30.アリシア=バーネット
「オジサマに私達の装備の仕立てを頼めたのよ!!」
声高く意気揚々と宣言する彼女は私ことエルキュール=グラムバルクがお世話になってる商隊の主人であるシャリアさんでした。
オジサマとは、ドワーフの工房の職人さんの事でして、先日私とシャリアさん、そして護衛のマックスさんの四人で鉱山の奥深くへと素材回収に行きました。………その事は語ると長いので置いておきますが。
一度は断られた筈なのに、こうもアッサリと通ってしまうと私はキョトンとしてしまいます。
「えっと、シャリアさんが言ってた例の件………の事ですか?」
「あぁそれは別件ね?そっちは商売の話だから秘密よん。」
「そ・れ・よ・り、折角だからアナタ達もいらっしゃい?ドワーフの技術にあやかりましょう?」
「わたしたちもですか?………わたしは別にいいです。」
「はいはーい、拒否権は無しよ。良いから着いて来なさーい?」
不機嫌そうなアリシアが何やら断ってますが、そんな事は御構い無しで、シャリアさんは持ち前の強引さでアリシアを抱き上げ連れて行っちゃいました。
シャリアさん、それ着いて行くと言いません。連れて行くです。
私はシャルロットちゃんの手を引いて工房の中へとお邪魔しました。
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工房の中はとても鉄臭く、私は二度目ですが、思わず顔を顰めてしまいました。
シャルロットちゃんはクラクラしてます。気分が悪いのでしたら外で休むかと聞いたら、「がんばる…」と
健気です。凄くいい子だと思います。
ですが私はシャルロットちゃんに嫌われてるので、余り深く立ち入れません。
そんな私達とは逆に、アリシアとシャリアさんは慣れてるのか、何とも無い顔で奥へと突き進みます。流石冒険者組です。
ーーー奥に行くと、マックスさんが先に来てました。
どうやら何かの設計と製作を依頼してた様子です。
「兄ちゃん、こりゃ流石に三日は掛かる。悪いが一から作るしか無ぇんだ。すぐに受け取りてぇってなら町に居て貰わなきゃな」
「………だそうですが、姉御?」
「三日ねぇ………ま、良いわよ?どうせあたし達の装備も考えたら一週間は見積もってたし。フィリップ達には連絡しておくわ。」
フィリップさんですか?初めて聞く名前ですね。
「エルキュールちゃん、アリシアちゃん。今回の件は、あくまでもあたし達シャリア商会の都合よ?だから二人の意見も聞きたいのだけど」
「わたしは………エルキュールが良いなら構いません。」
「んん?私?アリシアは良いの?」
「………今のわたしじゃ目的は果たせないから…少し鍛えるつもり。」
「なるほど。」
なるほど?なのでしょうか?
「ま、仮にどうしても急ぐってなら別の旅団に混ざるって手もあるわよん?」
「俺としてはちょっと危なっかしいんで、余り余所には任せたくは無いんすけどね。でも出会いも別れも一期一会っすからお二人の意見を尊重するっす。」
………と、シャリアさんとマックスさんもこう言ってくれました。
そしてシャルロットちゃんはと言うと………
「アリシアちゃん…おっぱいさん…いっちゃうの…?」
いや待って下さい。今なんか聞き捨てならない呼称でしたよね?ツッコむべきですか?
………ここは空気を読んでグッと堪えましょう。アリシアも私の判断を待ってます。
「………いいえ、私達も残ります。」
私が決意を口にすると、待ってた様にシャリアさんが愉快気に何やら腰からスクロールを取り出しました。
ですから何処に持ってたんですか?
「あっはぁーーっ!!そう言うと思ってたわ!じゃあ早速オジサマに依頼をしないとねぇ?」
「依頼?…なんのですか?」
「決まってるじゃない!エルキュールちゃんの装備よ!」
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ーーー私、エルキュールの武器はどうやらこの一週間の内に間に合うそうです。
ただ、問題なのが防具………いえ、鎧と言いますか、そちらの方でした。
鎧に使用するのが、聖銀を糸の様に束ねたミスリル銀糸だそうでして、実はとても加工が難しいそうです。
まず、ミスリルと言う素材はその神秘性を問われますが、ミスリルとは神秘の金属で有ると共に、生物にとってとんでもない劇薬…いえ、最早猛毒でも有るそうです。
普通に触れる分には問題無いのですが、長時間触れ続けると被れます。それが長期間ともなれば皮膚は焼け爛れた様にケロイド状になって、最悪の場合壊死してしまいます。
それが身体の中に入るとどうでしょう?
酷く苦しい激痛に襲われ、即死する事さえあるらしいです。
ですので、加工自体も大変なのですが、ミスリル銀から身体を守る為の保護材も必要になって来ます。
しかしそれもまた高価な材料なので、加工よりも寧ろ購入が大変みたいです。
一応、ミスリル銀に対する治療薬も有るらしいですが、常に服用出来る訳では有りません。
ですので長くて一年、短くても半年は製作に時間が掛かるそうです。
………シャリアさんは私の何を気に入ってそこまでしてくれるのかが本当に謎です。
因みに武器はドワーフ金属で作ってくれるらしいです。ドワーフさんの秘蔵の鋳造法です。
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「それで姉御、一週間はこの町を動けなくなるっすけど、何か宛は有るんすか?」
「あらマックス、あたし達は一体何者なのかしら?」
「そう!冒険者よ!!冒険者ならするべき事は一つでしょ?」
「………勘弁して欲しいっす。」
そうです、勘弁して下さい。私達はつい昨日化物に襲われたばかりで身体のあちこちはボロボロ。本来なら安静にしてなきゃいけない身ですよ?
それに武器も無いじゃないですか。
「でも路銀は稼がないとじゃあない?簡単な仕事なら出来るでしょう?」
「そう言ってエルキュールさんをあんな目に遭わせたんすよ?シャリア商会の名が廃るっす。」
うーん、でもシャリアさんの言い分も一理有るんですよね。………と、困ってたらアリシアが前に出ました。
「わたしが稼いで来ましょうか?勇者として困ってる人は見捨てられないので」
見え見えです。単に鬱憤を晴らしたいだけなのが見え見え過ぎます。
「あのねぇアリシアちゃん。シャリア商会として依頼を出すならアナタに任せるのも良いけど、無償の労働は労働とは言わないわ?自分が言ってる事、分かってる?」
「だってこのままじゃ………どうしようもないじゃないですか…」
「別にキャラバンの商品を売れば暫くは持つわよ?…アリシアちゃんはただ暴れたいだけでしょう?そんなのは商会として、受け入れるべきじゃ無いのよ。」
シャリアさんは真剣な眼差しで続けます。
「商会は顔で売ってるの。その顔に泥を塗る行為はやめなさい。」
ーーーーアリシアは飛び出して行きました。
私は当然追い掛けます。
「エルちゃん、お願いね?」
言われるまでもありません。
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ーーーアリシアを探して、とにかく色々な場所を駆け回りました。
町の人達に聞き込んでまわって、とにかく必死で探して…
………ふふふ、前にもこんな事がありましたね。
あの時はまさかモンスターを相手にするなんて夢にも思いませんでしたけど。
………私は探して探して探して探して、聞き込んだ末に、思い当たりました。
この町の高台なら彼女が居るのでは…?
私が息を切らして高台に登ると………居ました。
赤い少女が町を見下ろしながら黄昏てます。
私は彼女の側に歩み寄りました。
「………わたしはさ、勇者なんだよ。」
「アリ………シア………?」
「それなのに、それなのにね…何も守れて無いんだ」
アリシアの言葉を、私は邪魔しませんでした。
「………ねぇエルキュール……あなたは何者?」
私の心はドクンと高鳴りました………。
しかしアリシアは続けます。
「わたしは一体………何者なのかな?」
アリシアの意味を成さない質問に、私は………
「私はエルキュール…エルキュール=グラムバルク。親友でお姉さんの様なアリシア=バーネットを心から愛してる。ただの女の子よ」
「そっか」
アリシアの乾いた返事は、笑顔の無い笑顔は、私の心を強く締め付けました。
「あのね、エルキュール…わたしね」
「シャルロットちゃんとキスしてた。」
風が吹いた気がしました。
「ーーーそう。それでずっと元気が無かったのね?」
「うん、………エルキュールが殺され掛けてた時も、シャルロットちゃんと遊んで、ヘラヘラして、…それでね?」
シャルちゃん…では無くシャルロットちゃんですか。
………なるほど、納得です。
「わたしは…わたしの愛するエルキュールを守ると誓ったのに、エルキュールが死にそうだったのに、他の女の子とキスしてた最低な子だよ?」
「しかも、シャルロットちゃんを傷つけてんんっ!?」
私はアリシアの唇を唇で塞ぎました。
「話してる途中なの…んっ」
何度も何度も、アリシアが言葉を紡ごうとする度に塞ぎました。
そうして、いつしか言葉を紡ぐのを諦めた彼女に、私は言いました。
「言ったでしょ?私はエルキュール=グラムバルク。アリシア=バーネットを愛するただの女の子だって。」
アリシアは諦めたのか、黙って私の言葉を聞いてました。
「………別に何か言うつもりは無いわ?…ただ、アリシアがまだちゃんと私を想ってくれるなら、それだけで嬉しいの。………アリシアは、自分が何者なのか言える?」
「わたしは………」
「わたしはアリシア、アリシア=バーネット。エルキュール=グラムバルクを愛するただのエルキュールの騎士だよ。」
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