11.アリシアの決意・後編
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エルキュール=グラムバルクはまたしても怖気てしまいました。
自分がいかに安全な場所で守られて居たのかを理解してしまいました。
少し遠く、門から少し先に進んだ所に、巨大な丸太の橋が組まれています。
その向こう側に、巨大な山と戦う赤い閃光が見えました。
数多くの死者が無残に打ち捨てられている中、赤い光は山の右に左にと移動を繰り返しながら光を撒き散らしてました。
巨大な山と戦う光の正体は間違い無く親友であるアリシア=バーネットです。
エルキュールは元は男性でも、今では淑女となるべく教育されて来た、ただの少女です。
そもそも前世ですら死とは遠く掛け離れた日本に生まれた一般人男性です。
それ故にスリルを求めた面も否定出来ませんが。
本物の死を知ってしまうと怖気付くのも無理は無いのです。
「あんなに離れてるのに…どうしてこんな……」
そもそも橋の向こうから門までは凡そ三十メートル程あります。
それなのに周囲に転がる死体はまるでこちらでやられたかの様で、しかもどの死体も頭が無かったり、下半身が千切れていたり、はたまた潰されて欄干に引っかかってたりで実にバリエーション豊かです。
そして周囲には砕けた岩が散らばっていました。
またしても、吐き気が込み上げて来ましたが、必死に抑え込みました。
「まさか空を飛ぶ………モンスターとかが居るのかしら?」
とてもとても今更です。そんな物が居るのなら二十五メートルの門を飛び越えてる時点で既に襲われてる筈です。
そんな事にも気付かず、エルキュールは周囲をキョロキョロと、主に空を確認しながら橋の向こうへとゆっくりと向かいました。
特に何事もなく橋の終わりに近付くと、人の気配は殆ど少数でした。
そして山の正体が分かりました。
ロックゴーレム。その名の通り岩で出来た巨人。とは言え生物などでは無く、岩で人の形に組み、魔法や核、ルーン文字などによって魔力を加えて出来た自立行動型の魔物です。
種類によって行える行動の幅はまちまちですが、今回の様に、拠点制圧のみを目的とするなら大した命令はされて無いのでしょう。
但し、今回のゴーレムは規模が違いすぎました。
凡そで普通のゴーレムは二〜三メートル程で、動かす為の魔力を抑えて量産等をする方が一般的ですが、この山の様なゴーレムは簡単に見積もって十メートルは有ります。
巨大を支えきれないのか脚は無く、地面と一体化してます。
動きは機敏とは言い難いのですが、一般人なら逃げきれない程度の速度で腕を振るいます。
十トンのトラックが時速三十キロで激突して来る様な物です。
普通に死ねます。
この様な化物相手にアリシアはと言うと…居ました。
片手に持った紅く輝く剣で戦ってました。
………と言いますか、あなたアリシアですよね?
背中までの髪がお尻付近まで伸びて銀髪です。
両目も剣の様に真っ赤です。ガーネットですか?スカーレットですか?
そして身体中を赤い光で纏ってます。錬金術師の力ってすげー!
少しずつ少しずつ削ってます。これ三日くらい休まず闘えば崩れるのではないですか?
そんな馬鹿な事を考えていたらアリシアが後ろに跳びました。そのすぐ後をロックゴーレムの右手が振り払いました。
………アリシアは疲れが溜まっているのか、剣先を地面に刺して杖代わりにしてます。
そして詠唱を始めました。
その隙を逃すまいと近くに居た衛兵の死体を掴み、アリシアへ向けて投げ付けました。
「くっ……そぉっ!!!」
アリシアが詠唱を辞め、剣を引き抜きその場を離れると、勢い良く死体が地面に叩き付けられました。
その衝撃で弾んだ死体は私の側に降って来ました。
「ひっ」
───思わず声を上げてしまいました。
当然気付かれてしまいました。ロックゴーレムに……そしてアリシアに………。
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死体を目の前に震えて居ると、アリシアが酷く狼狽えた状態で
「なんで…」
…と、動揺を隠せませんでした。
当然ロックゴーレムはその隙を逃しません。
右手を振り上げ、岩の弾丸を複数作り上げ、アリシアへ向けて岩の弾丸を放ちました。
恐らく地属性の魔法でしょう。
「ぐぎっ…!?」
弾丸が直撃し、此方へと吹き飛んで来た赤い光を私はコマ送りの様にゆっくりと見詰めていました。
「かはっ…んのぉっ!!」
アリシアは勢いを殺す為に紅い剣を地面に突き刺しましたが勢いは収まり切らずに地面から刃が抜けてしまいました。
私は何かが吹っ切れました。
飛んで来るアリシアを空中で受け止め、勢いのまま地面にごろごろ転がりながらも、絶対に彼女を離しませんでした。
「アリシア…大丈夫?」
「……して」
「アリシア…?」
「どうして来ちゃうんだよ!!」
当然の怒りでした。
「エルキュールがどうしてここに居るの!?門だって閉まってる筈なのに!!どうして!!」
「会いたかったからに決まってるでしょう!!」
「………はぁ?」
当たり前ですがアリシアは困惑します。
「あっ…頭おかしいよ……そんな理由でこんな……大体どうやって」
「攻撃!!来るわ!!」
私はアリシアを抱き締め右へと飛び跳ね転がり続けました。アリシアはギョッとしてます。そしてロックゴーレムの放ったらしい岩の弾丸が次々に自分達が転がった後に突き刺さって行きます。
「何その力……今のわたしを抱えて跳んだ!!?」
アリシアは驚き狼狽えてますが、私には理解出来ません。私より大きかったアリシアに出来たのですから、今は私の方が大きいので抱えて跳べて当たり前じゃないですか。
「手伝います。……アリシア、アレの弱点を教えて頂戴?」
私は狼狽えるアリシアを離すと、近くの衛兵の死体から小弓と矢筒をお借りして腰に纏い構えます。
アリシアは物凄く怖い顔で此方を睨みましたが、やがて諦めたかの様に紅く輝く剣を構えて敵へと向き直りました。
二十人は居た衛兵も今は生きた者は居ません。
「………本気なんだね?……全く。」
「私の性格は知っているでしょう?」
「大人しくて自分を責めてばっかりの癖に……時々ほんと強引なんだから。」
さぁ、始めましょう。私達と魔物のワルツを────。
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それから少しの事でした。
私が弓矢を放ち、アリシアが斬り掛かる。矢は弾かれ目眩しにもならず、アリシアの斬撃は少しだけ削る程度。
……まだ威力が足りない。
ロックゴーレムの大振りの横薙ぎはアリシアを襲うも寸での所で後方宙返り、着地と同時に再度斬り掛かり。
「ああああああっ!!!」
気合いを込めた一撃も腕を斬り落とすには至らず。
私はと言うと、岩の弾丸の射線に入らない様にこそこそと移動を繰り返しながら衛兵から矢を回収しつつ、隙を伺い放つ戦法です。地味です。ワルツ処か小躍りですね。
しかしろくに戦闘をした事が無いので練習通りに矢を当てるには落ち着いて集中出来る環境を整える事が重要なのです。
そしてアリシアからの作戦はこうでした。
「あれだけの巨体なら身体を維持するには部分ごとに核か魔方陣か何かがある筈。………だからエルキュールはそれを見付けて、あわよくば目眩まし程度に撃って?……わたしが何とか隙を作るから…」
「魔法陣ね?分かったわ…。でもその後はどうするの?」
「わたしが全部ぶった斬る!!」
それだけ言い渡されると即座に行動を開始しました。
三年間動かない的に矢を射り続けてただけの私に無茶を言ってくれますよあの赤い白猫は。
ですがその無茶をしてここまでやって来たのは私なので文句は言えません。
落ち着いて…集中……。いまだ!!
右腕肘に僅かに見える核を狙いました…が、弾かれました。
あーーもう!!当たんない!!
「そこっ!!んの!!」
弾かれた部分をアリシアの剣撃が見舞われました。
上手く核を削いだようで、ロックゴーレムは右腕を振り上げますが、残念。肘から先が崩れ落ちました。剣撃は無事、通っていた様です。
「次っ!!」
構わず振り下ろされた右肘までの腕を華麗に駆け上り回避したアリシアはそのまま空中で身体を捻りながら左肩を狙います。
しかし残念ながら斬り落とす事はありませんでした。
ですがこれで良かったのです。
エルキュールに意識を向けさせず、安全に移動する隙を作ったのでした。
「私の攻撃は浅い……そもそも弓矢程度じゃ相手にすらならないの……?」
岩陰に隠れて次の射撃の準備に入ると、エルキュールはギョッとしました。
アリシアの着地に合わせて頭上に岩が召喚されたからです。
「アリシア!!」
私は無我夢中で矢を放ちました。三本連続で放ちました。
しかし無情にもアリシアの身体は岩に飲み込まれました。
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