23.ドワーフ元首との交渉
ーーーエルキュール=グラムバルクはとても重い気分でした。
これから会いに行く依頼者の方がよりによってドワーフ族の元首様だったからです。
まさかこんな小さな島国の山にドワーフ族を纏める元首様がいらっしゃる等と誰が思いますでしょうか?
一応簡単な礼節の作法は学んでますが、相手は国家の長です。緊張もすれば粗相をしてしまう可能性が高いです。
それでも商隊の主に急かされエルキュール達は謁見の間へと向かいました。
エルキュールとアリシアは生まれて初めてドワーフの住む町に立ち入りました。
鉱山の町『スルース』
実際に入ってみるととてもとても明るく、もしかするとランプで照らした室内よりも遥かに明るいかも知れません。
大きくくり抜かれた内部はとても広く、ロックアーチに負けずとも劣らずと言った広さでした。
明るさの理由ですが、シャリアさんに聞いた所、この町は天井から吊るされた丸いランプの他に、暗闇で光るキノコや大気中の魔素を取り込み輝く鉱石がそこら中に密集しているらしく、昼間にも劣らない明るさで町を包みます。
この町は工房が多いので、煙が凄いのですが、排気口が壁中にあり、巨大な大穴が天井に空いてます。
お陰で街中は熱気が溜まり込む事も無いそうです。
そしてやはり気になる町の中はと言うと、何処も石造りなのですが、所々木で補強されており、他の種族の方が過ごし易い様に木製の家具や雑貨も溢れてます。
私がついリザードマンさんと言ってしまいましたが、シャリアさん曰く、それは彼等にとっては戦う者の称号だとか。
アルゴニアンと呼ぶのが彼等の誇りを穢さないと言う指向なのだそうです。
因みにトカゲと呼ぶのは蔑称なので御法度です。
さて、ドワーフの戦士と侍女に案内され、私達は玉座の前に跪きまし。
玉座の上には真白い髯をふんだんに蓄えたお爺様がいらっしゃいました。
とても豪奢な服装で、頭にはサークレットの様な冠も付けてます。
「ドワーフ族元首、ガンダルフ=ドヴェルク陛下。不詳、シャリア商会会長シャリアと一行のお目通し、誠に感謝の言葉もございません」
シャリアさんが真面目でした!?
流石のシャリアさんも時と場合と人を選ぶようでした。
「うむ、して…今回は我々にどの様な富をもたらしに来た?」
「はい、此方に…。」
シャリアさんが取り出したのは便箋でした。渡された便箋を手に取り中から一枚の紙を取り出し険しい表情で読んでます。
そしてゆっくりと口を開きました。
「ふむ、まずは行路を広げた証拠が無い事にはな。勿論抜け目無い貴公の事だ、在るのだろう?証拠が。」
漆黒の剣士さんの言う貴公とは重さが違う気がします。………何故か怨めしい目で見られました。
「此方が証拠となります。」
シャリアさんは間髪いれずにマックスさんに指示を出しました。合図を出した時にはすでに牛男の頭部を袋から出してました。
首をしっかりと見定めたドワーフの元首様は何か納得した様に頷くと、首を下げさせ言いました。
「良かろう、この度の貴公等の働きは数千数万の人類亜人類の未来を変える出来事だ。」
「そなた等の要求を受け入れる位容易い。……のだが」
「強欲な貴公がこれに書かれていた程度で収まる筈が有るまい?儂はてっきり一等地に店を構えさせよ位言う物かと思うたぞ?」
………シャリアさんが物凄くニッコリしてます。一体何を要求したのでしょうか?笑顔が物凄く怖いです。
「嫌ですわ元首様。私共にとって町の自由な出入りと、この町での冒険者権限をいただける事は十分過ぎる報酬でございます。」
「そ・れ・か・ら、もう一つの件も承諾と言う事でよろしいのですね?」
「うむ、寧ろそれが一番の望みなので在ろう?此方はアレを見せる訳には行かんし、くれぐれも貴公の馬車の例の積荷以外でのう。」
「お言葉、確かに賜りました。…では、そろそろ下がらせていただきます。」
「お忙しい中御時間を戴き誠に感謝の次第でございますわ。」
「うむ。」
…………はい、私にはさっぱり話が見えません!!
ずっと頭上に???が浮いてます。
何やらシャリアさんと元首様の間で取り決めが組まれた様です。
侍女の方に案内され、私達は外へとやって来ました。
………と思ったらシャリアさんが
「さーって、それじゃあエルキュールちゃん?お姉さんとデートしましょう?いい所に連れてってア・ゲ・ル」
………はい?
「姉御、エルキュールさんが困ってるっすよ?それと、俺も居るんでデートにはならないっす。」
「ったくぅ、空気読みなさいよねー?」
「空気を読んで守れるなら苦労しないっす。」
えぇーっと、私を置いて話が進んでます。
「わたしのエルキュールなのにわたしのエルキュールなのにわたしのエルキュールなのにわたしのエルキュールなのに……」
わーいこっちも大変です。
「あの…アリシア…?」
「はいはいエルキュールちゃんはこっちぃ。ほらほらお姉さんに着いておいで」
「えっちょっと…シャリアさん!?」
そのまま連行された私が最後に見た光景は、此方に手を伸ばして人混みに揉まれて行くアリシアの姿でした。
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「ごめんねー?エルキュールちゃん。ほんとマジごめんてー。」
「酷いですよシャリアさん…。私もアリシアもこの町は初めてなのに…」
「およ?アリシアちゃんも初めてかぁ。ま!あっちにはシェリーもセシルくんも居るし、何ならシャルロットも居るから大丈夫でしょう。」
「姉御はいつもいつも、もうちょっと説明をした方が良いっすよ。後、シャルロットちゃんは押し付けただけっすよね?」
「何よマックスぅ、あたしがいつ説明省いたってのよ?ん?言って見なさいよ?」
マックスさんの皮鎧越しのお腹を肘でつつきます。
シャルロットちゃんの事は否定しないんですか?
「それでシャリアさん…私達はどこに向かってるんですか?」
「んー?そりゃ決まってるでしょ?」
「ドワーフの工房よん。」
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シャリアさんの導きで私達はドワーフ族の工房へとやって来ました。
何やらここに用事があるそうですが、やはり私にはさっぱり理解出来ません。
シャリアさんは興味深そうにキョロキョロ眺めてました。
「嬢ちゃん達がオヤジさんの言ってた客人かい?」
工房の店主だろう筋肉質なおじさまが話し掛けて来ました。
「はぁい、あたしシャリア!例の件と、仕立てを頼みに来たわよん。」
ひたすら明るい調子で店主さんに言うシャリアさんでしたが。
「仕立て?聞いてねぇな。ウチの店は向こう三年予約で詰まってんだよ。」
「あらツレないわねー。オヤジさんからは技術さえ見なければ良いって許可は貰ってる筈だけど?」
そんな事言ってましたっけ?って言うか元首様をオヤジさんとは豪胆と言いますか、なんと言いますか。
「そんな話は聞いてねぇな。第一ウチは今から素材回収に行かなきゃならねえ。嬢ちゃん達に構ってる暇はねぇのよ。」
「ふーん?」
おやぁ?シャリアさんがとてもとても悪意に満ちた表情をしてますよ?
「ねえねえオジサマ?素材回収ってあたし達冒険者が手伝うのは有りなのかしらぁ?」
…………はい?
「姉御、そりゃ幾らなんでも規則に「来るのは構わねえ」
…………………はいい!?
「アンタ等はこの町の中での冒険者権限を持ってるんだろ?この町の冒険者ならドワーフ以外だろうと厄介な魔物退治位なら構いやしねえよ。」
なるほどなー………では無くて、一体誰が冒険者なのでしょう?まさかマックスさんが冒険者資格を持ってたのですか?
「だが嬢ちゃん、見た所アンタは冒険者にゃ見えんが…そっちの兄ちゃんが資格でも持ってんのかい?」
「あら?心外ねぇ。」
………と言って胸元に手を入れると出しましたよ、例の冒険者の表彰。
シャリアさんが示すのは商人のCランク、他国の仕事に介入出来る最低限の証でした。
「あたし達が冒険者よ!」
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ーーー親友が何やら思惑に巻き込まれてる頃、アリシア=バーネットは酷く不貞腐れてました。
「全くもう全くもう、エルキュールの馬鹿!駄肉!美人に弱いんだから!」
もちもちのほっぺたを更に膨らませていると…
「おやまぁお嬢ちゃん、うちの社長がいつも迷惑かけてごめんなさいねぇ?」
同じく留守を任されたシェリーさんがアリシアに蒸かし芋を差し出します。
ん?社長?会長じゃないの?…まぁいっか!
「おばちゃんありがと!………どうしてシャリアさんはエルキュールに突っかかるのかなぁ?」
「うーん、おばちゃんはねぇ…若い子の気持ちが分からないからごめんなさいね?」
「でもね、社長もず〜〜〜っと大人に囲まれて来たからね、セシル君もエルキュールちゃんも、アリシアちゃんも、急に若い子の知り合いが出来てはしゃいでるんだと思うわ。」
「それは…………分からなくないかも。」
シェリーさんの言葉と、蒸かし芋に齧り付きながら答えるアリシアでした。
…思い起こせばアリシア自身も同年代の友達が居ません。
幼少の頃から錬金術の修行や素材回収、沢山の大人の中で商売に着いてまわる日々。気付けば自分の周囲に同年代の友人は居ませんでした。
自分が働く外で公園を元気に駆け回る子供達、親と一緒に楽しそうに手を繋ぐ子供達。
アリシアはそういった輪の中に溶け込む事が出来ませんでした。
アリシアが五歳の頃には、既に両親は居ませんでした。
いつも祖母と錬金術の修行に明け暮れていました。
ですので、いざ声を掛けても魔女だとか、暗い奴だとか、アリシアの幼年期はとても辛いものでした。
半ば友人を作る事を躊躇っていました。
アリシアの世界は灰色でした。
しかし、そんな日々に終わりを告げたのは彼女が七歳の頃でした。
その日は仕事で向かったグラムバルク邸。
最近越して来たばかりのエルキュールの家に上がり込んだ時の事でした。
エルキュールの父、ヴォルフガングは愛娘の体調を気遣い空気の綺麗なロックアーチへと越して来たばかりの事です。
たまたま娘の体調が酷く崩れ発作を起こした所、医者を呼びましたが、町に有る薬ではどうしようも無かった時、一縷の望みで錬金術師に薬の調剤を頼んだ所、その錬金術師は快く引き受けてくださいました。
薬の効き目はとても素晴らしい物で、みるみる内に発作は収まり体調が安定しました。
グラムバルク一家はその錬金術師にとてもとても感謝しました。それからも錬金術師の薬は重宝されました。
その錬金術師が何を隠そうアリシア=バーネットの祖母、ジーナ=バーネットでした。
それからはジーナが度々グラムバルク邸へと足を運びました。
ですが、たまたまジーナが体調を崩し、直接薬を届けられない日が有りました。
医者の不養生とでも言いますか。
そこで代わりにアリシアが届ける事になったのです。
アリシアは祖母の代わりにグラムバルク邸に薬を届けました。
ヴォルフガングは何を思ったか、その日はアリシアを招き入れ、食事に招待しました。
アリシアは緊張でその日にした会話や食事が殆ど思い出せません。
しかしこれだけは覚えていました。
「娘が元気になったら一度会って欲しい」
アリシアはきっと生返事で返したと思います。
それから五日後、アリシアが祖母の代わりに薬を届けにグラムバルク邸を訪れると、とても綺麗な女性が庭のテラスで紅茶を淹れてました。
そしてその向かいには小さな少女が座ってました。
その少女はとても可愛らしく、まるで人形の様な少女でした。
風に揺れる金糸の髪はさらさらと長く、陶器の様に白い肌は思わず触れたくなる程で、長い睫毛は…小さな鼻は、母の様に美しく、まるで西洋人形を思わせる風貌でしたが、アリシアにはなんと表現して良いのか分かりませんでした。
アリシアは思わず見惚れたのか臆したのか身動きが出来ませんでした。
そんな人形のような少女がアリシアにこう告げました。
「あなたがアリシアさんですか?…わたしとおともだちになってください」
ーーーアリシアの世界に光が差し込みました。
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