28.坑道の追憶
今回は坑道の回想回です。
――――――皆様ご機嫌麗しいかと、私はエルキュール=グラムバルクです。
本日、私はアリシアとシャルロットちゃんを連れ立ってお買い物にやって参りました。
前回の事です。
我が商隊の主、シャリアさんとその護衛のマックスさんに連れ立ってドワーフのおじさまの工房へと参ったのですが、そのドワーフのおじさまを触発して、坑道の奥深くへと私達は向かいました。
そこではなんと、ネズミやコウモリや岩蟲やきのこの魔物だらけで、シャリアさんは物凄く楽しそうに、マックスさんもとてもとても優秀な護衛振りを発揮してました。
これにはドワーフのおじさまもまた武人の気質が有るのでしょうか、とても満足そうでした。
………あっいえ、シャリアさんに呆れてた気がしないでも無いですが。
因みに私はと言うと、震える手で戴いたナイフを握り締めて居ました。
…私は何故連れていかれたのでしょうか?
そして辿り着いたは最奥部。そこではとてもとても巨大なモンゴリアン・デス・ワームの様な魔物の、『キングワーム』と呼ばれる個体が存在していました。
私は蟲が大の苦手なので、道中でさえおぞましい思いをしてやって来たのですが、あのグロテスクな蟲には本気で卒倒し掛けました。
私は何故連れていかれたのでしょうか?
これにマックスさんは勇猛果敢に、シャリアさんは頭のおかしな事に銃などと言う近代兵器を用いてとてもとても、此処では言い表せない程楽しそうに殺戮を繰り広げてました。虫の汁でビチャビチャでした。
私はドン引きしてましたが、ドワーフのおじさまはまた別の意味でドン引きしてました。
あ、私もちょっとだけお手伝いしました。本当に本のちょっとだけ…。寧ろ私いらないですよね?
その時の戦い振りを気に入ったのか、ドワーフのおじさまはシャリアさんを認めたみたいでした。
私は何故連れていかれたのでしょうか?
その後が一番の問題でした。
キングワームを物言わぬ死骸に変えた私達…シャリアさん達?の前に、魔将軍らしきバッタが人間の形でタキシードを着た様な、虫人間が現れたのでした。
彼は優雅に名乗ろうとして居ましたが、シャリアさんによって全て邪魔をされました。
げんまなんとかベルゼ………とか仰ってましたので、まさかベルゼブブなのでしょうか?
アレは確か蝿の王様だった気がしたのですが。
その虫人間は、優雅にお茶を飲んで居ましたが、シャリアさんが撃っても、マックスさんが斬り掛かっても、おじさまが叩き付けても一切の傷害を許さず、寧ろお茶を飲みながら叩きのめされました。
どうやら鋼体と言うものを持っている様です。
暫くしてお茶を飲み終わると、虫人間はついにやる気を出したのか、既にボロボロの三人を何かの実験の披検体に連れていくつもりでした。
そして私はと言うと…………
頑丈さも勇猛さも勇敢さも何もなく、ただただ震えていただけなので、使い物にならないらしく、虫達の餌か苗床にされるらしいです。
今思い出してもゾッとします。
私はそのまま虫に麻痺毒を打たれ、仮死状態にされました。
薄れ行く意識の中で最後に見たのは、果敢に立ち向かうも皆一撃で沈んで行く三人の姿でした。
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次に気が付いた時には全てが終わってました。
勿論皆さんも無事でした。
辺りは綺麗さっぱり、キングワームの死骸と虫人間が落として行ったらしき魔石以外は何も有りませんでした。
その代わりに坑道から外へと一直線に結ぶ大きな穴が出来てました。
その穴を通ろうにも黒くて粘性を持ったような気味の悪い炎がゆらゆら揺らめいて居たのでそれは諦めて、私達は元来た道を通って帰りました。
どうやら状況から察するに、三年前に私とアリシアを襲った様な星蝕者が彼等を襲ったのでは無いかとの事でした。
私達が無事だったのは麻痺毒のお蔭で仮死状態になっていたから生命体として判断されなかったのだろうとの事です。
因みに今回の件は商隊の皆さんには秘密の様です。
そして私とシャリアさん達は無事にキャラバンへと辿り着きました。
服も身体もボロボロの状態で。
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―――――――そんな訳で私、エルキュールは、アリシアとシャルロットちゃんを連れて洋服を買いに来た訳です。
アリシアは昨日の夜に先日のミノタウルスの報酬をシャリアさんから受け取ってましたし、私は私で昨日の件のお詫びとして、シャリアさんから結構な額のお小遣いを戴きました。
まぁ、シャリアさんは情報も商売道具のひとつですから、他者への口止め料が増し増しと言う所なのでしょうか?
…………そう言えば、アリシアもシャルロットちゃんも、昨日から何か様子がおかしいです。
昨日別れるまではあんなに姉妹のように仲良く私を弄ってたのに、昨日の夜からずっとお互いに顔を合わせません。
アリシアに聞いても「なんでもない」しか言いませんし、シャルロットちゃんは私を警戒してるのでお話すらまともに出来ません。あ、『ふぁいあぼると』も盛り沢山に戴きました。
ですが今はシャルロットちゃんは人混みにビクビクして私に抱き着いて震えてますが。
うへへへ、役得です。
右手をしっかり握ってくれるアリシアはと言うと…
いつもならお姉さん心を遺憾なく発揮して、私達を先導したがる筈なのに、とてもとても静かでした。
本当に何があったのでしょうか…?
「ねぇアリシア?」
「なに?駄肉」
「外でそれはやめなさい。…昨日の事だけど」
「!?……な、なに…?」
「昨日ね、えーっと…アリシアには伝えて置きたくて…」
「なに?…巨大な虫の魔物に襲われたって話だったけど。」
「あのね…多分、恐らくだけど………星蝕者が出た………と、思うの。」
「ッ!?星蝕者が!?」
ー星蝕者ー
一度私の命を奪った化物でした。
アリシアが私を守り切れず、未だに心の底で後悔と哀しみを………燃え上がる程の怒りと憎しみを燻らせてるあの化物の事です。
その心は決意として『勇者』に宣誓される程に高められ、そしてアリシア自身の勇者の証明として、燃え上がる程に真っ赤な炎のオーラという形で発現します。
それほどまでに募らせた星蝕者への想いは並大抵では有りません。
そんなアリシアが星蝕者の話を聞くと、その両目は緋色に、しかし恐怖と憎しみをない交ぜにして震わせて居ました。
私はアリシアの顔を抱き締め言いました。
シャルロットちゃんは少し離れて私の服の裾を握ってました。
「分からないけど、恐らく私達はアレに助けられたのよ。………本当は単に虫の毒で仮死状態だった私達に興味が無かっただけなのかも知れないけど、でもアレのお蔭で私もシャリアさんもマックスさんも帰って来れたの。………不思議な話よね?」
「ダメだよ…」
「アリシア…?」
「アレは殺さなきゃ…アレは絶対殺さなきゃダメなんだ…アレはわたしのエルを殺したんだから絶対に殲滅しなきゃ…」
「アリシア!」
私は力一杯アリシアを抱き締めました。………すると両目は何時もの焦げ茶色に戻りましたが、心は納得出来てない様子で…
「ごめん、どうかしてた。もう大丈夫だから…」
………と、いつもと違って素っ気なく私から離れてしまいました。
シャルロットちゃんが居るから遠慮してる………風にも見えませんよね?………やはりとても気になります。
アリシアはそのまま一人で、のこのこと先へ進んで行きました。行き先は分かるのでしょうか?
「………ごめんなさい」
…と、おや?今度は後ろからとても不服そうなごめんなさいが聞こえました。
私はシャルロットちゃんに向き直ると、アリシアより更に一回り小さな身体を抱き上げて微笑み掛けました。
「何があったかは知らないけど、私もアリシアも他の皆さんも、シャルロットちゃんの事を嫌ったりなんかしないから心配しなくていいのよ…?」
片手で抱き締めたまま、もう片手でおでこを撫でてみました。
やはり嫌がりますが、『ふぁいあぼると』は打たれない様でした。…一歩前進でしょうか?
「ごめんなさい」
シャルロットちゃんの謝罪の言葉がやけに心に突き刺さりますが、今はアリシアを見失う訳にも行かないので、私はシャルロットちゃんを抱いたまま足早にアリシアを追い掛けました。
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ちょっと別の端末から書き込めるか検証と言うことで。




