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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー エルキュールの初仕事 ー
40/138

38.Side.アリシア 前編

ーーー



わたしことアリシア=バーネットは、親友で幼馴染であるエルキュール=グラムバルクを連れて行かれて不貞腐れていました。

だってさだってさ、せっかく五日ぶりに会えたと言うのにですよ?

わたしがお世話になってるキャラバンの主人のシャリアさんは、よりにもよって酒場なんかにわたしのエルキュールを連れて行ったんですよ?

きっと酔わせて変な事をするに違い有りません!

………しかし、そうは言っても五日間殆ど眠れず疲れ切った身体は思う様には動きません。


因みに元凶はやはりシャリアさんです。

この五日間、一体何が有ったかと言うと…。



ーーーーー

ーーーーーーー



「………シャリアさんのバーカバーカ!アホー!」

「うふふ、よっろしくねーん!」


わたしは感情に任せてキャラバンを飛び出しました。走って走って、とにかく走って、キャラバンの停泊場から暫く走った先にある門の側に来た時点で気付きました。

わたしはエルキュールに挨拶もしてないし、そもそも荷物も馬車に置きっ放しだ!!

そこまで気が付いて、気は引けるものの、一度キャラバンへと戻ろうとした時には、…居ました。

あの黒い人です。


「………ふっ、俺はおなごの身支度を整える事も出来る男だ。故に持って来たぞ?貴公の戦支度を」


彼はキャラバンの戦闘と馬車や荷物なんかの整備担当のセシルと言う青年ですが、ご覧の通り何を言ってるのか分かりません。無駄にキラキラ輝いて見えます。意味が分かりません。

分かりませんけど、有難いです。今はありがた迷惑です。


………むう、ですが早目に仕事を終わらせれば早くエルキュールに会えるのも事実ですので、このまま行ってしまおうと思いました。

挨拶は………仕方ないので、帰ったらたっぷりと甘えさせてやりましょう!これもお姉ちゃんの勤めなので!


「ありがと!じゃあ行って来るね!」

わたしは荷物を受け取りセシルに向かって挨拶をすると、足早に立ち去ろうとしました。

「何を言ってる?俺は貴公の剣故に、つゆ払いとなるのは道理だろう?」

うげ…着いて来る気みたいです。

「いや、お仕事は良いの?わたしに構ってると五日間は帰って来れないよ?」

「安心しろ、俺も魔王シャリアからの指令だ。貴公の剣となる事が我が使命。故に俺に委ねろ。」

うん、魔王だ。

「分かった、セシルの実力は知ってるから、背中は預けた!」

「承知した。」


こうして勇者と魔剣士 (自称)の歪なパーティが結成されました。


さてさて、頼りになるやら、やたら疲れるやら。とにかくこの黒い人と五日間…以内に依頼を解決しなくてはいけません。

わたしは出鼻を挫かれた気分で討伐依頼兼、素材回収の冒険に旅立ちました。



ーーーーー

ーーーーーーー



ーーー初日ーーー



最初の依頼ですが、ロックゴーレムの討伐と………シャリアさんからの依頼で、宝石の原石を集めて欲しいと言う物でした。

ロックゴーレム自体はこの鉱山の町『スルース』付近に沢山生息しているので見付けるのは容易いのですが、問題は倒す方法と、そもそも採取出来るだけの宝石を身体の中に持ってるのかが問題でした。

持ってても間違えて破壊してしまえば探し直しですからね。


そして言ってる側から二メートル程のロックゴーレムの群れを見付けてしまいました。五、六…七体ですね?幸先が良いです。

とりあえずわたしは、一体ずつ核を叩いて行く方向に固めましたが…。


「行かないなら俺が行こう…」

ちょまっ!!

ザキン!ザキン!っと、まるで金属を切るみたいな甲高い音が周囲に鳴り響くと、ロックゴーレムの群れがあっという間にバラバラの岩の塊に変わってました。

「はぁぁぁあああっ!?」

わたしは慌てて駆け寄りましたが、セシルは何やら得心が行かないご様子で、此方を不思議そうに見詰めてます。

「えっちょっ…これ、中身も壊れてるじゃん!!せっかくの群れがああああっ!!!」

わたしは頭を抱えて落ち込みました。

いや、七体を纏めて倒せるセシルの化物さ加減にも驚きましたが、それ以上に目的を話して無かった自分の迂闊さが腹立たしくて………はぁ。

仕方ないので、他を探すかスルースから遠い鉱脈を探すかで宝石は集めるとして…、とりあえずロックゴーレム討伐の依頼は果たせたみたいです。討伐の証拠として、制御回路。つまり核を削り取ります。

後でギルドに報告しておきましょう。

「………ふっ、少女の剣となる栄光はやはりいつの時代も不逐のものよ。」

うっさい駆逐されてろ。

………まぁこの後、薬の原料を探してる内に半分くらい集まりましたから良いですけど。



ーーーーーーー

ーーーーー



ーーー二日目ーーー


ーーーわたしはなんと、山に登ってます。

ロックガルーダと言う岩山に住む巨大な神鳥の…………討伐です。

いや待って、仮にも神鳥ですよ?討伐しても大丈夫なんですか?

………しかしまぁ依頼は依頼なので、鳥害の被害に苦しむ農家の方々の為にもわたしは心を鬼にして…


「虫酸が走る!!」


サックリやっちゃいました。黒い変な人が。

何故か此方に「俺強いだろ?」って感じでアピールして来ます。チラチラ見て来ます。本当なんなのでしょう?

………しかしまぁそうは問屋がおろしません。

ロックガルーダはその大きな翼をはためかせ、わたし達に強烈な暴風を巻き起こして来ました。

セシルはしっかりと岩に剣を突き刺し耐えているのですが、私は身体が小さく軽いので簡単に飛ばされてしまいます。

「うわわわわっ!!このぉっ!!」

瞬間、私は身体から真紅のオーラを解き放ち、髪は白く後ろの方はお尻まで長くなります。後、ついでにわたしが住むファルネリアの親国は大樹の王国『スロートリング』です。獣人の王様が治めていて、その信仰対象として守護竜様がいらっしゃるのですが、獣っぽい見た目です。………まぁつまり何が言いたいのかと言いますと、………猫耳が生えます。

ふふふ、若い内はめちゃかわで良いんですが、これおばさんになったりすると見た目キッツいですよ?残念ですよ?

って言うか師匠…エルキュールのお父さんことヴォルフガングさんも生えちゃうんですか?ちょっと見てみたいです。


まぁ今は将来の心配より岩鳥ロックガルーダです!

わたしが勇者の力を解き放ったと言う事は、周囲に対して自分の力場領域テリトリーを展開したと言う事です。簡単に言えば、わたし限定で超絶的なパワーを発揮しますし、魔力量も増えます。

後ついでに他からの干渉を受けなくなります。わたしを持ち上げようとしても子供が巨岩を持ち上げようとするものです。まず不可能です。

まぁ攻撃などは力量差次第では打ち破られますが。

…そんな自分にとって、とてもとてもご都合主義な領域を発揮したわたしは暴風に吹き飛ばされず、地面に着地しました。

そして真紅のオーラを纏う炎を形取った様な剣を空中に錬成すると、岩鳥に向かって飛び掛かりました。


「ねりゃああああああっ!!!」


左肩から右脇腹に掛けて大きく斬り裂きました。

ザクンッと骨と肉を断つ感触が手に伝わりましたが、最早慣れたもので何とも思いません。

岩鳥はとても苦しそうに耳障りな悲鳴を挙げると、最期の仕返しとばかりにわたしやセシルに魔力を込めた咆哮を浴びせて来ました。

私は鼓膜が破れない様に両手で耳を塞ぎました。

セシルは………セシルは岩鳥の首を刎ねました。


ロックガルーダは討伐、そしてシャリアさんの依頼の岩鳥の卵を回収しました。

………まぁ、岩鳥は沢山生息してますので、一体二体討伐しても絶滅はしませんが、鳥害への警告にはなったのでしょうか?

もしも仕返しに来たら………それは他の冒険者の仕事です。冷たい様ですが、与えられた依頼をこなすのがお仕事です。絶滅させる事ではありません。

アフターケアは出来る範囲でしか出来ませんから。それが冒険者の仕事です。


………うーん、ロックガルーダって食べられるのでしょうか?



ーーーーーーー

ーーーーー




ーーー三日目ーーー




一度依頼の報告と、素材をキャラバンに届けに来ると、シャリアさんと会いました。

どうやらエルキュールはお仕事に行ってるみたいです。

シャリアさん曰く、とても大事なお仕事で、エルキュールの将来の為に役立つ事をさせてるとの事です。

………?

シャリアさんの考える事はさっぱり分かりません。でもきっと無駄な事はさせないでしょう。

さてさて、それはそうとわたしもお仕事です!

下着だけを変えて飛び出しちゃいました。

黒い変なやべーやつも一緒でした。


「うーん…今日はどっちを周ろう?」

「小鬼の集落の占拠か、植物の楽園を焦土に変える…か」

「おいやめろ」


「…ゴブリン族との商売取引の護衛か、植物人の人達に薬を届けるお仕事だよ?」

「ふっ…似た様な物だ。」

「やっぱ護衛からかなぁ…。こっちは往復で二日掛かるけど、ギリギリ過ぎると片方出来ないかもだし。」

「ふっ、どちらを選んでも俺は貴公の剣と「二手に分かれる方法もあるけど?」

「いや、…俺は貴公の剣となって「その話し方やめないと二手で行くよ?」

「………魔王シャリアに怒られるので一緒に行きたいのだが。」

「うん、分かった。お仕事だもんね?それなら一緒に行こう。」

なんかしょんぼりしてます。

普段から普通に話せばいいのに…。


わたし達はこうしてゴブリン族との取引を行う商隊の方と合流しました。

少し太った感じのおじさんと、屈強な男性が四、五人…。馬車の中からは獣の声が聞こえて来ます。

…………んー?

なんだかとてもキナ臭いです。

セシルに軽く目配せしたわたしは、馬車の縁に腰掛けました。




そして馬車は暗い暗い森の中へと進んで行くのでした。

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