42.アリシアの急変
今回、微R-18要素有ります。
ーーー
ー
おはようございます、エルキュール=グラムバルクです。
今朝も日の出前にシャリアさんの明るい声が聞こえて来ました。…この人、昨日は結構な量のお酒を飲んでたと思いましたが、元気ですね?
そして私はと言いますと…。
「………うふふふ、想像はしてたわよ?」
「………また脱がされてるし」
…はい、脱がされてました。私の胸の中では相変わらず最愛の親友であるアリシアが眠ってました。
ほんのり身体が熱い気がします。…私が知らない間に、一体何があったのでしょうか?
………でも胸に吸い付くのはやめなさい。朝から心臓に悪いです。
私がモヤモヤとした感情と戦っていると、アリシアがその子猫の様な目を薄く開きました。
「はむ…あむあむ…んむぅ」
ひぎぃっ!!そのまま喋るな!!
………ぐぎぎぃ…今殴ったら噛まれるし…。
……仕方ないので私は優しい微笑みを浮かべてアリシアの首をキュッと締めました。
うふふふ、苦しそうに私の背中を叩いて来ますよ?…………程々に痛くなって来たので離すべきですか?
………あっ、アリシアが気絶しました。
…やり過ぎちゃいました?全く仕方ない勇者様ですね?
ーーーーーーー
ーーーーー
ー
「アリシアさんのエッチ…」
私は服を着ながらジトッとした視線をアリシアに向けます。アリシアはどうやら自由に動けない様で、起き上がりません。
「うぐぎゅう…エルキュール分が…エルキュール分が足りないよぉ…」
……むぐぅ……そんなに弱り切った感じに言われると、かなり揺らぎます…。もっと甘やかしてあげたいです。…私は目を細めてアリシアの顔に顔を近づけ………
「エルキュールちゃん?そろそろ来ないと社長がおかんむりよ?」
シェリーおばさまが声を掛けて来ました。………助かった様な、何か残念な様な。
………アリシアがやはり物欲しそうな目で見つめてました。
ー
ーーーーー
ーーーーーーー
「ほらほらエルちゃん!ここ座って座って!」
「お断りします。」
シャリア商隊の主人であるシャリアさんが自分の膝の上に私を招きましたが、笑顔でお断りしました。
普通に離れた場所に腰を下ろすと…
「じゃああたしが座っちゃおうかしらぁ?」
言ってる側からシャリアさんは私の太ももにちょこんと座りました。
「姉御、エルキュールさんが困ってるっす」
私の頰にチュッチュとキスをするシャリアさんの側で、商隊の護衛のマックスさんが諌めてくれます。
「はいはい、マックスは真面目ねぇ〜」
何とか私から降りてくれたシャリアさんは元居た樽の上に座りました。
ーーーしかし話が始まりません。
「ところでエルちゃん?昨日のお話は覚えてるぅ?」
昨日の?一体何の話でしょうか?
「えぇっと…?すみません…完全に記憶がありません…」
「あらあら、エルちゃんの鎧の事よぉ?オジサマの話、忘れちゃった?」
「ごめんなさい…説明して貰えますか?」
「いいけどぉ、その代わりチュー、一回ねん?」
私はシェリーおばさまの後ろに隠れました。
「姉御、話が進まないっす。」
「仕方ないわねー?マックス、説明ヨロシクー!」
「えぇー…?」
ーーーーーーー
ーーーーー
ー
「姉ちゃん、例の件は問題ねぇ。あの蟲共が居なくなったおかげで採掘も出来る様になったってオヤジから報告が有った。………まぁ星蝕者が未確認な以上、暫くは調査しながらになっちまうが…」
「あらそう?じゃあそっちの件は後々ゆ〜〜〜っくり話を詰めるとしてぇ、エルちゃんの鎧のご相談ねぇ?」
シャリアはゴルドーの話から、ある程度の交渉の余地を感じつつ、目の前で酔い潰れる少女の話に切り替えました。
「おう、まぁなんだ…ミスリルの他にスタークロースを使わなきゃならねぇ。」
ーーー星の織布ーーー
星々の光を転写した特別な布です。魔力で織られたとも言われ、とてもきめ細かい星の輝きを孕む美しい布です。見た目はまるで夜空に星を散りばめた様な反物です。
布自体も身を包む者の魔力を高めたり、単純な魔法防御力が高かったりと、魔法に対する抵抗力もとても優れています。星の煌めきが毒や呪いから身を守ってくれるとも言われてます。
正直言って布自体の価格で小さな家が二軒は立つでしょう。
因みに魔法使いの防具としてスタークローク、戦士の鎧に使用されたスターアーマーと言った見た目が美しい装備も在る位です。
「ちょっとちょっと、それだとかなーり高額になるんじゃないのぉ?」
「まぁな、………だがなぁ、オレっちはほら、なんだ。………その嬢ちゃんから良い贈り物を貰っちまったからなぁ…。」
シャリアの瞳がキランと輝きました。
「エルちゃんの初めて食べちゃった?」
「下品な事言うんじゃねぇやい!!」
「あらぁ?オジサマったら、さっきは毛がどうとか言ってたじゃない?」
ケタケタ笑うシャリアにゴルドーは答えます。
「知らんな。………嬢ちゃんはボツにしちまったが、デザインがなぁ…斬新で中々気に入っちまったんだよ。」
「へぇ…?」
「まるで星蝕者から奪った記録みてぇな………。でよう、オレっちは思うんだが…」
ゴルドーの表情が険しくなりました。
「嬢ちゃん、もしかして…異世界転移者か、転生者なんじゃねぇか…?」
ーーーーーーー
ーーーーー
ー
ストップ!ストップです!待って下さい!!
え?どうして気付かれてるんですか?いえ、別に隠したい訳では有りませんが。
ーーーって言うか、実は自分が前世では男性だった事が知られると引かれるのでは?
いえ、別に前世がどうであれ、私自身は女性ですので後ろめたい事は何も無いのですが、何と無く居心地は悪くなるものです。
いやそもそも何故異世界転生者だと気付かれたのでしょうか?
そう思い、混乱しているとマックスさんが続けます。
ー
ーーーーー
ーーーーーーー
「なるほどねん?もしそうなら、何かとんでもない力を秘めてるかもだし、星蝕者の力を取り込んだ………とかで、あの時あたし達を助けてくれたのがエルちゃんの可能性も在る訳ねん?」
「おいおい、そりゃ幾らなんでも飛躍し過ぎだ。………まぁ、あのしつこく殺して周りやがる星蝕者共が、ヤケにあっさり消えちまった事にゃあオレっちも気になるけどよぉ…。」
「…姉御、話が進まないっす。」
マックスの戒めで話を戻しました。
「まぁ話を戻すと、本来は五十万ゴールド……と言いてぇ所だが、そのデザインを形にすりゃ、長期的な収支を見込める。………っつー訳で、大マケにマケて五万…でどうだ?」
「十分の一だなんてまた随分と太っ腹じゃなぁい?どう言う風の吹き回し?」
「………五日間だがよぉ、オレっちもその嬢ちゃんを気に入っちまったんだよ。………出来りゃ、ウチの店に欲しいんだが、嬢ちゃんはそう言う訳にも行かねぇだろ?」
「ね?惚れちゃったでしょ?」
「いや、オレっちの…嫁に行っちまった娘を思い出してな?」
「………今じゃ大陸の何処かで息子に囲まれてる………って、いけねぇ、酔いが回っちまったか。」
ゴルドーは首を振り続けました。
「キッチリ五万ゴールド。半年後に持ってくりゃ、嬢ちゃんのもんだ!そう伝えといてくれや!」
ー
ーーーーー
ーーーーーーー
マックスさんのお話に、何やら例の力の事が混じってましたが…これはそう言う事だったのですね?
憎き敵の力が扱えると言うのは悲しいやら恐ろしいやら、頼りになるやら…
「ーーーと言う訳で、エルキュールさんにはゴルドーさんからその様にと、…それから、これが五日分の給料だそうっす」
マックスさんが私に差し出した袋には金貨が入ってました。
ーーー金貨百枚、それが私の五日間の対価でした。
「あの…多過ぎでは?」
「あの工房は女性の協力者が少ないっすからね………。察してやって下さいっす。」
あー………。
私は金貨袋を受け取ると、ホロリと涙が溢れました。
岩に包まれた空を見上げると、おじさまがサムズアップをしてる気がしました。
ー
ーーーーー
ーーーーーーー
「それでぇ、明日にはシャリア商会も旅立つわよぉ?」
シャリアさんの明るい声が私達の中で響きます。
「明日………ですか。……次は何処を目指すのですか?」
私の問いに、待ってましたと言わんばかりにシャリアさんが答えました。
「エルキュールちゃん達のお目当ての地、首都『ファルネリア』よん!」
シャリアさんの高らかな宣言に、私は思わず胸が高鳴りました。
首都『ファルネリア』
そこは私達の旅の始まりになる筈で、お父様が騎士として勤める国の中心。
そして、………スロートリング本大陸への玄関とも言われる場所です。
「遂に首都………首都ですか!」
私はこの抑えきれない気持ちを言葉に出来ません。
「ーーーと言う訳でぇ、明日のお昼までは自由行動ねん?皆、忘れ物が無いようにしっかり準備するのよん?」
シャリアさんの言葉で一度解散となりました。
私は馬車に戻り、アリシアの様子を見に行きました。
「アリシア…?起きてる?」
………しかしアリシアの返事が有りません。思わず不安になって彼女の側に寄ると…。
「さみしいよ…さむいよ…エルぅ…」
服の袖を掴まれた私はアリシアの様子に驚き抱き抱えました。
抱き抱えられたアリシアは異常に震えて、酷く汗をかいてます。
一体どうした事でしょうか?こんなに弱ってる彼女を見るのは初めての事でした。
「アリシア!?アリシア!!どうしたの!?私はここよ!?アリシア!!」
私はとにかく狼狽えました。愛する親友のこの様な姿に混乱を隠せません。
「りかばー!…りかばー!」
シャルロットちゃんの必死の治療魔法も、効いてる様子が見えません。
あぁ、アリシア…どうしてこんな事に…
愛する親友が苦しんでると言うのに、何も出来ない私は涙がポロポロと溢れました。
こんな時に泣く事しか出来ないなんて、私はなんと役立たずなのでしょう…。
その時、今まで物を言わなかった漆黒の陰が言葉を紡ぎました。
「これを飲ませてやれ。…少しずつだ。」
セシルさんが木のコップに水を汲んで差し出して来ました。




