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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー エルキュールの初仕事 ー
33/138

31.シャリア・プログレス

ーーーーーーー

ーーーーー



「あれから一夜明けたっすけど、結局帰って来ないっすね…」


…と、体格の良い男性、マックスが言いました。それに答える声が聞こえます。


「大丈夫よ、あの子達は。片方は勇者様で、もう片方は歳の割にしっかりした子なんだから。おばちゃんを信じなさい。」


シャリア商会、移動商隊のお母さん役とも言えるシェリーの声です。


「ふぁぁ………ぁふ、何?心配なのー?マックスぅ。」


やたら眠そうな声の正体は、我等が商隊の主人、シャリアの声でした。

黒髪に浅黒い肌、スタイルも抜群で出る所は出て引っ込むべき所は引き締まった、見る者全てを惹き付ける様な端麗な外面と、触れる者を悪魔の笑顔で引き裂く様な内面といった性質を持つ女性です。


壷の中にはいつもの様にシャルロットが居ます。

雪の様に髪も肌も真っ白でふわふわとした雪うさぎの様な少女でした。性格も控えめで、いつも何かに怯えた様に震えて、気弱な人見知りの少女です。

二人は見た目も中身も相反する様ですが、お互いに信頼しあう姉妹です。



…しかし、いつもなら何も気にせず、何に対しても興味を示さなかった筈のシャルロットですが、今日は朝から…いえ、昨日の昼頃からずっと不安でそわそわしてました。


「………心配?それとも……怖い?」


シャリアは壷の主へと声を掛けます。

壷から返事はありませんでしたが、シャリアは軽く肩を竦ませ温かい眼差しを彼女に向けます。


「眠れなかったんでしょう?帰って来たら起こしてあげるから、ちょっと寝ときなさいよ?」


シャリアは壷の中に手を伸ばすと、手に触れたふわふわの髪を優しく撫でました。

壷の中で手を握る感触に、シャリアは思わず苦笑を洩らしますが、木箱に座るとそのまま撫で続けました。



「ほらほら、姉ちゃんが居たげるから、ゆっくり休みな?」





ーーーシャリアとシャルロットは父親こそ同じものの、母親が違う姉妹です。


二人の父親は商人でした。

最初は母とシャリアの三人の家族でした。

しかしシャリアの父は商才に恵まれず、人一倍の努力も身を結ばず、多大な量の借金を膨らませました。

どうにもならない状況の中、追い討ちを掛けるかの様に母親が病死してしまいました。

それがシャリアが五歳の頃でした。


父は荒れました。

シャリアに暴行を加える事も、一度や二度ではありませんでした。

シャリアはいつも生傷が絶えなかったのです。


………しかし、容姿だけは美しい父でしたので、とある貴族が開催するパーティーに呼ばれる事も数回有りました。

その中で、たまたま貴族の娘に一目惚れをされ、そしていつしか恋に落ちました。

借金は全て貴族の娘が解決してくれました。

………しかしシャリアの生活は一向に良くなりませんでした。


暴力こそ無くなったものの、商人として奮起したかと思った父は、シャリアを放置する事が多くなりました。

………シャリアは思いました。

自分が強くなって、商売も覚えれば父はマトモになってくれるのでは…?………と


それからのシャリアは必死でした。

始めは町の外から拾って来た薬の素材を売る所からでした。

しかし売り上げを町の裏役に奪われる事も一度や二度ではありませんでした。

酷い時は暴力を受けたり、女性としての尊厳を傷付けられる事も度々起こりました。

そうしてシャリアは、男性を嫌う様になりました。


………シャリアが十一になる頃です。

シャリアに妹が出来たのは、父から何も聞かされずに、突然言われました。


「お前に妹出来たから。」


たったそれだけしか聞かされませんでした。

父はそれだけを言うと、出て行きました。どうせあの貴族の元へでしょう。

シャリアの男性不信は更に深まりました。

それは最早人間不信に昇華していました。


父を筆頭に、この世にまともな人間は居ない。死んだ母さんだけがまともだったんだ…と

そして産まれて来たらしい妹は、自分と違いぬくぬくと温かい家庭で健やかに育ってるのだと…。


シャリアは憎みました。

とにかくこの世の全てを憎みました。


しかしそれでも生きる為にはどんなに汚い事もしなくてはならないと、とにかく必死でした。

憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで




それでもシャリアは自分の命を繋げ続けました。

いつしか裏社会でも名を連ねる程に………


そんなある日の事です。

シャリアが十七になる頃、たまたま家に帰ると、そこには見慣れない子供がボロボロの姿で倒れていました。

汚れもそうですが、身体中の生傷が見るに堪えません。

シャリアはまた孤児が空き巣に入ったのかと、心底嫌になりました。

しかし、その子供はどう見てもストリートチルドレンには見えません。

…ちょうど帰って来た父親に鉢合わせると、父は言いました。



「それお前の妹な?いらないからやるってさ」



それだけ言うと、父は出て行きました。

シャリアの心はドス黒く染まりました。

この父も、相手の女も殺してやろうかと、その手にはナイフを握り締めていました。

………しかしそんな時の事です。


その子供は這う様にシャリアの足にしがみ付きました。

シャリアは心底鬱陶しく思いました。


………その子供は言いました。



「おねえちゃん、なかないで?」


シャリアの心がドクンと高鳴ります。

裏社会にも顔を利かせてる自分が泣く?この子供は何も言ってるんだろうと



「シャルロットね、おねえちゃんになぐられてもいいから…なかないで?」



シャリアは意味が分かりませんでした。

本当に本当に意味が分かりません。

こんな子供を殴る?自分が泣く?こんな子供に慰められる?

頭が壊れそうに痛みました。





「シャルロットはずっとおねえちゃんのみかただよ」





シャリアは思い出しました。



『泣かないで?シャリア…』



『お母さんはずっと、シャリアの味方よ…?』




………シャリアはただただ、目の前のボロボロの少女を抱き締めました。

自分の気持ちは分からなくても、これだけは理解出来ました。




「違うわ………あたしがアンタの家族よ。」




ーーーその日、シャリアは獣から人間になりました。



ーーーーー

ーーーーーーー




「ーーーーーっと、まあそんな感じで始まったのよねえ。」


シャリアは壷の中で眠る少女の頰を突きながらシェリーに語ります。

シェリーはおやおやと言った風に返しました。


「その話、もう二十回目位だよ。…アンタは不安になるとその話をしたがるからねぇ」

「てへっ?バレたぁ?」


最早このやり取りは二人の間ではいつもの日常の様でした。

マックスにも時々話す様ですが、やはりシェリーは安心出来るのでしょう。

思わず何度も何度も弱音を聞いて貰います。


「母さんが生きてたら、シェリーみたいだったのかねぇ?」

「アッハッハ、アンタみたいな美人さんの母ちゃんだなんてアンタの母ちゃんに失礼だよ。おばちゃんの子はあのバカ息子一人で十分さ」

「あら?そんな事無いわよぅ?あたしはシェリーの事好きよー?」

「ありがとうねぇ?それじゃあ元気も出たみたいだし、そろそろ起こしてやんなさい?あの子達も帰って来たわよ。」

「およ?マジ?…おーいシャルロットー?起きなさーい?あの子達、帰って来たみたいよー?」


「んん〜…おねえちゃん、おはよー…」


一呼吸置いて、シャルロットは目覚めた様です。


「しっかたない子ねぇ〜。ほらほら、顔を洗ってから迎えてあげなさい?泣いた顔のままじゃ恥ずかしいでしょう?」

「うにゅぅ…シャル、かおあらう…」





シャリアはシャルロットに感謝しています。



あの日、自分を人間にしてくれてありがとう。



あの日、産まれて来てくれてありがとう。



ーーー妹で居てくれてありがとう。




シャリアにとって、とてもとても大切な、記憶の物語でした。



シャリアさんが人間に進歩したお話でした。

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