35.エルキュールの初仕事③
ーーー私、エルキュール=グラムバルクの初めてのお仕事はとても心が削り殺がれる様な物でしたが、何とか四日間を乗り切りました。
ひょっとすると、ドワーフの皆さんに触られて無い所を探す方が早いのではないでしょうか?
ふふふ…これは確かに嫌がりますね?女性のモニターさん方は。
………私も泣きましたし、虹色の滝も流しました。
ーーーー深夜にこっそりと。
それでもゴルドーおじさまは割と庇ってくれてましたが、アレですよね?
セクシャルハラスメントで訴えても勝てますよね???
それとも闇討ちの方が良いのでしょうか?
………とにかく、本日で最期の…おっと、最後の出勤となります。
長い様で長い様な…………日が経つのはあっという間ですが、とにかく長かったです。
………うぷっ、…凄く行きたく無いです。
ですがこれもお仕事なので、本日を最後にきっちり勤めて訴え………では無く、お別れしたいと思います。金輪際二度と。
私はとてもとても重い足取りで、職場へと向かいました。
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「よぉ嬢ちゃん、………ヒデェ顔だな。…なんか悪ぃな…いや、ホントすまん。」
謝られても嫌なものは嫌なのです。しかし私は愛想笑いを貼り付けて応対します。
「だいじょうぶです、さいごまでつとめますから」
何だかシャルロットちゃんになった気分です。
「あぁ、今日で最後なんだが、今日は着せ替えは無ぇ。かわりにオレっちの仕事を手伝って貰う。」
ほえ?あの地獄から解放されるのですか?
思わずポカーンとしてしまいました。
「スゲェ顔に出てんなぁ……そんなに嫌だったか?」
私は顔をブンブン振っておじさまに詰め寄りました。
「いいえ!!是非ともよろしくお願いします!!」
「おっ…おう、んじゃまぁ嬢ちゃん、付いて来て貰うぜ?」
何処へなりとでも!!…………と、思いましたが、別段おかしな事は無く、私が着替えに使用していた奥の部屋へと連れて行かれました。
おじさまは他のドワーフの皆さんから何故か物凄く睨まれてる様な………?
………とにかくお仕事です。ゴルドーおじさまの指示を待ちます。
「オレっちはこっちで依頼のローブ作りだ。嬢ちゃんは………そうだな、とりま茶ぁ淹れてくれや!」
あれー?………結局縫製関係の仕事はさせて貰えないのでしょうか?シャリアさんの大嘘吐き。
私は渋々お茶を淹れておじさまに差し出しました。因みに昆布茶です。渋いです。私は苦手です。
「おう、悪ぃな!………でよう、そこの作業台を使っていい。お前さんの鎧のデザインを考えてくれねぇか?」
「デザイン………ですか?」
「おう!……この四日間で嫌って程分かったと思うけどな?ウチは男しか居ねぇ!…………なもんで、その…なんだ、女子供の感性っつーのが分からねぇんだわ。」
それはまぁ、よーーーーーーーーーーーーっく理解出来ました。皆さん女の子への扱いがまるでなってません。
「怖ぇ顔すんなよ…。………でだ、お前さんの鎧を作るに当たって、女の気持ちは女がよく知ってるだろう?だからよ、そのデザインをお前さん自身に頼みてぇ訳だ。」
「………はぁ、それは分かりましたが、一日でですか?」
「悪ぃな…こっちもアイツ等、普段出来ねぇ様な仕事に取りかかれるってんで、はしゃぎ過ぎちまったみてぇでな?」
「まぁこれも何、アレだ。仕事だと思ってバッチリ決めてくれや。」
「適当ですね…」
「ま、オレっちもお前さんの事は多少期待したくなっちまったって事だ。どんな無茶な注文だろうがやり切ってやるから安心してデザインしちまいな?」
「デザインは素人なのですが………はい!全力で考えて見せます!!」
「おう!現実的に無理な所は後で手直ししてやっから、好きに描いてくれや!」
ーーーそうです。これこそが私が求めていた事じゃないですか!!
別に縫ったり切ったり、形を作る事だけが服や小物を作る事では無いじゃないですか!
寧ろこんなに基本的で、とても大事なお仕事を任せていただけるだなんて、服飾士冥利に尽きる………です!!
手直しが入るという事は私個人の作品にはなりませんが、概ね私がメインですよ?
やる気の度合いが変わりました!
全身全霊を込めて、私の総てを一枚に注いで見せます!!
…………
……
…………とは言う物の、中々難しいですよね?
絵自体は元々、趣味で適当に描いたりはしていましたが、本格的な………と言いますと、中々難しい物です。
しかも自分が着る服です。
余り突飛過ぎると周囲を引かせます。
逆に地味過ぎても着ていてつまらないです。
なにせドワーフの秘術とも言える金属のミスリルですよ?ミスリル!
その様な素晴らしい物を使用してくださるのです。
絶対にガッカリさせる様なデザインはいけません!!
今こそ前世で培った、ファンタジー系ゲームのデザインの知識を総動員する時なんです!!
ふふふ、こう言う知識だけならこの世界の誰にも負けませんよ?
素敵なデザインでアッと言わせて見せます!!
とにかく素敵なデザイン………とにかく素敵なデザイン………とにかく素敵なデザイン………」
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ローブを編んでいたゴルドーおじさまは、一息入れると私の様子を見ました。
私は机に向かって何度も何度もデザインを考えては自分でボツを出し、デザインを考えては自分でボツを出し………を繰り返してました。
机に突っ伏してガリガリと描き続ける私の姿を、おじさまは見守りましたが、やがて溜息を吐いて部屋から出て行きました。
しかし私はその様な事にも一切気付かずにひたむきに紙と戦い続けてます。
因みに紙は羊皮紙です。削っては描いて、削っては描いてを繰り返してます。
………数刻後、おじさまが戻って来ました。外はいつの間にか真っ暗です。………しかし私は全然デザインが纏まりません。
………いつの間にか涙が出てました。
全然イメージが纏まらないんです………
始めた時はアレ程意気込んでたのに………
何を描いても何処かの誰かの物真似みたいで…
………きっと私には才能が無いんです。
………馬鹿みたいです。
意気込んで旅に出て、死にそうになりながらここまで来て、おじさま達にも迷惑を掛けたり…
……でもおじさまは私にこんな大役を与えてくれて
それなのに描けない自分が凄く情け無いんです。
………私がペンを止めて俯いていると、おじさまが私に暖かい昆布茶を淹れてくれました。
「お前さん、自分を追い込み過ぎてるんじゃねぇか?」
「ははは………才能が無いんです……私には………」
「お嬢ちゃんなぁ…何か勘違いしてねぇか?」
「………何を……でしょうか?」
「お前さんが今やってる事だよ」
「………売れる鎧を…考えれば良いんですよね…?」
「オレっちがそう言ったか?」
「………で無ければこんなに…女性視点の意見…とか…」
「やっぱり勘違いしてやがんな。」
「オレっちはなぁ…お前さんが着たいデザインの服を描いてくれって言ったんだよ。」
「商品なんかじゃねぇ、無茶苦茶だろうが何だろうが、お前さん自身が「好き」って思う服じゃなきゃ意味がねぇ。ーーーだからよぅ」
おじさまの温かい言葉が私の心に届く様でした。
「滅茶苦茶好き勝手にやっちまえってんだ!後はこっちで何とかしてやる!!」
ーーー私は目が覚めた思いでした。
昆布茶は………嫌いなので受け取りませんでしたが、ペンとナイフを取り、羊皮紙に向かって「好き」を込めるだけ込める事にしました。
デザインが破綻しようが最早御構い無しです。
継ぎ目がおかしい?知った事じゃありません。
そもそも部品が空中に浮いてる?それが私の「好き」です。
ガリガリガリガリガリガリガリガリと、とにかく私は必死でした。
必死で必死で必死で、とにかく「好き」って気持ちだけを絵に込めてぶつけて
何回も手直しして、付け足して。
かわいいかわいいかわいいかわいい!!
キラキラキラキラキラキラキラキラ!!
全部全部詰め込んでやりましょう!
覚悟しなさい!私のデザイン!!
私の「好き」は暴力的ですよ!!
………私の「好き」、お父様…お母様………
……………アリシア……………
私はいつの間にか、ロックアーチのあの日の展望台に立っていました。
空からは沢山の星が降り注いでます。
手摺りには私の「好き」がもたれ掛かって空を見上げてました。
私の…「最愛」が…
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「………ったく、描いたと思ったら寝ちまいやがった。」
ゴルドーはエルキュールにゴワゴワの毛布を被せました。
机に突っ伏しスヤスヤと寝息を立てる少女に、ゴルドーは何か思う所がある様です。
そして羊皮紙に描かれた「最愛」を手に取りました。
「しっかしまぁ………雑だが魂が籠もってやがる…。」
「ま、及第点って所だが、良いぜ?嬢ちゃん。…オレっちがバッチリ形にしてやるからよぉ、今はゆっくり休みな。」
ゴルドーは外に出ると、すっかり日付けが変わってしまった空を見上げました。
排気口の隙間から見える小さな星に、何やら小さな予感を感じて。
「さぁて、ドワーフ工房の腕の見せ所よ!」
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