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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー エルキュールの初仕事 ー
45/138

43.エルキュールの決意

ーーーーー

ーーー



「これを飲ませてやれ。…少しずつだ。」


セシルさんが木のコップに水を汲んで差し出して来ました。

私はそれを受け取りアリシアの口へと運びました。


「アリシア、お水よ?飲める?」

私はアリシアの口へとコップを近付けますが…

「………ゲホッ、コポッ。」

口から溢れ出ました。どうやら吸いさし等で無いと飲めない様子です。

それなら…アリシア、ごめんなさい。

私はコップの水を口に含むと、アリシアの口を塞ぎました。口移しでなら与えられるかも知れない…と、某大御所映画で見たのを思い出したので、真似て見ました。

アリシアの鼻を摘んで、顎を上げ、少しずつ少しずつ…数回に分けてコップの水をアリシアに飲ませました。

………やがて、コップの水は無くなりましたが、未だアリシアは苦しそうに呻いてます。

私はただただ、アリシアの両手を握って祈りました。

シャルロットちゃんも必死にりかばーを唱え続けてくれてます。



ーーー神様、私の愛しい親友を…どうかお助けください。




私の祈りが届いたのか、それとも水が良かったのか。はたまたシャルロットちゃんの想いが通じたのか、暫くするとアリシアの呼吸が落ち着いて来ました。

……安心しました。

私のアリシアが居なくたってしまうのかと、とても不安でした。

いつの間にか、私の目から涙が溢れてました。




ーーーーー

ーーーーーーー




………アリシアの容体が落ち着いた頃、私は冷たい声でセシルさんに聞きました。


「アリシアに一体何が起きたんですか…?」


鼻血を止める為か、鼻に紙を詰めるセシルさんは答えてくれました。


「アリシア嬢は、毒にやられている。…それも全てを溶かし尽くす魔性の腐敗毒にだ。」

「こんな時までキャラ作りですか!?」

「待て、事実だ。…腐蝕竜の幼体の吐く息を吸った様でな…。おなごめっちゃ怖い!!」

「腐蝕…竜…?腐敗毒……じゃあ、朝からアリシアがおかしかったのは……」

「恐らく、忘我の中で、唯一の救いで在る貴公を求めたのだろう?」


「……でも、朝はちゃんと意識があったのに…」

「仮にも勇者だぞ?愛する貴公に心配を掛けぬ様に務める位訳無いのだろう。」

…私はセシルさんの言葉を聞いて、より一層落ち込みました。

どうしてそんな大事な事を、私は今の今まで知らなかったのでしょうか?

自分への怒りと苛立ちで思わず自分の頰を叩きました。



ーーー落ち込むのは後です。まずはアリシアの為に出来る事から始めましょう。



「セシルさん、先程アリシアに飲ませたお水は…?」

「アレか?アレは植物人プラントマン族の者が作った水薬だ。水薬を水に三滴垂らし、浸透させてから一日三回、飲ませて安静にさえして居れば個人差はあれど、五日程で回復するとの事だ。」

「ーーーじゃあ何故アリシアを連れて来たんですか!?「貴公に会いたいからに決まってるだろう?」


………は?セシルさんが?


「勘違いしているな?アリシア嬢がだ。」


…あ、ですよね?…アリシアがですか。


「俺の勝手な想像だが、アリシア嬢は植物人族の集落で五日も安静にして居たら、貴公に置いて行かれるとでも思ったのだろう?………ふっ、全く、寂しがりな勇者様だ。」

「アリシアが………そっか。」

私は私の膝の上で眠るアリシアと、魔法を使い過ぎて疲れたのか眠ってしまったシャルロットちゃんの頰を交互に撫でて微笑みました。


「………ごめんなさい、セシルさん。先程は八つ当たりをしてしまいました。」

「気にするな…。俺は貴公らが幸せな百合ライフを満喫出来るならそれで良い。」

「それ言っちゃうと台無しですよ?」

私は本の少しだけ笑ってしまうと、何と無くこの黒い人の、人となりがすこーーーしだけ理解出来た気がしました。

「…アリシアを………助けてくれてありがとうございます。」

「それが俺の使命だ、気にするな。」


セシルさんの言葉を聞いて、私は安堵に包まれました。

………そして、ある決意を抱いたまま深い眠りへと落ちて行きました。



ーーーーーーー

ーーーーー



「………ルー?……」




「エールーちゃーん?」


私を呼ぶ声に、ゆっくりと目を開くと、私の顔を覗き込む少女が居ました。

……彼女の名前はアリシア=バーネット。

今度、十三歳の誕生日を迎える私の親友です。

どうやら私は木陰で本を読んでいたら眠ってしまった様でした。

アリシアは寝ている私に痺れを切らしたのか、肩を揺さぶり起こした様です。


「ねぇねぇエルぅ!今度わたしの家でおばーちゃんがマフィン焼いてくれるんだって!」

「だからエルの身体の調子が良かったら食べにおいでよ!」


私はこくんとうなづいて了承しました。


「うぇへぇ〜エルだーいすきっ!」


その時のアリシアの笑顔がとても明るくて…元気一杯で、身体の弱い私でも元気に動き回れる気がしてきました。

アリシアは私の太陽なのですから。



ーーーーーーー

ーーーーー




「ーーーエル?」

囁く様な声に私が目を開くと、周囲は真っ暗でした。馬車の外が明るいので、シェリーさんやシャリアさんが帰って来たのでしょう。

そして私の膝の上には変わらずアリシアが枕代わりにしていて、シャルロットちゃんも眠ってました。

シャルロットちゃんは何やら指を咥えてむにゃむにゃ言ってます。かわいいです。


「ねぇエルってば…起きたなら返事してよ…?」

何処か淋しそうな表情で此方を見詰めるアリシアに、私は微笑みかけながら頰を撫でました。

「おはよう、アリシア…セシルさんから聞いたわ?」

「えっと…何を?」

「腐蝕竜の事…。また無茶をしたのね?………アリシアったら、死ななかったから良かったものを…」

「うん、ごめん……。あ、その時さ?エルが助けてくれたんだけど、覚えてない?」

「私が?」

「うん。………見間違いだったのかな?凄く光ってて、凄く暖かくて…凄く懐かしい気がして。」

何やらアリシアが何かを言いたそうで言葉に出来ない感覚に陥っています。

「………もし私がアリシアを助けてあげられたのなら、凄く嬉しいわ。」

そう言いながら私はアリシアの髪を撫でました。アリシアは気持ち良さそうにして居ます。



「エルちゃーん?アリシアちゃーん?ちょーっとお話が有るから来れたらおいでー?」

馬車の外からシャリアさんの声が飛び込んで来ました。

私はアリシアに目配せすると、アリシアは行ってきて良いよと、私をシャリアさんの元へと促しました。

起こさないように…と、シャルロットちゃんの頭をゆっくりと私が使ってる枕へと移すと、私はシャリアさんの元へと向かいました。



………



「お話って何ですか?」

席には既にアリシアとシャルロットちゃん以外の全員が集まってました。私は私でシェリーおばさまの隣に腰掛けます。

「来たわねーん?じゃあ早速だけどぉ、明日の方針ねん?」

「我々は、計画通り首都『ファルネリア』に向かいます!!」

ーーーあぁ、やっぱり。

「この町を北に降ると船着き場が有るから、そこから首都まで船で行くってワケよん!」

「なるほど、船は乗った事が無いです。」

「そこでぇ…エルちゃんとアリシアちゃんはどうしたいワケ?」

ーーーやはり来ました。

「私達は、スルースに残ります。」

皆さんの空気は「あぁ…やっぱり」と言った感じでした。


「あのね?エルちゃん、一応言っておくけど、あたし達はエルちゃん達も大事なお客様なワケね?」

「でも、あたし達には他にも優先しなきゃいけないお仕事があるのよ。ここまではおーけー?」

「了承済みです。」

「つまりぃ、依頼者クライアントからの契約不履行、まぁ破棄って事になるワケね?違約金とか色々有るけど、大丈夫?」

「覚悟の上です。」

「まぁそれは良いけど」

いいんかい!

「要するに、あたし達にはアナタ達を送り届けるだけの力が無かった…と言う事になるわねん?」

「あ………ごめん……なさい」

………シャリアさん達の期待を裏切った事に、私は酷く落ち込みました。そして肩を震わせました。

「………ちょーーーっとイジメ過ぎちゃったかしらん?」

「そうねぇ、おばちゃんも今のは言い過ぎだと思うわ?でもウチも商売が掛かってるからねぇ。ごめんなさいねぇ?」

シェリーおばさまがフォローしてくれましたが、私は俯いたままでした。


「ーーーと言うワケでここからが本題よん?」


…本題?…一体何のことでしょうか?


「そこでウチを辞めてでもアナタ達に着いて行きたそうにしてるセシルくんをエルちゃん達に貸してあげるわん。」

…………はい?

セシルさんもピクッと反応しました。

「派遣よハ・ケ・ン!これならエルちゃん達を送り届ける仕事も反故にしないし、キチンとアナタ達を守れる実力者を付けられる。そしてあたし達シャリア商会の名にも傷付かない!どう?一石百中でしょ!?」

一石で百回当たるんですか!?怖っ!!…………では無く。

「あの………提案は嬉しいのですが、良いんですか?………どうしてそこまでしてくれるんですか?」

「いーのいーの!整備はマックスにも出来るし、首都に行けば支社も有るから、あたし達は仕事を片付けながらアナタ達を待てるしぃ。」

「どうしてって言うなら………あたしがエルちゃんに惚れたからって!前にも言わなかったっけ?」




………これならアリシアの回復を待ってから、首都に辿りつける………。

神さま、そして私を受け入れてくださったこの世界。本当の本当に、心から感謝が止まりません。




「ありがとうございます、シャリアさん…。」

「いいのいいの、お礼なら今晩あたしの相手で十分よん。」

「はい!お任せくだ「ストップ、エルキュールさん、意味分かってるっすか?」

「えっと…昨日みたいにお酒の相手…ですよね?」

マックスさんは顔を抑えて溜息を吐きました。


「今晩、朝まで性的なマッサージって事っすよ。」


…私はシャリアさんから離れてシェリーおばさまの後ろに隠れました。

「ちょっとマックスぅ!なぁーに余計なこと言ってくれちゃってるワケー?」


ーーーギャンギャン騒ぎ始めた頃、馬車から降りて来た影の一言が、皆さんを………そして私を鎮まり返らせました。




「シャルも残る。」

正直、シャリアさん達と一緒に行くルートにしようか迷いました。

次回から四人旅 (予定)です。

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