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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー勇者と一般人ー
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始まりのページ


 二千某年十二月、自分こと 佐藤剛士 は長年の願望が現実になる事となりました。


 普通の家庭に産まれ、普通に友人達に囲まれ、普通に会社に就職し、普通に波風立たぬまま、特に大きな出世も無く…父母もごく普通の一般的な純日本人。

 当然、黒髪黒目の純日本人な自分は何の普遍もなく、特殊な能力も無ければ奥手故か特に異性にモテる訳でもなく、同性の友人達とたまに酒を嗜み、日頃の上司や仕事の鬱憤に管を巻いたり、馬鹿な話で盛り上がったり…

 まぁとにかく普通に三十代の階段を登り詰めてました。

 こんな普通の自分にもちょっとした趣味は有りまして、車でドライブしたり、ロッククライミングなどを嗜むので軽く筋肉質で、一般的な方よりほんの少しだけ身長が高めなのが自慢だったりしました。

 割と充実はしてた方の人生だと思うのですが、やはり心は少々の人生のスパイス的な…ちょっとしたトラブルに飢えてた訳で…。

 だからこそロッククライミングで登り切った時に見た山頂に広がる景色がとても幻想的で、肌を突き刺す様な冷たい空気も、登り切った達成感も、山頂で飲んだ温かく身体全体に染み渡る様な紅茶の旨味も。

 自分の人生でとても充実した瞬間だったのではないかと今は心の底から思います。

そうして、佐藤剛士の願望が産まれました。




 『こんな美しい景色に溢れた世界に行きたい』




 ───願望は叶いました。

 ───それは、とても悲しい事故でした。




━━━━━

━━━━━━━




 佐藤剛士は恋人も居らず、家族にも一定の信頼も得られてると確信が有り、一人…海外でのクリスマスの登山を計画してました。

 それが大きな間違いだったとは思いも寄りませんでした。

 佐藤剛士のロッククライミングはとても順調でした。優秀な現地のガイドも得られ、装備も一部新調し、運良く山の天候にも恵まれ、とてもとても快適な出だしでした。

 恐らく、油断はして無かったのでしょう。

 ………最も、山はそんな自分を嘲笑うかの様に飲み込みました。

 なんて事は無い…中腹付近で運悪く天候が荒れ始めたのでした。山の天気は変わりやすい…誰もが行き当たるトラブルでしょう。

 剛士は、心の中で苦笑しながらも撤退を決意しました。せっかくのクリスマス登山なのに残念だ…と心の中で消沈しながらも、決断は迅速に…が鉄則なのですが。山の機嫌は時に人の一人や二人、簡単に飲み込んでしまうのです。

 一気に天候が変わった激しい雷雨や暴風に、剛士は今までの知識や経験を駆使して下山を…時には安全地帯を駆使して帰還に努めました。

 …山の半分を降りたか降りなかったか程の事でした。…残念ながら、山が崩れたのです。激しい土流でした。自分を飲み込んだのは一瞬でした。


 ガイドさんは大丈夫かな?

 家族にはもう会えないのか…申し訳ない

 友人達は泣いてくれるかな?

 なんで自分がこんな目に

 痛い苦しい息ができない


 様々な思いも一瞬で浮かんでは消えて、意識がもぎ取られて行きました。



 『あの幻想的な風景みたいな、美しい世界に行きたい』



 それが最期の想いかは、誰にも分からないでしょう。

 佐藤剛士の人生は閉じました。




━━━━━━━

━━━━━



 自分こと佐藤剛士の心は光に包まれていました。

 気がおかしくなりそうな程真っ白な空間。…はたまた真っ黒な空間だろうか…?

 恐らく人間程度の「認識」と言った概念が全く無意味な世界なのだろうか…?

 ふわふわと浮いた意識の中、自分に語り掛ける声が一つ、二つ、いや数多に…全身に響く様に、全身を包み込む様に、佐藤剛士に優しく、はたまた睨め付ける様に、降り注ぐのを感じました。


 『やぁ、不幸な友人』

 『友人に新たな生を与える』

 『何か望みは有るか』


 …なるほど、これが輪廻転生と言った物なのだろうか?お腹が空いたな。ここはうるさいな、いやお腹が空いたのだろうか?ここは暗いな、暖かい。新たな…なんだって?痛い痛い苦しい、痛くない寒いなここは。望みなら有る、輪廻?眩しいな。孤独だ。いや望みはない。


 実際に経験すると、こうも思考が纏まらない物なのだろうか。まるで自分が世界に飽和して行く様な感覚に、佐藤剛士は恐怖を感じた。…自分が世界に溶けゆく感覚に、さとうたけしは安らぎを覚えた。さとうたけしは…。さとう…。

 ああ…あった……のぞみ……


 『あの美しい幻想的な世界に行きたい』


 溶けゆく、微睡む意識の中で、たけしはたったそれだけを「友人」に望みました。


 『この魂は人生に満足して居たのだろうか?』

 『では、そこの魂の欠片を混ぜ込み強靭な物となるか試そう』

 『異世界の転生者は前世の記憶を殆ど持たないと言うが』

 『友人よ、次の生に祝福在れ』




━━━━━

━━━━━━━



 とある屋敷で、産声が上がりました。

 とてもとても小さな、とてもとても愛らしい、可愛らしい新生児でした。

 豊かな口髭を携えた少し裕福そうな身形の男性と、たった今自分を取り上げてくれた恰幅の良い優しげな女性と、自分を愛おしげに見詰めるこれまた優しく綺麗な顔立ちの女性。

 自分の第二の人生は、優しく温かな家族に祝福された物になるのでしょう。

 最も、自分こと佐藤剛士の記憶は酷く曖昧な物でした。

私の新たな人生が始まりました。





 ───魔法と科学の入り混じった幻想的な世界で───





初投稿作品です。

性転換、異世界転生、御都合展開有り。

合わない、不快に思う等と感じた方は申し訳有りません。

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