41.六日目
わたしことアリシア=バーネットは、冷害から救うべく植物人族の集落へと薬を届けに訪れました。
実際には冷害の正体とは、途中で遭遇した腐食竜の仕業であった事が判明したのですが、決死の覚悟でこれの討伐に当たったのでしたが、結果はほぼ相打ち状態で、わたし自身も強打に切り傷や魔力と膂力切れを起こし、最後には気絶…と、中々に厳しい戦いでした。
その少し前に意見の相違で分かれた黒い剣士のセシルが、気絶したわたしを拾ってくれた事で命を繋げました。
しかし、わたしは結局薬を紛失してしまい途方に暮れていた所、セシルが集めた薬の素材を調合した事で、何とか集落は救えたみたいでした。
集落の中で、救えなかった命はあったものの、それでも多くの植物人族を救えた事は何よりの報酬なのでしょう。
「勇者様や…これを。」
「これは…薬?村の人に飲ませてあげてください。」
「いいえ、これは勇者様の為の水薬でございます。あの憎き魔竜に相対したのならばその息を吸ったのでしょう…。であれば勇者様とて病に冒されているやも知れませぬ。」
「………虫の良い話とは存じておりますが、我々からの竜退治の報酬と思って受け取って下されば幸いですじゃ。」
アリシアは少し迷いましたが、村長の気持ちを笑顔で汲むことにしました。
「うん…ありがとうございます!」
「ほっほっほ、なんと気持ちのよい返事じゃ。一日三度、三滴ほど水に溶かして飲むと良いですぞ。」
「どのくらいで治るのですか?」
「そうですな…村で安静にするのなら五日程と言った所でしょうか?」
「五日かー………」
ふと、アリシアの頭の何かが過ぎります。
「五日!?」
ガバッと飛び起きたアリシアに村長はビクッと跳ねますが。
「おじーちゃん!!今日は何日!?セシル!?セシルは!?」
「呼んだか?」
「今日はアレから何日目!?」
「今は四日目の夕刻、じきに夜の帳が下りる頃合いだろう。」
ーーーのんびりし過ぎた!!
アリシアは焦りました。ーーー未だにシャリアさんの依頼品を集め切れて無いからです。
実は鉱石の事を完全に忘れてたアリシアは急いで支度を始めましたが…
「…………きゅう」
変な声と共にぺたりと倒れ込みました。
「勇者様は一体何を…安静にしておらねば死んでしまいますぞ?」
「我がシャリア商会の首領に言い付けを受けていてな。依頼された素材をすぐに集めなければ親友の貞操が危ういのだ。」
普通に話せるんかい!!後、説明ヒドい!!ーーーーいや、合ってるけど?
「それはそれは何とも…。ーーーであれば我々の中の動ける衆にそのご依頼を手伝わせていただけますかな?」
「良いのか?」
「寧ろ光栄なことじゃて。ーーーこれ、勇者様のお仕事を手伝える者を集めよ。」
ーーーこうして、わたしは集落の人達の協力を得て、五日目一杯掛かって何とか鉱石を集める事が出来ましたが、わたしの身体は腐食竜の吐いた瘴気のせいで、眠るに眠れず、苦しい夜を過ごしました。
そして六日目の朝を迎えました。
「ありがとうございます…本当にお世話になりました。」
「ワシらとしてはもう少しゆるりと癒して行って欲しかったのですが、勇者様も色々と忙しいので在らば引き止める訳にも行きますまい。」
わたしはセシルに背負われながら挨拶をしています。
「ーーーふっ、何度目のおなごとの接触だろうか?………めっちゃ興奮するぅぅぅぅっっっ!!!!」
「おいこら」
全く、この人は本当に格好付きません。
ーーー気を取り直して、わたしは植物人族の集落に手を振りセシルの背中で鉱山の町、スルースへと帰還したのでした。
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「ーーーーーと言う訳でね?」
「わたしの身体が動かせないのはその竜の息のせいなんだよ。」
………わたしの五日間の体験を聞いてくれてるのは壷の中の少女、シャルロットことシャルちゃんでした。
因みにセシルは護衛役を勤めてくれてます。
「アリシアちゃん、いたい?大丈夫?」
「痛いって言うか怠い?身体の中が凄く熱くて溶けそうな感じ。力入んないや。」
「…………りかばー」
シャルちゃんがニュッと出した両手の先が緑色に光ったかと思うと、身体が少しだけ楽になりました。
「ありがとうシャルちゃん、………そう言えばシャルちゃんも魔法使えるんだよね?どこで習ったの?」
シャルちゃんは少し照れてからわたしの質問に首を傾げると…
「わかんない」
………と
「……きづいたら使えたの。」
………たま〜〜〜に居る天才型ですか?普通は独学の長い時間を掛けた研究や、魔法学やルーン文字の勉強とか、実技とか実習とか、とにかく色々と勉強したり、修士さんに習って使える様になったりと、珍しい方の魔力持ちの人間でも一つ覚えるだけでも結構大変なのですが。
「なるほど?わたしはおばー…師匠に教わって覚えたんだけどね?防御とか、補助とか…そっちの才能しか身に付かなかったみたいでさ。」
「でもアリシアちゃん、れんきんも出来るし、きよう」
「ありがとう。ーーー回復とか使えたらね?今頃はもっと何かが出来たのかもだけど。」
「シャルもあんまりつよくないから…アリシアちゃんをなおしてあげたいよ。」
「わたしも攻撃魔法とか使えたらなぁ…。」
「あ、もういっかい…りかばー」
そんな会話が繰り広げられていると、馬車内を何か嫌な臭いが立ち込めて来ました。
ーーーまさか!?
「あああああありいいいいいしいいいいいああああああああ?」
目の前に居たのはなんと
お酒の匂いを漂わすエルキュールでした。
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ーーーーー
ーーーーーーー
「うぇへへぇ……アリシアかわいいねぇ?シャルロットちゃんもおいでおいでー?お姉ちゃんと仲良くしましょ〜?」
私はにゃにやら嫌がってるアリシアを抱き抱えながらシャルロットちゃんを手招きしまひた。
にゃんかアリシアの身体があったかい気がしましゅ。うへへへあったかアリシアかわいいでしゅう…。
頬ずりしたりただただ抱きしめたり…わたあらひはただアリシアをかわいがりたいだけにゃんでしゅよう?
シャルロットちゃんがふぁいあぼるとを撃ってきました。わたひは手ではじき飛ばした。
なんか痛い気がしましゅけど、つぎはシャルロットちゃんを甘やかしゅ番なのでかまいまへん。
うふふふ…シャルロットちゃんかわいいでしゅねえ…
怯える顔もそそりますよぅ?泣き顔もたまりあへん。
思わずじゅるりとよだれが垂れてひまいました。これはしっけい。
ではシャルロットちゃん、いただきま」「やめんかエロ肉!!」
私は空中に浮かぶ真紅の剣の腹で思いっきり叩かれました。
ーーーーーーー
ーーーーー
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「いっっっやーーーー、まさかエルちゃんがここまでお酒に弱いとは思いもしなかったわ!!」
ゲラゲラ笑いながら言うのは我等がシャリア商隊の魔王、シャリアさんでした。
ドワーフ工房の職人さんは帰ったのでしょうか?
「わたしも知らなかったよ…エルキュールがお酒を飲むとここまでおっさんになるなんて…。このエロ肉!エルおっさん!」
殆ど裸みたいな格好で、完全に伸び切ってるエルキュールを前に好き勝手言います。しかし不名誉ながら仕方のない称号です。
「シャル……こわかった………」
自慢のふぁいぼが効かなかった事に、心底恐怖してました。シャリアさんの胸の中で震えてます。その人もお酒臭いのですが。
「………すんませんっす、………まさかエルキュールさんが姉御のビール一杯であそこまでなるとは…」
「いや、うん…あたしもちょーーーっとやり過ぎたっつーか、ね?まさかここまでエロっエロになるなんて想像もつかないじゃん?」
わたしはギロッとシャリアさんを睨みました。
「ーーー全くもう。ーーあ、シャリアさん、わたしも動けないんで、依頼の件はセシルに任せてるから、セシルから受け取ってください」
「んー?了解。………じゃあ腐食竜を倒したなんて結構な報告も受けたし、後でセシル君に詳しいことは聞いとくけど…」
………?まだ何か続くのでしょうか?
「アリシアちゃんも、身体は大事にしないとダメよん?アンタが死んじゃったら、悲しむ子もいるのよん?」
ーーーあ。
わたしはあの時の事を………
光り輝くエルキュールのあの何処か懐かしさすら感じさせる笑顔を思い出しました。
………そうでした。わたしが死ぬと、この子を護れる人が居ません。
………いえ、誰にも譲りたく無いんです。
きっと、わたしのピンチにああして助けてくれた様に、わたしもこの子の光で在り続けたい。
ーーー心からそう思うのでした。
ーーー
「シャ〜ル?たまには壷から出て、姉ちゃんと一緒に寝ましょう?なんならシェリーも付けるわよー?」
「…………うん、シャル…おねえちゃんと…おばちゃんとねる」
「あら?おばちゃんもかい?」
「俺はギルドに用が在る。出立の頃には伺おう。」
「俺は………ま、いつも通りっすね。」
各々の夜が更けて行きました。
アリシアはエルキュールの手を握ります。
きっとずっと、この先もずっとずっと…
………あなたの残りの命をずっとわたしが添い遂げてあげたい…と
心に決めて、エルキュールを抱き締めました。
自分の中では最初から呼んでたエルおっさん。




