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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー勇者と一般人の旅立ちー
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27.星蝕の因子

ーーーー視界は真っ赤で真っ暗闇でした。



「生体の記録回収に移行します。」


エルキュール=グラムバルクは虫人間の腕を掴むと、掴んだ箇所からドロリとした黒い何かを吐き出しました。

虫人間は逃れようとしますが、その腕を振り解く事が出来ません。

逃げられると支障を及ぼすので、足も先に回収して置きます。



「この…!!離しなさい!!急に人が変わったみたいに…!!」

しかし離れる事が出来ず、徐々に侵食されて行く腕は、脚は、まるで何も無いかの様に空虚に感じました。

「ならばその首を落とすまで!!」

虫人間は刃のように鋭い腕を服の中から貫き取り出すと、エルキュールの首目掛けて切り落としに掛かります…………が、刃の腕は首を落とせませんでした。

何故なら首で止まったからです。


「まさか………!?綱体!?……いやそんなバカな!?この娘からは魔力も練気も………まさか!?」

エルキュールの右手が真っ黒に染まると、オークの弓を引き抜き周囲の虫共に向けて構えました。


「記録を回収します。」


空中に真っ黒な線が何本も何本も何本も何本も………まるで機関銃の様に放たれると、周囲を囲む虫の魔物は為す術無く黒い奔流に呑み込まれて行きました。

黒い雷の様な矢が放たれなくなった頃、残されたのは死体の様に生命反応を示さないシャリアとマックス、そしてドワーフだけでした。


「バカナ!?バカな馬鹿ナばかなバカナ馬鹿なバカな馬鹿ナばかナ馬ぁ鹿ぁナぁ!!!!!!」


虫が喚きます。煩わしいだけですが、煩わしいのでしょうか?

私は感情が動きません。


「アリエナイッ!!!私のワタシのワタシノ私ノ大事な眷ンンンンん属ガァっ!!!!!!!」


「キサマ貴様きさま一体いイイい!!!ナニをしたァっっっ!!!!」


「いいイイいいイイ言わなくテイイ!!!コロスコロすコロスころスきさまコロす」


私はこの生命体を回収しなくてはいけません。

私は感情が動きません。

直ちに目標を回収します。


「触ルなァッッッ!!!!」


虫人間は自分の腕を…虚無に絡まれた脚を切り裂きました。

目標を回収します。


「きさまぁぁぁ…………ふぅ。………アナタがナニをしたか理解してますか?」


回答権無し、直ちに回収します。

私は黒いヘドロで覆われた弓を虫に構えて雷を射りました。

虫は寸前で躱したのか、顔半分しか回収出来ませんでした。

生命体の記録の回収を継続します。

今度は弓だけでは無く空中にも黒き雷の束を用意しました。回収を施行します。


「貴様は………!!!!星が



黒い雷の束は虫の身体を包み込む程の巨大な虚無の奔流に呑み込まれました。その束は勢いが収まらず、坑道の壁を食い尽くして行きました。

奥まった場所に在った筈の広場は、外へと繋がる大穴がポッカリ空いていました。

私は感情が動きません。



生命体の記録を回収完了しました。

ーーーー状況を終了します。









ーーーー







ーーー声が聞こえた気がしました。


「………!……!」


聞き覚えが有る様な、それは私に声を掛けてる様な…


「………ん!……て、…ルちゃん!」


「起きないとおっぱい揉むわよー?」


ガバッと飛び起きると、私の顔を覗き込んでいたシャリアさんの額とゴッツンコしちゃいました。


「…………!!」


私は声にならない声で悲鳴を挙げていました。

しかしシャリアさんは平気な顔でヘラヘラしてます。


「あっははー、起きたみたいねぇエルちゃん?どーお?お目覚めの気分は?」

「…………最悪です。」

「そりゃま、そうでしょ?あたしだってまーだ麻痺毒残ってるもの。」

軽快にストレッチをしながら言うシャリアさんに説得力など皆無でした。

………ってアレ?あの魔将軍?の虫の姿が見えません。


「シャリアさん………あの虫人間は?」

「知らないわん。起きたらアイツ、なーんか死んでたっぽいのよねぇ。」

「どういう…」

「ほらこれ。魔族の体内から出て来る魔石なんだけどね?このサイズの魔石は余程強いのでも無いと出ないのよ。」

ーーーと言って、私の胴程も有る魔石をボスボス手で叩きながらシャリアさんが言いました。

それ叩いて良いんですか?


「マックスさんは…おじさまは…?」


「あぁ………うーん……落ち着いて聞いてくれる?」



シャリアさんが私の肩を掴みました。


その手は凄く震えて居ました。


その視線は…まるで現実を受け入れられない様で、宙をキョロキョロと泳ぎながらも遂には意を決した様で、瞳をゆっくり閉じて、私に語り掛けました。

私はそれを黙って、身体が震えながらも言葉を待ちました。……ゴクリと生唾を飲み込んでしまいました。






「あのね、二人は「姉御、まだっすか?そろそろオッサンも待ちくたびれてるっすよ?」


…………私は感情が萎えました。




ーーーーーーー

ーーーーー



「いやぁ〜起きたら身体は痺れてるし、エルキュールさんは殆ど服を着て無いしでどうしようかと思ったっす。」

「はぁ…いえ、その…すみません、気を使わせてしまって…」

「気にしないで欲しいっす。姉御もふざけてないでエルキュールさんを気遣ってあげて欲しいっすよ、もう。」

「なによー?マックスの分際で生意気よ?大体結局アンタの無駄にデカい肌着を着せちゃって、折角の眼福だったのに。」

「…………シャリアさん嫌いです。」

「あらエルちゃん言う様になったわねー?良いわよ良いわよ、みーんなあたしがワルモノよん。」

「………ったく、姉ちゃん達はあんな目に遭ったばっかだっつうのに、無駄に元気だなぁオイ。」



ーーーはい、皆無事に生き残りました。

何故無事だったかは本当に謎なのですが、シャリアさんとマックスさん、ドワーフのおじさまの見解によれば、私達が麻痺毒で意識を失った後、星蝕者が現れたのでは無いかとの事です。

その証拠に壁の大穴と、周囲に残るドロドロとした気持ち悪い粘液の様な炎の様な…黒いヘドロが撒き散らされていた事。

星蝕者は意思を持つ者しか襲わないのか、気絶し、ほぼ仮死状態となって居た私達には一切興味を示さなかったのでは?…との事です。

………しかし、三年前に殺され掛けたあの化物に助けて貰う日が来る等と、夢にも思いませんでした。

どうせならアリシアを助けた時に使えたあの力が発動すれば良かったのに…と、私は思うのでしたが。

まぁ命が助かったので文句は言いっこ無しです。私は感情が動きません。

………?


マックスさんは盾の代わりに私を背負ってます。

シャリアさんはマックスさんの足を蹴りながら外に在るキャラバンへと向かってます。

ドワーフのおじさまはと言うと。


「悪ぃな、姉ちゃん達。オレっちはさっきの事をオヤジに伝えなきゃならねぇ。礼は後でするからよぉ、一旦帰ってからまた工房に来てくんな!」


足早に去って行きました。

色々と報告する事が有るのでしょう。私達は気にしないでと伝えて見送りました。

つい先程も見た気がしないでも無いですが、私達は明るい日向に戻って………戻って…………。





外はすっかり夜の空気でした。






ーーーーーーーー

ーーーーー




「アリシアーーーーーーーーーー!!!!!」



私は転げ落ちる様に赤い茶色の猫に向かって飛び付きました。

……………が



「お帰り、エルキュール。湯浴みしちゃいなよ?」



あっさりと避けられ私は地面に激突しちゃいました。

照れ照れですか?この赤茶猫は。

………いえ、寧ろ私が勝手に居なくなって、帰って来たと思ったらこんなにボロボロで身体中泥と粘液と切傷塗れだから怒ってるのでしょうか?

しかもアリシアから戴いた服もボロ切れにしてしまいました。二回目です。

それはアリシアも怒って当然ですね?

仕方ないので少し時間を空けて、お互いに落ち着いてから改めて謝る事にしましょう!!

もうとにかくアリシアのかわいい顔が見れた事が嬉しいので大満足です!!です!!!!


………しかしエルキュールは気付く事が有りませんでした。

この時既にアリシアの気持ちが落ち込んでる事を…。

俯くその顔が暗い事に全く気付いてませんでした。



ーーーーー

ーーーーーーー




「ーーーふぅ、さっぱりした。」



血と粘液と石埃と泥と切傷塗れになったエルキュールこと私は、お湯とタオルで全身を綺麗さっぱり拭き取りました。今回結構多いですね、汚れ。


しかし実は私、着の身着のままやって来たので服が有りません。

アリシアに猫撫で声で代えの服がないか聞いて見ましたが…。


「無いよ。…エルキュールの服も置いて来たでしょ?」


はい、多分アリシアの工房ですね。

私は涙目でシェリーおばさまに泣き付きました。


「あらあらエルキュールちゃん服が無いのね?おばちゃんのを貸したいところだけど、大き過ぎるわよねえ?」

「いえ、あの…大きいので良いので、お貸し戴ければ嬉しいです…。」

「そうかい?それじゃあ服を貸してあげるから、町でお洋服を買っておいで?」


こうして私はおばさまの大きな服と、新しい服を買う為の資金を戴きました。おばさま大好きです。


とりあえず服は明日買いに行くとして、私達はキャラバンに戻って直ぐにこの町のギルドへと向かったシャリアさんとマックスさんを待ってる所です。

忘れてましたが、オーク製の弓は無くなってました。




…………?

そう言えばセシルさんが居ませんね?






ーーーーー

ーーーーーーー






「……以上で報告は終わりです。」

「………いえ、取り込まれる様子はない様です。」

「………承知しました。以後、監視を続けます。」



ーーーー闇夜に溶ける様に、黒い影は彼方の空を見詰めていました。




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