22.悪夢
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ーーーーエルキュールは夢を見ていました。
目の前が…町が…自分の住む世界が真っ赤に染まっていました。
そしてノイズだらけで視界が安定しません。
しかしエルキュールは全く感情が動きません。
自分自身もまた、真っ赤でした。
身体の中に鉄の杭が食い込んでました。
ズキズキズキズキと痛みが身体中に走ります。
しかしエルキュールは全く感情が動きません。
目の前で大切な人が真っ赤に染まっていました。
誰なのかが判断出来ません。
ただただエルキュールにとって大切な人なのは理解出来ました。
しかしエルキュールは全く感情が動きません。
エルキュールは杭が打ち込まれた腕を、大切な何かに伸ばしました。
そして手の平に打ち込まれた杭を、大切な何かの喉にめり込ませました。
しかしエルキュールは全く感情が動きません。
目の前の大切が口からゴポリと血液を吐き出しました。
その目は光を灯しません。
こレデずっとワタシのモノでス
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「ーーーーーッッッ!!??」
私ことエルキュール=グラムバルクは跳び起きました。
嫌な夢を見た気がしました。
ーー内容は一切覚えてませんが。
嫌な汗がじっとりと肌に纏わり付いて、服がムワッと暑苦しいです。
…私が起きた際にずれたのでしょうか?私のお腹を枕に眠る親友の髪を弄ります。
寝る前にお湯を浴びさせて貰ったので、ふわふわ感が戻ってます。ほんのりお日様の匂いもする気がします。
馬車の中は勿論真っ暗なので視界は殆ど利きません。月明かりだけです。
外に起きてる人の気配は感じますが、恐らく護衛のマックスさんか、漆黒の剣士セシルさんが交代で見張りをしてるのだと思います。
ーーー私は言い知れぬ不安感を抱きますが、怖い夢を見た気がするからと言って親友を起こす訳には行きません。
言ってもきっと笑われておしまいです。
……私は不安感を打ち払う様にアリシアの身体を抱き締めました。
「エルキュールぅ…」
…!……起こしてしまったのでしょうか?
「エルキュールの駄肉ってパンだったんだね?いただきまーふ」
食うな!
私は親友の、呆れる程平和な寝顔を月明かりに照らせば、安堵感が溢れ出しました。
………それにしてもアリシアの、「寝てても気配で起きる (キリッ)」とは何だったのでしょう?
思わずおかしくなってクスクス笑いましたが、深夜に迷惑なので大人しく寝る事にしました。
きっと今度はいい夢が見れそうです。
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「それで………」
「今度は何故脱がされてるのかしら…?」
日が出る前、今日もシャリアさんの明るい声に起こされると、寒空の下私は上下とも脱がされた状態で、裸のアリシアと抱き締め合ったまま毛布に包まってました。馬車の屋根はありますが。
因みに当の原因は起きません。
起きないなら起こして聞くしか無いですよね?…私はアリシアのほっぺに噛み付きました。
「いっっっだああああああああああああっっっ!!!!!???」
あっ起きました。
「あっ起きました。じゃないよ!何するのさ!!」
ファミチキください。
「???黙ってないで謝ってよ!」
「ほほう?それが人を脱がせた人の言う台詞?」
「ふえ?………怒ってる??」
「こんな男性方もいらっしゃる所で脱がされて怒らない方が珍しいでしょう?」
「だって蒸し暑かったんだもん…」
アリシアは私の胸に顔を埋めて上目遣いになっちゃいました。
くふぅ……かわいいし胸が擽ったい……いえ、何かこう、ムラムラっとした感情が………ではありません。落ち着きましょう私、ステイクールステイクール。
………ふう、おーけー。…いやそんなふにゃふにゃな甘え顔で擦り付かれたらもう抑えが…ああもうアリシアかわいいぺろぺろしたい結婚しましょうアリシアの耳おいしいですね?かわいい猫みたいふるふる震えて怯える顔もとてもキュートでエロいですはあはあかわいいアリシアしゅきぃぃっ!!!」
「ふぁいあぼると」
顔面に炎の弾丸が直撃しました。
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ーーー二台の馬車は順調に山道を進んでいました。
時折巨大な蜘蛛の魔物や狼………アレは魔物では無く動物ですね?…の襲撃には遇いましたが、無難にやり過ごしたり時々退治をしたりで特に問題はありませんでした。
そうして山道を歩いて行くと、シャリアさんが馬車を止めました。当然マックスさんが操る馬車も止まります。
「いーい?こっから先は鉱山の町、ドワーフの領地だからまぁてきとーにルールを守る事、いいわねー?」
「いや姉御、適当じゃ伝わらないっすよ?」
おや?マックスさんが久し振りに話してる気がします。
「いいっすか?ドワーフの方々は気難しい方が多いっす。特に信仰してる精霊を汚す様な行為、勝手に鉱山の中の岩や宝石を触ったりとかもダメっすから。特にアリシアさんとエルキュールさんはお気を付け下さいっす。」
名指しで指定されましたが、特に異論も無いので二人で素直に返事をしました。
……と、顔を見合わすと、お互いに顔を逸らしました。
アリシアはどうか分かりませんが、私は火が出そうな程顔が真っ赤です。
多分アリシアの中で私は変態ヒロインにランクダウンしたのでしょう。
ニヤニヤするシャリアさんを余所にマックスさんは溜息を吐いていました。
シェリーおばさまはあらあらと言った感じに笑ってます。
そして…
「これは……お互いに怒ってはいないけどぉ…どう接して良いか分からなくて顔を合わせ辛いのぉ。でも仲直りしたぁい………と言った甘酸っぱい空気だな!!いいぞもっとやれ!」
気持ち悪い程にくねくねしてる黒い人はほっときましょう。
「アリシア…?」
ビクンと跳ねました。
「朝は…ごめんなさい。アリシアが余りにも可愛すぎて自分を抑えられなかったわ…。本当にごめんなさい…」
私の謝罪にアリシアはふにゃふにゃな赤ら顔でこう返しました。
「……怒ってないよ?…先にエルキュールの胸に甘えたのはわたしだから…。」
アリシアが素直に謝ってくれました。
「でも、噛んだのは酷いから後で甘いもの一個で許してあげる!」
天使の笑顔で言いました。勿論当然即座にでも準備させていただきますとも!!
何故か黒い人が空気を読まなかったお陰でアリシアと仲直りが出来ました。ありがとう黒い人!
………ありがとうかなー?
「…尊い。」
ありがとうかなぁ…???
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ミノタウルスの遺跡から約一日半程掛かり、私達の商隊は無事、鉱山の町の入口へとやって来ました。
なるほど、山の景観を崩さないように入口を掘って岩山の中に町を作ったのでしょうか?
坑道内は所々木が組まれ、落盤を防いでる様子です。
入口には門が有り、門番件受付のドワーフが居ます。
入口の前には幾らかの馬車や商売人らしき方々、爬虫人や小人、他には護衛の冒険者でしょうか?屈強な戦士等が居ます。
シャリアさんが入口で受付を済ませてます。
重要な商談が有るらしいので割と早く通して貰えました。………今更ながらシャリアさんの人脈が恐ろしいです。
しかしそんな私達が気に食わないのは当然の事、冒険者の方が突っ掛かって来ました。
「おい姉ちゃん達、待ちな。俺達み〜んな並んでるんだよ。」
「そうそう、なのにここでお姉ちゃん達が規則を乱したら、先にも後にも申し訳が付かねえよなあ?」
「あっらぁ〜分かりやすい因縁アリガト!それであたし達に何を求めてるのかしらぁん?」
シャリアさんは一切臆せず寧ろ挑発する様に言いました。
「へへへ…分かってるじゃねぇか、…とりあえず詫びとして嬢ちゃん達に俺等のマッサージでも頼むわ」
「そうそう、待ちくたびれて色々凝っちまったんだよ。そん位いいだろ?」
言いながら腰を振ります。下品です。穢らわしい。
私はアリシアをぎゅっと抱き締めました。アリシアは怒りで興奮してますが。
黒い人も、もしもの事態に備えてます。………腕を組んで格好付けてますが。
「良い訳ねぇだろボケ、こうなりたく無かったらとっとと失せろやコラぁ!」
マックスさんでした。物凄くドスの利いた声で捲し立てます。
マックスさんが牛男の頭部を袋から取り出して地面に転がし、冒険者達に見せ付けました。
「…………は?え?マジ?」
「アレを殺ったのかよ……ヤベェよ」
「アレか?テメェ等股間からマッサージして欲しいんだよなぁ?おお?全員纏めて来いや、握ってやるからよお?」
「いえ、あの……結構です…すんません」
「僕ちん達真面目に並びますんで、社長さん方はお先にどうぞ!」
一蹴でした。屈強な冒険者達はすごすごと戻って行きました。
普段温厚なマックスさんの本性を見た気がしました。
しかし首を回収して此方に戻って来たマックスさんは申し訳無さ気にペコペコしながらシャリアさんに謝罪を告げます。
「姉御、すいませんっす。大事な商品を汚しちまって。それにお嬢さん方も怖がらせちまったっすよね?」
「あははー、アイツ等のタマぁ蹴り潰したかったけど、まぁ良いわ?大事なお客様も無事に守れたし、及第点って事で。」
怪我人も出さず、綺麗に状況を落ち着けて尚及第点とは、シャリアさんは恐ろしい人です。
「ほらほらアンタ達、急いだ急いだ!お客様がお待ちよ?」
シャリアさんは皆を急き立てます。
「私達のお客様の元首様がお待ちなんだから」
マックスさん回来たる?




