けます。とても小柄で小動物を連想させます。うさぎのようなフードが付いた白いローブがお気に入りみたいです。

シャルロットちゃんは回復魔法に恵まれている様で、今はまだ小さな力ですが、ある程度の体調維持が出来るのでアリシアに付きっ切りです。

壷の中で暮らしてたせいか私より体力が無いですし、外でのお仕事は元々任せるつもりが無かったので、ちょうど良かったのだと思います。



そしてもう一人の同行者が居ました。

漆黒の服に身を包み、銀の装飾で自己主張をした剣士さんです。名前はセシルさんと言います。

何気に私は彼の事をよく知らないのですが、何と言いますか………女性同士の仲をこよなく愛し、時折妄想に耽ってたり…独特な言語を用いたりと…いわゆるちゅうに………あ、いえ、すみません。

とにかく個性的な方ですが、形はどうあれ私の愛しい親友のアリシアを二度も五体満足で戦場から返して下さった恩人には違いありません。

そんな彼がこの三日間何をして居たかと言いますと…


ーーー私達がお借りしてる部屋の外で優雅にコーヒーを嗜みながら新聞や本を読んでました。

ふふふ、流石はシャリアさんから旅費を貰ってるだけあって自由です。優雅です。

いえ、彼には彼なりの事情があるので構いませんけど。

「闇のともがらよ、汝がかの魔境へと赴くのならば神の雷にて紅き少女は身を焦がされるだろう…」

「えっ私闇なのですか?まきょ………って、アリシアが焼け死んじゃうんですか!?………でもここは岩山の中ですよ?」

私が少し屈んで目線を合わせてそう返すと、セシルさんは何故か鼻血を出しました。

「………ふっ、行け!少女よ!凱旋の時は来た!神々の進撃にて汝らの行く末に栄光の曲を奏でるがいい!」

セシルさんは顔を逸らして、高らかにそう言いました。

神??闇の神様なのでしょうか?そもそもやはり私には中二病かれらの意図する所は分かりません。

私はぺこりとお辞儀をして、そそくさとその場を離れました。



「あのおなご、めっちゃいい匂いだったんだが…」




ーーーーー

ーーーーーーー




ーーー私が一仕事を終え、宿に帰るとアリシアが出迎えてくれました。シャルロットちゃんはすやすやと寝息をたててます。

セシルさんはーーーまぁ何時も通りなので敢えて追及しません。

私はいつも遅くに帰って来るので、アリシアを心配されてしまって申し訳ないです。


「むぎぎぃ…わたしのエルキュールなのに…かわいいから無駄に色んな人に触られてるんだ…」

いや、あなた見てないでしょう?何故知ってるんですか?

「こっちからもそっちからも男の人の臭いがするし………女の人の臭いもする!」

いや待ってください。何故匂いで分かるんですか?あなた獣人ビーストじゃないでしょう?

「ーーーって言うか、汗臭いから嗅がないでよね」

私はアリシアに臭いを嗅がれて顔を真っ赤に染めてしまいました。

「エルキュールはいい匂いだよ?」

この赤茶猫娘はもう!

「………ぐぎぎぃ……」

「そのぐぎぎぃって何なのさ?……かわいいけど」

「かわっ!………あっ、アリシアが言ってたのがかわいくて、つい真似をしてたのよ…」

「へ?言ってたっけ?」

………まぁそれは置いておきましょう。キョトンとするアリシアかわいいのですが。

「それより、体調はどう?少しは良くなったのかしら?」

「うん……熱は引いたけど、まだちょっと痺れるかな?」

「うふふふ………なるほど?」

私が両目を光らせると、アリシアは嫌な予感を察知したのかビクビクと怯えました。


「アリシア、あなた何日お風呂に入ってないか分かる?」

「身体は拭いて貰ってたけど………九日くらい?」

「………私と一緒にお風呂に入りましょう?」

アリシアはキョトンとしました。

「え?うん、歩けない程じゃ無いから良いけど」

「シャルロットちゃんも起こして一緒に行きましょう?………シャルロットちゃん、お姉ちゃん達とお風呂に行きましょう?」

「うぅ〜………シャルねむい………」

「アリシアをピカピカに磨いてあげなきゃ!シャルロットちゃんにしか出来ないお仕事よ?」

私の言葉に寝ぼけたままシャルロットちゃんは言いました。

「シャルのおしごと…シャルがんばる…」

眠い目をこしこし擦りながらシャルロットちゃんが言いました。うふふ、シャルロットちゃん本当にかわいいです。

ーーー実は私は彼女にずっと嫌われてたのですが、私の本気の気持ちが伝わったのか、ようやく心を開いてくれました。

私を嫌ってた理由についてはまだちゃんと教えて貰えてませんが、それは少しずつ聞けたら良いなと思います。

「シャルちゃんにまでわたしをオモチャにさせる気?」

プクッと頰を膨らますアリシアに、私は言いました。

「だってあなた…髪も水で洗ってただけだし、臭いもちょっと………するじゃない?………今日は大人しく私達に構われなさい」


流石にアリシアの中の乙女心が傷付いたのか、私の言葉にあっさりと、簡単に、大人しく従いました。

ごめんなさいアリシア、私のかわいいアリシアには綺麗で居て欲しいの。

ーーーーと、まぁ口にするのは恥ずかしい独占欲?ですので心の中で呟いておくだけに留めますが。

ついでに私の身体も洗い流せて一石二鳥です。百中はさせません。

漆黒の剣士さんに挨拶をして、私達は温泉へと向かいました。





「ーーー月に翳りが見えるこの刻に禊を行うとはまた悠長な…。」


クールに言い放つセシルですが、その鼻からは一本の赤い筋が流れました。



「ヤバいめっちゃ興奮するぅぅぅっっっ!!!」


次回ーーー温泉回

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