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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー勇者と一般人の旅立ちー
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18.置き去りの心



━━━━━━━

━━━━━



 私、エルキュール=グラムバルクとアリシア=バーネットは、一度拠点に引き返しました。

 十数キロ程来た道を引き返し、拠点の陰が見えた頃には空はとっぷりと闇に染まり、灯りが目に癒しを与えました。

 私は偵察をしただけでクタクタになりましたが、アリシアはと言うと…


「シャリアさーん!報告でーす!」

 嫌な顔一つせずに駆け出しました。流石現役の冒険者と言いますか、プロフェッショナルは自分のすべき事が分かってます。商隊の主シャリアさんと護衛のマックスさんが馬車の側で樽を囲み、地図を広げて作成会議の場を設けてくれました。

 そして素人以下の自分はと言うと…

「もう……無理ぃ……歩けないぃ……」

 馬車に凭れ掛かり、そのままずるずると中に入り込みました。


「二人ともお疲れさん、んじゃ早速聞かせて貰おうか?」


 どうやら真面目な会話の際は敬語で良さそうです。私は馬車の中から話を聞いてます。

「はい、やはり目撃証言通りあの廃墟に居たのはミノタウルスでした!…巨大な鉄板を持ってましたけど、そこまで速くは無かったのでわたしなら何とかなるかと……ただ」

「ふむふむ、続けて?」

「……多分手数が足りません。恐らくわたしの素の攻撃であの分厚い身体を切り裂くのは難しいです。

 …でも魔法で攻めるにしても、手数で攻めるにしても、多分わたしのスタミナ切れの方が早いと思います。」


 ここまで聞いてシャリアさんが問い掛けました。


「なるほどねぇ、……その計算にエルキュールちゃんが入って無いみたいだけど?」

 その通りです。私を外すなんて心外です。


「エルキュールは……素人です。動く相手を狙った事が無い素人の矢は当てにするべきじゃ有りません。仲間討ちなんて事になったら目も当てられません。」

 言ってくれますね、この茶色猫。射線上に入るなって私言いませんでしたっけ?

「あっはっは!知ってた。じゃあやっぱりこの進路は捨てて迂回が現実的かねぇ?」

 酷い言われようですが、事実なので仕方ありません。

「手数か……または一撃の威力が有れば倒せない事は無いんです。」


 アリシアは値踏みする様にシャリアさんを、次にマックスさんを見詰めます。


「俺っすか。…残念ながら俺は行けないっす。」

 ここで初めてマックスさんが言葉を発しました。

「あー、あたしはただの商人マーチャントだからねぇ。ボウガンはそれなりに扱えるけど、やっべーのはお断りよ?」

「分かってます……ですので少しずつ少しずつ、回復する時間を削ぎながらアイツを倒すなら五日……いえ、三日は欲しい所です。」


 それがアリシアの提案でした。しかしシャリアさんは厳しい表情でこの提案を突っ撥ねます。


「悪いんだけど、それは無理ね。既に今日一日を偵察に削いでるの。ここから引き返してゴブリンの里を通って目的地に到着するなら大体三日ね?」

「それをアリシアちゃんの提案に乗って三日与えたとして、確実に勝てるとは限らないでしょう?

 もしかするとアリシアちゃんが殺されてあたし達は無駄に立ち往生、折角の次の商談もパー。これはあたし等も看過出来ない訳よ。

 アリシアちゃんは、商売人にとって大切なのは何か分かる?」


 アリシアは考える間もなく、即答した。


「信頼と…時間、納期ですかね?」

「分かってるじゃない、いい子いい子」

 シャリアさんがアリシアを撫でました。悪戯っ子の笑みで。アリシアはすっごく嫌そうですが、流石に錬金術師。商売人の心得?も理解してます。


「あのね?忘れてるかもだけど、アンタ等を無事に首都まで送り届けるのもあたし等の仕事なのよ。」

「大切なお客様のアンタ等を死なせたりなんかしちゃったらあたし等商会の名折れなわけ。これも信頼、分かる?」

「むぐぅ…」


 尤もな意見です。勝手に着いて行った私は何も言えずに馬車の中に引っ込みました。

「姉御、言い過ぎっすよ。」

 マックスさんが抑えようとしますがシャリアさんは目線で牽制しました。…マックスさんはそれ以上追求しません。

「勿論、偵察分の報酬は支払うわ?だからこの話はここでおしまい。いい?分かったら解散ね?」

 …と、手早く作戦会議場を片付けます。……と、そこに漆黒の飛び込みが有りました。



「手が足りないのか?」



━━━━━━━

━━━━━



 作戦会議が終わり、私が馬車の中でやるせなさと鬱憤を晴らす様にジタバタしていると、商品の中の壺がガタッと動きました。

 私は思わずビクッと飛び跳ね壺から離れてしまいました。

 木箱の陰から恐る恐る覗き込むと…………やはり何の変哲も無い壺でした。


「あぁお腹減った?もうすぐご飯あげるからねー?」

 シャリアさんが馬車に乗り込んで来ました。どうやら私に話し掛けてる訳では無さそうです。


「あら?エルキュールちゃん、少しは疲れ取れた?もうすぐシェリーがご飯作ってくれるからちょーっと待っててね?」

「ありがとうございま……えっ!」


 シャリアさんが両手をわきわきさせながら両目を光らせてます。どうして私だけ!?本気で怖いのでやめてください!!


「うふふふふ、エルキュールちゃん本っ当にかわいいんだから〜♡」



 私はきっと青い顔で後ずさってるのだと思います。


「さてさて、その壺は近付かないでねん?慣れたら自分から近付いてくれると思うから。」


 ──なんでしょう?魔物でも飼ってるのでしょうか?


「明日早朝もう一度話し合うから、今の内にしっかり休んどきなさい?」

 優しい声でした。シャリアさんは適度に打算的ですが、愚かな選択はしない様に見えます。

 では、早速言われた通りに休むとしましょう。

 ………明日針路が決まるとなると戦う事になるか引き返すか、どちらにしても体力の回復は必須です。

 私はいつの間にか疲れ果てて眠ってしまい、シェリーおばさまの食事を逃してしまいました。

 ──もう一度、壺がガタガタと揺れた気がしました。




━━━━━━━

━━━━━



「はい!起きた起きたー!」

 シャリアさんの明るい声がキャラバン内に響きます。外はまだ真っ暗闇です。

 ──いつの間にか眠ってしまった私は寝惚けまなこを擦りながら起きようとしますが、やはり居ました。

 私の胸に顔を擦り付け眠る勇者様の姿を見て私は二度寝をするべきか、叩き起こすべきか迷いましたが、とりあえず優しく耳元で囁いてみました。


「アリシア?起きないとあなたのご飯が無くなるわよ?」

「待って!わたしのご飯!!」


 ………えー………


 テンプレ過ぎて若干引きますが、起きてくれた様で何よりです。

「おぁよう…エルぅ……むにゃぁ」

 目を袖で擦りながら言うアリシアはとても眠そうです。それに毛布一枚はとても寒いです。アリシアは私から体温を奪う様に擦り着いて来ました。………ちっちゃい子って暖かいですよね?寧ろ私こそアリシアから体温を奪ってる気がします。

「ほら、ちゃんと起きないとシャリアさんが待ってるわよ?」

「うん……おはようのちゅー…」

「………子供か!」

 仕方ないのでおでこにしました。それで取り敢えず言う事を聞いてくれたので、良しとしましょう。


「アンタ等、朝からイチャつくねぇ〜。」

 はい、一部始終見られてました。シャリアさんめっちゃニコニコ顔で外から馬車を覗いてました。

「ふっ、おなご達よ…花園エトワールを護るのは我等が宿命、存分に享受するがいい」

 そう言えばこっちの黒い人は初めからダメでした。取り敢えず鼻血拭きましょうよ。



 ───私とアリシアは手早く顔を洗い歯を磨くと既に皆が揃う食卓に混ざりました。少しずつ夜は明けて来ましたが、食事を全て用意してくれたシェリーさんは一体いつから起きてたのでしょうか?頭が上がりません。

 昨日の夜は食べ逃したので今朝はしっかりと食事を済ませました。

 いつの間に居なくなったのか、シャリアさんが馬車から降りて来て、これからの方針に入った時点で私が知らない流れになっていました。


「それじゃあね?今後の方針について何だけど…アリシアちゃん、セシルくん、二人にお願いしちゃって良い訳ね?」

 んん?何故だか自分の代わりに†漆黒の剣士†様が呼ばれましたよ?

「はい、牽制さえ出来れば…せめて直接身体を狙う事が出来ればわたしにはヴォルフガング師匠仕込みの必殺技が有りますので!」

 …と、親友が神妙に答えました。

「あらあら頼もしいわねぇ〜。それでセシルくんは?」

「無論だ、我が暗黒の刃に奴の魂を捧げよう…」

 ………奴も何も、あなたはまだ敵を見てませんよね?


「アリシアちゃんから見て勝率は?」

「彼の実力次第では九割方行けるかと。」

「……よし、それじゃあ期限は今日一日、無理なら引き返す。これで決まりね。

 ───と言う訳でぇ、我が隊が誇る勇敢な戦士達が明日の行路を切り拓いてくれるって事で!以上!解散!」


 シャリアさんに†暗黒の剣士†様が乗り移りました。マックスさんもおばさまも自分の仕事へと向かいます。…じゃなくて!!

「ちょっと待って下さい!私は!?」

 一切何も指示が来ませんでした。このドラフト会議で私は要らない子認定された様で…

「お嬢ちゃんはおばちゃんのお手伝いよ。」

 有難い事にシェリーおばさまが私を指名してくださいました。


「あのねぇ?何度も言うけど、あたし等はお客様のアンタの安全を守る義務がある訳よ。」

「勇者様のアリシアちゃんはとにかく!エルキュールちゃんみたいな一般人に危険な真似はさせられない訳、分かるぅ?」


 ───私は父の言葉が過ぎりました。



「エルキュール、アリシアくんをしっかり頼り、邪魔にならない様に君自身も強くなりなさい。」





──どうやらこの戦いに置いて私は完全に足手纏いの様です。




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