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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー勇者と一般人ー
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12.勇者の一撃

━━━━━━━

━━━━━


 アリシア=バーネットの身体が岩に飲まれた頃、エルキュール=グラムバルクは目の前が真っ赤に染まりました。

 放った三本の矢は、無情にも岩の身体に弾かれただけでした。

 親友を岩で押し潰した魔物が憎くて憎くて仕方有りません。

 エルキュールの視界には笑うロックゴーレムの姿が映ります。



 こいつが……こいつが…!コイツが!!!



 私達の邪魔をするのはコイツだ!!



こんなヤツが来なかったら今頃はアリシアと……!!




 エルキュールの視界が赤く赤く暗く、闇の夜の紅い月の様に、魔性を帯び、憎しみに満ちた目で魔物を睨み付けます。普段の優しさに満ちた瞳などそこには一切存在しません。

 暗い視界の中でも、魔物の姿はよく見えます。……何故でしょう?生命総てを蹂躙しなければ気が済みません。

 生命と言う生命総てを消し飛ばす事こそが自分の使命の様な気さえします。



「目標確認、殲滅します。」



 エルキュールはそれが誰の声なのか分かりませんでした。

 ただ、何も考えずに、矢を引き絞ります。

 そうすると、矢の先端が黒曜石の様に真っ黒に染まりました。

 そして魔物の左肩を狙い、放ちました。特に弾かれる事も無く、貫きました。

 貫かれた肩は砕かれ、ただの岩の塊へと還りました。

 作戦通りならこのまま場所を変えてロックゴーレムの射線上から外れる手筈でしたが、そのまま立ち尽くします。

 何か考えがある訳では有りません。必要が無いのです。


 ロックゴーレムは右腕を振り上げ岩の弾丸を作り上げました。

 そしてエルキュールに向けて放ちますが、エルキュールは手に持つ弓を足で踏み付ければ、足先から黒い影が纏わり付き弓をドス黒い、コールタールに塗れた、悪魔の角の様な物へと変えます。まるで足と弓が一体化した弩の様です。

 そして蹴る様なポーズの片脚と片腕で弓を引き絞り、固定したまま照準を岩へと向けると、その矢は黒い黒いドス黒い、悪意のみで出来た黒き雷の線へと変わりました。

 岩の弾丸が此方へと飛んで来ました。高速で、回転を加えながら、触れる物総てをミキサーにかけたが如く捻り潰す様な暴虐の塊です。


 エルキュールから放たれたのは閃光でした。

 真っ黒で、光を飲み込む様な、光を拒絶する様な、漆黒の閃光。

 豪速で回転しながら飛んで来た岩塊は無様に砕かれ、エルキュールの後方へと吹き飛んで行きました。

 そして放たれた閃光は魔物の右肩をもぎ取り、身体の右半分を撃ち砕きました。


 エルキュールはやはりそのまま位置を変えずに追撃をしようと矢筒に手を伸ばした所で瓦礫から紅く輝く閃光が此方に飛んで来ました。


「バッッッカやろーーーっ!!!」


 思い切り殴り飛ばされました。ごろごろ転がりました。

 殴り飛ばされ、赤い白猫の姿を確認したエルキュールの瞳には、世界に光が戻って来ました。


「アリ…シア…?」


 今度は自分の声だとはっきりと認識してます。

 いつの間にか弓矢の纏う漆黒が無くなってました。


「防御魔法!…全く、何をしてたかしらないけど、エルキュールは黒いの似合わないんだから!」


 アリシアでした。

 って言うか顔が凄く痛いです。貴女は白いの似合ってますよ?

 いや本当に痛くて転げ回りたいのですが我慢です。涙目です。


「ちょっと寝てた、ごめん!……最後は締めるから、手を貸して!」

「いはいんだへほ…?」

「エルキュールがおバカになってた報い!来るよ!!」


 両腕の無いロックゴーレムは、それでも十メートルは有ります。

 両腕が無ければ自分自身をハンマーの様に打ち付けられますし、そもそも魔法自体は本体核さえ生きていれば幾らでも使って来ます。

 ここでしっかりと片を付けないと、周囲の惨状が街中に増えるかも知れません。

 私とアリシアが一緒なら、負けるつもりはもう有りません。

 アリシアは赤い剣を、私はボロボロの弓と矢を構えて最後の戦いに赴きました。




━━━━━

━━━━━━━





「ふっ!」


 ギリリと力を込めて矢を引き絞ります、そして放ちましたが、やはり矢は岩の身体を通りません。

 先程の力は使えない様です。


「勇者の一撃………シャイニングセイバー……だっけ?…見せてあげる。」


 アリシアは魔力の他に全神経を集中してる様です。

 それなら私が囮になって時間を稼ぐべきでしょう。そう思い前に出ると…


「下がって!!巻き込んじゃうから…!!」


 片手で制されて止められました。


 しかし勇者の一撃を邪魔する訳にも行かないので、私はせめて魔法を邪魔しようと矢を射る事に集中します。…………あれ!?

 矢筒の矢が有りません。

 近くに衛兵の矢もありませんでした。

 あっれーーー?もしかして私………もう何も出来ないのでは?


 そう消沈して居ると、アリシアが虹色に輝く剣を纏い、ロックゴーレムへと向かって行きました。

 そして身体に剣を突き刺すとそのまま駆け上ります。

 突き刺されたロックゴーレムは傷口から虹色の光を放ち、悶絶しながらも自分の身体に向けて岩の魔法を放ち、自分ごとアリシアを押し潰そうとしますが、アリシアは右へ左へと跳ね、避けながらもロックゴーレムの身体を真っ二つにして行き、その切っ先は魔物の顔面まで迫りました。


「おおおおおおああああああああああッッッ!!!」


 ズパンッッッと、小気味良い音が周囲に鳴り響けば、ロックゴーレムの身体は光に包まれ体内から光の奔流が迸り、やがて虹色の光の竜巻が空へと立ち上りました。


「何この主人公…」


 私は半分ドン引きでした。………そして半分余りの格好良さにキュンッキュンでした。

 やだもー何この主人公!

 正直本当に主人公補正凄く無い?守ってくれたのも事実な訳で、今回は結果的にお互い生き残れたし?技の名前ダッッッッサイですが。

 ……複雑ですが、私がこの子に惚れてる事実は認めますよ?

 はい、私はアリシアが好きです、認めます!

 でも、それ最初から使ってたら犠牲を払わず勝てたのでは?」


「だから治しなってば、独り言を言う癖。」


 声に出てました。………何処から?


「………ふぅ、……これはさ、一度使うとしばらく……魔力が使えなくなるから、……切り札だったの。」


 何やら元の茶髪に茶色目に戻ったアリシアはフラフラと危うい足取りでした。髪の長さも元に戻ってます。

 それからあの紅く、まるでアリシアの魂の色の様に純粋な輝きを放つ剣も見当たりません。

 私はすぐさま駆け寄り抱き止めました。


「ごめん…ちょっと眠い……」


 アリシアはそのまま意識を失いました。

 まさかと思って不安感に心が押し潰されそうになりましたが、規則正しい寝息を立てているのを聞いて、私は一安心しました。




━━━━━━━

━━━━━



 ───パチリとアリシアは目を開きました。

 どうやら自分は町の外れの小屋に寝かされていた様です。

 しかし目の前には何か膨らみの様な物が有りました。それに後頭部がやけに柔らかくて快適に感じます。

 その膨らみを握ってみると「んんっ」と艶かしい声が聞こえて来ました。



 ───あぁ、駄肉がわたしの視界を塞いでたんですね。


 イラっと来たわたしはついギリっと握ってやりました。


「いぎっ!?痛い痛いっ!離しッッッたいの!!」




 ───殴られました。


 拳骨で思い切り行かれました。

 わたしは勇者なのに何故かこの攻撃だけは避けられません。


「おおぉ……」


 わたしは頭を抑えて訴えます。酷いです。この幼馴染がそもそもわたしを置いて勝手に一人で育ったのが悪いのに、不公平です。訴えたら勝てますよね?勇者権限で。

 さて、冗談は置いておいて、これは質問責めでしょうか?

 わたしは覚悟しました。

 取り敢えずこの幼馴染は論理的に納得の行く説明から求めますから。



 …予想外でした。

 いきなり抱き締められたかと思うと、涙をポロポロこぼしながら「良かった」とか「生きてた」とか論理的で無い事をただただ言い続けてました。

 少し困りましたが、嫌では無いので私も幼馴染の背中に手を回して落ち着かせる様に撫で続けました。

 ちょっとだけ頰に熱を感じました。

 やはりこの子はお姉ちゃん子ですね。

 ………今度は守れて良かったです。



━━━━━

━━━━━━━




 それから二人は自分達がお昼から何も食べずに戦っていた事を思い出しました。

 衛兵団の方がパンとコーヒーを持って来てくれたので、アリシアは、ゆっくりゆっくりとお腹に詰めました。

 エルキュールは食事が喉を通りませんでしたので、アリシアに差し上げました。


 ………人心地が着いた頃、エルキュールはアリシアに聞きました。

 いつから勇者で、あの能力は何なのか。


 能力については、詳しく教えてくれませんでしたが、一部錬金術を応用してる事。

 そして今から一年程前に、アリシアが十六を迎える頃、首都から教会の使いが来て、選定の女神様から勇者の啓示が降された。と言う事で、二日に渡る宣誓の儀式を行った事。

 それから様々な魔物と戦い経験を積み、自分の戦い方を研究していた事。

 『勇者』で在る事はあくまで職業では無く、宿業の様な物だから職業自体は『錬金術師』のままだとか?



 ゲームみたいな設定が盛り沢山でした。




 アリシアは残念ながら転生者では有りませんでした。





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