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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー勇者と一般人の旅立ちー
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19.それぞれの戦場



 ───わたし、アリシア=バーネットは、黒衣の剣士セシルを徒に再び廃墟へとやって来ました。

 わたしは腰に手を伸ばすと、杖を取り出しました。


「む?お前の武器は剣では無いのか?」

 黒衣の剣士に普通に疑問をぶつけられたわたしは早くもげんなりしてました。

 ───普通に喋れるじゃん!

「魔法もそこそこ出来るよ?……来た。」


 遠くからズシン…ズシン…と地面を揺らしながら歩む姿は例の牛頭人体の化物です。

「アレが我が剣の錆にされたい獣か。ククク…魂を捧げて貰おうか。」

 漆黒の双剣を逆手で抜きました。──何て言うか、聞いてて疲れます。

「して、作戦は有るのか?無ければ俺は好きにやらせて貰う。」

「意外と話を聞くんだね………。かなり難しいと思うけど、貴方には一撃離脱を繰り返して貰って、あの武器を落として欲しい。…それで「承知した」


 食い気味な返事と共に、物凄い速度で飛び出して行きました。

 まるで燕が空を飛ぶ様な軽やかな駿足で駆け寄り、鉄板を持つミノタウルスの手を、交差気味に十字に斬り裂く姿はわたしを呆然とさせました。ミノタウルスの武器を落とすまでには行きませんでしたが。

 一度此方を振り返りドヤ顔で腕を組む姿は………何て言うかその…………アホです。


「結局人の話を聞かないんかーい!!」


 わたしは心の底からこのグループでやって行けるか不安になりました。

 ………しかし格好付けながらもしっかりと攻撃を避けて次の攻撃に繋げてる様子は、一応そこは手練れなのでしょう。

 わたしは頭を抑え溜め息を吐きながらも杖に魔力を集中させます。


「貴様、獣の癖に中々の使い手と見た。…だが俺を捉える事は出来ん。何故なら…」

 セシルはミノタウルスの鉄板や掴み攻撃をいとも容易く避けながら言います。


「闇を捉えられる生物は存在しないからだ…!!」

 ドッヤアアアアア。双剣を大きく振り上げ武器を持たない方の防御しようしている腕を深く斬り付けながらのドッヤアアアアア。

 セシルはわたしに何やらアピールをして居ます。

 ……どうしよう、少なくとも彼とは上手くやって行けないかも知れない…。漆黒の剣士のアピールは虚しく無駄に終わりました。


「気を取り直して…どいて!!」


 わたしは魔法を発動させました。ふわりふわりと光輝くヴェールがミノタウルスへと降り注ぎます。

 因みにわたしの言葉よりも早くその場から離脱したセシルはまるで瞬間移動の様にわたしの隣に立って、言いました。

「俺一人でも十分なんだが……アレは何をした?」

「…そうかもね、アレは身体の硬度を下げる魔法。これで剣が通りやすくなった筈だよ」

「ほぉ?我が白刃が刻む宴にコントラストを添えたか。飢えた獣に死を齎す勇猛な賢者だな…。」

 あんたの剣、真っ黒じゃん…。


 わたしが唱えたのは防御力低下魔法でした。手早く杖をしまうとわたしは紅く輝く剣を何も無い空間から抜剣しました。すると髪は白く長く伸び、両目は真紅に、紅いオーラを身体全体に纏います。

「なっ……貴様、光を纏いし者か?!クッ……我が闇の魔手が…疼く……が、それはアレを始末してからとしよう。」

「だから勇者だってば。…それを本気で言ってるかでこの後の対応が変わるからね?覚悟しておいてね?」

「フッ………ところで」


「アレは倒してしまっても構わんのだろう?」

「ご自由にどうぞ」

 わたしは呆れながらもセシルの速度に着いて行きました。

 二人の閃光の様に交差する斬撃は、動作の遅いミノタウルスにとっては天敵でした。



━━━━━

━━━━━━━




 ━━シャリアのキャラバン━━



 エルキュール=グラムバルクは心ここに非ずと言った様子で空を見上げてました。

 その様子をシェリーおばさまは何も言わずに見守っていてくれました。勿論自分の作業をしながらです。


「アリシア……今頃どうしてるのかしら…」

 言っても仕方ないのは分かってますが、気になるものは気になります。

 私は破れた衣類や袋等のお裁縫を任されています。ずっとやって来た事なのでこういうのは得意なのですが、どうにも上の空になってしまいます。


「エルキュールちゃん、そんな状態じゃ危ないわよ。ここはいいから馬車の中を掃除してちょうだい?」


 どうやら今の私の状態を見兼ねて針仕事から外したようです。私は折角お仕事を頂いたのに、とても申し訳ない気持ちで一杯でした。

 しかし折角の次の仕事です。今度こそ無碍にしない様にと馬車に乗り込むと………



 ───例の壺の蓋が開いてました。



 ────私は驚き両目を見開きました。

 ………え?アレってもしかしてモンスターが入ってる壺ですか?蓋、開いちゃってますよ?逃げ出したのでは?

 いやいや魔物が入ってたとは限りません。もしかすると塩漬けか何かが入ってて、えぇーっと…スライムとかが塩漬けされてたとか……いやそれ結局魔物じゃないですか!!

 いやいや取り敢えずモンスターからは離れましょう。

 まず蓋が開いてると言う事は中に入ってた何かが逃げ出したか、気付かずに開いてしまったか。

 昨日は勝手に動いてた (様な気がした)のですからきっと中から開けたのでしょう。

 いやいや何故私は中に生き物が入ってる前提で考えてるんですか?バカなんですか?

 動いてたのは気のせい!目の錯覚です!

 そもそも封をして無かったんですから魔物の線は在りません。 (世間知らずな私基準で)

 きっと中にはシャリアさんの大事な物が入ってる筈です。

 でもシャリアさんは思いっきり壺にご飯を入れてた気がしなくもないような、実際は見て無かったような…。」


 ガタタッ


「ぴきぃっ!?」

 一瞬、私の変な声が出ましたけど、多分また呟いてしまったのでしょう。そしてそれに反応して壺が揺れたのでしょう。………中に何かが居るのは確定ですね。

 昨日のシャリアさんの言葉は忘れました。


 私は蓋を拾い恐る恐る壺へと近寄りました。

 そしてそ〜〜〜っとそ〜〜〜っと壺の中身を覗いてみると………



 雪の様に真っ白な少女が震えながら涙目で私を見上げて睨んでいました。



━━━━━

━━━━━━━



 ━━ミノタウルスの廃墟━━


 くっ………そぅ………。

 わたしは心の中で悪態を吐きました。セシルの斬撃も、わたしの斬撃も、確かにミノタウルスの身体を刻んで行ってるのですが、まるで衰えを見せず、寧ろより勢いは強まり憎悪は深く、そして段々と魔物の攻撃がわたしに当たる様になって来ました。

 何度も何度も斬り付けた筈なのに身体の傷は殆どありません。

 自己回復タイプでしょうか?それとも単に実力を隠してただけなんでしょうか?

 それに防御力低下魔法の効果はとっくに切れたみたいです。


 セシルはまだまだ行ける様ですが、わたしは一度変身を解かないと継戦は厳しいです。

 ──かと言って、急に解けば一瞬で捻り潰されます。しかしこのまま続ければ戦闘中にも関わらず眠ってしまうかも知れません。

 一か八かで勇者の一撃を放ってみても、それで倒せなければ意識を失ったわたしはやはり無防備になります。

 ───くそう!くそう!何が九割方だ!寧ろわたしがセシルの足を引っ張ってるじゃ有りませんか!

 ………ふとセシルを見てみると、最初のおふざけは何処へやら、凄く真面目に渡り合っています。

 攻撃をしては後ろへ跳び、攻撃を躱しながら股下を潜り抜けついでに腿を裂き、踏み付けられる前に離脱して、適度に腕を斬り付ける。………更には、わたしにターゲットが向かない様な闘いをしていました。

 これは何て言いますか………


 勇者としてのプライドが傷付きます。

 護るべき人達に護られる勇者等、勇者で在るべきでは無いのでは?


「くぅぅ……体力お化けぇ!!」


 どちらに向けて叫んだのかは分かりません。

 もういっそのこともうひと振り剣を出してわたしも双剣で行きますか?

 セシルが一度離脱しわたしに声を掛けて来ました。

「おなごを守るのは男の使命、気にせず休め。」


 ………プチッ


 何かが切れた音がした気がしました。

 わたしはもうリスクも何も関係無しにもうひと振りの剣を抜きました。

 もう知った事じゃありません。ここで倒し切れば良いのです。

 そう心に決めたわたしは双剣を構えて突進しました。

 威力は落ちるけど、この双剣に勇者の一撃を乗せて放てば……


「どおおおけええええええええっっっ!!!!!」


 わたしの気迫にセシルは動じませんでしたが何か察してくれたのかその場から離れました。

 わたしは全魔力と練気、要するに鍛錬により高まった体内オーラをふた振りの剣に纏わせ全力で斬り掛かりました。


 まずは高速の二連続袈裟斬り、二連続逆袈裟、その場で回転からの二刀横薙ぎ。

 この時点でミノタウルスは怯みながらも鉄板で反撃して来ましたが、わたしはそれを更なる連撃で打ち返します。

 超高速の縦斬り横薙ぎ斜め打ち上げで鉄板を返しました。

 そして追撃の連撃、ミノタウルスの無防備な腹部に二刀突き、外側へ切り払い、跳びながらの右手で斬り上げ、回転しながらの左手で打ち下ろす様な斬撃。

 しかし、ミノタウルスは痛みから更なる憎しみを込めてわたしを鉄板で空中へと弾き飛ばしました。

 ───と、同時に鎖の様な物がミノタウルスの身体を縛り付けました。


 剣が両手から回転しながら溢れてもわたしは意識を失う事を許さず、両足で地面に着地すると空中の双剣を思念で操ります。

 離れた場所から操る技。ヴォルフガング師匠戦で見せた技です。

 剣が踊る様にミノタウルスに苛烈に襲い掛かると、ミノタウルスは鉄板で防ぎますが、どうやらわたしの剣が勝った様で、鉄板を削り切り、斬り伏せました。

 そしてわたしは限界を迎えましたが、最後に全神経を込めてミノタウルスの胸を双剣で撃ち抜きました。

 ミノタウルスを貫いた双剣は、まるで紅い紅い彗星の様でした。






 ───そしてわたしは今度こそ意識を失い、元の姿へと戻りました。



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