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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー エルキュールの初仕事 ー
39/138

37.火酒

ーーードワーフの酒場ーーー



私、エルキュール=グラムバルクは、商隊の主人シャリアさんと護衛のマックスさん、そしてドワーフ工房の主人ゴルドーおじさまに囲まれて、酒場のテーブルを囲んでます。

はっきり言って場違い感が酷いです。


ーーー何故私がこの席に招かれたかと言いますと…





ーーーーー

ーーーーーーー





「直で言うとエルちゃんのお給料の事もなんだけどぉ、ちょーーーっとオジサマと交渉しなきゃなんないのよね。ーーーでさぁ、エルちゃん気に入られてるっぽいじゃない?ならエルちゃんにオジサマの接待を任せて、気持ちよーーーく交渉を有利にしたいってワケよ!」


…物凄く悪い顔でした。珍しく説明が有ったかと思えばこれです。


「………良いですけど、接待は……まぁ社会人の基本なので。…でもそれならシャリアさんがやった方が………。ん?…そもそもシャリアさんがおじさまのお仕事を引き受けた方が良かったのでは…?」

「あぁ、あたしがやるとアイツ等の腕無くなってるから。」

はい、納得です。シャリアさんは頭がおかしいので。





ーーーーー

ーーーーーーー





「それにしても引き受けてくれて嬉しいわん。………っと、オネーサン!ビール追加ねーん?」

私の向かいの席では、店員さんに注文をするシャリアさんが随分なペースでお酒をかっ喰らってました。その隣のマックスさんは控えめです。やはり本題から逸れないようブレーキ役としてついて来てるのでしょうか?

そしてゴルドーおじさまはと言うと…

「オイオイ姉ちゃんよぉ、こんなんじゃオレっちの飲みに着いてこれないぜ?」

………シャリアさんが控えめに感じる程に、人の頭程も有る壺から柄杓の様な物で直接飲んでました。見てるだけでクラクラして来ます。

「しっかし嬢ちゃん、元気になったみたいだな?メシは食ってるか?」

「はい、いただいてます。気に掛けてくださってありがとうございます。」

ーーーやはり不器用ですが、紳士的です。私はゴルドーおじさまの隣でお昼ごはんをいただいてます。

サンドイッチおいしいです。ちょっと…かなりお酒臭いですが。

「ほら、嬢ちゃんも飲んでみな?元服は過ぎてんだろ?」

「元服…いえ、後一年です。」

「細けえ事ぁいいんだよ!オレっちが嬢ちゃんに大人の世界ってモンを教えてやるよ」

ひぎぃ!この人アルハラでした!

って言うか大人の世界知ってますから!前世ではガバガバ飲んでましたし!

シャリアさーん助けてー………ダメだこの人、楽しそうに飲め飲めって顔をしてます!!

マックスさーん…………あ、目を逸らされました。

このアルハラ共め!!

「………でっ、では…少しだけ…」

「チビっとだぞ?チビっとずつ行けや!」


………チビっと……かっ!?


「けほっかフッ!ひぎぃ!のどがやげる!?」

「ガッハッハッハ!カザド直伝の火酒はキチぃだろ?こいつがオレっち達の魂よ!」

火酒って、蒸留酒でしたっけ?ウォッカとかジンとか………お水や果物の絞り汁で割ったり氷を入れて薄めて飲む物をよりによってストレートで子供に飲ませましたよ!?このおじさま!!

「おうおう嬢ちゃん!コイツが水みてぇにスルスル行けねぇって事ぁ毛が生えてねぇ証拠だ!大人になりたきゃガッポリ飲める様になるこったぁな!!」

豪快に笑いながら私の背中をバンバン叩きます。…下ネタ全開です。

なるほど……おじさまはお酒が入るとダメになるタイプでしたか!この変態共め!!

「ね〜ぇオ・ジ・サ・マ?あたしと勝負しましょう?あたしはルービーだけどぉ、オジサマはそのツボで、どっちが先に空にするか、掛けなぁい?」

シャリアさんが何かを言い始めました。いや、壺とジョッキじゃあからさまに量が違い過ぎます。

「オイオイ姉ちゃん、そりゃ幾らなんでも量が違いすぎるだろ?勝負にならねぇよ。」

「あら?誰がこれでって言ったかしらん?…オネーサン、樽一つちょうだい?ちっこいのじゃないわん。そっちのた〜るっ。」

た〜るっ!?私の腰の高さ位の大きさですよ!?

「………は!?正気か!?そんなモン入らねぇだろ!?っつーか死ぬ気か!?自殺に付き合う気は「あ〜ら逃げるのかしらん?」

「何言ってやがる!?そんなモ「オジサマはその小さな壺でいいのよん?まさか、あたしみたいな小娘に負けるのが怖いのかしらぁ?」

「だからヒトの話を「あらあら、じゃああたしは勝手にやらせて貰うから、オジサマはごゆっくりどうぞぉ?」

「だから聞きやがれぃ!!!」


あー…この展開は…予想が付きます。


「オイ姉ちゃん!オレっちもその量だ!嫌とは言わせねぇ。先に飲み尽くすか、飲めなくなった時点で量の少ねぇ方が勝ちだ!良いな?」


ーーーゴルドーおじさまの挑戦に対して、シャリアさんはいつもの狐の様な笑顔で頷いて答えました。

おじさまは本当に挑発に弱いです。


ーーーーー

ーーーーーーー



シャリアさんとゴルドーおじさまの目の前には並々と注がれた樽が置かれて居ました。

お互いに手に持つのは木製のジョッキです。

周囲にはいつの間に集まったのか、大勢の観客がわらわらとお酒等を手に、皆それぞれ観戦してたり、何か賭けてたり。………中には私を巡っての争いだとか好き勝手予想を立ててる方もいらっしゃいます。

要するにお酒の肴が欲しいのです。

私はマックスさんの隣で二人の前に立ってオロオロしてます。

どうしてこうなった…。


シャリアさんもゴルドーおじさまも、二人ともまるでアスリートの様な視線を交わしてニヤリと笑うと、身構えました。


「じゃあエルちゃん、合図よろしくねん?」

「…見とけや、これが大人の飲み方ってヤツよ!」

これ大学生がコンパとかでやるアレですよね!?

しかしまぁ、ここまで来たら止められないのでしょう。…私は素面なのでとても恥ずかしいのですが、こうなっては仕方有りません。

この勝負の行方を見守る大役、務めさせて戴きます。


「始め!!」

私が手刀で空を切ると同時に始まりました。

二人ともジョッキをお酒に沈めてはガボガボ胃に注ぎ、沈めてはガボガボ注ぎと、凄い勢いで貪って行きます。まるで乾いた大地が水を与えられて一気に吸収する様な勢いです。

周囲では歓声の声と、賭けた方への応援の声、賭けてない方への野次等が飛び交いますが、あくまで楽しんでる様です。

マックスさんはどうやら、野次に混ざって私がちょっかいを出されない様に守ってくれてます。今この空間で一番の大人なのかも知れません。

しかし二人とも、ちっともペースが崩れませんが、これ普通に全部飲んだら致死量じゃないですか?

三分の一程の量が消えましたが、ペースが落ちないのは何事ですか?


………んん?よくよく見ると、ゴルドーおじさまが少し苦しそうです。

お酒には強くても、量がダメなのでしょうか?

それに対してシャリアさんはと言うと………物っっっ凄い勢いでお酒を貪ってました。

しかしお酒を飲む姿も綺麗だとか、やはりシャリアさんは美人さんです。

シャリアさんは美人さんですが、残念です。とても残念な美人さんです。

………そんな失礼な事を考えていると、半分くらい減った所でまた一沸き起こりました。


なんと、ゴルドーおじさまのペースが落ちたのです。

周囲の声が多かった事を考えたら、きっとおじさまに賭けてた方が多数だったのでしょう。

いえ、中には喜ぶ声も混じってましたが。


そしてシャリアさんはと言うと………。


「面倒ねぇ、一気に行っちゃうわん。」


…と言うと、何やら「フオオン…っ」って感じの音が聞こえたと思ったら、シャリアさんが発光してました。

正しくはシャリアさんの服に青色の光の線が走ってました。

マックスさんはギョッとしてます。

しかしシャリアさんは我関せずと言った感じで構わず半分程入ったタルを両手で持ち上げると………そのままゴッゴッ…と、飲み干しました。

「ぷっはー!あたしの勝ちねん?」

………は?え?マジか。

ゴルドーおじさまは何やらくたびれた様子でジョッキを手放してました。

「ねぇねぇエルちゃん、ほらほら勝利のゴングは?」

そんなものはないです。………けど、私はシャリアさんの腕に手を添えて振り上げます。

「しょっ…勝者!シャリアさん!」


途端、ワーーーーッ!っと、大きな歓声の声が一際高く酒場内を響かせたのでした。




ーーーーー

ーーーーーーー



シャリアさんは野次馬達に囲まれてチヤホヤされてましたが、マックスさんが立派にガード役を務めてました。流石は護衛です。

おじさまはと言うと、負けた悔しさも有りますが、それ以上にシャリアさんの健闘を讃えてました。

これが武人がどうこうと言う事でしょうか?真剣に闘った相手には敬意を表するのがドワーフ式なのでしょう。


「スゲェな姉ちゃん…あんな隠し球があったとは…」

「あの光ったのですか?…もしかしてアレを使うと、沢山飲めたりするんですか?」

「そうじゃねぇさ、飲み干せたのはあの姉ちゃんがバケモンみてぇな胃袋持ちってだけだ。」


ほげー…。シャリアさんは頭だけでは無く、胃袋もおかしかったんですねぇ。

そんな風に私達が好き勝手言ってるとはつゆ知らず、シャリアさんはギャラリーとマックスさんに囲まれてケラケラ笑ってました。全然酔い潰れてすらいないのですが?


ーーーと、ゴルドーおじさまが話を続けました。





「ありゃあよぉ…精神感応デバイスってヤツだ。」






何やら私の耳に聞き慣れた様な聞き慣れない様な…。とにかく世界観が台無しになりそうな予感を感じる単語が飛び込んで来ました。

そんな事とも知らずにヘラヘラしてるシャリアさんを、私はまるで異形を見るかの様に見詰めるのでした。



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