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幻界星霜 ウィスタリア ー幾度も移り行く転生者ー  作者: 弓削タツミ
ー勇者と一般人ー
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10.アリシアの決意・中編

明けましておめでとうございます。

よろしくお願いします。




 私、エルキュール=グラムバルクは、親友であるアリシア=バーネットから、大切な話がある…と、切り出されました。

 ───所が、その話を聞くことは出来ませんでした。


「ここに居られましたか、探しました」


 この町を守る衛兵さん方でしょうか?二人一組でやって来ました。

 胴や肩、腕や脚を守る程度の真鍮製の軽鎧に同じ材質の兜、目の荒い鎖帷子は申し訳程度に。後は動きを阻害しない様にか革では無く布製のインナーとズボン。右手には大きめのラウンドシールド、左手には異常事態に対応する為なのか木製の柄に穂先は鉄製の斧槍を携えてます。

 背中には初心者でも取り回しが出来そうな小さな弓が備えられてます。腰には勿論矢筒も完備。

 もう一人は、槍では無く刃渡り60センチ程度のショートソード、スパタでしょうか?を腰に帯びています。

 何やら急を要する面持ちです。


「アリシア殿に御依頼がございます!!」


 アリシア殿??御依頼???


「どうか急ぎ、我々と来て頂きたい」


 何故か要件は伏せます。何故でしょうか?私が一般市民だからでしょうか?

 冒険者には言えても一般市民には余計な混乱を防ぐために言えない事もあるんだと思います。

 最も、衛兵さんが慌てて依頼に来てる時点でその意味は殆どありません。


「分かった、すぐ行く。案内して」


 即決でした。

 アリシアが私より優先度が高いと判断しました。

 何やら胸がズキズキします。


「ごめんなさい、エルキュールさん。急ぎの仕事みたいなので行って来ますね?」


 他人行儀でした。

 衛兵さん二人の前だからでしょうか?態度が恭しくなりました。

 涙が溢れそうです。


「話の続きはまた今度、申し訳ありません。」

「アリシア…どう言う事なの…?」


 訳が分からず戸惑い聞くもアリシアはただただ優しく、やけに大人びた笑顔を私に向けて来ました。


「それでは、失礼。」


 大切な親友が酷く遠くに感じました。

 昨日の泣いてた少女の姿はそこには在りませんでした。

 まるで夢を見ていたのでは無いかと錯覚しました。


 衛兵二人と足早に去っていく姿を呆然と眺めていました。




………


 間違えてるのかも知れません。

 こう言う時に主人公を追い掛けて邪魔をするキャラクターは大抵死ぬと相場が決まってます。

 とてもよく分かっていたので、私は黙って家路へと着きました。





 ───走りました。

 走って走ってとにかくひた走って、お祭りを行き交う人々の中を縫う様に、私はアリシアの向かった方向へと駆けました。

 もう嫌なんです。離れ離れになるのは!もう!

 私はまた間違えてしまう所でした。

 何もせず、いとも簡単に、私を守ってくれた少女の前で殺されてしまった時の事を。

 あの時と同じで、何もしない事でもしかしたらもう二度と彼女に会えなくてなるかもしれない。

 いえ、もしかしたら重要な錬金術の依頼なのかも知れません。

 それならそれで静かに確認して、何も言わずに立ち去れば良いのです。


 アリシアのアトリエに辿り着きました。

 肩で息を切らしながらも、即座に息を整え静かに工房へと入りました。

 ………誰も居ませんでした。

 工房の奥にも、彼女の部屋にも、お婆様のお部屋にも。勿論台所にも、何処にも居ませんでした。

 もしかしたら誰かの家に行ったのかも知れません。

 とにかく不安になった私は道行く人にアリシアの行方を聞いて周りました。

 その殆どが知らない…と答えました。…中には教える代わりに私に相手をしろと迫る方も居ました。

 私が星蝕者に汚染されてる事実と、胸元に残った傷を見せると、怖気て逃げて行きました。私に関わると星蝕者に喰われてしまう……と

 勿論その様な事実は在りません。ですが人の心理には嫌でも根付いてしまう物なのです。


 そうこうして漸く教えて頂いた情報によれば、アリシアは岩門の方へ向かったそうです。

 私も向かいました。

 彼女が一体何のために駆り出されたのか。何故アリシアで無ければいけなかったのか。

 確かめたかったのです。


 そして辿り着きました。

 ………岩門の前には衛兵が何人たりとも入出を阻む様に立ち塞がっていました。

 世間知らずの私でもピリピリとした空気を感じますし、尋常じゃない事態なのも読み解けます。

 そしてこれではアリシアの様子が伺えません。

 もう外へ出てしまったのか。それともまだこの辺りに居るのか。

 堪らなくやきもきしていると…………居ました。

 門に作られている衛兵詰所の様な、簡単な作戦会議等を開いたり、休憩に使うのであろう小部屋から出て来ました。


 私は柵や衛兵が立ち塞がっているので遠くからしか見えませんが、門の前に二十人位の衛兵が規則正しく立ち並んで居ました。

 そしてその中心で、アリシアが高台に立ち、号令を掛けました。


「私は宣誓を受けし、勇者『アリシア=バーネット』です!」


 その勇姿は勇ましく───


「今、この町に危機が迫ってますが安心してください!」


 その意志は気高く────


「勇者の名の下、必ずやこの町を……大切な家族を守ってみせます!!」


 その眼差しは強かった───


「そしてどうか未熟な私に、どうかお力をお貸しください!!」





 わけがわかりません。


 はぁ?アリシアが勇者?いつから?

 えっ?アレですか?実はアリシアさんは異世界転生者とか何かなんですか?私と被ってますよ?

 それともなんですか?異世界転移とか、または辺境で鍛えまくって最強の勇者になりましたとかそう言うタイプですか?

 とにかく私が異世界転生した意義が薄れまくってますよー?私が勇者じゃ駄目なのですか?

 なんですかこれ?え?なんなんですかこれ?

 って言うか何故アリシアなんですか?神様?


 ………どうして私の親友を地獄に突き落とそうとするのですか?

 まさか私に言いたかった事って、お別れとかそう言う事ですか?

 ふざけないでください。バカにしないでください。

 あくまで私の勝手な妄想ですけど、それでもやるせないです。

 死ぬのは人生の短い私で良いじゃないですか。

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ私から大切な親友を奪わないでください…お願いします。」



 …声に出てました。引き攣りそうな声でした。

 しかしツッコんでくれる人は誰も居ません。

 何故ならアリシアは既に多くの衛兵を引き連れて門の外へと向かったからです。

 今や門の前には衛兵が一人二人しかおらず、周囲はシンと静まり返っています。

 エルキュールは自分の無力さを痛感しました。

 エルキュールは何も出来ず、地面にしゃがみ込みました。



━━━━━

━━━━━━━



 ───門の外からは激しい戦いの音が鳴り響きました。

 何かを打ち付ける剣戟の音。激しい怒声。小刻みにズン…ズン…と地面が揺れます。

 耳が痛くなる程の怒声にエルキュールは思わず耳を塞ぎたくなりました。

 しかしどれ程耳を塞ごうと、相手の死を求める怒声は嫌でも耳に届いてしまいます。

 嫌なら帰ればいい。そして何も無かった事にして緩やかな日常に溶け込めばいい。

 お母さんが居て、お父さんが居て、お手伝いさんの美味しい料理を舌鼓して。

 そして残り少ない寿命を静かに全うすればいい。




 ………隣に居た親友は何処にも居ませんでした。




 ……居ました。私の足下に。血塗れで。もう二度と光の灯らない瞳で。私ではなく何も無い青紫色の空を見上げてました。





 ───幻覚を見ていました。

 何をしてもしなくても、結果は変わらないのかも知れません。

 ですが、私は決めたからここに来たんじゃ無いのか?私は彼女に会いたくてここに来たんじゃ無いのか?

 泣き腫らして甘えた様に私の胸の中で眠る彼女を………




 私はもう二度と離したく無いからここに来たんだ!!




 爆発力の着いた私の身体は一気に門を飛び越えました。

 正しくは岩壁の突起を利用して登り、一般人離れした筋力で壁を掴み、蹴り上げ乗り越えて。懐かしい感覚でした。多少なだらかですが、前世では心行くままに何度も挑戦して来たロッククライミングの感覚は、今のエルキュールにとって有難い技能なのです。

 そしてそのまま勢いを殺さずに、門の上から斜面を利用して滑り降りる様に、ジグザグに、力尽くのパルクールの様に越えて行きました。

 両足と両手を着いて着地しました。身体中が痺れます。


 二十五メートルは有るかと言う程の門を、単身で乗り越えてしまいました。そんな事は前世では絶対に出来ませんでしたし、今の貧弱な身体で出来る訳がありません。

 …ですが出来てしまいました。我ながら化物です…が、今はそんな事は一切気にしてられません。

 エルキュールの両手の先に赤い池が出来てました。

 ツンと突く様な生臭い臭気に思わず表情を歪めて顔だけを上げました。

 目の前に人の死体が有りました。最早人の原型は留めてませんが。


 どうやらアリシアのものでは無い様で安心してしまいました。

 ですが、この十数年間。前世も含めると五十数年間?人の死体等見た事がありません。

 エルキュールは込み上げて来たものを抑えきれずその場に吐き出してしまいました。


 ───本物の戦場と本物の死体。


 少し離れた所から聞こえる怒声と剣戟の音。

 その勢いは大分減ってましたが、それが意味する処は絶望的と言う事でした。


 エルキュールは本当の戦場に初めて立ち入りました。


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