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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー勇者と一般人の旅立ちー
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20.ミノタウルス対漆黒の剣士

 ━シャリアのキャラバン━


 私ことエルキュール=グラムバルクが壺の中を覗くと、雪の様に真っ白な少女が震えながら涙目で此方を睨みつけていました。

 両目は兎のように赤く、髪は長くさらさらしてます。まるで雪の彫像を思わせます。そして私の腰程の壺の中に頭まですっぽりと収まる程の大きさです。とても小さな女の子でした。


 ───まさかアリシアが小さくなったのでしょうか?


 いえ、アリシアはただいま牛男狩りに向かってますし、そもそも顔が余り似てないので全くの別人なのですが

アリシアはもうちょっとこう…ほっぺたがモチっとしてます。触ってて気持ちいいです。

 それは置いといて、私は壺の中の少女に両目をパチクリはためかせ、思考停止した様に固まりました。

 お互いに動きませんが、見詰め合ってても仕方ないので声を掛ける事にしました。


「あの……あな「いんらん!!」


 えぇ〜…?


「ここでな「へんたい!近付かないで!」


 へんたっ…私がこの子に一体何を…!?


「おっぱいでおねえちゃんをたぶらかした!こわいから近付かないで!」


 お姉ちゃん???そもそもそんな覚えが有りません。

 やはりアリシアの妹か親戚か何かなのでしょうか?その様な話は聞いた覚えが有りませんが


「あのね…?お姉ちゃんはどうしてあな「こわい!やだ!こないで!」


 取り付く島もありません。

 うふふふ……マジでキレそうですわよ?


「近付かないから…蓋だけ返させて?ね?」


「むぅぅ〜〜……っ」


 おお…悩んでます悩んでます。


「ふただけなら…いいよ?でもおっぱい近付けたらかむから!」


 だから私が何をしたと!?

 ………子供に本気で怒るのも大人気無いので、私は溜息を吐き一呼吸置いて、ゆっくりと近付き蓋を被せました。

 んん?よく見れば上に空気穴が空いてますね?よく考えられてます。


「あら?エルキュールちゃん?どったの?」

 後ろからシャリアさんの声が聞こえて思わずビクッとしてしまいました。いえ別にやましい事をした覚えは無いのですが。

「シャリアさん……あの…壺の中に子供が…」


 ガタタッ!


 子供に反応しました?もしかして怒ってますか?


「あぁ、あの子ねー。実はあたしの妹なのよ。」


 へぇ〜、妹ですか。



「………え?妹さん……ですか?」

「およ?信じてない系?って、だーかーらー、敬語敬語!」

 どう見てもシャリアさんと白い少女は似てません。顔付きもシャリアさんは情熱的で豪快そうな感じです。髪も肌も黒めであの少女とは似ても似つきません。

「まさか誘拐……」

「ん?されたいの?良いわよ〜?あたしエルキュールちゃんみたいな上品な子大好物だから。」

「だから何故私なのですか!?」

「ほらほら敬語ペナルティ!」


 むぐぐぅ………せめてペナルティの内容が掃除とかならまだ!


「ま、お客様にそうそう手は出さないから安心しなさいっ!…でもね?そこから生まれる愛は否定するべきじゃあ無いわよね?」

 シャリアさんの手が私の顎を撫でました。もう片手は私の腰を抱き寄せそのまま太腿を撫でます。切れ長のまつげがとても扇情的で綺麗系のシャリアさんの顔が近づくと、私は頰を真っ赤に染め、思わず喉を鳴らして生唾を飲みこみ………じゃありません!!


「ごっ…誤魔化されませんよ!あの子の事です!!」

「あちゃー、誤魔化せなかったかー。ま、ペナルティはこの位にして、あの子ねー。あたしの腹違いの妹だから。」

「えっ」

 あれ?もしかしてこれ聞いちゃいけない系でしたか?


「顔を見たならいいっしょ?紹介してあげる。あの子はシャルロットで12歳、あたしのクソオヤジとあの子の母親の間に生まれた子よん。あたしと違ってシャイで人見知りな子だから仲良くしてあげてねん?」


 特に深刻な空気になるでもなく、シャリアさんはケラケラ笑いながら教えて下さりました。そして私は思い出しました。そう言えばシャリアさんがシャイな子も居るから仲良くしてあげてと言ってた事を…。


 …ん?


「シャリアさん…シャルロットちゃん………シェリーさん…もしかしてお母様ですか?」

「いやいやそれはちょっと短絡過ぎよ?シェリーはあくまでうちの社員でお世話好きなおばちゃん。血の繋がり無いからね?で、敬語敬語ー」


 ですよねー。


「うんうん、元気になったみたいね?じゃあ元気ついでにうちの妹と遊んでやってよ。あたしより歳も近いだろうし、多分上手く行くと思うからさ?」

 元気と言われて、すっかりアリシアの事を考えて無い事に気付きました。色々あってすっかり忘れてたようです。

「えっ、私は良いですけど……私あの子にすっごく嫌われてますよ…?」

 ほら!証拠にすっごいガタガタ揺れてます!!物凄く怒ってます!!絶対怒ってます!!

「照れてるだけよ!ほら遊んだ遊んだー!!敬語ペナはまた後でねー」

 最後に不穏な事を言いながらシャリアさんは降りて行きました。

 私はチラッと壺を見ましたが、壺からは帰れオーラが物凄いです。しかし時には上司の理不尽に黙って応えるのもサラリーマンの宿命です。シャリアさん上司じゃないですけど。

 …と言うわけで、これも一つの役割と割り切り私は意を決して壺へと歩み寄りました。


「しゃっ……シャルロットちゃーん?お姉ちゃんとお話ししましょー?」


 …………


 …無反応です。


「シャルロットちゃーん?」


 私は壺の側ににじり寄りました。


 「ふぁいあぼると」



           !?



 壺から顔を出したかと思うと口から火炎弾を吐き出しましたよ?この子。

 私は咄嗟に避ける事が出来ず、思いっきり火炎弾を受けてしまい床に倒れてしまいました………きゅう…




━━━━━━━

━━━━━


 ━ミノタウルスの廃墟━


 黒衣の剣士は気を失った少女を眺めていた。

 二人の後ろには廃墟の壁や柱と繋がった数多の鎖で締め付けられ、胸元や身体中から血を流して蹲った姿勢のミノタウルスが居た。


「ふむ………」

 黒衣の剣士の名はセシル。全身黒尽くめに銀の装飾だ。

「おなごに触れるのめっちゃ緊張する…」

 鼻血を流しながら情け無い声で言った。


「グッ…グモおおおおがアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 ミノタウルスは未だ倒し切れてなかった。しかし自分を死に体へと追いやった小さな少女を激しくも悍ましい程に憎悪を募らせて睨み付けた。手に持った鉄板の様な槌の柄を棄てた。そして鎖を引き千切ろうと全力を込めて乱暴に暴れ始めた。

 恐らくこの少女だけでも道連れにするつもりだろう。


「やれやれ…武器を殺ぐのが俺の役目だったのだが、果たせなかったからな…。」


 漆黒の双剣は明るい日中では酷く目立つだろう。

 しかし、彼はその不利ディスアドバンテージを全く感じさせない程の剣技を操る者だ。


「なれば此処からは後処理だ。俺が引き受けよう。」

 瞬時にミノタウルスの肩に現れた漆黒の双剣使いはその首に刃を滑らせた。

 すると牛頭の魔物は首から勢いよく血液を噴き出し自分に何が起きたか分からないまま、よろめくのだった。

 しかしその血液は漆黒の剣士の身体を濡らす事は無かった。

 どうやら命の危機を感じたらしい魔物は最早眼前の少女に意識など向かなかった。



「さあ化物…此処からは俺の舞台だ。」




「斬刑に処す。」





───言うが早いかセシルの劔は無防備な背中に回り込み大きく削いだ。

 化物は化物らしく化物じみた憤怒の咆哮を挙げるが、セシルは一切怯まなかった。

 幾ら傷付けた所で、無限に回復をする相手ならば、核となる部分を削げば良い。

 動物の身体構造上において、それらしき部分を貫いても尚動くのならば、他の原因に幾つかの候補が存在する。



 一つ目は核と言える部分が胸には無い事。

 二つ目は核と言える部分は複数存在する事。

 三つ目は実は核は潰えたが憎しみのみで最期に身体を動かしてる事。つまり精神論だ。



 取り敢えず浮かんだ候補の内、一つ一つをセシルは検証してみる事とした。

 無防備な背中を切り落としたのは、取り敢えず中を見てみる為である。

 セシルは解体に慣れていたが、硬い部分を斬るのは慣れて無かった。お陰で随分と手こずってしまったのだが。

「ほお…?」

 どれ程怒りを、憎悪を募らせても自分を縛り付ける鎖を引き千切る事が出来ない化物ミノタウルスが苦痛の呻き声を上げるも、黒衣の剣士は一切手加減も容赦もしてくれず、情け等ひとつまみ程も掛けてはくれなかった。

 黒衣の剣士は背中側から確かに心臓が貫かれた痕を確認した。

 しかし、少し下にもう一つ、二つと別の心臓が鼓動するのを確認し、クククと厭らしく笑い掛けた。


「これが貴様の核か?……これを潰しても動けるのか試してみるとするか。」

 黒衣の剣士は牛頭の化物を生物として見ているのか、敬意を払ってるのか分からない様な非情さで、目に見える全ての心臓を斬り潰した。

 …すると、余りの苦痛に咆哮を放つ化物に対しても、セシルは「煩い」と一言だけくれてやり、その首を斬り落としてしまった。

 最早、化物ミノタウルスが動く事はあり得なかった…。

 予想した最後の一つは………検証される事は無かった。



━━━━━━━

━━━━━



 わたしが目を覚ますと、漆黒の剣士の腕の中に居ました。どうやらお姫様な抱っこで走ってるみたいです。


 きっとわたしが気絶をしてしまったので、あの化物の側から連れ出してくれたのでしょう。

 しかし血塗れでかなり生臭いです。


「目覚めたか?」


 漆黒の剣士は腕の中で目を開いたわたしに声を掛けてくれました。心なしか声が上擦ってる気がします。


「んにゃ…ごめん…気絶してた。……あいつは?」


 未だに定まらない脳のまま、わたしはぽやんとしたまま尋ねました。


「貴公が倒したのだろう?俺はただ首を落としただけだ。」


 倒した証拠にと鎖で繋いで持って来た様です。首を。

 わたしは出来るだけ見ない事にして、質問を続けました。


「モンスターは…あれだけ?」


「貴公が覚醒せし宿命の日までの束の間、我が魔眼にて深淵を覗いたのだが、蜘蛛や獣の魔連なる物は存在したが、他の物は召喚に応じなかったらしい…」


………と、少し上擦った声で神妙に語りますが、めんどくせぇーーーーーっ!!!


「夜の帳が下りれば獣共は貴公に群がり血肉を貪るだろう…、我が呪われた魔腕で、我等が聖域へと凱旋を果たそう。」


 いや聞いて無いですけど。魔がどうとか言ってるのに聖域ですか?キャラバンは魔城か何かですか?魔好きですね?ドヤ顔で言ってますが鼻血のせいで格好付きません。…ってわたしについちゃうついちゃう!!

 …まぁでも置き去りにされなくて良かったです。そこは感謝してますけど…。


「フッ…もうすぐ着く、大人しくしていろ。」




 二度目のキャラバンの灯りは、わたしの心に穏やかな安心感を与えました───。




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