36.努力の跡
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ーーー目が覚めた時には、部屋の明かりが消えてました。
いつの間にか寝ていた事に気付いた私は、顔を洗おうとしましたが、室内は薄暗く、いつもと勝手が違うので周囲にある物にぶつかってしまいました。
バサバサバサバサと、何かが落ちる音が聞こえて、慌てて拾おうとしました。
「おう、嬢ちゃん。起きたのか?」
声を掛けられた私は思わず手が止まってしまいました。
そうするとランタンに火を灯したのでしょう、部屋に灯りが点いて薄明かりの中私が落とした何かが目の前に飛び込んで来ました。
それはいくつものバッテンがペンやナイフで付けられた羊皮紙の束でした。
………昨日は夢中で気付きませんでした。
恐らくゴルドーおじさまが自らボツにして来た努力の跡なのでしょう。
それなのに私が描いた絵よりずっとずっと上手で、とてもとても独創的に思えました。
「あの…これ…」
「あぁ、オレっちの失敗作だ。実際に作ってみたのも有ったが…どうにも古臭くってなぁ…」
「そんな事ありません!!どれもとても素敵です…!」
「ははは、ありがとうな?嬢ちゃん。」
ーーーおじさまの笑顔はとても素敵でした。
きっとずっとずっと試行錯誤を重ねて来て、私等では考えられない程に長い間、様々な高い壁に突き当たって来たんだと思います。
…落としてしまった羊皮紙を拾い集めていると、中には女性用の装備の原案も沢山混じってました。
やはりどれもこれも独創的でした。自分の絵が、まるで足元にも届きません。
………この四日間は、きっとおじさまが抱えるドワーフさん達の為に開かれたのだと理解した私は思わずポロっと涙が溢れました。
ーーー不器用です。
…不器用ですが、凄く仲間想いな方なのです。
五日目だってきっと、私がとても疲れ切って見えて…だからこうして時間を下さったのだと知りました。
正直、私はゴルドーおじさまは声も大きくて、怖い印象でしたけど、この方の人となりを知った気がして…涙が止まりませんでした。
…
………
……………
「落ち着いたかい?嬢ちゃん!」
「………はい、驚かせてすみません。」
「まぁなんだ、オレっちにゃ嬢ちゃんが何を思ったかは知らねぇが、アレだ!腹ァ満たしゃちったぁ元気も出るだろうよ?」
そう言って差し出されたのは一杯のコーヒーと硬いパン。そして目玉焼きでした。
コーヒーの香りを嗅ぐと、私は集中し過ぎたのか、昨日は殆ど何も食べてない事に気が付きました。そしてお腹がク〜〜〜っと鳴って、思わず赤面しちゃいました。
「ハッハッハ!ほら、まずは水分からだな!一気に食うと喉詰まらせちまう!ゆっくり食いな!」
「あっ…あはは…すみません、ありがとうございます…!」
私は気恥ずかしさと、おじさまの直球の優しさに触れて、とても温かい朝食を戴きました。
「………おじさまの作品を少し拝見させていただきましたけど、なんだか自分が恥ずかしいです。」
私が食事を終えてそう言うと、おじさまはニヤッと笑って言いました。
「オレっちはこの仕事が長いからな!かれこれ四百年だ!そりゃ悩む時もあったけどよぉ…。この仕事を選んだ事を後悔した事ぁ無ぇぜ?」
「こいつがオレっちの「好き」だからな!嬢ちゃんにも有るだろう?あんな絵を描くんだ。無いたぁ言わせねぇさ。」
「………はい、あります。」
私はその問い掛けに答えると顔が…そして心が熱くなるのを感じました。
………会いたい…アリシアに会いたい!
「あの…おじさま、お仕事の方は?」
「おう、悪い悪い、本当は昨日で終わってたがよぉ、これで終了だ!出来ればまたウチの馬鹿共に顔を見せてやって欲しい所だが………嬢ちゃんにはキツイよな?」
「あっ…あははは………すみません」
「いや、良い良い!とりあえず帰って良いけどよぉ、後で会いに行くって姉ちゃんに伝えといてくれや!」
「………?はい。」
そう言って、私は工房を後にし、キャラバンへと帰ったのでした。
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「お帰りぃエルちゃーん!!」
シャリアさんが飛び付いて来ましたが、サッと避けました。
「あんっ!避けるだなんて酷いじゃなぁい?」
「おはようございます、シャリアさん。今朝も元気ですね?」
「だーーーーってぇ、昨日はエルちゃん帰って来なかったじゃない?あたし寂しかったのよぉ〜ん?」
うふふ、シャリアさんが元気そうで何よりです。でも朝から重いです!
「それでシャリアさん…アリシアは?」
私は期待感を込めてキョロキョロしました………が
「まだ帰ってないみたいよん?シェリーも見てないっぽいしぃ」
ふむむ…苦戦してるのでしょうか?…ですが、早くて五日と言ってましたので、気長に待つ事にしましょう。
………そう思っていると、背中から思いっきり押し倒されました。
まーたシャリアさんですか!?全く、いつもいつも私に変な事ばかりして!!
…私が振り返ると、小さな赤茶色が私の胸の中に埋もれました。そして私の顔が思わず綻びました。
「………お帰りなさい、最愛」
「ただいま!エルキュール!ありがとう!」
私は胸の中で甘える仔猫の様な少女を抱きしめました。
かわいい私の騎士様は、どこも大きな怪我は無い様子で、とても安心しました。
私がアリシアの頭を撫でていると…
「エルぅ……会いたかったよぉ……んーっ!」
凄く甘えた声で私の唇を塞いで来ました。
勿論この猫娘を拒絶する理由の無い私は喜んで受け入れました。
あぁ…もう可愛すぎて鼻血が出そうです。出ました。何故こんなに可愛く産まれて来たんですか?五日間洗ってない猫みたいな匂いがしますが気にしません、私はこの娘をペロペロしたいです。しました。あぁアリシアかわいいおいしいかわいいかわいい結婚しましょうよ結婚!食べちゃいたい位愛おしいんですよもう。何故怯えた目で見てるのですか?でもそんなアリシアもかわいいので構いませんが!さぁもうここでしちゃいましょう!結婚!かわいいアリシアと結ばれたいです!結ばれるべきです!世界よ!私達を祝福しなさい!かわいいアリシアは私のものです!誰にも譲りません!だからアリシアも私を愛してください好き好き大好きなんですぅ!!!」
「ふぁいあぼると」
ーーーーー視界が真っ暗になりました。
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「ーーー本当に、申し訳無いと思ってます。」
「全くもう…人前で何するのさ?」
ーーーそれ、アナタが言います?
「アリシアちゃんはシャルがまもるの…!」
あははぁ…今回は自業自得ですから返す言葉がありません。
「ギャハハハハ!正直ここでヤっちゃうかと思ったわーん!」
返す言葉がありません。
「姉御、流石にエルキュールさんに失礼っすよ。彼女だってその辺はわきまえてる筈っすから。」
期待を裏切って申し訳ありません。
「若い子達には色々有るかもだけど、おばちゃんはしっかりしてくれたら何でもいいわ。」
おばちゃんごめんなさい、理性飛んでました。
「フッ………楽園への扉とはかくも硬く閉ざされ、闇夜に包まれた道は如何に厳しい旅路なりや。」
この人は本当にどうしようも無いですね。知ってましたけど。後、後半意味が分かりません。前半も分かりたくないです。もうキャラが分かりません、この人。
「………オイオイ嬢ちゃん、こりゃ一体何があったんでぇ?」
………今一番気持ちを裏切りたく無い人が来ちゃいましたー!!
…そう言えば来ると言ってましたね?
「あーらオジサマ!精算のオハナシ?それなら酒場でしましょーよぉ!」
「オレっちは別に構わねぇが、潰れちまって桁ァ間違えんなよ?」
「あははは!なら勝負込み込みで良いわねん?じゃあマックスぅ?アンタとぉ…エルちゃんも着いておいで?シェリーには後で詳細伝えるわん。」
んん?私もですか!?
………しかしまぁ私も着いていく事になりました。アリシアが物欲しそうな顔で見詰めてましたが、今回はすみません、一緒に居ると襲いそうですので。
私はシャリアさんと、ゴルドーおじさまに着いていく形で酒場へと向かいました。
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今回はちょっと短めです。




