16.旅立ちの空は蒼く遥か
━━━━━━━
━━━━━
━
結局、私エルキュール=グラムバルクとアリシア=バーネットの旅は、出だしから躓いてしまいました。
機関車に乗り町から遠去かると言った作戦でしたが、私の父、ヴォルフガング=フォン=グラムバルクの存在によって挫かれてしまったのでした。
私達の町は田舎に在り、機関車なんてそうそう多く出てません。当然ダイヤグラムに則った時間通りの行々なので、大きな軍事目的等でも無い限り父による停止命令も出せません。
結論を言えば、乗り遅れました。次の機関車が来るのは三日後です。
「お父様!お父様!エルキュールはお父様に会えて嬉しいです!」
もう色々吹っ切れたので、私はお父様の腕にしがみ付いて擦り付きました。頭を厚い胸元に擦り付けます。
私の頭がバカになった様に見えるのなら勘違いですよ?暫く会えなくなるので、今の内に甘え溜めをしてるだけです。
「エルキュール、人前でよしなさい。…アリシアくん、君も娘を止めてくれないかね?」
「いや…あの……わたしはエルキュールから師匠を借りてた身ですし…。」
そうです。私の父が殆ど私や母に会いに来れなかったのは、三年前のあの日からずっとアリシアに師事をしていたからだそうです。
仕事の傍ら空いた時間の殆どがアリシアの育成に注力してたからとか、父は何を隠そう戦闘馬鹿だったのです。
「お父様…エルキュールはお父様にお願いがあります。」
「む…?言ってみなさい。」
「これを…」
私は両親宛ての手紙をバッグから取り出しお父様へと手渡しました。
「……確かに。……母さんには私から伝えておく。」
「エルキュール、アリシアくんをしっかり頼り、邪魔にならない様に君自身も強くなりなさい。」
「はい、お父様!」
「アリシアくん」
「はっ、はいっ!」
「私から馬車を手配しよう。…それから」
「娘を頼む。」
アリシアは三年前と同じ言葉を賜りました。その表情はとてもとても真剣で、しかし全幅の信頼を込められたものです。
今度は逃げの意味ではなく、最愛の幼馴染を託された…信頼を込められた言葉に打ち震えました。
感情も、涙も、同時に込み上げて来たアリシアは、浮かぶ涙を片腕で拭い去り、背筋を伸ばして応えました。
「絶対に……絶対に守り抜きます!」
炎の様に熱き決意を胸に、アリシアと私は隻腕のヴォルフガングに旅立ちの別れを告げたのでした。
━━━━━━━
━━━━━
━
━━商隊の馬車内部━━
私達はまずは首都へと直進で向かう予定でしたが、国内をグルリと回ってゆっくりと向かう道に付きました。
──というのも、父が紹介してくれた馬車とは国中を巡り、様々な場所で交易を行いながら旅をする商隊だったからです。常に忙しい中、こうして自分達を乗せる枠を作って下さるだけとても有難いです。
まず、この島国だけでも複数の都市が在り、小さな村ならまた幾つか存在します。首都はロックアーチから見て北東の方角に在ります。
しかし、私達の馬車はロックアーチから西に向かって山間を目指しました。因みに馬車は二両編成です。
「やあやあお嬢さん方、我々のキャラバンにようこそ!……我々のキャラバンに参加したからには将軍様だろうが勇者様だろうがお客様扱いはしないからそのつもりでね!」
少し薄着なお姉さんでした。歳の頃は二十二との事で、髪は黒くツンツンとしたショートカット、身体は浅黒く細身ですが、程良く筋肉は付いてるみたいです。体格も中々の物です。後はヘソ出しで短い上着にマフラー、パレオ付きズボンを履いてて頭には短い巻布と、宝石の様な大きめのビーズの様な物で髪に飾ってます。アラブ系の服装を連想させます。
そしてなんと言いますか、男勝りな感じがして、……姉御肌?とでも言いましょうか?
この島は雪は降りませんが今は冬です。寒い中お腹を出してて風邪を引いたりしないのでしょうか?
「あたしはシャリア!家名は無いけどシャリア商会のシャリアで覚えてね!」
自己紹介が始まりました。シャリアさんは次々と紹介を続けて行きます。
「あっちの厳ついのはこの商隊の護衛のマックス。隣のおばちゃんがシェリー、炊事洗濯掃除担当ね?それから黒いのが戦闘と整備担当のセシルと、後は本社に三人居るけど、そっちは紹介出来るか分かんないからパスね?」
厳ついのと言われた男性は隣の馬車を引いてました。金髪ですが黒目のキリッとした男性で、革製の軽鎧に身を包んでます。その隣で掃除に勤しむのがシェリーおばさまで、見た目は若々しく見えますが、小太りで中世期の一般的な服装をしています。
セシルと呼ばれた男性もまた歴戦の風格を漂わせますが、流した黒髪に黒目、革製の黒衣にシルバー製のアクセサリー、そして腰の黒い双剣。……中二……いえ、何でもありません。
貨物に背を凭れ掛かり、周囲を警戒してくれてます。
そして私達エルキュールとアリシアも簡単に自己紹介を済ませました。因みに私達の馬車はシャリアさんが手綱を握ってます。出発してから一時間程経った位でしょうか?
「シャイな子も居るからさー、アンタ等が盛り上げてくれるとあたしも嬉しいよ」
「はい…それで私達は何をすれば良いのでしょうか?」
「あー、その辺は追々考えるとして、アンタ等お腹減ってない?そろそろお昼にする予定だけど」
───割と適当なのでしょうか?
「はい、賛成です。是非ともよろしくお願いします!」
アリシアが私に代わって答えました。まだ一時間なのですが、旅慣れてない私を気遣ってくれたのでしょうか?
「はいそこの布振って?隣にお昼にするって伝えるから。」
アリシアは指し示された青い布をひらひらさせます。隣の馬車は気付いてくれたのか馬を停止させようと手綱を引きました。シャリアさんも並ぶ様に手綱を引いて近場の広場に止めます。岩と木々に囲まれた小さな広場です。
それから手早い動きで簡易食堂の様な物を組みました。椅子は大き目のその辺りにある岩です。
「先程は紹介に預かりました、マックスっす。よろしくお願いしますっす!」
「はい…よろしくお願いします。」
見た目は厳つく体育会系ですか?暑苦しい気がします。ブンブンと振る様に握手をされました。
「あたしはシェリーよ、よろしくねぇお嬢ちゃん達。困った事が有ったらおばちゃんに何でも相談しなさい!」
「ふふ、よろしくお願いしますね?おばさま。」
やはり同じく手をブンブン振られましたが、頼りになりそうなおばさまです。
「ククク…闇より目覚めし我が剣、貴公等に預けるに相応しいか見定めさせて貰おう。」
「そいつ大体そんな感じだから無視でいいからね」
「えっと………よろしくお願いします……。」
本物だーーーーーーーーー!!!!!!
きっと多分間違い無くやべーやつです。
大体の挨拶が済み、それぞれマックスさんは薪割り件周囲の警戒。シェリーおばさまは炊事の仕事。セシルさんは……もう居ません。恐らく食料調達に向かったのでしょう。
……私とアリシアはと言うと、シャリアさんにお願いをしてお仕事を頂きました。折角キャラバンの一員になったのですから何か役割が欲しかったのでしょう。
シャリアさんは嬉しそうな顔で意気揚々と私達にお仕事を与えてくれました。私とアリシアは別々の仕事を言い渡されました。
そもそも戦闘が苦手な私は調理場担当に回され、アリシアはと言うと…この周囲の偵察件、山菜取りを任されました。
大量を約束して元気よく飛び出して行きました。素材集めは錬金術師の仕事の基本なので、まあ大丈夫でしょう。
こうして私とアリシアは新たな日常の始まりを迎えたのでした。
━━━━━━━
━━━━━
━
「しっかしまぁ、……デッカくない?肌も白いし、何食ったらこんなになんの?」
シェリーおばさまの指導の下、芋の皮剥きをそこそこの腕前で披露していると、シャリアさんが私に熱い視線を向けて言いました。
「いえ…その……何のお話でしょうか…?」
「あのさぁ、敬語禁止ね?あたし等の身内になったからにはウチのルールは遵守して貰うから!」
「目的を果たすまでの契約関係なのでは…?」
「ま、それを踏まえてもあたし等はこれで飯食ってるからね。アンタ等の安全を約束出来るにしても、あたし等が培った安全対策っつーの?そう言うのを守って貰えれば尚更スムーズに熟せるって訳よ。」
なるほどなー。
「んじゃ、敬語一回に付き乳揉み一回ねー?拒否とか無いから!」
「んなっ!?それは横暴なのでは!?」
「嫌なら慣れれば良いのよーん?」
にひひと笑うシャリアさんは、まるで悪戯する子供の様でした。シェリーおばさまはおばさまでガハハと豪快に笑ってます。
「んじゃ、さっきの分で早速一回ね?」
「ひぎっ!?聞く前なら無効なのでは!?」
「ぐへへへ、お嬢ちゃんいい乳してんねぇ?」
あががががががナイフ持ってる相手になんて事を!!
……何故でしょう……いきなり前途多難なのですが…。
───この会話を聞いてた黒い影が有りました。
「何とおなご共は……全くけしからんな」
猪を吊るして鼻血を出しながら格好付ける漆黒の剣士様でした───。




