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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー勇者と一般人ー
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13.告白



 ───アリシア=バーネットは幼馴染の少女、エルキュール=グラムバルクに事情を説明しました。


 自分が勇者の宣誓を受け、錬金術を駆使し、今まで戦い続け、技術を練磨し続けて来た事。

 そして、自分は特に異世界から来た訳では無く純粋なウィスタリアの子である事。

 勇者となる者は大抵の場合、異世界からの来訪者エトランジェか時に強大な力を持って産まれた者と相場が決まっています。

 アリシアはどちらでもありませんでした。

 本人曰く、強靭な決意が女神様に認めて貰えたのでは無いかとの事でした。

 エルキュールは異世界転生者では在りますが、魔力は全くありませんし体力等も一般女性並です。

 何なら世間知らずもおまけで付いてきます。

 対してアリシアは生まれた頃から一般的な魔法使い程度には魔力を持ってましたが、特に総量は増えてません。

 活発に野山を駆け回っていたので体力はそこそこ有ります。錬金術師となるべく祖母から錬金術を学んで来たので知識もそこそこです。

 ですがそれまでです。勇者になれた事は奇跡的な事だったのでしょう。


 話がひと段落着いた頃には既にとっぷりと夜になってました。ランタンの灯りが揺らめきます。

 エルキュールが話を聞いて情報を噛み締めていると、アリシアが怪訝な顔をして言いました。


「エルキュール…なんか臭いよ?」

「えっ!?血の臭いが染み付いたのかしら?」

「ううん、酸っぱくて饐えたかんじ」

「あ〜〜〜…」


 エルキュールは思い出しました。自分があの死屍累々な戦場で一度吐瀉してしまった事を。

 思い出すと恥ずかしくて、それ以上に死の恐怖を思い出してしまい、怖くて恐くてどうしようもなく胃が荒れて、緊張が解けてしまった事で身体が震え、腰に力が入らなくなりました。

 アリシアはそんなエルキュールの身体を抱き止めました。


「…………怖かったね…?よしよし…。」


 アリシアお姉さんは、エルキュールの頭をよしよしと幼子の様に撫でます。


「今は何も聞かないからさ、今だけはゆっくり休みなよ?」


 アリシアの小さな身体に抱き止められ安心感が少しずつ少しずつ、徐々にじわじわと恐怖心を和らげて行きました。

 そしていつしかエルキュールは、意識が薄れて行きました。



━━━━━

━━━━━━━




 アリシアは腕の中で眠る幼馴染を抱き締めながら考えていました。やたらとふかふかしてて考えを纏め難いのですが。


「エルキュールに…あの事を話すと…着いて来たがるかな?」


 わたしはじきにこの町から離れるつもりです。勿論勇者の使命の為もありますが、わたしにはやらなきゃいけない事があります。その旅はとても過酷で、恐らく生きて帰れる旅ではないでしょう。自分はそれを覚悟してるので良いのです。もう決めた事ですので。

 しかし、腕の中の温かな幼馴染がそれを知った時、着いて来ようとするのでは無いか?わたしの勝手な決意に巻き込まれようとするのでは無いだろうか?先程わたしを助けに来た行動力を鑑みれば、その可能性は格段に向上しました。所詮わたしの思い込みでしか無いのですが…

 わたしはそれがとても不安でした。


「あーもー!やわらかーいあったかーい……ちょっと臭いけどかわいいなーもー。」


 悩んでも仕方ありませんし、最期になるかも知れないので幼馴染を堪能することにしました。

 お互いに石屑と血に塗れた姿でしたが、そんな事を気にしてる余裕はありません。

 わたしはエルキュールの胸に顔を埋めて思いっきり腰を抱き締めると、三年分の気持ちを込めて人形を愛でる様に、最大限に愛情込めて、擦り付き鼻を押し付けて彼女の香りを堪能しました。

 あ、因みに人払いは済んでます。衛兵に今日はこの町外れの小屋に泊まると伝えてますので。


「エルキュールすきぃ……わたしのかわいい妹ぉ〜…」


 甘える子猫の様に顔を擦り付けます。しかし反応は帰って来ません。


 今日は自分が無力だった故に沢山の人死を出してしまいました。しかもあのまま一人で戦ってたのならもしかしたら死んでたのは自分だったのかも知れません。内心ショックは激しいです。

 それなのにあんな無謀で危険な真似をして、勝手に戦闘に混ざって、勝手にわたしを助けて。勝手にわたしの心を掻き乱して。



「隙だらけなエルが悪いんだよ…?」



 ちゅっと唇にキスしてやりました。



「エルのバカ…」


 わたしはそのまま巻藁のベッドに幼馴染を寝かせて、胸元に顔を埋めたまま親友の温かさを堪能しました。




━━━━━

━━━━━━━



 エルキュールの脱走から三日目の朝の事でした。


 朝目が覚めると毛皮のゴワゴワした毛布が肌を撫でる感触がします。

 肌寒い空気に暖かい毛布は思わず潜り込んで二度寝をしたい欲求に駆られます。

 何やら暖かくて柔らかい抱き枕が有りました。私は構わず抱き締めました。


「んん…?こんなのあったかしら…?」


 自分の部屋と勘違いしてます。完全に寝ぼけてますね。

 少し毛布を捲って中を確認すると、茶色い毛玉が有りました。そして私は上に何も着てませんでした。


「!?」


 思わず起き上がろうとすると胸元には顔を埋めて甘える様に眠る上半身裸の子猫アリシアの姿が在りました。人間ですが。

 裸の美少女と同衾どうきんとか、かわいいし恥ずかしいし寒いしでもかわいいし。

 拳骨は………しませんでした。

 もやもやむらむらと何とも言えない気持ちで親友の処遇をどうしようか考えていると


「んにゃ…おあよう…エルぅ…」


 寝起きの顔もかわいいです。感覚が鋭敏だったのでは?

 ………ではなく、どうして上着が脱がされてるのかを聞きました。


「だってエルキュール、吐いちゃったんでしょ?すっごい臭いだったから脱がせたんだけど、風邪引かない様にって毛布を被せたんだよ?」

「うぐ…ん、どうしてバレてるのよ…。でも………貴女も脱いでるのは私を温めようと…?」

「うん、嫌だった?」

「そう言う事なら…緊急医療行為という事にします!」


 顔を真っ赤にしてしゅんとする彼女の余りの可愛さに何も追及しませんでした。多分私の顔も赤いと思います。

 しかし服の替えはどうしましょう?

 割と本気で困ってるのですが、そんな事はお構い無しでアリシアは私の胸に擦り付いてます。物凄く甘えて来るんですが?可愛すぎるのですが?もう結婚しましょうよ?


「アリシア…?そんなに好きなの…?」

「駄肉ぅぅ…」


 言動が一致しません。やはりこの子、私の胸が好きなのでしょうか?

 …………もういっそこの子の気が済むまで好きにさせてやる事にしました。



 ───それにしてもお腹が空きました。



━━━━━━━

━━━━━


 お昼を回り、ほぼ丸一日の断食に成功した私は漸く二日間家に帰って居ない事を思い出しました。

 もしかすると家で大きく騒がれてるかも知れません。あの母の事ですから衛兵を伝って私を探している可能性もあります。

 その事に気が回らない程、私は濃密な時間を過ごしたと言う事でしょう。…事なのです!


「ねえアリシア、聞いてくれる?」

「うん?」


 ───大分満足したのか、漸く離してくれたアリシアは上着を着ていました。それから私にブラウスだけを貸してくれました。それを着ながら私は続けます。


「私ね?旅に出ようと思うの。」

「!?ダメだよ!」


 即座に反対するアリシア。彼女は外の世界を知ってる故か、必死で止めようとしました。しかし、…私の意志は固く。


「いいから聞いて?…私は貴女が冒険者だなんて知らなかったの。…正直言って羨ましいとすら思ったわ。」


「憧れてしまった部分があるのも認めるし、私はアリシアや他の冒険者さんみたいに色々知ってる訳じゃ無い世間知らずなのも理解してるわ?」


「それでと言う訳じゃないけど、私は夢が出来たの」


「それを叶える為に、私は世界を知りたい。」



私が一呼吸入れ、続きを言葉にしようとするとアリシアが告げました。


「わたしも旅に出るつもりなんだ」

「え?」

「エルキュールと違ってわたしの旅は勇者の使命とかそういうの」

「…それなら私も」

「ダメだよ。わたしの旅はいつ死んじゃうかも分からない様な過酷な物になると思う。」



「だからエルキュールは連れて行けない。」



 予想はしていました。恐らく今現在世界に魔物や魔人を解き放ち続ける魔王を倒す旅と言った勇者の使命のテンプレです。アリシアもまたこの世界に存在する数多の勇者の内の一人なのでしょう。しかしその話を聞いてしまったら私にはもう引く事は出来ません。


「勇者の旅に仲間は必要不可欠でしょう?」

「ただの村人を仲間にする勇者がどこに居るのさ」

「…探せばいくらでもいるでしょう?」

「だとしてもエルキュールは連れて行けない。これはもう決めた事なの。」


 私は、言葉に詰まりました。


「わたしはね?エルキュールには旅に出ないでこの町で安全に暮らして欲しいんだよ。」


「たまには昨日みたいな事も有るかもしれないけどさ、それでも旅に出るよりはずっと安全だと思う。」




「お願い、エルキュール…わたしの言う事を聞いて?」


 うるうると瞳を潤ませ見上げるアリシアの身勝手な…いえ、心から思い遣ってくれてるお願いは私の胸を抉ります。

 しかし私にはもう時間があまり無いそうです。

 私は少し迷いました。少しだけ時間を掛けてしまいました。アリシアはそれを肯定と受け取ったみたいですが、私は構わず言葉を発しました。



「ごめんなさい、アリシア………私の寿命はもうそんなに長くないらしいの。」



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