101.屍界狂想 ネクロノワール 15
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『良いですか?これを使用すると直線だった雷が乱反射になります!!………ですので使用後、一気に突撃してジークフリードを早期撃退する事を勧めます。この作戦はシグくんの近接戦闘能力が鍵になりますので、もし…』
『気にするな、どの道近付けないならジリ貧だ。………俺が一気に仕留める!!』
『はい!私も…リンムレはシグくんを信じてます。……ですからシグくんもリンムレを信じて下さい。』
そして発射されたミサイルの様な弾頭。否、電波欺瞞紙が詰まった弾頭、所謂チャフだがシグルドの前方に打ち出され、ジークフリードの雷撃により破壊された様に偽装されたそれは前方で破裂した。
リンムレの狙い通りに展開された銀幕は、周囲を飛び交う大型のビットの電波通信を遮断し、それぞれを在らぬ方向へと導いたのだった。
それだけではない。
ジークフリード達が撃ち放って来た雷撃を吸い込み、予定通りに内部にて乱反射をし、一部は外に漏れ、また幾つかは乱反射した交差点でプラズマを発生させた。
火の玉の様に浮き上がったそれはまるで電子レンジの中で金属製の物を温めた時の様に燃え上がったのだが、そのままではただただ内部で燃え上がるだけで意味を成さないのだが、リンムレはこれに更に追い討ちをかけたのだ。
本機サブアームに預けっ放しのパルスレーザー・ランスの切っ先をプラズマ球へと向けると、その先から熱線を撃ち放った。
短間隔で何度も吐き出される熱線の連射を、膨張し切った危うい熱源へと御見舞いしたのだ。
するとどうだろうか?
指向性を得たその球体は熱量の吐き出し場所を得て外へ押し出そうとしたのだった。
これがジークフリード達を襲撃した炎のレーザーの正体だったのだ。
『…アーム換装、バリアフィールド展開!!…では、そろそろ突撃、行けます!!』
リンムレの合図が有った。
如何に高性能な彼女で有っても電波通信を遮断されては敵の位置の補足は疎か、索敵行動等期待出来ない………と思うだろう?
しかし、彼女は翻弄や幻惑や妨害行為に長けた燐夢型に於いて、燐夢型とは異なった性能を持つのだ。
電磁的なレーダーだけでなく、赤外線、熱量感知、集音機能、超音波振動感知、その他諸々と、周囲の状況把握に特化した調整がされている為、チャフに撒かれた電波障害程度では目標を見失う事などあり得ないのだ。
シグルドはリンムレが用意したもう一つの秘策、バリアフィールドを展開された事で身体が赤い光の膜に覆われていた。
このフィールドは正しく力場と言った字の如く、シグルドに到達し得る光学的障害を全て受け止め散らすのだった。
本来ならば雷撃を防ぐ為に使用するのだが、今回は乱反射した雷撃と、自身が起こしたプラズマ光線の暴走による内部へのフィードバック。要するに自分に向かって来たレーザーを受け止め散らす目的で使用された。
最も、高性能な分消費されるエネルギー量も馬鹿にならない物なのだが。
シグルドは考えた。突貫しながら考えた。
リンムレの期待に応える為に何をするべきなのかを。
少女が導く先に奴が居る。
ならば、全力を叩き付ける為に、巨大な、黒く電気を断ち切る、奴の天敵となる武器を作るしか無い。
故に、シグルドが選んだ道は…
「よぉ、親友。………逢いたかったぞ!!」
サブアームに補助される程に巨大で、大きく振りかぶった漆黒の剣でジークフリードに迫った。
『取った!』…と思った瞬間、間に紛れ込んだ小さな影に邪魔をされたのだ。
「貴様の命運も此処までだ。…帝国の空に散れ、皇国の悪魔よ!!」
目の前に立ち開かる少女、リンムレによく似たその風貌、自分に敵対する事が有り得ないその少女の出現に、シグルドは混乱してしまったのだ。
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「馬鹿………な…。何故お前が…!?」
シグルドは思わずコクピットを確認してしまった。当然、その隙を逃す筈も無く青髪の少女はシグルドの首を刎ね飛ばそうと手に持つ剣を振るうのだが。
「シグくん!!余所見しないで!!」
リンムレの声に正気に戻った彼は、サブアームに寄る支援を受けて既に防御姿勢を取っていた事で何とか首は繋がったままだった。
ーーー良かった、リンムレは敵では無い。
だが、シグルドに更なる疑問が降り掛かる。
こ の 女 は 誰 だ ?
そんな疑問に応えるかの様に、ジークフリードが少女に向けて声を掛けたのだ。
「すまない、助かったよ、クリームヒルト」
クリームヒルト?それがこの女の名前か…?
「不甲斐ない私の部下共が使えない以上、私が出るしかあるまい。………全く、通信にも出ないとはな。」
どうやら他にも居たらしい仲間達に対して悪態を吐く少女は再び剣を構えると、息つく暇も無い程に苛烈な剣戟を打ち込んで来たのだった。
全く持ってジークフリード一行との戦闘は相性が悪い事に嫌気が差し始める。
巨大な剣では捌き切れないのでサブアームに剣を預けたまま再び中型の剣を作り出す。
こうしてまた備蓄資材を無闇に消費する破目に遭った。
そもそも最初にパルスレーザー・ランスを組み上げてから大型のビットに邪魔をされて、再生の為に資材を消費して、あの最初に襲撃して来た空を飛ぶ少女に攻撃を受けて資材を投資。これがケチのつけ始めだ。
武器を作る為に資材使い、その武器も僅か一度の戦闘で使い物にならなくなり、戻って来るとリンムレが暴走。
それはいい。それより自動回避に任せたものの被害は甚大で、自己修復をしながらの先程の作戦で資材を消費。
そして今正に戦闘を継続する事で資材を投下。
残量にして凡そ2割と言った所か。
死ぬよりは消費し切った方が遥かに良いのだが、このままでは本当に押し切られてしまう。
只でさえ右目を失い、安定しない視界の中、リンムレの超感覚を頼りに戦うしか無いのだが…。
「なんで……私が……私が居る……くっ!!でも…今は…集中しないと…」
コクピットの中であからさまに狼狽えている少女に期待するのは酷と言う物だ。
「リンムレ、出来る時だけで良い…力を貸してくれ。」
シグルドのその言葉に、声を掛けた少女より早く反応する者が在った。
「燐夢…令?………そうか、そう言えばそう言う報告が在ったな。」
剣戟の雨を降らせる行為を納め、一度距離を置いた青髪の少女は言った。その幼さを感じさせる顔を歪めて不敵に嗤う姿は正に悪魔地味て見えたのだった。
「最初の報告では全滅…と有ったが、ジークフリードから聞いた報告に最初は耳を疑ったよ。」
なんだ?コイツ…。何を言う気だ…?
「まさか私のコピーが生き残るとはな。不甲斐ない私の劣等遺伝子では生きるのが辛いだろう。…可哀想に。」
その言葉にコクピットから嘔吐く音が聞こえ、シグルドは冷静さを失った。
生まれて初めての感情だったのかもしれない。
世界に対する憎しみとはまた別の感情だった。
大切な者を…仲間を傷付けられた事に対する怒り。
シグルドはその感情に戸惑いを感じていた。
だが。
「外道が!!殺す!!殺すコロス殺す殺す殺すコロス殺す!!!」
ただただ純粋な殺意を、リンムレに良く似た、両手両足の付いた少女に向けて居たのだった。
「シグルド!!僕を忘れて貰っちゃ困るな!!」
シグルドが勢い余ってクリームヒルトへと飛び出した時、頭上から打ち落とされた何かに頭部を砕かれる感覚を覚えた。
ジークフリードが戦闘機から離れて、単騎で攻めて来たのだった。
忘れてはならないが、ジークフリードはシグルドと同時期に生み出された同形機であり、構造上は似ているのだ。
つまり、本機から離れて活動する事がシグルドに出来てジークフリードに出来ない理由が無い。
ジークフリードが手に持つ聖なる剣を模したそれに頭を砕かれたシグルドは、頭に突き刺さったままの刃の部分を左手で掴み、握り砕いた。
「あぁ………悪い、親友。忘れてた」
シグルドが手にする黒剣を横薙ぎに振るうと、またもクリームヒルトに邪魔をされたのだが、シグルドは頭部を砕かれても尚、戦意を一切失わなかった。
「ジークフリード、無茶をしないでくれ。君を失う事がどれ程被害を齎す事か…」
「すまない、クリームヒルト。それでも君に彼の殺意が向いた時に居ても立っても居られなくなってさ。」
夫婦漫才でも始めるのかと、シグルドが不快感に包まれた時、二人の意思が再び此方へと向けられた。
「アイツは僕が絶対に止める。………だから、今だけは僕に力を貸してくれ!!」
「あぁ…!私達なら絶対に出来る…!!止めて見せる!!!」
クリームヒルトの魔力を帯びた剣は煌煌と白く輝き、ジークフリードの聖なる剣は、黒き竜の顎を纏い、二人の力が織り混ざったマーブル状の巨大な剣が振り落とされると、シグルドは漆黒の剣で受け止めようとした。
ーーーーだが、それも虚しく打ち砕かれ、剣が意図も容易く砕け折れると、白と黒のマーブルは…
シグルドの身体を縦に真っ二つに斬り裂いて行った。
「「ううぅぅぅうおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおッッッッッッ!!!!!!」」
まるで主人公とヒロインが敵の親玉を討ち果たす時の様だった。
なんだ?なんなんだコレは…?
悪魔を滅ぼす為に、勇者がヒロインの力を借りて正義の鉄槌を降す。
誰から見てもそんな胸が熱くなるワンシーンだった。
………巫山戯てるのか?
認められるか。こんな三文芝居。
シグルドは段々と身体が裂けて行くのを止められずに居た。
そんな話が…在って良いのか?
ーーーーフザケルナ。
真っ二つに斬り裂かれたシグルドが爆発すると同時に、真っ白な光の奔流に包まれたかと思うと真っ黒な闇のそれは爆発の中から突如として生えて来たかと思うと悍ましい程の威圧感を放ち、両手は歪に真っ黒で、総てを飲み込む漆黒だった。
左手に持つ黒い刀剣は、持ち手部分に赤い線が入った巨大な禍々しい凶暴さを感じさせる悍ましい物に成り代わっていた。
そして右手は巨大な狼の様な形をしており、顔の部分には赤い宝石の様な瞳が五つ程付いていた。
シグルドは、その狼の腕をジークフリード達へと向けて、獣の様な咆哮を放った。
「………返セ!!右腕ヲ…!!ぐがッ……ググぅ……っ炎をッッッ!!!!」
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主人公誰だっけ?




