21.英雄達の凱旋式
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シャリアの商隊での勇者アリシア=バーネットと漆黒の剣士セシルの凱旋はとても慎ましくも歓声を与えました。
アリシアは未だ立てずセシルに姫抱きされてますが。
行路を脅かす魔物の討伐の報告に、商隊の主であるシャリアはとても喜びました。
ーーーいや何故かツヤツヤしてる気がします。
んんー?
商隊の護衛マックスは見張りに戻りました。炊事等担当のシェリーは盛大にお祝いの食事を用意してくれてます。
…んん〜…?
牛男の頭を受け取ったシャリアは、とても満足そうにセシルの背中をバシバシ叩いてます。
馬車の中から艶かしい声が聞こえます。
………幼馴染のエルキュール=グラムバルクの姿が見えません。
アリシアはピンと来ました。
セシルの腕の中で暴れて落っこちたアリシアは、這う様に馬車へと乗り込むと目に飛び込んで来たのは…
顔を真っ赤に染めて乱れきった表情でぐてんと床に倒れ込む幼馴染の姿と、隣で怯え切った壺の中の白い少女の姿でした。
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「エルキュール…大丈夫?」
茶色い子猫の様な少女が私の顔を覗き込みます。
「アリシア……ごめんなさい…」
「どうして謝るのさ…?」
少女が不安そうに私の顔を覗き込みます。
「えっと…その……」
私が言い淀むと、アリシアはギッと馬車の外を睨みますが、私はアリシアの顔を両手で包んで自分に向けました。
「あっ…あのね?私はまだ綺麗な身体よ?………まぁかなりアレな事はされたけれど…」
親友の顔を覗き込みながら言うも、思わず顔が紅潮しちゃいます。
アリシアはギリィと音が響く位歯軋りをしますが、抑えて抑えて…。
「大体お客さんにエッチな事をするとか何考えてるのさ!むぎぃぃっわたしのエルキュールなのにわたしのエルキュールなのにわたしのエルキュールなのに」
まるで壊れたディスクの様に同じ事を繰り返しますが私はアリシアの顔を引き寄せキスしました。
今回は唇にです。
「ん……っ、エル…?」
唇を離してアリシアの可愛い顔を撫でながら言いました。
「ごめんなさい…アリシア……あなたが生きて帰って来てくれて……嬉しくて…その、……どうしても」
「ううん、ごめんね?エル……。こんなボロボロで心配させちゃって…」
「ふふふ、私の騎士様だものね。私の為に戦ってくれてるのは分かってるつもりよ。」
「エルぅ…エルぅ…」
アリシアが私に甘えて来ます。凄く可愛い子猫です。…そしてやっぱりほっぺたがもちもちしてます。
「私のファーストキス…アリシアに捧げちゃったわ…。」
私は満足感タップリに言いました。アリシアも喜んでくれたなら嬉しいです。
……………あれ?何故アリシアが顔を逸らしてるんですか?
「ごめんねエル……わたし、初めてじゃないんだ。」
私はショックを受けました。
いや分かりますよ?
冒険者なんてやってると出逢いも有るでしょうし、アリシアにも好きな人の一人や二人、まぁ悲しいですけど出来たりしたのでしょう。ええ私は全然大丈夫です。
過去にそう言う人が居たとしても今アリシアが私を見てくれるなら………って、そう言う風にも受け止めて貰えてないかもですが!!ですが!!
あ!もしかすると前に組んだ冒険者が居たのかも知れません!きっと恐らくもしかして或いはまさかの人工呼吸的な救護処置でそう言った事をしたのかもしれませんよね?
それなら仕方ないので取り敢えず私のアリシアを汚した罰をと言いたいのですが、人命救助なら仕方ない気も……あれ?涙が出て来ました。
むぎぎぃ…アリシアの真似じゃ無いですけど、私のアリシアが私より先に大人の階段を上った事に嫉妬しちゃいます。」
「…ル!エル!いつものやってないで話を聞いてよ!」
…あれ?もしかして私、またやっちゃいました?
「……あのね?わたしの初めてはエルだよ?」
ん?した事ありましたっけ?おでこのアレはノーカンですよ?
「ロックゴーレムの後、エルが寝てた時に………ね?」
あー…、完全に意識が無い時ですね?
「だって……もうエルとはお別れだと思ったから…!」
「アリシアったらもう…」
私は出来る限り愛しさを込めてアリシアを抱きしめました。
「俺はまた楽園を守護ってしまった……ふっ、自分の能力が恐ろしい…」
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それから少し経って、お互いに落ち着いた頃、私は壺に視線を向けました。
壺はビクンと跳ねた気がしました。
「エルキュール?……そう言えば馬車に乗った時誰か居た気がしたけど…」
「あぁ…紹介……したいのだけど、良いかしら…?」
私は壺に向かって話し掛けました。しかし返事は有りません。
アリシアは怪訝な表情を私に向けて来ます。
「壺が喋るわけ無いじゃん。エルキュールは脳味噌まで駄肉なんだね?」
えぇー…?
「あの中にはシャリアさんの妹さんが居るのよ。名前はシャルロットちゃんって言って…その」
「ふーん?」
アリシアは回復したのか、私を引き剥がして起き上がると、壺に向かって行きました。
「シャルロットちゃんって言うの?わたしはアリシアだよ?よろしくね?」
アリシアは壺に触れず、少し離れながら屈んで挨拶をしてます。物凄く優しい声でした。
……おや?蓋を自分から開きました。目から上だけを出してアリシアを品定めしています。
「アリシア…ちゃん?……よろしくね」
えぇー………だから何で私だけ嫌われてるんですか?
「うん、よろしく!良かったら旅のお話聞かせて欲しいな?わたしも色々教えるからいっぱいお話しようね」
「あの…ひとみしりだから…すこしずつなら…」
「えへへ、大丈夫だよ、お話する時間は沢山あるから!」
アリシアの子供に好かれるスキルが羨ましいです。
なんで私だけあんなに嫌われてるんですか?不公平です!
アリシアみたいに可愛らしい少女と仲良くしたいだけなのにこの仕打ちは………はぁ。
私はほんのり涙目で話題に花を咲かす二人の少女を遠目で眺めてました。
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「エルキュールちゃんどったのー?」
本日二度目の質問でした。
シャリアさんは昼の質問と同じ感じに聞いて来ましたが、今度の私の反応は同じではありませんでした。
少し間を空けてます。………まさか唇の横にキスされるなんて、流石の私も気絶しかけました。
………だから何故私だけこんな目にばかり遭ってるんですか!
いや、シャリアさんは美人さんですし、スタイルも抜群ですけど。
「いえ………その………どうして私ばかりこんな目に遭うのかと…」
「こんな目?」
「いえ…何でもないです…。そう言えば、明日は遂にこの道を行くんですよね?」
本人に相談する様な話題では無いので切り替えました。
「うんうん、さっすがあたしのエルキュールちゃん!普通の人には気付かない事に目が付くわねぇ〜」
いや、誰だってそう思うでしょう。後あなたのじゃありません。
「まずはうちの英雄さん方を労ってから明日の方針を発表するつもりよん。エルキュールちゃんも色々働いて貰うから、よろしくねー?」
「はい……あ、そう言えばまだ聞いて無かったのですが、次は何処の町に行くのですか?それとも村ですか?」
「まぁ敬語はエルキュールちゃんのキャラって事にしたげる?…次の町、言って無かったっけ?」
「鉱山の町『スルース』よ。」
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その後、勝利を祝福した宴は遅くまで続きました。
血塗れだったセシルさんは着替えた様ですが、似たような†漆黒の魔装束†でした。
マックスさんは余りお酒を飲んでない様子で、周囲を警戒してくれてます。
シェリーさんは給仕に勤めてくれてます。私も見習うべきでしょう。
壺ごと連れて来たのかアリシアがシャルロットちゃんと談笑しながらご馳走を二人で分けてます。むぐぐぅ…
あ、手を振って呼んでくれましたが、シャルロットちゃんが物凄く嫌そうな顔をしてます。
………心の中で泣きました。
「アリシアちゃん…あのひとはてきだから…おっぱいが…」
「あぁ〜…あの駄肉は仕方ないもんね?」
「だにく?」
「うん、駄肉。」
こらそこ!小さな子に変なことを教えない!
一通り宴が終わると、シャリアさんが皆さんの注意を集めました。
「はいちゅうもーく!」
「えー、今回我が隊が誇る英雄さん達が憎き怨敵を見事に討ち、無事に新たな行路が拓かれました。」
「そこで、我々は明日、鉱山の町『スルース』を目指します!」
「明日の日中には発つから各自荷物を纏めてねん?以上、解散!」
割と手短に終わりました。
しかしまぁやはり私は世間知らずですが、鉱山ですか。もしかして山を登るチャンスがあるかも知れませんね?
思わずワクワクしてしまう自分が居るのを感じました。
それをアリシアは小首を傾げて眺めてました。
こうしてアリシア達の凱旋式はとくとくと夜の闇に包まれて行くのでした。
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